10*海と太陽とホスト部
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「……よし、どや?痛みは」
「大丈夫です、ありがとうございます」
ハルヒの頬と額に傷テープを貼り終え一息つく
海辺とは違い、照明の下で見ると結構赤くなっていたので痛みの有無を問わずにはいられなかった。
「ええで、別に。そやけどほんまによかったん?医者に見せんで」
「はい、大した傷でもないので」
「そうは言うても…やっぱし女の子の顔やし、心配もすんで」
確かに痕には残らなそうだが心配は心配なのだ
処置を施した上から、傷にさわらぬよう優しく撫でる
「あの…麗先輩」
「ん?」
「やっぱり…その…」
ハルヒが何を言いたいのか、分かっている。
けれどそれはとても言いにくいこと
…だからこそ自分で言わせなければならない
そう思い、俺はただハルヒの言葉を待った
その様子に気づいたからか、まるで一語一語が口から出にくいみたいに口ごもりながら、ハルヒは話し出した。
「……自分の考えは…や、っぱり…間違い…なんでしょうか…」
多少語尾が消えかけたが、よく言えました。
と、はなまるを送ってやりたい
「そうやなぁ…俺はハルヒの考え方は素敵や思う」
「…ぇ」
「相手のこと第一に考えてすぐ行動する…カッコええやん?…そんなん、誰にでもできることやない…」
きっと、今日トラブルにあった彼女らからすれば、ハルヒは立派な男に見えただろう
いや、男でも安易にはできないことを女のハルヒがしたのだ
それは本当にすごいこと。
「……そう、ですよね」
「でもな?」
「…?」
「環の言うことも、ようわかる」
ハルヒの目がさらに大きく見開かれる
…と同時に伏せてしまった
「……」
言葉をかけようとして思い留まる
…これはハルヒ自身が気がつかなきゃいけないことだ
「…さ、そろそろ向こうに行こか」
ハルヒの頭を軽く撫で立ち上がると、顔を上げたハルヒと目と目が結び合う
「ん」と手を出すとおずおずとハルヒの手が乗っかってくる
「……麗先輩」
「なんや…?」
「…ありがとう、ございます」
何に対してのお礼だか、よくわからなかったが蒸し返すのも野暮だろう
「おう」と返事だけ返しておいた
「あ、ハルヒ…その服偉い似合うてんで」
早く見せに行こ、なんて手を引くとハルヒは花が咲くように次第に口元を綻ばせた
綺麗だった夕日も沈み外はすっかり雨模様
廊下の電気をつけようとするも灯りは一向に灯らない
「ん…?あら…こらブレーカー落ちてんなぁ」
***
ギャーーーーーー!!!!!と言う悲鳴が廊下に響き渡る
「え、何?猫澤家特有のBGMかなんか?」
いやそんなわけないでしょう…というハルヒに「やっぱりお化けとか怖くないんだなぁ」なんて、昼間の双子の話を思い出す
まぁ、俺も心霊系は見ないと信じない系なので同類なのだが
「あのぅ…ブレーカー落ちてましたけど」
何やら騒がしい客間の扉を開けると、やはり部活メンバーが揃っていた
「地下室にあったさかい上げといたで?ちゅうか、ここの地下室お化け屋敷やったわ」
面白ろかったな、ハルヒーなんて話をしていても、部活メンバーの耳には入っていない
それぞれの目は一箇所に集中している
「「ハルヒその服自前?」」
「父が…勝手に荷物詰め替えたらしくて、こういうのばっかり着せたがるんだよねぇ」
機能的ではないのに…とため息をつくハルヒ
何度かお目にかかっているハルヒ父を思い出し納得する。
こういうの、確かに好きそうだ。
「「グッジョブ!ハルヒ父!!」」
「ハルちゃんかわい〜♡」
「怪我はもう平気なのか?」
「あ…はい、麗先輩が丁寧に手当てしてくださって」
「顔に傷が残ったら大変やしな」
双子とハニー先輩がハルヒに笑顔を向ける中、鏡夜もまたハルヒに声をかける。
ハルヒは傷テープを軽く掻きながら麗をチラリと見る
その視線に気づいた麗は薄く笑いながらまたハルヒの頭を撫でた
「にしても裸足はないだろ」
「髪もちょっといじった方がいいな」
どうぞ?姫…なんて双子がハルヒに構いながら、環を揶揄う
環も、そんな双子のからかいに気づいたのだろう。「なっ!!」と言いながら歩み寄ってくる…だが
「あ、鼻血」
「うわーサイテームッツリー」
「やーらしーー」
ハルヒが指を差した方を見ると、言葉通り環の鼻から赤が流れていた
「ばっ!!誰がそんな捻くれ娘に鼻血など吹くか!!ぶつかったのだ!ちょっとお鼻をゴツッと」
「えいっ!」
その突如環の首目掛けてハニー先輩の手刀がゴツっと入った
それはもう…容赦なく……
「あれ〜?止まんないねぇ〜」
「それは間違った応急処置の代表例ですよ」
「あらら…今度は環の手当てかいな」
とりあえずティッシュだな、と…あたりを探す
お、あったあった…
環の鼻に詰められるようティッシュを丸めながら話に耳を傾けていると
「アレ、猫澤先輩は?」
