10*海と太陽とホスト部
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「綺麗ね…環くんと2人で海が見れるなんて夢みたい…」
「夢じゃないさ…だけど願わくば…」
波の音が耳に心地いい
太陽の光が照らすその下で、青がキラキラと反射する
「今夜あなたの夢に僕が現れますように…」
「環くん…♡」
恋を演出するにはいい環境設定であろうこの場で
桜蘭高校ホスト部は営業されている…
「わっ…!光ー手加減してよ〜!」
「悪い!!僕が行くよ!!」
白い砂浜でビーチボールを追いかけている双子と、その双子にときめく女生徒
「待てよ馨…!」
「僕じゃないよ…ボールが逃げるのさ…」
…だがボールの存在は虚しくもう忘れられてしまい、双子は今まさにボールを通り越していった
何故だ…
「ツーショットタイム終了です、次の方どうぞ」
その声の方を見れば、環先輩とのツーショットを撮るために長蛇の列が
…なぜ海に来てまでホスト部の活動を…?
大体行ってもいいとは言ったけどまさかこんなすぐに…
「ハルヒくん!」
「ハルヒくんは泳がないの?」
ハァ…と場に似合わない重いため息をしまい込み振り向く
すると自分をよく指名してくれる女の子たち
「はぁ、海は見てる方が好きなので…」
「じゃあ、私たちもご一緒してよろしいかしら?」
「どうして?泳いできなよ。折角可愛い水着を着てるのに」
普段は水着なんてあまり着ないだろう、水着の華やかさが彼女たちの楽しさを表している様に思えた
女の子たちはなぜだか頬を赤らめ、一向にこの場を離れる気配がない
…なんだろう、なんか変なことでも言ったかな?
***
「完全に騙されたよねー」
「まさか客までよんでるとは」
「本当計算外」
「客がいたらハルヒに水着は着せらんない」
お客の女子たちと話すハルヒを遠くから見、愚痴をこぼす双子
「すべては計算通り!誰が可愛い娘の水着姿などお前らの目に晒すものか!!」
「ゆうて環にも晒されてへんけどなー」
意気揚々と語る環に現実を突きつけると、
双子の飲んでいるジュースをパッと奪い取り一口二口いただく。
風が吹いているとはいえ、太陽の下にいれば暑く、喉も乾いてしまうのだ。
「うぐぅっっ!!そ、そして夕暮れになったら…ハルヒと2人きりで波打ち際をお散歩するのだ…」
そう言って脳内劇場を1人盛り上げ悦に浸る環
またいつものが始まった…と双子と気持ちが一致した
「環様、一体どうなさったのかしら…?」
「気にしないで?」「いつものビョーキだから」
気にかけるお客様にも気づかず妄想に浸っているようだ
あれはだめだ放っておこう
「てか、なんで麗さんもサマーシャツ着てんのさー!」
「一緒に泳ごうよ!!」
「あー…鏡夜に日焼け止めをもらいに行こうとしとったんよ」
「日焼け止め?」「鏡夜先輩のとこの?」
両側に双子が引っ付いてくる
今まさにシャツを剥ぎ取ろうとする双子
ヤバいと警告を鳴らした頭は即座に嘘をでっち上げた
…いや、あながち間違いではない
日焼け止めをまだ塗っていないことは本当だ
今日は足りるぐらいは残っているが、残り少ないのも本当
いける、切り抜けられる
「あぁ、あれが一番肌にあうんや、痛くならへんし」
「まぁ…!!鏡夜様のお家の日焼け止めをお使いに?」
「細かなお手入れが麗様のこの白い肌の秘訣ですのね…!」
「私たちにも麗様愛用の日焼け止めを教えてくださらないかしら…?」
するりと双子から身を守るように逃げながらお姫さんたちと話す
「ん、ほな鏡夜に聞いてみんで。きっとええ返事をしてくれる思いますえ?」
やった♡と無邪気に喜ぶ彼女らに自然と笑顔が出る
いい宣伝になれただろうかと、こちらも少し気分がいい
