10*海と太陽とホスト部
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全く世話の焼ける…しかしこれでケリはつくか?
自室を出、独り言を暗闇の中に溢す。
「メリットねぇ……それなりに興味深い感想だ」
ハルヒに、男女の力の差を思い知らせようとした自分の行動を思い返す…。
思わず口から出るのは軽い笑い声。
さて…しばらくは部屋に戻れそうにない。
明日の予定でも他の部員と決めてくるか…
そう思った所でふと気づく
「…そういえば、麗は…」
後で部屋に来るようにと言ったのだが…
もしやまだ食堂に?と、足の矛先を食堂に向かわせる。
いや…部屋も一度見にいくか?
そう考えながら歩いていると
「ちょっ…!猫澤先輩…!!」
「ははは離してくれッッッ!!!!まぶ、まぶ、まぶぶぶぶぶ」
暗い廊下の…詳しくいうならば廊下の角を曲がった先から
騒がしい声がふたつ。
…ただ、どちらの声も耳に覚えのある声なのだが
少しため息をつき、様子を伺うように顔をのぞかせる
「暗い中でちょっと心細くなってたんで…猫澤先輩がきてくれて少し安心しました」
そう言いながら先輩に少しずつ距離を縮める麗と
「あの、その……麗く」
麗の行動に戸惑いながらも麗から目を逸らそうとしない猫澤先輩
そして、その麗の手は猫澤先輩に触れ離れようとしない。
…なぜだろう、自分でもわからないが体が動いてしまった。
………いや、理由ならもうわかっている
ただ俺は、自分がもっと冷静な判断をする人間だと思っていたが、実際は違うらしい。
それか、麗が、麗だからそうさせるのかもしれないが…。
「麗」
「………鏡夜…?」
いつも通り…自然に努めようと思い、息を吐きながら麗を呼ぶと
驚いたように大きな目をさらに見開きこちらを振り向く。
「………何をしている」
「何って」
「先輩を困らせるんじゃない」
問いかけながら2人と距離を縮める。
“困らせるんじゃない”
麗のその手が先輩に届いている今、
本当に困るのはだれか…。
名付けようもないさまざまな感情が入り乱れて火花を散らす。
今すぐ麗の手を掴み走りたい衝動に駆られた時、同時に外で雷が鳴り響いた。
…同時に、窓から明るい光が差し込む。
「あ…すいません」
「え、あ、いや」
猫澤先輩が何かを言おうとするとまた響く雷鳴、
そして先程より明るい光が廊下を照らした。
食堂の時を思い出させるように
「ギャアーーーーーーー!!!!!!!」と雷鳴よりも煩い声を響かせ
眩しいーーーーー!!!!!と廊下を走っていってしまった。
先輩の背をしばらく見送って、横目で麗を盗み見る。
暗闇に慣れた自分の目には、ポカンとした顔の麗の横顔が映った。
「え“………」
「…………全くお前は…俺の部屋に来るように言ったはずだが、」
「行ったさ、……環と一緒にな」
麗の返答に思わず口を噤んでしまう。
麗はそんな俺にも気づかないまま
「でもお取り込み中だったようだし、また後で行こうと思ってたんだ」なんて続けた。
……ハルヒといるところ、見られたのか。
環みたいに馬鹿な考えはしないだろうと思うが、それでも側から見れば誤解が生まれる情景だっただろうあの時間を思い出す。
内心少し焦りながら「…いらん気遣いだな」なんてそっけなく返し足を動かした。
…俺が歩けばきっと麗もついてくるだろう。
そう思ったがやはり予想通り、あながち道にでも迷っていたのだろう。
自信のある俺の足取りに、少し安心したようだった。
「……あ、なんで俺呼ばれたんや?」
「ん、怪我の手当てを…とでも思ったんだが、」
「へ?そうやったのか…?」
てっきり明日の予定を決めるんや思うとった。そう簡単にいうこいつ。
…どうやら、気持ちも少し落ち着いたらしい。いつもの訛りも復活してきた。
少し歩調を緩めれば、隣に並ぶ肩。
すると、不意に白が視界を掠った。その先には包帯を巻かれた麗の手。
「…綺麗にまけているな、包帯」
利き手に巻くのは大変だっただろ…と麗の手を取る。
「あぁ、これは猫澤先輩がやってくれたんだ」
ぴたりと、自然と足が止まった。
………自分の体の正直さが嫌になる…。
「……猫澤先輩が?」
「ただのかすり傷やのに、たいそな気はするけどなぁ、包帯なんて」
真っ白な包帯を愛でるように見つめる麗に、
……面白くないな
と眉間に皺を寄せた。
「…………好きだ…。」
思わず口から飛び出た言葉
今、空を明るくする雷の閃光のように、気持ちはいきなり走り止まってはくれない。
「ん?なんか言ったか?」
雷の音で聞こえなかったと言う麗に少し驚く。
自分の気持ちを伝えることに精一杯だったのか、
はたまた、自分の世界に入っていたのかは知らないが…
外の雷鳴が自分の耳には届いていなかったらしい。
…だが今はだれに邪魔される心配もない。
言ってやるさ、何回でもな。
今まで言えなかった分も…
「好きだ、お前が」
麗との距離をさらに縮め、聞き逃したなんて言わせない。
包帯から離されたその目は、捉えるように俺を見つめてくる。
…まだ状況を理解出来ていないその顔を見るだけで思わず口元が緩んでしまう。
「え…?」
「今度はちゃんと聞こえたか?」
「え…ぅ、あぁ」
もっとその狼狽えた顔が見たい…
そう思い、顔に影を造る前髪に手を伸ばした。
「…ん、お前、額にも傷が?」
「あ?…あぁこれは、血ぃついているだけで傷はないんだ」
「そうか…よかった」
***
そうか…よかった
…そう言う鏡夜の顔があまりにも優しいそれで、思わず息を呑む。
好き…好き?
