10*海と太陽とホスト部
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「今夜のご飯はご馳走ですよ〜!」
自分でも手の届くところ全体に日焼け止めを塗り、シャツで顔の汗を拭っていると
あたりに幸せそうな声が響いた
なんだなんだと人が集まる中
その声の主はハルヒだったようで、ウサギ柄のバケツいっぱいに宝物が取れたのだろう
太陽よりも輝かしい笑顔を見せている
「どうだハルヒ!でっかいカニさんは好きかに?」
だがこちらはホスト部のキングとは思えない寒さのギャグを突っ込む環に笑みも出ない
いつもなら冷えた目を見せるハルヒだが、今日は幸せいっぱいだからか笑顔で「好き♡」と返していた。
恐るべし海の幸パワー
辺り一体が幸せオーラに包まれた最中
「可愛い…」とこぼした環の持つでっかいカニからにゅるりと出てきたのは
ムカデ
「「「「「「「きゃーーー!ムカデー!!!!」」」」」」」
それを見たお姫様たちは悲鳴を上げて環から離れていく
無論、お姫さんたちと一緒に逃げていく双子は腹を抱えて笑っていた
「ふぅん…どこからついてきたのかな」
悲鳴とは逆に冷静な声でムカデをわっしと掴むのは決して男子ではない、本来は女子であるハルヒだ
捕まえたムカデはポイッと岩場に放り投げる
小さな虫はどこに行ったかもわからなくなってしまった
触った手も嫌な顔をして拭くなんて事もしない、むしろケロッとしている
そんな勇敢(?)なハルヒの元に双子が近づいていく
「オマエさぁ…100歩譲って虫好きの心優しい少女だったとしてもさあ…」
「せめて草の上に放してやるとかないワケ?」
「大丈夫だよ…あのくらいじゃ死なないって」
ハルヒを囲むようにしてヒソヒソ話す双子に
何を言っているんだと言いたげなハルヒ
そんな中逃げた遠くから見ていた姫たちはハルヒにぞっこんである
「ハルヒくん男らしい…!」
「それに優しいのね…♡」
「素敵…♡」
今この場では、姫さんたちにはハルヒが王子様のように見えているであろう
そこでハルヒにとやかく言うのはあまりに軽薄だ…と察したのだろう
双子はハルヒからそっと離れ…隣に並んできた
「まぁいいけどさ」
「普通の女の子とはだいぶ反応が違うなぁ」
「まぁ、そのお陰さんで女子てバレへんでここまで来れてるんやけどなぁ?」
そう俺が言うと、「「……まぁね」」と渋々言葉にした
「アイツに怖いものはないのか…?」
だが、“ハルちゃんは断じて女の子“と常々口にしている環も双子と考えは一緒らしい
「「殿、面白いゲーム思いついたんだけど参加する?題して…」」
そしてまた、いつものように双子がこの場を引っ掻き回すのだ
純粋な部長を引き込んで
「「誰がハルヒの弱点を見つけられるでしょうかゲーーム」」
「なんて悪趣味な…」
「あー、ごめんごめん自信ないよね~?」
「弱点なんて親しくなきゃ見せてくんないだろーしー?」
煽り文句に誘い文句…こりゃあ環は乗るだろうな
そう思ったのも束の間
「ルールは!?」
「「そうこなくっちゃ!」」
「……まんまと遊ばれてんなぁ、環」
「期限は明日の夕方!」
「先にハルヒの弱点を見つけたほうが勝ち!」
光と馨が『よし、かかった!』とでも言いたげな顔でルールを高らかに宣言する
「勝った奴には俺から賞品を出してやろう」
そこに口を出したのは鏡夜
普段なら傍観者側を貫く鏡夜にしては珍しい…と驚く
そしてその鏡夜の手にある写真を見てさらに驚く
「賞品ってお前…それ…」
「僕らも混ざるーー!!」
「それでは全員参加ということで」
鏡夜の取り出した賞品はハルヒの中学時代の写真
髪が長い中学の頃のハルヒは、今とはまた別な可愛らしさがあり部員の目を光らせた
…だが、全員参加ではないからな?
