9*鳳プールSOS
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「っは…!ハニー先輩っ!大丈夫ですか…!?」
「っけほ、…ん、うん!大丈夫だよ〜」
やっとの思いで水面上に顔を出す
ハニー先輩とは、互いに手を握りあっていたおかげで離れることはなかった。
…この小さい体のどこにそんな力がと思うほど、ハニー先輩の手は力強かった。
「…レーちゃん、ありがとうね」
「へ?…なんでです?」
「波に飲まれそうな時、庇って、抱きしめてくれたでしょ?」
「あ、あぁ…いや、体が勝手に…」
少々照れ臭くなって頬をかく。
正直、ハニー先輩が本当にお強い方なのは知っているし、理解はしているつもりだが
…やはり小柄な体を見ると、ついつい庇ってやりたくなってしまうのだ。
「ふふふ〜!レーちゃんカッコ良かった〜♡」
「んなっ!そんなこと、それをいったらハニー先輩だって…」
いつまでも繋いだままの手を目の前に出す
「…ずっと繋いでてくれて、ありがとうございました…心強かったです」
2人で安堵の微笑を溢す
すると水の流れが緩やかになってきた
「行き止まり…」
「ゴールみたいだねぇ」
みんなを探しに行こうか、というハニー先輩の言葉に頷く
プールから上がると僅かに肌寒く感じ小さく震えた
「…寒い?大丈夫?レーちゃん」
優しく頬を包まれる
ハニー先輩の方が背が低いため、少々屈む形になったが苦ではない
むしろその手の暖かさに身を委ねてしまう
「ん、大丈…ぶ………」
そして落とされる鼻へのキス
「やっぱり冷たいね」
「ハニー、先輩…?」
なにが起きたのか、それを理解すると同時に顔に熱が集中してくる
え?え??えぇえ??
「…ふふ、あったかくなった」
「っ!……も、ハニー先輩…!!」
「レーちゃんかわいー♡」
言いながらまた手を繋がれる
心地よい温もりの手に、怒りたくても怒れなくなってしまった
「…!、ハニー先輩」
「ん?何〜?レーちゃん…っっ!」
俺の手を引き、前を歩くハニー先輩を呼び止めると、可愛らしくこちらを振り返るハニー先輩
その先輩の頬に、わざと可愛らしい音をたてキスをした。
「お返しです」そういうと、ハニー先輩は大きな目をパチクリとさせ、次にはにっこりと笑みを浮かべた
「へへ!次のお昼寝からレーちゃんには、そうやって起こしてもらおうかな〜」
「…俺のキスで良ければ、ええですよ」
***
《緊急出動発令!緊急出動発令!!鏡夜様の御友人が流水プール付近より行方不明
詳細は不明!何らかの事件に巻き込まれた恐れあり!》
アクアガーデン内とは全く別な雰囲気を纏う鳳アクアガーデン司令本部では騒がしい警告音とともに出動要請がかかる
《捜索ターゲットは「小柄な少年」!!
不審人物は容赦なく捕獲せよ!!》
プライベートポリスたちは武装をし、即座にアクアガーデン内へと続く…そして
「そこの男!その少年を放しなさい!さもなくば、実力行使にでる!!」
「ハ!?ちょっと…?」
草むらから急に出てきたと思ったら、物騒な銃を向ける男たちにハルヒは戸惑う
「もう大丈夫だ!!早くこっちに!!」
「ちょ、ちょっと!!うわっ!」
男達がハルヒの腕を強引に引っ張った時
「ぐぁ…っ…!!」
モリは力強く抵抗する
きっと頭の中は困惑の色でいっぱいだろうが、それよりも先ず身の安全の確保だと自然に体が動いたようだった
「こ、この男抵抗するぞ!威嚇射撃用意!」
1人の男がそう言うと、その場にある銃口全てがこちらに向かう
ハルヒの背を刺すような顫動が駆け抜けた
「崇!ハルちゃん!どいてぇ!」
「アーアアー!」なんて、テレビの中でしか聞くとのなかったターザンの掛け声と共に飛んで、目の前の人を蹴り飛ばしたのは
ハニー先輩…?
