1年生
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初夏の匂いが混じり始め、学園の廊下を吹き抜ける風が少しだけ生温かくなってきた頃。
ミントがチリを追いかけ回すのは、もはやアカデミーの日常茶飯事だ。最初は「あの子、あのチリさんに物怖じしないなんてすごいな」と遠巻きに見ていた同級生たちも、今では「またやってるよ」と苦笑いしながら通り過ぎていく。
けれどこの日、ミントの中にはいつもとは違う気合いがあった。
チリがふとした瞬間に見せる、あの踏み込ませてくれない壁。それを、自分の得意なことでぶち破ってやりたかったのだ。
きっかけは、午前中の合同実技。
複数のクラスが中庭のコートに集まるこの時間は、アカデミー全体が熱気に包まれる。砂埃が舞い、あちこちで技の光が弾ける中、ミントとイーブイの出番が回ってきた。
対戦相手は、体格のいいハリテヤマを繰り出してきたパワー重視の先輩だ。
「いこう、イーブイ! ノート通りに……いや、練習した以上のものを見せよう!」
白いイーブイが、鋭い爪で地面を蹴った。
ミントの指示はスピードスター。だが、ただ放つのではない。
イーブイは空中でこまのように高速回転しながら、全方位へ光の星を撒き散らした。普通ならそのまま相手へ飛んでいくはずの星が、ミントの緻密な弾道計算とイーブイの絶妙な力加減によって、ハリテヤマの頭上でピタリと静止し、まるで檻のように滞留する。
「えっ、何だこれ、当たらないぞ!?」
困惑する先輩と、身構えるハリテヤマ。だが、ミントの狙いはその先にある。
「今だよ、チャームボイス!」
イーブイが放った愛らしくも鋭い音波。その振動が、空中に固定されていたスピードスターの星々に干渉した。
共鳴し、限界まで震えた光の粒子が、音色の余波を受けて一斉に爆ぜる。
ーーバチンッ
空気を叩く硬質な破裂音。
次の瞬間、コートには粉々になった星の破片が、ダイヤモンドダストのようにキラキラと降り注いだ。
ただの目潰しじゃない。光と音の乱反射がハリテヤマの感覚を狂わせる、ミントが何度もシミュレーションを重ねた視覚と聴覚の同時ハックだ。
「きれい……」
観覧席から、ため息のような声が漏れる。
その光り輝くカーテンの向こう側から、イーブイが弾丸のような速度で飛び出した。死角からのでんこうせっかが、無防備なハリテヤマの懐にクリーンヒットする。
これだ。これが見せたかった。
自分の理論が形になった、強敵を圧倒する最高に楽しいバトル。
ミントは勝利を確信した瞬間、真っ先にコートの端――一番良い場所で観戦しているはずの、チリの方へ視線を飛ばした。
(見た?! 今の、私とイーブイの最高傑作!)
だが、視線の先にいたチリは。
制服の襟を少し立て、長い前髪を揺らしながら……あからさまに、カクンカクンと船を漕いでいた。
(……え、嘘でしょ。寝てる!? あんなに派手な音したのに!?)
あまりの衝撃に、ミントの膝から力が抜けそうになる。
試合には完勝した。けれど、胸の中に残ったのは、勝利の余韻ではなく、行き場のないモヤモヤとした火種だった。
「……イーブイ、お疲れさま。技は完璧だったよ、本当に」
「ブイ……?」
相棒の首元を撫でながらも、ミントの目はまだ、暢気に微睡んでいるチリの横顔をじっと睨みつけていた。
...