「じゃあ、その日焼け止めを塗るのは」
「僕らの役目だよね…??」
不意に撫でられる腕
サマーシャツは薄いから、指先からの小さな体温でもすぐに伝わってくる
くすぐったさでピクリと小さく反応したそれも2人に伝わってそうで少し焦る
「……ん、…ダメ」
軽く、あくまでも静止をかけるように密着していた2人の胸に手を当てる
「?」
「麗…さん…?」
「2人とも、すーぐいけずするさかい…ダメやで?」
軽く開いた前の襟元を閉じるようにキュッ…と雑に掴み、その場から逃げるように去る
背を向ける直前に薄く微笑めば、驚いた顔の双子はうっすらとその頬をピンクに染めた
……まぁそれで喜ぶのはお客さん方だが
少し離れてもお客さんの黄色い声が聞こえ続けているということは、うまくツボにハマったらしい
よかったよかった
足早に逃げながら目的の相手を探す
確か、さっきは環のツーショットタイムの記録をつけていたと思ったのだが
「麗、こっちだ」
「……なんで鏡夜を探してるってわかったん…」
「なんでも何も、日焼け止め、そろそろ切れる頃だろ」
後ろからかけられた声に振り向けば探していた相手
なんだか腑に落ちないまま渡されたのは見慣れた愛用の日焼け止め
「あぁ、助かる」
そういや、お嬢さんたちもこん日焼け止め欲しいいうてたで?と伝える
「ちょうどええ機会やさかい、声をかけてやりなはれな」
じゃあ、と軽く手をあげ背を向けようとすると
「塗ってやろうか?」
「…………」
「自分で塗れるっていうなら別に構わんが」
塗り残しで後悔するのは後の自分だぞ?と口元に笑みを浮かべる鏡夜
もう俺の答えが決まってるようなその表情に、少しイラッとした
「いや、鏡夜にも頼めへんわ」
「……“にも”?」
「双子と一緒でいけずしそうやし」
「…………」
とりあえず日焼け止めサンキュ、とだけ残しその場をそそくさと離れた
無言の魔王怖い
その怖さを取り払うように、こちらに声をかけてくるお姫さんたちに笑顔で手を振りながら浜を歩く
白い砂がついた足を打ち寄せる波で洗い流し、目に見えた貝殻を拾い掌で遊んでいくと、楽しそうな声が聞こえた
その声に誘われるように大きな岩の向こうを覗くと
潮干狩りというなの宝探し(海の幸ver)をしているハニー先輩とハルヒがいた
「……こら、どないなこっちゃ」
ウニやアワビ、蟹に囲まれる2人は俺の存在に気づかないまま浜をザックザックと掘っていく
清々しい堀っぷりを見つめていると隣にモリ先輩が並ぶ
どうやらこれは鏡夜のプライベートポリスからのお詫びなのだとか…
「へぇ……」
「麗は、泳がないのか?」
「え、あぁ俺は……あ!モリ先輩、ひとつだけお願いええどす?」
首を傾げるモリ先輩に日焼け止めのボトルを見せ、背中だけでいいんで…というと
先輩は快く(のように見えた)承諾してくれた
「おおきに」と言いながらシャツを脱ぎ背中を向ける
なんだか慣れない行為に少し胸がむず痒くなる
「…ん、ぅ…」
「…!すまない」
思ったよりひんやりした温度に変な声が出てしまった
おもわず手で口を覆い、先輩に言い訳をしてしまう
「いえ、思うとったより日焼け止めが冷たかっただけどす」
今のは忘れてください…と小声で伝えると
一度離れた大きな手がまた背中を滑っていくのがわかった
今度は適度に暖まったお陰で安心してその手を受け入れることができた
「モリ先輩の手ぇ、大きいさかい…助かるわ」
塗り残しがないというのがはっきりとわかる
おおきにどした、と振り向き様に声をかけると優しい視線とぶつかった
「またいつでも塗ってやる」
いつもと変わらず短い文章で帰ってきた言葉だけれど、心地よい温かみを感じた。
……それと同時に何故か照れてしまった