じごくお遊び編
むかーしむかしあるところに辺鄙な場所に住んでいる薄汚い低階級の1人の少女がいました。
少女は家の周りの死体を片付けた後に何週間も洗っていない自分の私服を泥水が出てこない綺麗な水道まで向かって洗っていました。
そんな時、近くを通っていた溶岩の川の上を大きな桃が流れてきました。
少女は驚きその桃を絶対、食すために溶岩の川の中心にある巨大な桃をどうにかして取りました。
「はぁはぁ…こんな溶岩の中を流れてきたのになんでこの桃は平気なんだよ」
今更ながら疑問を抱いた少女は「まぁ、いいか」と思いその桃を転がしながら自分が住んでいるクソボロいアパートまで運びました。
「こんなでかかったら部屋に入らないか、アタシの家より大きいぞ、この桃」
少女はでかい桃を見て何かを閃き自分の部屋から大きめの包丁を持ってきて桃をグサリッと刺しました。
「よし!これならいける!」
少女は包丁を刺し進めます。
そして包丁が半分まで突き刺さった時、桃が震え始めました。
次の瞬間、巨大な桃は少女の目の前で破裂し中から悪魔のような風貌の眼鏡をかけた少年が出てきました。
「だ、誰だよ!?」
「……?」
少女は慌てて包丁の矢先をその少年に向けます。
少年は摩訶不思議そうな顔で少女を見つめました。
「くいな、柊くいな」
「え?」
「名前」
「はぁ……」少女は困惑で固まりました。
柊くいなと名乗り出た男に少女はとりあえず桃の果汁が服に染みまくってるから部屋にあげて拭いてあげることにしました。
そんなこんなで端折りまして、そのくいなは自分の部屋の隣に住み着き、挙句の果てにはこの星を困らせている鬼の独裁者、スピカに生活保護法を提案するために抗議しに行くとありえないことを言い出しました。
「な、何言ってんだ!?アナタ、あの鬼の独裁者に歯向かったりしたら生きて帰れないんだぞ!」
「別に提案をしに行くだけだけど」
「んーまぁ、生活保護法が実施されるってのはアタシも助かるけどあのスピカが黙って聞いてくれるかな…」
「とりあえず、今の生活を改善するために行ってくる、あと、ここに置いてあった団子持っていくね」
「はぁ!?それアタシのお昼なんだけど!勝手なことーーーーーー」
後ろで叫ぶ少女に見向きもせずくいなはこのクソボロいアパートから出て行ったのでした。
くいながアパートを出た数分後。
治安の悪い区域に到着したくいなは青髪に黒いメッシュの男に絡まれました。
「うひょ〜〜!!一目惚れです、俺と付き合ってください」
「誰だアンタ」
「いやよくわかんねぇんだけど、俺の全細胞がテメェのこと好きみたいで、さっきから体の体温が上がりまくっててやばい!!前世に何かしらの因縁があるかもしれない!うおおお好きだ!!」
くいなは目の前で意味のわからないことをブツブツと言っている謎の男を見てふと思いつきました。
「アンタ、階級なに?」
「え?俺?俺はホシにだけど?」
きた。
ホシには階級的にも高いし多分殺した数も多いだろう、これは鬼の独裁者にもしかしたら太刀打ちできる可能性が上がるかもしれない。
くいなはそう思いました。
「それで、話聞いてる?いやさ俺さ体売って金稼いでるんだけど、自分で誇りに思うくらい名器なんだよね、まじで絶対幸せにするから結婚を前提に俺の体買わない?あ、もちろん無料だよ!」
「柊くいな」
「え?」
「名前」
「あ!名前ね、くいなくん♡めっちゃいい響き!なんかめちゃくちゃ口にした覚えがあるフレーズ……やっぱり、俺たち何かしらの運命が……」
「仲間になってくれ」
「は??」
「僕、今から鬼の独裁者に抗議しに行くんだけど、一緒についてきて」