昼休みのチャイムが鳴り終わった直後。長い廊下に、ミントの怒鳴り声が響き渡った。
「――ちょっと待ちなさいよ、チリ!逃げるな〜!」
人混みに紛れ、するすると逃げようとしていたチリだったが、角を曲がったところでミントに先回りされ、制服の袖をガシッと掴まれた。
「……逃げてへんよ。うちは今、空腹という名の強敵に挑もうとしとっただけや。」
「嘘ばっかり。さっきの演習、私がそっち見た瞬間、わざとらしく寝たふりしたでしょ!」
ミントは腰に手を当てて、ぷんぷんと頬を膨らませた。
「私、一生懸命バトルの構成を考えて練習してたのに! 少しも見てくれないなんて、酷いじゃん」
「見てた。薄目やけどな」
「薄目!? 余計に許せない!」
足元では、イーブイも「ブイッ!」と短い足を突っ張って加勢している。光沢のある白い毛に、昼間の陽光が差し込んでキラキラと光る。
「あの星を無駄に光らせとったやつな。自分、ほんま懲りひんなあ。昨日のうちとのバトルの敗因だって、それやで」
「うぐ、」
「パフォーマンスかなんか知らんけど、無駄な動きが多すぎんねん。そんなん考える暇があるんなら、一発でも多く技を叩き込み?」
チリが意地悪く目を細めると、ミントは顔を真っ赤にして叫んだ。昨日、ミントはチリとのバトルで負けたばかりである。
「ううぅ、あーもう、悔しい! 負けたこともそうだけど、何よりムカつくのは、あんたが私のイーブイをちゃんと見てくれなかったことなんだよ!」
「見てたって。見てたから、攻撃が当たる直前に回避の指示を出したんやんか。」
「そうじゃなくて、イーブイの凄さは、強さだけじゃなくてっ」
「強いことが絶対や、強ければ、勝てばいい。それがバトルの正解やろ。うちはいつだってサクッと正解を出したいねん」
「〜っ、それが!違うって言ってるの!」
ミントはそう言うと、抱えていた一冊のノートをチリの胸元に押し付けた。角が丸まり、使い込まれた学習ノート。そこから伝わるのは、ミントの体温と、執念に近い熱量だった。
「なんやこれ。うちへのラブレター? 随分と重たいなあ」
「バカなこと言わないで! ……私の、私なりにバトルを楽しくするのための、研究ノートなの」
チリが怪訝そうに表紙を開く。罫線を完全に無視して描き殴られているのは、イーブイが技を出す瞬間の骨格の動き、放たれた星が描くべき放物線の計算、そしてそれを操るミント自身の立ち位置。
さらには、『チャームボイスの周波数と星の共鳴率』『爆ぜる瞬間に最もチリを驚かせられる角度』という、真っ直ぐな情熱と緻密な理論が同居したメモが、ページを埋め尽くしていた。
「……自分、うちに負けっぱなしの癖に、まだこんなことしとるん? バトルは相手を倒せばええだけや。効率よく体力削って、勝機を掴む。綺麗にとか楽しさとか、そんなん考える必要なんて、どこにもないわ」
「……あるよ。」
ミントは一歩詰め寄り、チリの紅い瞳を真っ直ぐに見据えた。ミントの熱い吐息が、チリの冷めた肌に触れる。
「強ければいいなんて、つまんないじゃない。私はね、バトルを通して、見てる人全員をワクワクさせたいの! あんたみたいに、ただ勝って終わりなんて……そんなの、ポケモンたちも、見てくれる人もかわいそうでしょ?」
ミントの言葉は一点の曇りもない。だからこそ、チリの空っぽな部分に、氷を溶かすお湯のように注ぎ込まれる。
「あんたも、このノート読みなさいよね! 少しは愛嬌ってものを勉強しないと、将来寂しい大人になっちゃうんだから!」
「愛嬌なあ。うち、これ以上可愛くなったら困るんやけど?」
チリはいつものように軽口で誤魔化そうとしたが、ミントの瞳に宿る圧倒的な意志に、それ以上の言葉を飲み込んだ。
「もうっ! 次に私とバトルする時、あんたが身を乗り出して、まばたきするのも忘れるくらい、最高に楽しませてあげるんだから! 見てなさいよ、チリ!」
ミントはそう宣言すると、満足げに鼻を鳴らし、赤い髪をなびかせて去っていった。
廊下に一人取り残されたチリの手元には、ミントの体温が残るノートが一冊。
(……薄目、やなんて嘘や)
本当は、まばたきも忘れるほど見つめていた。
ミントのイーブイが放った、あの光と音の共鳴。無駄だと言い切りながらも、その「無駄」にどれほどの計算と愛情が注がれているか、チリは痛いほど理解していた。あまりにも眩しすぎて、直視し続けるのが怖くて、だから目を逸らしたのだ。
「……まあ、あんなに意気込まんでも。自分がおるだけで十分うるさくて、退屈せえへんのやけどな」
それは、去っていった背中には決して届かない独り言だった。
その日の放課後。夕陽に染まった図書室で、チリはサオリを見つけた。
彼女は机に突っ伏して、静かに寝息を立てていた。膝の上で丸まっていたイーブイが顔を上げたが、相手がチリだと分かると再び目を閉じた。
チリは足音を殺して近づくと、ミントの頭の横に、そっとあのノートを置いた。
立ち去ろうとして、ふと足を止める。
チリは自分のカバンから付箋を取り出し、走り書きをして、ノートの表紙にペタりと貼った。
『研究不足やな。あなをほるでいったん目線散らす方が効果的や。』
『おもろかったわ、これ。』
...
