1年生
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「よし……っ、今日こそは絶対に逃がさないからね!」
「そもそも授業なんやから逃げられへんよ」
西日に照らされたバトルコート。ミントは、相変わらず毛先が跳ねた赤い髪を強引に掴んで、ポニーテールをきつく結び直す。
目の前には、いつもと変わらない涼しい顔で立つチリ。けれどその足元で構えるウパーは、入学したての頃よりも洗練された空気を纏っている。
ーー合同実技でチリと当たるとは。ミントは自分の引きの強さに緩む頬を押さえて、ぎゅ、と拳を握った。
いい加減、チリが一人で抱えてる焦りとか、不安とか……そういうお荷物を、私のワクワクで全部ぶち壊してあげたかったから、最高の機会だ。
「いくよ、イーブイ! 私たちの全力、あいつに叩きつけてやろう!」
「ブイッ!!」
...
「先行はもらうよ! イーブイ、スピードスター!」
合図と同時に、琥珀色の空に光の星が爆ぜた。星たちは意志を持っているみたいにうねりながら、ウパーを逃がさないように複雑な檻を作っていく。
「へぇ、包囲網か!でも遅いで、ウパー、マッドショット!一点突破や」
チリの低い声が飛ぶ。最短距離を貫く泥の弾丸。効率重視の容赦のない攻撃に、白い毛並みが泥で汚れていく。
「視界を塞げば勝ち、なんて……自分、チリちゃんを舐めすぎやで」
「舐めてなんてない! あんたの強さ、私が一番わかってるつもりだよ!」
砂煙の中で、ミントが叫ぶ。数ヶ月、ただ隣で過ごしたわけではない。チリが夜遅くまで1人で自習室にいたことも、バトルコートで鍛えていたことも、気付いている。
「私も誘って」と、「1人で頑張りすぎないで」と伝えることも、できたかもしれない。けれどミントは、それでは十分じゃないとわかっていた。自分が、チリに一度でも勝てなければ。きっとチリの心には響かないのだから。
泥の弾幕で視界が消えた瞬間、イーブイは音もなく地面へ潜り込んだ。チリが想定しているのは、ただの回避としてのあなをほる。でも、ミントが用意していたのはその先だ。
「イーブイ、地中で全エネルギーを解放!!」
突如、コートの地割れから黄金色の噴水が吹き上がった。
地中で圧縮されたスピードスターの残光が、イーブイが掘った穴を通って地表へ一気に噴出したのだ。
「なっ……!? スピードスターを地中に通したんか……!?」
初めて、チリの顔に驚愕の色が走る。その隙を逃さず、光のカーテンを突き破ってイーブイが背後から躍り出た。
「でんこうせっか!!」
白い閃光がウパーを捉え、鈍い衝撃音が演習場に響く。あのチリのウパーが、初めて明確に地面に膝をついた。
「っ、なはは!! ほんまに……やってくれるな、ミント!」
ミントの放った地中のスピードスターは、セオリーからすればあまりに非効率で、エネルギーの無駄が多い。けれど、だからこそチリの想定の範疇には存在しなかった。
不意をつかれたチリが顔をくしゃくしゃにして笑う。ミントがこの数ヶ月、ずっと探し続けてきた、満面の笑みだ。
「でも、甘いわ! ウパー、どくびし。……自分、もうどこにも降りられへんで?」
ウパーが毒の棘をコート一面にばら撒く。着地すれば毒になる。空中へ逃げれば次の一撃の餌食。チリの冷静な判断が、じわりとミントを追い詰める。
(やっぱり凄い!でもねチリ、あんたにも知ってほしいんだよ。一人で急いで強くならなくても、大丈夫だってこと!)
「足場がないなら、作ればいいだけでしょ! イーブイ、自分に向かってスピードスター!」
放たれた星は、イーブイの足元で重なり合い、空中に固定される。それはまるで、空中に浮かぶ光の階段だった。
「なっ、自爆か?!」
「見てて、チリ! これが私とイーブイの、最高のワクワクだから!」
空中を蹴り、光の足場を跳ねながら、イーブイが螺旋を描いて突撃する。チリは、その光景を瞬きもせずに見つめていた。
(……は、なんやの、このキラキラしたんは…っ!)
必要がないと思っていたバトルの「楽しさ」が、考えもしなかった「ワクワク」が、今、自分を打ち砕こうとしている。
「でんこうせっかで押し通して!!」
「ポイズンテールで受け止めや!」
真っ白な体躯が、ウパーの胸元に真っ直ぐ突き刺さった。爆発的な衝撃波がコートを駆け抜け、砂塵が激しく舞い上がる。
...