「な!?何をするこのチビ…!!構わんこいつも!」
急に現れた“小柄な少年”
だが同じ仲間を蹴られたことで頭に血が上ったのか、掴みかかってくる1人
フッ…と、一瞬ハニー先輩が微笑んだ気がした
だがその笑みを確認しようと目を見開いた頃にはダァン…!!と言う大きい音とともに大柄な男を背負投するハニー先輩
なんなんだ…なにが起こっているんだ…?
と思い目前に広がる情景を理解しようと努めていると
「モリ先輩!伏せて!」
その声と同時にモリ先輩がしゃがむ
自分を抱えたままだと言うのに、軽々しく動くその姿に驚きが止まらない
「ガハッ……!!」
「麗先輩…!?」
「武器も持たへん一般人に銃口向けるなんて…阿呆もほどほどにしいや」
きっと後ろからこちらを狙っていたのだろう男の首を蹴り技で倒す麗先輩
麗は銛先輩に抱えられているハルヒを見て「なにそれ楽しそう」と笑った
「…レーちゃん、待っててって言ったのに」
「いえ…早う終わらせましょ、数増えても面倒どす」
背中を合わせ話す2人はきっとテレビの中のヒーローが出てきたんじゃないかと思うくらいカッコよかった
ハニー先輩は背負投を
麗先輩は蹴りを中心に様々な技を繰り出していく
途中で増員しても御構い無しだ、そう思えるほど
「瞬殺…」
「大丈夫やハルヒ、殺してへん」
「もー、無茶なことしないのっ!僕の仲間をいじめたら”めっ“だよ!」
“めっ”だなんて可愛らしいお叱りに似つかわしくない屍の山にハルヒは冷や汗が止まらない
「ハルヒ、モリ先輩から降りるときこいつら踏まへんように気ぃ付けろや」
麗先輩にいい笑顔で手を差し出される
…いや、別に気を付けなくても踏みませんよ人なんて
でもその手はありがたく使わせて貰い、モリ先輩の腕の中から降りる
「ハルヒ!!無事か!?」
「あ、たまちゃん!」
ちょうどその時、騒がしさに気がついたのかこちらにかけてくる部活メンバー
「あれ?ハニー先輩と麗さん?」
「ハルヒー!心配したぞ…」
環はもうハルヒしか見えていないようで、近くにやってきたと思ったら、嫌にいい声でハルヒを抱きしめる
環先輩にはこの周りの人たちが見えていないんだろうかとハルヒは独りごちた。
「なんかわかんないけど、大丈夫みたいだね」
「だって…これハニー先輩がやったんだろ?なら手加減してるって」
倒れてるポリスの人たちをつつきながら話す双子
「え、それどうゆう事ですか?」
「あれ?」
「お前知らないの?埴之塚って言ったら代々武道の名門じゃんか!警察とか自衛隊だけじゃなく、海外の軍隊とかにも指導してんだぞ?」
「特にハニー先輩は埴之塚始まって以来の猛者と言われ、既に中等部の時に空手と柔道で全国制覇しておられる」
鏡夜がいつものトーンで説明する
だがその内容はあまりに濃ゆいものだった
「ちなみに銛先輩も中等部の時、剣道で全国制覇しておられる」
そして追い討ちをかけるように環も続きもう頭がパンク状態だ
「ハニー先輩たち!なんでここにいんの?」
「あのね?流れるプールのゴールについたから、みんなを探してたの~!ね!レーちゃん!」
「はい!」
ハニー先輩の言葉に、可愛らしい笑みを浮かべ返事をする麗先輩
なんだかこれまで以上に仲良くなった雰囲気の先輩方を見て、首を傾げる
すると
「失礼をいたしました!自分は石塚道場の二代目です!!」
「自分は!轟道場の門下生です!!!」
「大竹道場のものです!お世話になっております!!」
「あぁ、そうなの~?」
別に気にも止めていないハニー先輩にそのうちの一人が語った
「はは!恐れいります!まさか、埴之塚光邦様とはついお知らず!大変な失礼をしました!