翌日のこと。
「あのノート、っ!」
ミントが息を切らしてチリに詰め寄った。
「返したやろ? 自分、あんな恥ずかしいもん、よう人に見せられるなあ」
「恥ずかしくないもん! ……てか、あんた、敵に手の内をバラすようなことしちゃダメだった!」
「敵て! チリちゃん、一応あのアドバイス、真面目に書いたんやけど?」
「……あ、やっぱりあれ、チリが書いてくれたんだ?」
「あーーー……知らん。気のせいや」
ミントはニヤニヤと笑いながら付箋の貼られたノートを大事そうに胸に抱えている。そんな様子にチリはわずかに耳を赤くして、視線を窓の外へと逃がした。
二人の間にあった壁は、少しずつ透明になっていた。
「……あれ、チリって自分のこと、うちって言ってなかったっけ…?」
「ブーィ?」
「んー?……まーいっか!可愛いし、ほっとこ」
「……ブイ〜〜♪」
ミントがチリを追いかけ回すのは、もはやアカデミーの日常茶飯事だ。最初は「あの子、あのチリさんに物怖じしないなんてすごいな」と遠巻きに見ていた同級生たちも、今では「またやってるよ」と苦笑いしながら通り過ぎていく。
けれどこの日、ミントの中にはいつもとは違う気合いがあった。
チリがふとした瞬間に見せる、あの踏み込ませてくれない壁。それを、自分の得意なことでぶち破ってやりたかったのだ。
きっかけは、午前中の合同実技。
複数のクラスが中庭のコートに集まるこの時間は、アカデミー全体が熱気に包まれる。砂埃が舞い、あちこちで技の光が弾ける中、ミントとイーブイの出番が回ってきた。
対戦相手は、体格のいいハリテヤマを繰り出してきたパワー重視の先輩だ。
「いこう、イーブイ! ノート通りに……いや、練習した以上のものを見せよう!」
白いイーブイが、鋭い爪で地面を蹴った。
ミントの指示はスピードスター。だが、ただ放つのではない。
イーブイは空中でこまのように高速回転しながら、全方位へ光の星を撒き散らした。普通ならそのまま相手へ飛んでいくはずの星が、ミントの緻密な弾道計算とイーブイの絶妙な力加減によって、ハリテヤマの頭上でピタリと静止し、まるで檻のように滞留する。
「えっ、何だこれ、当たらないぞ!?」
困惑する先輩と、身構えるハリテヤマ。だが、ミントの狙いはその先にある。
「今だよ、チャームボイス!」
イーブイが放った愛らしくも鋭い音波。その振動が、空中に固定されていたスピードスターの星々に干渉した。
共鳴し、限界まで震えた光の粒子が、音色の余波を受けて一斉に爆ぜる。
ーーバチンッ
空気を叩く硬質な破裂音。
次の瞬間、コートには粉々になった星の破片が、ダイヤモンドダストのようにキラキラと降り注いだ。
ただの目潰しじゃない。光と音の乱反射がハリテヤマの感覚を狂わせる、ミントが何度もシミュレーションを重ねた視覚と聴覚の同時ハックだ。
「きれい……」
観覧席から、ため息のような声が漏れる。
その光り輝くカーテンの向こう側から、イーブイが弾丸のような速度で飛び出した。死角からのでんこうせっかが、無防備なハリテヤマの懐にクリーンヒットする。
これだ。これが見せたかった。
自分の理論が形になった、強敵を圧倒する最高に楽しいバトル。
ミントは勝利を確信した瞬間、真っ先にコートの端――一番良い場所で観戦しているはずの、チリの方へ視線を飛ばした。
(見た?! 今の、私とイーブイの最高傑作!)