砂埃が晴れた先。そこには、ふらふらになりながらも踏ん張るイーブイと、瞳を回して倒れたウパーの姿があった。
「……ウパー戦闘不能! イーブイの勝ち!」
審判の声が響いた瞬間、演習場を支配していた張り詰めた緊張が、ふっと溶けて消えた。ミントは駆け寄り、泥だらけの相棒を抱きしめた。
(勝った……)
少し離れた場所で、チリがぽつりと呟いた。
「……負けたかぁ」
少し離れた場所で、チリがぽつりと呟いた。
ミントが振り返ると、そこにいたのは、いつもの完璧なチリではなかった。ネクタイは乱れ、髪は汚れ、額には汗が光っている。
そして何より――。
ウパーを抱えたチリは、頬を少し赤くして、朗らかな顔で笑っていた。
(チリちゃん、何しとったんやろ。勝つために、一番取るためにて焦って、一人でやらな思い込んどったけど……。こいつは……楽しいからこそ、こんなに強くて、眩しいんやなあ)
紅い瞳が夕日を反射してキラキラと輝き、その目の奥に、想定外の展開に突き動かされた剥き出しの興奮が滲んでいる。焦りと不安。ミントと過ごすようになっても、消えずに残っていたほの暗い感覚が、今日、ミントの放った無邪気な熱で、ドロドロに溶けていくのがわかった。
「あーあ。自分、ほんま想定外やわ! おもろいバトルだったで!」
その笑顔を見た瞬間。ミントの目から、堰を切ったように涙が溢れ出した。
「……ふふ、へへへ……」
ミントはイーブイに顔を埋めたまま、声を震わせる。
「……なんで、あんたの方が満足そうなのよ。……これじゃ、私が遊んでもらってたみたいじゃない」
「なはは! 何言うてんねん」
チリが歩み寄り、イーブイに擦り寄るミントの頭を乱暴に撫でた。
「自分、最高のバトルやったよ。……チリちゃん、勝たなあかん、一番にならなあかんって、そればっかり考えてた。でも……今、負けてこんなにスッキリしとる。自分のおかげや、ミント」
チリの赤い瞳を、ミントの緑が捉える。そこにはもう、何かに急かされるような不安な影はなかった。
「へへ……。でも次は、あんたを悔しさで泣かせてやるんだからね!!」
「どうかな、もう負けへんで?…よし! 今日のところはチリちゃんがサンドイッチ奢ったるわ、お祝いで。とびきり美味い、温かいやつな」
チリが差し出した掌を、ミントは少しだけ乱暴に、でも隠せない喜びを込めてぎゅっと握り締めた。その手は、いつか触れた指先よりもずっと、ずっと温かかった。
「そもそも授業なんやから逃げられへんよ」
西日に照らされたバトルコート。ミントは、相変わらず毛先が跳ねた赤い髪を強引に掴んで、ポニーテールをきつく結び直す。
目の前には、いつもと変わらない涼しい顔で立つチリ。けれどその足元で構えるウパーは、入学したての頃よりも洗練された空気を纏っている。
ーー合同実技でチリと当たるとは。ミントは自分の引きの強さに緩む頬を押さえて、ぎゅ、と拳を握った。
いい加減、チリが一人で抱えてる焦りとか、不安とか……そういうお荷物を、私のワクワクで全部ぶち壊してあげたかったから、最高の機会だ。
「いくよ、イーブイ! 私たちの全力、あいつに叩きつけてやろう!」
「ブイッ!!」
...
「先行はもらうよ! イーブイ、スピードスター!」
合図と同時に、琥珀色の空に光の星が爆ぜた。星たちは意志を持っているみたいにうねりながら、ウパーを逃がさないように複雑な檻を作っていく。
「へぇ、包囲網か!でも遅いで、ウパー、マッドショット!一点突破や」
チリの低い声が飛ぶ。最短距離を貫く泥の弾丸。効率重視の容赦のない攻撃に、白い毛並みが泥で汚れていく。
「視界を塞げば勝ち、なんて……自分、チリちゃんを舐めすぎやで」
「舐めてなんてない! あんたの強さ、私が一番わかってるつもりだよ!」
砂煙の中で、ミントが叫ぶ。数ヶ月、ただ隣で過ごしたわけではない。チリが夜遅くまで1人で自習室にいたことも、バトルコートで鍛えていたことも、気付いている。
「私も誘って」と、「1人で頑張りすぎないで」と伝えることも、できたかもしれない。けれどミントは、それでは十分じゃないとわかっていた。自分が、チリに一度でも勝てなければ。きっとチリの心には響かないのだから。
泥の弾幕で視界が消えた瞬間、イーブイは音もなく地面へ潜り込んだ。チリが想定しているのは、ただの回避としてのあなをほる。でも、ミントが用意していたのはその先だ。
「イーブイ、地中で全エネルギーを解放!!」
突如、コートの地割れから黄金色の噴水が吹き上がった。
地中で圧縮されたスピードスターの残光が、イーブイが掘った穴を通って地表へ一気に噴出したのだ。
「なっ……!? スピードスターを地中に通したんか……!?」
初めて、チリの顔に驚愕の色が走る。その隙を逃さず、光のカーテンを突き破ってイーブイが背後から躍り出た。
「でんこうせっか!!」
白い閃光がウパーを捉え、鈍い衝撃音が演習場に響く。あのチリのウパーが、初めて明確に地面に膝をついた。
「っ、なはは!! ほんまに……やってくれるな、ミント!」
ミントの放った地中のスピードスターは、セオリーからすればあまりに非効率で、エネルギーの無駄が多い。けれど、だからこそチリの想定の範疇には存在しなかった。
不意をつかれたチリが顔をくしゃくしゃにして笑う。ミントがこの数ヶ月、ずっと探し続けてきた、満面の笑みだ。
「でも、甘いわ! ウパー、どくびし。……自分、もうどこにも降りられへんで?」
ウパーが毒の棘をコート一面にばら撒く。着地すれば毒になる。空中へ逃げれば次の一撃の餌食。チリの冷静な判断が、じわりとミントを追い詰める。
(やっぱり凄い!でもねチリ、あんたにも知ってほしいんだよ。一人で急いで強くならなくても、大丈夫だってこと!)