しかし、偶然とはいえ光邦様にお手合わせいただいたこの日は!我が道場末代までの誇りであります!!!」
気づけば倒れていた男たち全てがハニー先輩に土下座をしているではないか
もうその視覚的な情報だけでもディープ…
…ディープだ、あまりにもディープすぎる…
「ふふ、ハニー先輩カッコよかったなぁ」
それを眺めながら隣に麗先輩が並んでそう微笑みかけてくる
「麗先輩も凄かったですよ…何かやってるんですか?」
「んー、合気道とキックボクシングやな…合気道は無理やり教えられたようなもんやけど」
「……大会とか」
「ははっ!大会なんてでてへんて!力比べなんて殴り合いの喧嘩で十分やさかい」
……なんか今、さらっと物騒な言葉が聞こえた気がした
「出口までおんぶーー!」
「なんか全然遊んでないー」
「やっぱ放課後来んのがダメなんじゃない?」
一悶着の片付けを終えたのか、もう今日はお開きのようだ
「今度は気分直しに海行こうぜ!」
「いいね海」
「バーカ、ハルヒはそーゆーの興味ないって…」
もう次の話をする双子の言葉にふむ…と考えてしまう
「海なら行ってもいいかも」
そう溢してしまった
「…ハルヒ、海好きなん?」
「こういうあからさまな人工物はしらけるんですけど、海はいいですよね、綺麗だし」
麗先輩が意外だとでも言うような顔を向けてくる
その顔に言葉を返していると
「よぉしわかった!次は海だ!」
意気揚々と、高らかに環先輩が何かを宣言していた
***
あの空は本当に作りものだったんだな…
そう思うほど、アクアガーデンの外は真っ暗だった。
星も見え始めている…
これから帰って…ご飯を作って洗濯して…
勉強する時間はどのくらい取れるのだろうか
頭の中で時計の針を動かしていると
「… もう真っ暗やな、そないな長い時間あの中におったのか…?」
「そうみたいですね…」
麗先輩も疲れ切った顔で空を眺めていた
「よし…ハルヒはうちの車に乗っていくこと、ええな?」
頭に優しく手が乗せられたと同時に、それよりも優しい言葉が降ってきた。
「えっ…でも」
「結局部活帰りとおんなじ時間になってもうたし…迎えの車も着いてるみたいなんや」
いつでも乗っていけと言われたものの、そんな頻繁にお願いしては…と、日本人ならではの遠慮癖が出てしまう。
「…実は後輩乗せるってもう言うてある」
「えっ」
「うちの婆さんが作った晩ご飯のお裾分け持たされたみたいなんやけど…もろうてくれへん?」
「……いただきます」
携帯をいじりながら会話を進めていく麗先輩。きっとメールの内容を確認しているのだろう。
これ以上断ることもできないな、と、お言葉に甘えることにする。
すると、携帯の画面からパッと顔を上げ「おう!」と微笑む麗先輩に胸が暖かくなった。
鳳プールSOS
「………え、旅行…?」
「あぁ、部の奴らと海行ってくるわ」
麗先輩の車の中
運転席にはいつもの御付きの人
もうこの人とも慣れたもので、車に乗る時は「頭ぶつけないようにね」ぐらいの会話をしてくれるようになった
でもこんなに慌てているのは初めてだ
「え、あ…でも、そんな急に…??」
「急にちゃう、行くこと決まったってだけや、行くのんはまだ先やろ」
「俺にとっては急だ…準備ができてない」
鏡越しにチラチラと麗先輩の様子を伺うその人
すごい動揺っぷりにこちらまでも麗先輩の方を伺ってしまう
「……なんの準備なん」
「麗と離れる心の準備」
「今生の別れでもないのに、大袈裟な」
哀愁漂う運転席の背中など目にも入れず麗先輩はずっと外の景色を眺めている
…なんだか可哀想になってきてしまった
「ハルヒからもなんか言ってやってくれ」
「え“……いやぁ…」
その無茶振りには大変困ったけど、もらったおかずは大変美味しくて感動しました。