だが、視線の先にいたチリは。
制服の襟を少し立て、長い前髪を揺らしながら……あからさまに、カクンカクンと船を漕いでいた。
(……え、嘘でしょ。寝てる!? あんなに派手な音したのに!?)
あまりの衝撃に、ミントの膝から力が抜けそうになる。
試合には完勝した。けれど、胸の中に残ったのは、勝利の余韻ではなく、行き場のないモヤモヤとした火種だった。
「……イーブイ、お疲れさま。技は完璧だったよ、本当に」
「ブイ……?」
相棒の首元を撫でながらも、ミントの目はまだ、暢気に微睡んでいるチリの横顔をじっと睨みつけていた。
...
昼休みのチャイムが鳴り終わった直後。長い廊下に、ミントの怒鳴り声が響き渡った。
「――ちょっと待ちなさいよ、チリ!逃げるな〜!」
人混みに紛れ、するすると逃げようとしていたチリだったが、角を曲がったところでミントに先回りされ、制服の袖をガシッと掴まれた。
「……逃げてへんよ。うちは今、空腹という名の強敵に挑もうとしとっただけや。」
「嘘ばっかり。さっきの演習、私がそっち見た瞬間、わざとらしく寝たふりしたでしょ!」
ミントは腰に手を当てて、ぷんぷんと頬を膨らませた。
「私、一生懸命バトルの構成を考えて練習してたのに! 少しも見てくれないなんて、酷いじゃん」
「見てた。薄目やけどな」
「薄目!? 余計に許せない!」
足元では、イーブイも「ブイッ!」と短い足を突っ張って加勢している。光沢のある白い毛に、昼間の陽光が差し込んでキラキラと光る。
「あの星を無駄に光らせとったやつな。自分、ほんま懲りひんなあ。昨日のうちとのバトルの敗因だって、それやで」
「うぐ、」
「パフォーマンスかなんか知らんけど、無駄な動きが多すぎんねん。そんなん考える暇があるんなら、一発でも多く技を叩き込み?」
チリが意地悪く目を細めると、ミントは顔を真っ赤にして叫んだ。昨日、ミントはチリとのバトルで負けたばかりである。
「ううぅ、あーもう、悔しい! 負けたこともそうだけど、何よりムカつくのは、あんたが私のイーブイをちゃんと見てくれなかったことなんだよ!」
「見てたって。見てたから、攻撃が当たる直前に回避の指示を出したんやんか。」
「そうじゃなくて、イーブイの凄さは、強さだけじゃなくてっ」
「強いことが絶対や、強ければ、勝てばいい。それがバトルの正解やろ。うちはいつだってサクッと正解を出したいねん」
「〜っ、それが!違うって言ってるの!」
ミントはそう言うと、抱えていた一冊のノートをチリの胸元に押し付けた。角が丸まり、使い込まれた学習ノート。そこから伝わるのは、ミントの体温と、執念に近い熱量だった。
「なんやこれ。うちへのラブレター? 随分と重たいなあ」
「バカなこと言わないで! ……私の、私なりにバトルを楽しくするのための、研究ノートなの」
チリが怪訝そうに表紙を開く。罫線を完全に無視して描き殴られているのは、イーブイが技を出す瞬間の骨格の動き、放たれた星が描くべき放物線の計算、そしてそれを操るミント自身の立ち位置。
さらには、『チャームボイスの周波数と星の共鳴率』『爆ぜる瞬間に最もチリを驚かせられる角度』という、真っ直ぐな情熱と緻密な理論が同居したメモが、ページを埋め尽くしていた。