「は!?マジで言ってんの!?あのスピカさんに抗議とか無謀すぎるよ!あのね、俺あの人が設立した団体に所属してるんだけどまじでやめた方がいい、ほんとにまじで」
くいなが言ったことに驚いた男は本気でくいなを止めました。
しかしそんなことじゃくいなは止まりません。
「一緒に来ないのか?」
「えー…だってさ……」
「一緒だぞ、一緒、2人っきり」
「確かに!あ、もしかしてくいなくんも俺と一緒に2人っきりになりたいんだ♡まぁ今回、ついてきてあげる変わりに今度は俺とデートしようね♡」
くいなは男が自分のこと好きであろうことを利用して上手く口車に乗せることに成功しました。
男はとてもチョロいようです。
そしてセクハラ紛いなことを言ってくる男とともにホシいち区域手前の場所までたどり着きました。
くいなはそこで道端に倒れている真っ黒な男を見つけました。
「なんだこれ」
「あーー!!くいなくんそれはゴミも同然のカスだから話しかけない方がいいよ♡」
くいなが真っ黒な男に声をかけると男がピクリと反応しました。
「んーーーーー」
「げー!起きやがった!起きんじゃねぇ!テメェは一生寝てろ!死ね!」
「うーわ、誰かと思ったらお前か〜、どうしたの?この時間は基本的に体売ってたでしょ、その使い物にならなそうな体を」
「はぁ!?少なくともテメェより使い物になってるっつーの!」
「あれ?てか隣の人だれ?見たことないけど☆」
くいなが自分の名前を言おうとした時、隣からセクハラ男が口を抑えてきました。
「言わなくていいよ!くいなくん、こいつまともじゃないからキチガイだから!」
「ふーん、くいなくんか☆」
「ところでアンタはなんで道端で倒れてたんだ」
くいながそう問いかけると真っ黒な男はやっと立ち上がりました。
「お腹すいて気絶してただけだよ〜、僕仕事で反感買っちゃって今月の給料、一銭も貰えなくてここ数日何も食えてないんだよね〜☆」
ヘラヘラしながらあんまり気にしてなさそうな感じで真っ黒な男はあはは〜☆と語尾に星マークがつきそうなくらい呑気に笑いました。
「自業自得だろうがよ!!テメェまたスピカさんに色々言ったんだろ?あの人、思った以上に繊細でめんどくさくてわがままかつキレやすい短気なんだからそろそろやめろよ、学習しねぇのかテメェは」
「うーんだってスピカくんって独裁的で自分がいい思いするやり方しかやらないからあんまり好きじゃないんだもん!俺と真逆の考え方だしー」
なんということでしょう、ここにいる2人はくいなが今から抗議しに行くスピカの知り合いっぽいのです。
くいなは良かれと思い真っ黒な男に少女から奪った団子を渡しました。
「これ、お腹すいてるならあげる、その代わり鬼の独裁者に抗議する手伝いをしてくれ」
「えーーー!?いいの!?ありがとう!いやぁ、僕お腹すいて自分の腕でも食べようかなと思ってたところだから助かったよ〜☆この恩は絶対返すね、スピカくんを殺すの手伝うよ!」
殺すとまでは言ってないとくいなは思いました。
その隣でセクハラ男が頭を抱えて何かを訴えてました。
「えええええー!?!?くいなくん!?俺と2人っきりって言ったよね!?しかもなんでよりにもよってこんなクソガキゴミカスうんこ野郎なんだよ!?死んどけテメェはよぉ!」
「お前に利用価値がないからでしょ〜?☆少なくともお前よりかは使えると思われたからこの団子くれたんだよ、お前一人じゃ頼りないから?使い物にならないから?あ、わかった今日、売春してないのはとうとうその体がなんの使い物にもならなくなったからでしょ?お前、体とかの前に性格が家畜以下だもんね☆」
「はぁぁぁ!?!?テメェ表出ろや!!殺すだけじゃ済まさねぇぞマジで!」
これが犬猿の仲と言うものでしょうか?