「雷に打たれる程のショックを受けたので先に休まれるそうだ」
「え…猫澤先輩来とったん?」
猫澤先輩の家の別荘だと言うのに、本人に会うことがなかったからいないのかとばかり思っていたのに…
「さっき一緒に人生ゲームしてたの〜!」
「なんや…会いたかったなぁ」
「……」
唇を尖らせながら言うと、ハニー先輩は「よしよし」と頭を撫でてくれた
ちょっと照れながら丸めたティッシュを環に渡すと、他の部員に続いて自分も席についた。
「はーい、ハルちゃん大トロ〜〜♡」
たんとお食べー!とテーブルに並ぶのはハルヒ用に特注されたのであろう大トロ。
そして今日取れた海の幸の豪華な顔ぶれが並んでいる。
「よかったなーハルヒ」
「ハァ。では…」
返事自体は素っ気ないが、その顔は無邪気な喜色に溢れている。
用意してもらえてよかったな…なんて大トロの行方を見ていると
「いただきま…」
ハルヒが手を伸ばした瞬間に横から別の手が全ての大トロを攫っていく。
その大トロは全て環の口へ運ばれ、秒で胃袋に収められてしまった。
あまりの大人気なさに、部員の誰もが呆れてしまう。
「ハルちゃんカニもあるから!」
ハニー先輩の言葉にハルヒはカニに手を伸ばす。
「先輩、カニ…」
どうぞと渡すハルヒに苦笑い…だってそれ
「殻ですけど」
殻を渡された環は別のカニに手を伸ばすもハルヒのカニのハサミを使った見事な防戦になす術もない…
「…意外に子どもな事すんな ハルヒも…」
「庶民の食べ物の恨みは恐ろしいと聞くからな」
「…そやけど、火ぃつけたのは環やさかい自業自得ちゃうか?」
子どもって…、光がそれ言うか?とも思ったが、そう思ってもおかしくないほど子どもじみた攻防戦に苦笑いが溢れる。
「なんだお前はーー!!どこぞの双子か!!」
「口きかないんじゃなかったんですかーーー?」
確実に影響を受けてんな…ハルヒ
なんて思いながらも自分は食事をすすめる。
折角のご馳走は楽しまなくては
「どうやら反省する気はないらしいな…」
バン…と大きな音をたて立ち上がる環
ワナワナと震えているところを見ると、よほど怒りが溜まったらしい
「もういい!!俺は寝る!お前もとっとと寝ろ!!」とハルヒを指差し言うと出口の方にずんずんと歩き出す
「ではお部屋までご案内を…」
そうして開けられた扉の先は真っ暗
「どうぞ?」なんて言われても、足は進まないようだ
「……鏡夜…」
まだ寝ない?と子犬のような顔でこちらを見てくる部長に、さっきまでの威厳はどうしたと問うてやりたい。あれ、デジャブ?
「ハイハイ、じゃ俺もお先に」と環と同様に席を立つ鏡夜は、さながら子犬の飼い主のようだ
「麗、後で俺の部屋に来い」
「ん?あぁ、わかった」
去り際に、軽く落とされた言葉
明日の打ち合わせかなんかだろうか?と内容の予想を立てながら返事をすれば
バタン…と扉の向こうに二人の背中が消えた。
「あーあ、完全に意地張っちゃったよ」
「ハルヒお前カニ食べすぎ」
お腹壊すぞ、という光の言葉はハルヒの耳には届いていなかったようだ
「……やっぱり、空手とか習った方がいいのかな…」
「「なーんだ、気にしてんじゃん」」
カニを食べる手もようやく止まるハルヒに双子は呆れる
「そっちに行くわけね、お前の思考は」
「そりゃ別に止めないけどさ」
「「そーゆー事じゃないだろ」」
…やはり俺だけじゃない、双子や先輩方も…ハルヒ自信に気づいて欲しくて見守っていたんだなと感じた
「……怖いもの知らずも正義感強いのも、立派やけどな」
ぽん…とハルヒの頭に手を乗せる
「え?」
「正直、今日みたいな無茶は僕も反省して欲しいけどね」
「なんで?光たちには迷惑かけてないじゃん」
「違うよ?ハルちゃん」
“迷惑”なんて言葉は、俺らは全然感じてもいなかった。
それこそ微塵も…迷惑という言葉はハルヒにではなく、あの三人組の男たちに向けるのが正解なのだから。
「みんなにごめんしよ?ね?いい?たまちゃんにもいっぱい心配かけてごめんねってゆーんだよ?」
「心配…してたんですか、みんな…」
ふとハルヒがこちらを見る、その視線に応えるようにそっと微笑み返す
“迷惑”じゃない“心配”したんだ。やっと環と、部員たちの言いたいことも理解したらしい。
するとハルヒはみんなの方を向き直り
「…ごめんなさい」と本当に申し訳なさそうに…少し恥ずかしそうに呟いた
「もー!なにこの小動物!」
「可愛いから許す!」
今回ばかりはされるがままのハルヒ
こっちはひとまず大丈夫かな…と口を拭き席を立つ
「じゃ俺もそろそろ失礼すんで」
「「えー、行っちゃうのー?」」
「ハハ、ほどほどにしたれよ?」
双子の腕の中のハルヒを指差し言う
「あとハルヒ」
「はい?」
「テスト勉強だけじゃない、喧嘩の仕方も、いつでも教えたるで?」
そう言い残し食堂を後にする
そのあとハルヒがカニの食いすぎで大変になることを知るのはもう少し経ってから