鏡夜が、俺を…?
口が感電したように痺れた感覚。
先の言葉をどう続けようとあぐねていると、ふと思い出す…今日の夕方のこと。
ハルヒが男たちに絡まれているのをみつけたあの瞬間。
いや…そのまえだ。
「弱みだけの話じゃない、お前のことならなんでも知りたいさ」
「俺はお前が」
急にグッと低くなった声。真剣な眼差し。
……近づく鏡夜の温度。
それらが一気に襲い掛かり、胸の奥底にあった濃くて熱いものが泡立つ。
次々と沸騰して弾けるそれは、暗い空を彩る打ち上げ花火にも似ている…。
「!!!」
思わず一歩後ろに引いてしまう。
心臓の音が異様に亢進し、自分ではどうにもできない。
まて、待て待て待て…
「お!」と、言葉を紡ごうとして出だしの音が裏返ってしまった。
恥ずかしくなり咳払いをして誤魔化し続ける。
「…お前は、ハルヒが好きなんじゃないのか?」
熱病にかかったみたいに熱い顔を悟られぬように顔を逸らす。
「俺が…?ハルヒを?なんのジョークだ」
「いや、その……よく面倒だって見てやってるし、さっきだってハルヒを思ってやったことなんだろ?」
あんな悪役みたいなこと、そう簡単にできることじゃない…。
ハルヒのことを強く思っているからこそできることじゃないか。
「だからてっきり」
「……何度だって言う、俺が好きなのはお前だ」
「ぅ…」
「信じられないか?」
「…あぁ、正直」
そんなすぐに受け入れられるはずないだろう。
…今は自分の頭の中を整理するだけでもいっぱいいっぱいなのに…
すると、耳に届いたのは小さなため息…。
聞き逃してしまうほどの小さな…。
なぜだが胸がざわついた。傷つけてしまっただろうか…?
ずっとそらしていた視線を鏡夜に向ける。
……だが、自分の目がその姿を捉えようとする前に、自分の頬に温かい手が触れる。
その手は言わずもがな鏡夜の手だ。俺の頬を親指が優しくなぞる。
…あぁ、やっと目があった。そう言われた気がした。
先ほどより近く感じる距離に、五月蝿かった心臓の音までもが聞こえなくなる。
……手だけじゃない、心地よい体温が鼻先からも伝わる。
いくら昼間は暑くとも夜は冷える。
………そして唇にも、それは降ってきた。
自分にとって、長く感じたそれはもしかしたら短い時間だったのかもしれない。
そう感じられるほど、俺から離れた鏡夜の顔は名残惜しそうだった。
……今のはなんだ…
そう思うが、鼓膜に溶けたリップ音が『それはキスだ』と主張する。
「ぇ…今」
「…別に返事が欲しいわけじゃない」
伝えておきたかっただけだ…そう言いながら親指が次になぞったのは
頬ではなく、唇だった。
不思議な痺れに…何も言えず、動くこともできない。
「あ、包帯は俺が巻き直すからな」
「え!なんで」
「他のやつに手当てされてるのがムカついたからな」
包帯を睨みながら少し拗ねたような表情に、思わずドキッとする。
「さて、その手当ても兼ねて明日のミーティングだ、食堂に行くぞ」
「え、あ…あぁ」
また歩き出す鏡夜は、いつもと変わらぬ様子で先ほどのは夢だったんじゃないかと思わせてくる。
……でも、そんな鏡夜に少し安心してしまうのは、心臓が動きすぎて疲労しているせいだろうか。
だんだんと遠くなる背中に、慌ててこちらも足を進ませれば「あ」と急に止まる。
「返事は求めていないが、意識はしてもらうからな」
覚悟しろよ、と言う鏡夜に
……前言撤回、どうやら夢では終わらせてくれないらしい。
また顔に熱が集中した。
その後合流した部員メンバーと共にハルヒと環を迎えに行くと、
部屋の中でハルヒに目隠しと耳栓をして楽しむ環の姿が見られ
環に『SMキング』というあだ名がついた。
海と太陽とホスト部
「ただいま」
「!……お帰りなさい!麗!」
桜蘭に着くと、待っていたのは可愛いわんこ。
車から降り、ソワソワとしている後ろ姿に声をかければ、勢いよくこちらを振り返る。
…まるで付いていない犬耳が立って見えるようだ。
「お土産持ってきたぞ、つっても拾った貝殻だけどな」
「麗が無事に帰ってきてくれればそれがお土産なのに…でも嬉しいありがと」
水で砂を洗い流し、気もち程度だが少し磨いた貝殻は、周りの光を受け輝きを放つほど綺麗になった。
貝殻を両手で恐る恐る転がすわんこに軽く笑い、帰ろうとしている一つの影に声をかける。
「ん、ハルヒも乗ってけ」
ハルヒの首元を掴むようにして捕まえると、遠慮が飛び出す前に背中を押す
「………いつもすみません」
「よしよし、それでいい」
車の扉の前まで来て、いつもと同じく申し訳なさそうに甘えてくるハルヒ。
後輩なんだから素直に甘えればいいいのに…
双子はもう少し遠慮して欲しいがな。
「頭、ぶつけないようにね」
「ありがとうございます」
「君も、お帰り」
「…!!えっと…」
「こう言うときは?」
なんて言うんだ?とハルヒに答えを促す
「えと…ただいま……?」
「ん、正解」
そう言いながら、指で空中に花丸を描いた。
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