くいなはうるさい2人に囲まれて耳を塞ぎながらホシいち区域へと入っていきました。
ホシいち区域にはたくさんの天使がいました。しかし天使のほとんどがペットのように首輪をつけられていて四つん這いで道を這っています。
「あーこれは天使って言ってホシいちのヤツらは権力があるから奴隷の天使を買うことができんだよ、まぁホシいち以外も買えるけど」
「スピカって人も付き添いの天使がいるのか?」
「えー?スピカさんはいなかった気がするなぁ、あの人基本的に人に興味ないし?」
くいながセクハラ男とそんな話をしている時、後ろから誰かが近づいてきました。
「今、スピカって言った?」
くいなが振り向くとそこには地を這っている赤髪の天使がこちらを見上げていました。
「あ??何だこの天使、テメェ、なに人間様に口答えしてんだ?」
「あ、この天使この前スピカくんと一緒にいなかった?」
「え?スピカさんのとこの天使?」
くいなたちの前に四つん這いでこちらを見上げる天使は顔を青くしました。
「そんな、スピカの奴隷なわけない!俺は一応、スピカの友人だったヴィンです…」
「あ!ヴィンくん!スピカくんがよく話に出す子だ」
真っ黒な男がそう言うと天使はまたもや顔を青くしました。
「ひぃ……俺の話?どんな話を?」
「うーん、身の危険を守るために買おうかなーとか他のやつに殺されるのも嫌だからなぁーとか何とか?言ってた気がしたな〜☆」
「嫌だ、それだけは絶対に嫌だ……」
天使はほんとに死にそうな顔で地面に這いつくばりました。
くいなはピンッときました。
この天使はスピカの友人、あの独裁者と言われるスピカが唯一気にかけている天使……これは使い勝手が良さそうだ。
「僕は今から鬼の独裁者に抗議しに行くけど一緒に来る?」
「え?」
「なにか、スピカとやらに言いたいことがあるんじゃないか?だから声をかけてきたのかと思ったけど」
「うーん、まぁ、そう…だけど……スピカは……」
「安心しろ、護衛が二人ついている」
あんまり頼りにならなそうだけどとくいなは思いましたがそこは口にしませんでした。
天使は一瞬迷ったあとこくりと頷きました。
そして、くいなはセクハラ男と真っ黒な男と赤髪の天使を連れてスピカがいる団体の本拠地へと足を踏み入れました。
「見つけたぞ、鬼の独裁者」
「ちょっ!くいなくん!!本人の前でそのあだ名で呼ぶのは結構危ねぇというか、まぁ俺は止めないけどね……」
本拠地についてすぐ鬼の独裁者を見つけたくいなたちはスピカの前に立ちはだかりました。
「鬼の独裁者…?最近の僕のあだ名も変なイメージになってきたなぁ」
「だいたいあってるけどね☆それにつけ加えてわがままキングとかどうかな〜?」
真っ黒な男がそう呑気に喧嘩を売ると前から銃声音が響きました。
「ふぅ、全く黒サワくんのせいで最近、銃弾の消費が凄いんだからね、後で銃弾費払ってもらおうかな、あ、そういえばお金ないんだったね、給料、僕が差し引いたんだった」
スピカはニコニコしながらこちらに中を向けてきました。
銃弾を回避していた真っ黒な男も同じようにニコニコしています。
「ところで、揃いも揃って何の用だい?僕は別に暇じゃ……」
1人ずつ銃口を向けていたスピカが途中で動きを止めて銃口を下ろしました。
「ヴィン?なんでこんなところにいるの?ホシいち区域は危ないんだからあんまり来たらダメって言っただろ?」
「あ、いや……別に……」
「ほんとになんで君は言うことを黙って聞かないんだ?君が僕に買われるのを嫌がったから僕も仕方なく自由にしてあげたのに。ヴィンも流石に分かるだろ?他のホシいち階級の人に買われたら大変な目に遭うことくらい、僕は君に死んで欲しくないからわざわざ危険区域も教えて天使売買にも出さなかったって言うのに……」
「違くて…スピカ……俺はスピカに言いたいことがあって……」
隣で怖気付いてる天使を横目にくいなは1歩前へ出ました。
「生活保護法を取り入れてくれ」
「生活保護法?」
「階級の差が激しくてまともに生活できない」
「うーん、そうかぁ、でも僕たちにもそんな余裕なんてないし、言っとくけどここは地獄だからね?そんな甘いことできないしやる気なんかないんだよ、みんな犯罪者なのに優しくしたらまた付け上がるだろ?そこら辺、厳しくしないと……」
「スピカさんはいいのかよ……」
「スピカくんわがままキングなんだって☆自分以外、どうでもいいんだから」
セクハラ男と真っ黒な男はひそひそと呟きました。
「ホシいちは?結構裕福に暮らしてるけど」
「彼たちは一生懸命、働いて今の階級についているんだよ?」