「足場がないなら、作ればいいだけでしょ! イーブイ、自分に向かってスピードスター!」
放たれた星は、イーブイの足元で重なり合い、空中に固定される。それはまるで、空中に浮かぶ光の階段だった。
「なっ、自爆か?!」
「見てて、チリ! これが私とイーブイの、最高のワクワクだから!」
空中を蹴り、光の足場を跳ねながら、イーブイが螺旋を描いて突撃する。チリは、その光景を瞬きもせずに見つめていた。
(……は、なんやの、このキラキラしたんは…っ!)
必要がないと思っていたバトルの「楽しさ」が、考えもしなかった「ワクワク」が、今、自分を打ち砕こうとしている。
「でんこうせっかで押し通して!!」
「ポイズンテールで受け止めや!」
真っ白な体躯が、ウパーの胸元に真っ直ぐ突き刺さった。爆発的な衝撃波がコートを駆け抜け、砂塵が激しく舞い上がる。
...
砂埃が晴れた先。そこには、ふらふらになりながらも踏ん張るイーブイと、瞳を回して倒れたウパーの姿があった。
「……ウパー戦闘不能! イーブイの勝ち!」
審判の声が響いた瞬間、演習場を支配していた張り詰めた緊張が、ふっと溶けて消えた。ミントは駆け寄り、泥だらけの相棒を抱きしめた。
(勝った……)
少し離れた場所で、チリがぽつりと呟いた。
「……負けたかぁ」
少し離れた場所で、チリがぽつりと呟いた。
ミントが振り返ると、そこにいたのは、いつもの完璧なチリではなかった。ネクタイは乱れ、髪は汚れ、額には汗が光っている。
そして何より――。
ウパーを抱えたチリは、頬を少し赤くして、朗らかな顔で笑っていた。
(チリちゃん、何しとったんやろ。勝つために、一番取るためにて焦って、一人でやらな思い込んどったけど……。こいつは……楽しいからこそ、こんなに強くて、眩しいんやなあ)
紅い瞳が夕日を反射してキラキラと輝き、その目の奥に、想定外の展開に突き動かされた剥き出しの興奮が滲んでいる。焦りと不安。ミントと過ごすようになっても、消えずに残っていたほの暗い感覚が、今日、ミントの放った無邪気な熱で、ドロドロに溶けていくのがわかった。
「あーあ。自分、ほんま想定外やわ! おもろいバトルだったで!」
その笑顔を見た瞬間。ミントの目から、堰を切ったように涙が溢れ出した。
「……ふふ、へへへ……」
ミントはイーブイに顔を埋めたまま、声を震わせる。
「……なんで、あんたの方が満足そうなのよ。……これじゃ、私が遊んでもらってたみたいじゃない」
「なはは! 何言うてんねん」
チリが歩み寄り、イーブイに擦り寄るミントの頭を乱暴に撫でた。
「自分、最高のバトルやったよ。……チリちゃん、勝たなあかん、一番にならなあかんって、そればっかり考えてた。でも……今、負けてこんなにスッキリしとる。自分のおかげや、ミント」
チリの赤い瞳を、ミントの緑が捉える。そこにはもう、何かに急かされるような不安な影はなかった。
「へへ……。でも次は、あんたを悔しさで泣かせてやるんだからね!!」
「どうかな、もう負けへんで?…よし! 今日のところはチリちゃんがサンドイッチ奢ったるわ、お祝いで。とびきり美味い、温かいやつな」
チリが差し出した掌を、ミントは少しだけ乱暴に、でも隠せない喜びを込めてぎゅっと握り締めた。その手は、いつか触れた指先よりもずっと、ずっと温かかった。
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