「……自分、うちに負けっぱなしの癖に、まだこんなことしとるん? バトルは相手を倒せばええだけや。効率よく体力削って、勝機を掴む。綺麗にとか楽しさとか、そんなん考える必要なんて、どこにもないわ」
「……あるよ。」
ミントは一歩詰め寄り、チリの紅い瞳を真っ直ぐに見据えた。ミントの熱い吐息が、チリの冷めた肌に触れる。
「強ければいいなんて、つまんないじゃない。私はね、バトルを通して、見てる人全員をワクワクさせたいの! あんたみたいに、ただ勝って終わりなんて……そんなの、ポケモンたちも、見てくれる人もかわいそうでしょ?」
ミントの言葉は一点の曇りもない。だからこそ、チリの空っぽな部分に、氷を溶かすお湯のように注ぎ込まれる。
「あんたも、このノート読みなさいよね! 少しは愛嬌ってものを勉強しないと、将来寂しい大人になっちゃうんだから!」
「愛嬌なあ。うち、これ以上可愛くなったら困るんやけど?」
チリはいつものように軽口で誤魔化そうとしたが、ミントの瞳に宿る圧倒的な意志に、それ以上の言葉を飲み込んだ。
「もうっ! 次に私とバトルする時、あんたが身を乗り出して、まばたきするのも忘れるくらい、最高に楽しませてあげるんだから! 見てなさいよ、チリ!」
ミントはそう宣言すると、満足げに鼻を鳴らし、赤い髪をなびかせて去っていった。
廊下に一人取り残されたチリの手元には、ミントの体温が残るノートが一冊。
(……薄目、やなんて嘘や)
本当は、まばたきも忘れるほど見つめていた。
ミントのイーブイが放った、あの光と音の共鳴。無駄だと言い切りながらも、その「無駄」にどれほどの計算と愛情が注がれているか、チリは痛いほど理解していた。あまりにも眩しすぎて、直視し続けるのが怖くて、だから目を逸らしたのだ。
「……まあ、あんなに意気込まんでも。自分がおるだけで十分うるさくて、退屈せえへんのやけどな」
それは、去っていった背中には決して届かない独り言だった。
その日の放課後。夕陽に染まった図書室で、チリはサオリを見つけた。
彼女は机に突っ伏して、静かに寝息を立てていた。膝の上で丸まっていたイーブイが顔を上げたが、相手がチリだと分かると再び目を閉じた。
チリは足音を殺して近づくと、ミントの頭の横に、そっとあのノートを置いた。
立ち去ろうとして、ふと足を止める。
チリは自分のカバンから付箋を取り出し、走り書きをして、ノートの表紙にペタりと貼った。
『研究不足やな。あなをほるでいったん目線散らす方が効果的や。』
『おもろかったわ、これ。』
...
翌日のこと。
「あのノート、っ!」
ミントが息を切らしてチリに詰め寄った。
「返したやろ? 自分、あんな恥ずかしいもん、よう人に見せられるなあ」
「恥ずかしくないもん! ……てか、あんた、敵に手の内をバラすようなことしちゃダメだった!」
「敵て! チリちゃん、一応あのアドバイス、真面目に書いたんやけど?」
「……あ、やっぱりあれ、チリが書いてくれたんだ?」
「あーーー……知らん。気のせいや」
ミントはニヤニヤと笑いながら付箋の貼られたノートを大事そうに胸に抱えている。そんな様子にチリはわずかに耳を赤くして、視線を窓の外へと逃がした。
二人の間にあった壁は、少しずつ透明になっていた。
「……あれ、チリって自分のこと、うちって言ってなかったっけ…?」
「ブーィ?」
「んー?……まーいっか!可愛いし、ほっとこ」
「……ブイ〜〜♪」