「何したらそんな階級が上がるんだ?死体処理だけじゃ全然儲からない、と言ってもそれ以外やることなんて他にはないし」
くいながそう抗議しているとスピカは再びニコニコと笑いだした。
「環境保護団体に入るんだよ!」
「環境保護団体?」
「そう!環境保護団体に入れば見に危険は生じるけどそのぶん階級がグングン上がり、給料もたんまり貰えるんだ、そのうち階級がホシにまでくると君な不死身の体を手に入れることができてホシいちになれば僕みたいに裕福になり天使という奴隷も手に入るんだ!」
スピカは両手を前に出しまるで洗脳するかのようにくいなを見つめました。
しかしくいなは身の危険は守りたいのです。いくら報酬が良かれど命には変えられないのでスピカの誘惑の言葉はくいなには全く響きませんでした。
「いや、いい、なんでそんな身の危険まで生じなければならない?」
「そりゃあ、階級をあげるためには死ぬ覚悟で働けと言うことだよ?」
「ふん……」
くいなは考えました。何かおかしい気がすると、階級の仕組みについてなにか見逃していることがあるのではないかと……
それを暴かない限りスピカは絶対に承諾してくれない、とくいなは思いました。
「スピカ!」
その時、隣から天使がスピカの名前を呼びました。スピカはそれにすぐさま反応します。
「スピカ、考え直してくれ……君は元々そんな独裁的な性格じゃなかったでしょ?おかしい、ここまで人を荒く扱う人じゃなかった!何が目的なの?」
「……ヴィン、君はいつまで寝言を言ってるんだ、君が見ているのはスピカ・マーレイ、清く正しくて天才でみんなに優しくていい子ぶってた、偽りの僕だ」
「違う、確かにスピカは大人の前ではいい子ぶってた、でもここまで堕ちてはなかったはず、ハブられてた俺に対して話しかけてきたのも仲間に入れてくれたのも全て善意のはずだった、なのに……なんで……」
くいなたちは気づきました。
スピカがブチ切れそうなことに。
しかし天使は気づいてないのかそんなことお構い無しで話を続けていました。
「だから!スピカ、環境保護団体なんてもうやめて、一からやり直そう……君のカリスマ性なら地獄の住人たちを改心させるやり方だってでき、」
その時、再び銃声音が響き渡りました。
セクハラ男は「うわぁ……何やってくれてんだよ、この天使野郎……」と小さく呟きました。
「僕のことを分かっているようなフリをするな、君は何も分かってない、さっきから言ってるだろ、君が見ているのは小さい頃の僕だって、それ以降の僕になんて何一つ関心もないくせに!だから僕が変わったことにも気づかないし、それが自分の責任だってことにも一切気づかないし、何が僕をそうさせたのかも分からないんだろ!それなのに分かったような口を聞くな、一からやり直そう?そんなの無理に決まってる、全部ヴィンのせいだ、何も分かってない分かろうとしないヴィンが全部悪い!」
「あーあー、スピカくんがヒステリックになっちゃったよ☆」
「ここまでスピカさんをキレさせるとかもはや才能じゃね?とりあえずくいなくん、ここは天使にサンドバッグになってもらって、俺たちは帰ろうか?生活保護法は諦めてさ、てか俺の家で一緒に暮らそうよ♡そしたら生活に困らないじゃん!♡俺が養ってあげるからさ、どう?」
「え、まってよ、俺を置いていかないで!」
「おいテメェ!!ついてくんなよ!そもそもスピカさん怒らせたのテメェなんだから、責任もって殴られてこい!」
「ヴィン?またそうやって逃げるんだ、避け続けるんだ、何したら許してもらえるかも考えられないんだね……」
スピカはブツブツと呟きながら後ろからついてきます。
「な、なに?なんであんなにブチ切れるの…?何すれば許されるの?」
「ヴィンくん、あれは要約すると親友に戻ろうって言っているんじゃない?☆」
「え、嫌だ」
天使が拒絶した瞬間後ろから金属バットが飛んできて天使の頭にクリティカルヒットしました。
天使は鼻血を出しながらその場に倒れました。
「ガッ!……まっ、まって、置いていかないで……ヒッ、ご、ごめん、スピカ、ごめんごめんごめん!」
くいなたちは後ろから聞こえる悲鳴と金属バットで殴られているであろう音を聞き流しながらその場を急いであとにしました。
そして無事にクソボロいアパートに辿り着くことが出来ました。
「あれ、もう帰ってきたの?って、こいつら環保じゃねぇーか!」
「生活保護法のことは無理だった」
「はぁ……だから言ったでしょ?スピカは基本的にアタシたちの言葉には聞く耳も持たないんだから」
「じゃあ、くいなくん♡一緒に同行してあげたんだから俺のお願いも聞いてくれるよね?」
「それじゃまた」