「いや待て、俺は参加しいひんけど」
「ふふん、何?麗さん、自信ないの〜?」
「ハルヒに嫌われるのが怖いとか?」
「ちゃうわお馬鹿さん、悪趣味な遊びに付き合うてられへんだけや」
「「へーー?」」
俺は環みたいにそんなやすい煽りには乗らないからな…
自とり、と双子を睨みつけてからそっぽを向く
弱点を炙り出すなんて、そんなことしてたまるか
「というか鏡ちゃん、なんでその写真持ってるの?」
「とある筋から…とだけ申し上げておきましょうか」
ハルヒの代わりに言っておこう…
嫌な笑顔だ……
ーかくして、熱い(?)男のバトルが始まったのでありましたー
***
「光くん馨くんほんとにここに入るの〜?」
第一の罠【恐怖スポット】
「へーきへーき!地図によると猫ヶ岩の洞窟は一般道に通じてるんだってさ」
「まぁ、地元の人は滅多に通らないって話だけど…なんでもここの内壁には猫澤家に呪われた人々が葬られてあって…」
「夜ごと血塗れた骨だらけの手が通行人を壁の中に…」
きゃああ!!とお姫さんたちが悲鳴を上げる
すると後ろに誰かの気配…そして自分とハルヒの間を生暖かい風が通り抜けたその瞬間
ヒタ……と、細く白い手が…ハルヒの肩に………
しかし
「アレ?お前話聞いてた?」
「聞いてたけど…実際見ないと信じない方だし、どうせこんな事と思ったし…」
失敗
第二の罠【高所恐怖症実験】
「ハルちゃーん♡ほらほら!おめめにもあがれるんだよーー♡」
「へー高いですね」
落ちたら死にますかね、なんて洒落にならないことを言うハルヒに、俺自身は高所恐怖症ではないが少し鳥肌が立った
だがこれもまた失敗
その後も暗所恐怖症、先端恐怖症、閉所恐怖症などなど…試すもすべて失敗に終わった
「はームリ無理!!やってらんない!!!」
うんともすんとも言わないハルヒに双子たちはもう根をあげたらしい
「意外と早いリタイアだな」なんて、ブーブーと文句を言う双子と 虫を大量に集めている環を遠くから眺める
もういい時間帯だな…
赤く染まりかけている空を見上げていると隣に誰か並んだことを察し、話しかける
「なかなか苦戦しているみたいやな、環たち」
「あぁ、見ているこちらからしたら良い退屈しのぎだ」
並んできたのは鏡夜
やっぱり…なんて思いあたりを見回すと、どうやらこの辺りには俺たちだけらしい。少し肩の力を抜く
「ハルヒは顔にもすぐ出てまう正直者やさかい、弱みなんてすぐに見せる思うとったけど…案外怖いもの知らずなんやなぁ」
ちなみに、とある筋と関わりのある副部長様は、ハルヒの弱み…しってるん?
そう聞くも「いや、微塵も興味がないからな」と返される
「だろうな」なんて返し、誰が先に見つけるか予想を立てていると
「俺はお前のほうが気になるよ」
「………は?」
俺の?
思わず出てしまった間抜けな声が出た口を、ハッとして閉じる
「お前の弱み…いや弱っているところなんてみたことがないからな」
「……そら教えへんよ、鏡夜に弱み知られたらろくなことにならなそうや」
「そうか」
…意外とあっさり引き下がったもんだな、と拍子抜けしてしまう
今のはなんだったんだと思ってしまうぐらいに
「…それを言ったら、俺やって」
「ん、なんだ」
「俺だって、お前の弱み知らない」
そう鏡夜の方を見るとパチリと目が合う
普段はあまり見ることのない驚いた様子の鏡夜
「それは、俺のことが知りたい…ということか?」
「…は?」
「俺はそう解釈したが、訂正はあるか?」
訂正…ていせい……うーんと唸る
確かに知りたい気持ちはあるが、それがただ純粋な疑問かと聞かれればそうではない気がする
多分これは好奇心に近い
鏡夜の弱みはどんなものだろうというワクワク感と、その弱みは自分だけがしっているという優越感を得たいだけのように思う
いつか小説で読んだ“貴方のことが知りたい”という真っ直ぐで、どこか愛情が見え隠れするようなものではない…いや、ない筈なんだ。
「俺がお前のことを知りたいと思うのは…」
「……」
「ぅ……んん」
上手く言葉にならずに口籠る
そこでふと気づく、いつもならこんな質問、笑って返すじゃないか
適当に「なんとなく知りたいだけ」だとかなんとか言って切り抜けるのに
なんで今自分はこんなにも真剣に答えを出そうとしているのだろう
そう思い再度鏡夜の方をちらと伺う
…あぁ、コレのせいか
先ほどまで上がっていた頭の熱が冷めて冷静になる。
納得したからだ。
鏡夜が嫌に真っ直ぐな目でこちらを見ている
俺の答えを待っているんだ。
この真っ直ぐな視線に応えなければならないのだと、俺は無意識に思ったんだ。
…だからこそ、この答えは「なんとなく」で済ましたらいけない
鏡夜の中ではきっと、応えて欲しい回答があるんだとどこか気がついた
まぁそれは気がついたところで、どう答えればわからないのだけれど
「…」
「俺はお前のことが知りたい」
頭で理解するよりも早く、自分の目が僅かに見開いた
「え…まぁ、同じ部活仲間やしな」
「それもそうだが、お前は特別に…だ」
「特…べつ……」
「弱みだけの話じゃない、お前のことならなんでも知りたいさ」
今日はよく喋るな、お前…なんて頭に中では思うものの、それは声にならずに飲み込まれる
その代わり出るものと言ったら「ぅ…?」というなんとも言えない声
「………よく聞けよ」
今までよりもグッと低くなった声に、妙に緊張した。
こんな鏡夜、初めてだ
目が…鏡夜から離せないまま、距離がつまる
「俺はお前が」
「待て…アレって…」
ふと、鏡夜の後ろに広がる景色に違和感を覚える
よく目を凝らしそれが誰なのか理解すると頭より先に体が動き出した
「麗…!?」
「鏡夜っ!!ハルヒがっ!」
それだけ吐き出し、視線はそのままに駆け出した
岩場の上でハルヒとお姫さんたちが男らに絡まれているのだ
どうやら環たちにもお姫さんたちから知らせが行ったようだ、ハルヒの元に向かう背中が見えた
何か嫌な予感がする。
胸のモヤモヤを消すように、我武者羅に足を走らせた。