くいなはセクハラ男の言葉を無視して自分の部屋へと帰り鍵を閉めました。
「くいなくーん!?!?約束と違うよね!?俺、くいなくんとのデート楽しみにしてあんなクソ野郎共と同行すんの我慢してたのにこんな仕打ちあんまりだよぉお!!」
「はぁ、なんかうるさいのまで連れて帰ってきてるし……」
「美味しい団子をありがとう!それじゃあ、またね〜☆」
真っ黒な男はお構い無しに帰っていきました。
少女はお昼の団子は取られ、生活保護法も実施されないことにガッカリして自分の部屋へと戻るのでした。
めでたしめでたし。
一方その頃、
「今回、ついて行ってラッキーだったな〜、やっぱり階級制度はスピカくんが考えた嘘っぽいかなー、そもそも僕は真面目に働いていないのにホシいちまで上り詰めてるし……あ、なるほど、俺たちが不死身の体を手に入れたのはそういうことだったのか☆」
真っ黒な男は帰り際にそんなことを考えながら歩いていたとさ。
END
少女は家の周りの死体を片付けた後に何週間も洗っていない自分の私服を泥水が出てこない綺麗な水道まで向かって洗っていました。
そんな時、近くを通っていた溶岩の川の上を大きな桃が流れてきました。
少女は驚きその桃を絶対、食すために溶岩の川の中心にある巨大な桃をどうにかして取りました。
「はぁはぁ…こんな溶岩の中を流れてきたのになんでこの桃は平気なんだよ」
今更ながら疑問を抱いた少女は「まぁ、いいか」と思いその桃を転がしながら自分が住んでいるクソボロいアパートまで運びました。
「こんなでかかったら部屋に入らないか、アタシの家より大きいぞ、この桃」
少女はでかい桃を見て何かを閃き自分の部屋から大きめの包丁を持ってきて桃をグサリッと刺しました。
「よし!これならいける!」
少女は包丁を刺し進めます。
そして包丁が半分まで突き刺さった時、桃が震え始めました。
次の瞬間、巨大な桃は少女の目の前で破裂し中から悪魔のような風貌の眼鏡をかけた少年が出てきました。
「だ、誰だよ!?」
「……?」
少女は慌てて包丁の矢先をその少年に向けます。
少年は摩訶不思議そうな顔で少女を見つめました。
「くいな、柊くいな」
「え?」
「名前」
「はぁ……」少女は困惑で固まりました。
柊くいなと名乗り出た男に少女はとりあえず桃の果汁が服に染みまくってるから部屋にあげて拭いてあげることにしました。
そんなこんなで端折りまして、そのくいなは自分の部屋の隣に住み着き、挙句の果てにはこの星を困らせている鬼の独裁者、スピカに生活保護法を提案するために抗議しに行くとありえないことを言い出しました。
「な、何言ってんだ!?アナタ、あの鬼の独裁者に歯向かったりしたら生きて帰れないんだぞ!」
「別に提案をしに行くだけだけど」
「んーまぁ、生活保護法が実施されるってのはアタシも助かるけどあのスピカが黙って聞いてくれるかな…」
「とりあえず、今の生活を改善するために行ってくる、あと、ここに置いてあった団子持っていくね」
「はぁ!?それアタシのお昼なんだけど!勝手なことーーーーーー」
後ろで叫ぶ少女に見向きもせずくいなはこのクソボロいアパートから出て行ったのでした。
くいながアパートを出た数分後。
治安の悪い区域に到着したくいなは青髪に黒いメッシュの男に絡まれました。
「うひょ〜〜!!一目惚れです、俺と付き合ってください」
「誰だアンタ」
「いやよくわかんねぇんだけど、俺の全細胞がテメェのこと好きみたいで、さっきから体の体温が上がりまくっててやばい!!前世に何かしらの因縁があるかもしれない!うおおお好きだ!!」
くいなは目の前で意味のわからないことをブツブツと言っている謎の男を見てふと思いつきました。
「アンタ、階級なに?」
「え?俺?俺はホシにだけど?」
きた。
ホシには階級的にも高いし多分殺した数も多いだろう、これは鬼の独裁者にもしかしたら太刀打ちできる可能性が上がるかもしれない。
くいなはそう思いました。
「それで、話聞いてる?いやさ俺さ体売って金稼いでるんだけど、自分で誇りに思うくらい名器なんだよね、まじで絶対幸せにするから結婚を前提に俺の体買わない?あ、もちろん無料だよ!」
「柊くいな」
「え?」
「名前」
「あ!名前ね、くいなくん♡めっちゃいい響き!なんかめちゃくちゃ口にした覚えがあるフレーズ……やっぱり、俺たち何かしらの運命が……」
「仲間になってくれ」
「は??」
「僕、今から鬼の独裁者に抗議しに行くんだけど、一緒についてきて」
「は!?マジで言ってんの!?あのスピカさんに抗議とか無謀すぎるよ!あのね、俺あの人が設立した団体に所属してるんだけどまじでやめた方がいい、ほんとにまじで」
くいなが言ったことに驚いた男は本気でくいなを止めました。
しかしそんなことじゃくいなは止まりません。
「一緒に来ないのか?」
「えー…だってさ……」
「一緒だぞ、一緒、2人っきり」
「確かに!あ、もしかしてくいなくんも俺と一緒に2人っきりになりたいんだ♡まぁ今回、ついてきてあげる変わりに今度は俺とデートしようね♡」
くいなは男が自分のこと好きであろうことを利用して上手く口車に乗せることに成功しました。
男はとてもチョロいようです。
そしてセクハラ紛いなことを言ってくる男とともにホシいち区域手前の場所までたどり着きました。
くいなはそこで道端に倒れている真っ黒な男を見つけました。
「なんだこれ」
「あーー!!くいなくんそれはゴミも同然のカスだから話しかけない方がいいよ♡」
くいなが真っ黒な男に声をかけると男がピクリと反応しました。
「んーーーーー」
「げー!起きやがった!起きんじゃねぇ!テメェは一生寝てろ!死ね!」
「うーわ、誰かと思ったらお前か〜、どうしたの?この時間は基本的に体売ってたでしょ、その使い物にならなそうな体を」
「はぁ!?少なくともテメェより使い物になってるっつーの!」
「あれ?てか隣の人だれ?見たことないけど☆」
くいなが自分の名前を言おうとした時、隣からセクハラ男が口を抑えてきました。
「言わなくていいよ!くいなくん、こいつまともじゃないからキチガイだから!」
「ふーん、くいなくんか☆」
「ところでアンタはなんで道端で倒れてたんだ」
くいながそう問いかけると真っ黒な男はやっと立ち上がりました。
「お腹すいて気絶してただけだよ〜、僕仕事で反感買っちゃって今月の給料、一銭も貰えなくてここ数日何も食えてないんだよね〜☆」
ヘラヘラしながらあんまり気にしてなさそうな感じで真っ黒な男はあはは〜☆と語尾に星マークがつきそうなくらい呑気に笑いました。
「自業自得だろうがよ!!テメェまたスピカさんに色々言ったんだろ?あの人、思った以上に繊細でめんどくさくてわがままかつキレやすい短気なんだからそろそろやめろよ、学習しねぇのかテメェは」
「うーんだってスピカくんって独裁的で自分がいい思いするやり方しかやらないからあんまり好きじゃないんだもん!俺と真逆の考え方だしー」
なんということでしょう、ここにいる2人はくいなが今から抗議しに行くスピカの知り合いっぽいのです。
くいなは良かれと思い真っ黒な男に少女から奪った団子を渡しました。
「これ、お腹すいてるならあげる、その代わり鬼の独裁者に抗議する手伝いをしてくれ」
「えーーー!?いいの!?ありがとう!いやぁ、僕お腹すいて自分の腕でも食べようかなと思ってたところだから助かったよ〜☆この恩は絶対返すね、スピカくんを殺すの手伝うよ!」
殺すとまでは言ってないとくいなは思いました。
その隣でセクハラ男が頭を抱えて何かを訴えてました。
「えええええー!?!?くいなくん!?俺と2人っきりって言ったよね!?しかもなんでよりにもよってこんなクソガキゴミカスうんこ野郎なんだよ!?死んどけテメェはよぉ!」
「お前に利用価値がないからでしょ〜?☆少なくともお前よりかは使えると思われたからこの団子くれたんだよ、お前一人じゃ頼りないから?使い物にならないから?あ、わかった今日、売春してないのはとうとうその体がなんの使い物にもならなくなったからでしょ?お前、体とかの前に性格が家畜以下だもんね☆」
「はぁぁぁ!?!?テメェ表出ろや!!殺すだけじゃ済まさねぇぞマジで!」
これが犬猿の仲と言うものでしょうか?
くいなはうるさい2人に囲まれて耳を塞ぎながらホシいち区域へと入っていきました。
ホシいち区域にはたくさんの天使がいました。しかし天使のほとんどがペットのように首輪をつけられていて四つん這いで道を這っています。
「あーこれは天使って言ってホシいちのヤツらは権力があるから奴隷の天使を買うことができんだよ、まぁホシいち以外も買えるけど」
「スピカって人も付き添いの天使がいるのか?」
「えー?スピカさんはいなかった気がするなぁ、あの人基本的に人に興味ないし?」
くいながセクハラ男とそんな話をしている時、後ろから誰かが近づいてきました。
「今、スピカって言った?」
くいなが振り向くとそこには地を這っている赤髪の天使がこちらを見上げていました。
「あ??何だこの天使、テメェ、なに人間様に口答えしてんだ?」
「あ、この天使この前スピカくんと一緒にいなかった?」
「え?スピカさんのとこの天使?」
くいなたちの前に四つん這いでこちらを見上げる天使は顔を青くしました。
「そんな、スピカの奴隷なわけない!俺は一応、スピカの友人だったヴィンです…」
「あ!ヴィンくん!スピカくんがよく話に出す子だ」
真っ黒な男がそう言うと天使はまたもや顔を青くしました。
「ひぃ……俺の話?どんな話を?」
「うーん、身の危険を守るために買おうかなーとか他のやつに殺されるのも嫌だからなぁーとか何とか?言ってた気がしたな〜☆」
「嫌だ、それだけは絶対に嫌だ……」
天使はほんとに死にそうな顔で地面に這いつくばりました。
くいなはピンッときました。
この天使はスピカの友人、あの独裁者と言われるスピカが唯一気にかけている天使……これは使い勝手が良さそうだ。
「僕は今から鬼の独裁者に抗議しに行くけど一緒に来る?」
「え?」
「なにか、スピカとやらに言いたいことがあるんじゃないか?だから声をかけてきたのかと思ったけど」
「うーん、まぁ、そう…だけど……スピカは……」
「安心しろ、護衛が二人ついている」
あんまり頼りにならなそうだけどとくいなは思いましたがそこは口にしませんでした。
天使は一瞬迷ったあとこくりと頷きました。
そして、くいなはセクハラ男と真っ黒な男と赤髪の天使を連れてスピカがいる団体の本拠地へと足を踏み入れました。
「見つけたぞ、鬼の独裁者」
「ちょっ!くいなくん!!本人の前でそのあだ名で呼ぶのは結構危ねぇというか、まぁ俺は止めないけどね……」
本拠地についてすぐ鬼の独裁者を見つけたくいなたちはスピカの前に立ちはだかりました。
「鬼の独裁者…?最近の僕のあだ名も変なイメージになってきたなぁ」
「だいたいあってるけどね☆それにつけ加えてわがままキングとかどうかな〜?」
真っ黒な男がそう呑気に喧嘩を売ると前から銃声音が響きました。
「ふぅ、全く黒サワくんのせいで最近、銃弾の消費が凄いんだからね、後で銃弾費払ってもらおうかな、あ、そういえばお金ないんだったね、給料、僕が差し引いたんだった」
スピカはニコニコしながらこちらに中を向けてきました。
銃弾を回避していた真っ黒な男も同じようにニコニコしています。
「ところで、揃いも揃って何の用だい?僕は別に暇じゃ……」
1人ずつ銃口を向けていたスピカが途中で動きを止めて銃口を下ろしました。
「ヴィン?なんでこんなところにいるの?ホシいち区域は危ないんだからあんまり来たらダメって言っただろ?」
「あ、いや……別に……」
「ほんとになんで君は言うことを黙って聞かないんだ?君が僕に買われるのを嫌がったから僕も仕方なく自由にしてあげたのに。ヴィンも流石に分かるだろ?他のホシいち階級の人に買われたら大変な目に遭うことくらい、僕は君に死んで欲しくないからわざわざ危険区域も教えて天使売買にも出さなかったって言うのに……」
「違くて…スピカ……俺はスピカに言いたいことがあって……」
隣で怖気付いてる天使を横目にくいなは1歩前へ出ました。
「生活保護法を取り入れてくれ」
「生活保護法?」
「階級の差が激しくてまともに生活できない」
「うーん、そうかぁ、でも僕たちにもそんな余裕なんてないし、言っとくけどここは地獄だからね?そんな甘いことできないしやる気なんかないんだよ、みんな犯罪者なのに優しくしたらまた付け上がるだろ?そこら辺、厳しくしないと……」
「スピカさんはいいのかよ……」
「スピカくんわがままキングなんだって☆自分以外、どうでもいいんだから」
セクハラ男と真っ黒な男はひそひそと呟きました。
「ホシいちは?結構裕福に暮らしてるけど」
「彼たちは一生懸命、働いて今の階級についているんだよ?」
「何したらそんな階級が上がるんだ?死体処理だけじゃ全然儲からない、と言ってもそれ以外やることなんて他にはないし」
くいながそう抗議しているとスピカは再びニコニコと笑いだした。
「環境保護団体に入るんだよ!」
「環境保護団体?」
「そう!環境保護団体に入れば見に危険は生じるけどそのぶん階級がグングン上がり、給料もたんまり貰えるんだ、そのうち階級がホシにまでくると君な不死身の体を手に入れることができてホシいちになれば僕みたいに裕福になり天使という奴隷も手に入るんだ!」
スピカは両手を前に出しまるで洗脳するかのようにくいなを見つめました。
しかしくいなは身の危険は守りたいのです。いくら報酬が良かれど命には変えられないのでスピカの誘惑の言葉はくいなには全く響きませんでした。
「いや、いい、なんでそんな身の危険まで生じなければならない?」
「そりゃあ、階級をあげるためには死ぬ覚悟で働けと言うことだよ?」
「ふん……」
くいなは考えました。何かおかしい気がすると、階級の仕組みについてなにか見逃していることがあるのではないかと……
それを暴かない限りスピカは絶対に承諾してくれない、とくいなは思いました。
「スピカ!」
その時、隣から天使がスピカの名前を呼びました。スピカはそれにすぐさま反応します。
「スピカ、考え直してくれ……君は元々そんな独裁的な性格じゃなかったでしょ?おかしい、ここまで人を荒く扱う人じゃなかった!何が目的なの?」
「……ヴィン、君はいつまで寝言を言ってるんだ、君が見ているのはスピカ・マーレイ、清く正しくて天才でみんなに優しくていい子ぶってた、偽りの僕だ」
「違う、確かにスピカは大人の前ではいい子ぶってた、でもここまで堕ちてはなかったはず、ハブられてた俺に対して話しかけてきたのも仲間に入れてくれたのも全て善意のはずだった、なのに……なんで……」
くいなたちは気づきました。
スピカがブチ切れそうなことに。
しかし天使は気づいてないのかそんなことお構い無しで話を続けていました。
「だから!スピカ、環境保護団体なんてもうやめて、一からやり直そう……君のカリスマ性なら地獄の住人たちを改心させるやり方だってでき、」
その時、再び銃声音が響き渡りました。
セクハラ男は「うわぁ……何やってくれてんだよ、この天使野郎……」と小さく呟きました。
「僕のことを分かっているようなフリをするな、君は何も分かってない、さっきから言ってるだろ、君が見ているのは小さい頃の僕だって、それ以降の僕になんて何一つ関心もないくせに!だから僕が変わったことにも気づかないし、それが自分の責任だってことにも一切気づかないし、何が僕をそうさせたのかも分からないんだろ!それなのに分かったような口を聞くな、一からやり直そう?そんなの無理に決まってる、全部ヴィンのせいだ、何も分かってない分かろうとしないヴィンが全部悪い!」
「あーあー、スピカくんがヒステリックになっちゃったよ☆」
「ここまでスピカさんをキレさせるとかもはや才能じゃね?とりあえずくいなくん、ここは天使にサンドバッグになってもらって、俺たちは帰ろうか?生活保護法は諦めてさ、てか俺の家で一緒に暮らそうよ♡そしたら生活に困らないじゃん!♡俺が養ってあげるからさ、どう?」
「え、まってよ、俺を置いていかないで!」
「おいテメェ!!ついてくんなよ!そもそもスピカさん怒らせたのテメェなんだから、責任もって殴られてこい!」
「ヴィン?またそうやって逃げるんだ、避け続けるんだ、何したら許してもらえるかも考えられないんだね……」
スピカはブツブツと呟きながら後ろからついてきます。
「な、なに?なんであんなにブチ切れるの…?何すれば許されるの?」
「ヴィンくん、あれは要約すると親友に戻ろうって言っているんじゃない?☆」
「え、嫌だ」
天使が拒絶した瞬間後ろから金属バットが飛んできて天使の頭にクリティカルヒットしました。
天使は鼻血を出しながらその場に倒れました。
「ガッ!……まっ、まって、置いていかないで……ヒッ、ご、ごめん、スピカ、ごめんごめんごめん!」
くいなたちは後ろから聞こえる悲鳴と金属バットで殴られているであろう音を聞き流しながらその場を急いであとにしました。
そして無事にクソボロいアパートに辿り着くことが出来ました。
「あれ、もう帰ってきたの?って、こいつら環保じゃねぇーか!」
「生活保護法のことは無理だった」
「はぁ……だから言ったでしょ?スピカは基本的にアタシたちの言葉には聞く耳も持たないんだから」
「じゃあ、くいなくん♡一緒に同行してあげたんだから俺のお願いも聞いてくれるよね?」
「それじゃまた」
くいなはセクハラ男の言葉を無視して自分の部屋へと帰り鍵を閉めました。
「くいなくーん!?!?約束と違うよね!?俺、くいなくんとのデート楽しみにしてあんなクソ野郎共と同行すんの我慢してたのにこんな仕打ちあんまりだよぉお!!」
「はぁ、なんかうるさいのまで連れて帰ってきてるし……」
「美味しい団子をありがとう!それじゃあ、またね〜☆」
真っ黒な男はお構い無しに帰っていきました。
少女はお昼の団子は取られ、生活保護法も実施されないことにガッカリして自分の部屋へと戻るのでした。
めでたしめでたし。
一方その頃、
「今回、ついて行ってラッキーだったな〜、やっぱり階級制度はスピカくんが考えた嘘っぽいかなー、そもそも僕は真面目に働いていないのにホシいちまで上り詰めてるし……あ、なるほど、俺たちが不死身の体を手に入れたのはそういうことだったのか☆」
真っ黒な男は帰り際にそんなことを考えながら歩いていたとさ。
END
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