7*双子、ケンカする
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「だからさぁ?退屈な人生を楽しく過ごすには」
「刺激的なおもちゃが必要なんだよ」
「自分はおもちゃじゃない!」
あぁ…また始まった
そう麗は思った
最近事あるごとに見かける光景
双子がハルヒを『おもちゃ』といじり、遊ぶのだ
…まぁ、それもいじめと比べれば可愛いものだし、何よりハルヒがしっかり受け流せているので特に気にしてはいないのだが
何より止めに入ると「「贔屓だー!」」と
うるさくなるのは目に見えている…
今回も大丈夫そうだと踵を返そうとすると
「おもちゃ」
ふと聞こえた低い声
自分だけではなく、他のメンバーにも聞こえたらしい
皆の視線が扉の方に集まる
「玩具…おもちゃが好きならぜひ我が部、黒魔術部へ…」
声の方を見ると、扉から顔を覗かせている、なんか…黒い人…
「世界の古魔道具市開催中〜ミサも常時やってますぅ〜」
おいでおいでと言うように手元にいる猫(?)が動く
…いや、それより…あの扉の向こうはなぜあんなにも暗いのかが嫌に気になって仕方がない
「今ならもれなく素敵な呪い人形、ベルゼネフをプレゼント〜」
「…なんであんな隙間から…」
「猫澤先輩は明るいところがお嫌いだからな」
いやそれにしても限度があるだろう…と思うが苦手なものは人それぞれだと思い、言葉を飲み込むハルヒ
「あの人に関わってはいけない…関われば必ず呪われる…」
「何か、根拠でも…?」
急に背後から現れる環にハルヒが驚く
環の顔色はひどく青ざめている
「そう、あれは昨年度末の試験の時だ…
あぁ…口にするのも恐ろしいが…
俺が誤ってベルゼネフを踏んでしまったあの日…」
話出しでもうわかってしまう
またあの話か…
そう思うほど、自分はその話を何回も聞いているのだ
ベルゼネフ、ベルゼネフと繰り返す環の言葉に、実物を見ようじゃないかと、猫澤先輩の手元にいるベルゼネフを見つめる
…どう見ても、そんなに怖く見えないんだよなぁ
そう思い猫澤先輩の元へと距離を詰める麗
「ぅヒッ…!!」
「すんまへんね、この子が環に踏まれたベルゼネフちゃん?」
急に距離を詰めすぎたせいか、悲鳴(?)を上げられた
…むむ、ちょっと切ない
「ぇ…あ、はい…そうですが…」
「ふ〜ん…この猫ちゃん可愛らしいおすね、呪いとかかけなさそう…」
指先でいじる…あ、パペットタイプなのか…
ほんのりと暖かいのはきっと、猫澤先輩本人の体温なのだろう
ベルゼネフと握手をしてみる
「っ…!!」
「ハハ…かわい」
「そんなことは…!この呪い人形ベルゼネフの力は本物です…」
呪いの力を疑った訳ではないのだが
そう力説されると少し引いてしまう
それは決して自分だけではないようだ
「この人形の背中に嫌いな人間の名前を刻めば、その相手は必ず不幸になるのです」
ひぃい…!!と叫ぶ環の声が背後から聞こえる
「へぇー…やて、こないな可愛いらしい子に嫌いな奴ん名刻むんも、なんかかわいそうおすなぁ」
「か、かわ…?」
「えぇ…やっぱり、かいらし…い…」
猫澤先輩が麗が持っているベルゼネフを覗き込むと同時に、麗も不意に顔を上げた
その瞬間、2人の時間が止まる
それに疑問を持ったのはホスト部員らで
「え…麗…?」
動かなくなった麗に恐る恐る声をかけたのは環
もしや呪いに…!!麗ーーー!!!などと声を荒げている
しかし、もちろん呪いになどかかった訳ではない
驚いているのだ
何に、と問われると
「は、ハハッ…!なんや、先輩…綺麗なお顔してはるなぁ」
猫澤先輩の顔である
…こん前髪でよく見えへんのが残念やわ
と、前髪をサラリと指で撫で、避ける
あ…
「ようやっと、目が合いましたね…なんか嬉しいわ」
黒い前髪に隠れた瞳を見つけた途端
視線が交わる…
何故か嬉しくなり素直にそう告げると
「ま」
「…ま?」
「眩しいっっ…!!!」
「うわっ…!!」
急に肩を掴まれ距離を取るように離される
よほど嫌だったのか、肩で息をする猫澤先輩
自分の方にはまだ猫澤先輩の手がのっているのだが、小さく震えている
「なんか…すんまへん…?そこまで明るいの苦手だなんて」
「……き、君は…、眩し、い…」
「なんて?」
いまだに下を向きぶつぶつと喋る先輩の言葉は
全く耳に届かない
聞き返そうと近寄ろうとすると「眩しいんだッッ!!」と大声を上げ、さらに肩を固定された
「…ちょっと慣れ慣れしすぎましたね」
すんまへん…と再度謝る
と、「あ…ぇ…いや…」とまたぶつくさと口を動かす
「ほんとにいろんな意味で暗いなこの人」
「眩しいのが嫌いって…このくらいならどう?」
後ろからそんな声が聞こえ、振り向くと
ニヤケ顔の双子が何かを手にしていた…
「ギャァアーーー!!!!!人殺しィーー!!!!」
それを当てるや否や、猫澤先輩は凄まじい悲鳴を残し部室を出て行った
え…懐中、電灯…で…?
そう、双子たちが手にしていたのは懐中電灯
しかも片手で持てる小型サイズだ
「光!馨!!なんてことを…!お前らは黒魔術の真の恐怖がわかっていない…!…って」
「あーあ、つまんなーい」
「なんか面白いことないかなぁー」
出て行った猫澤先輩を見、ワナワナと震える環
しかしそんな環に見向きもせずに話を流す双子
「無視されてる…部長の威厳が…」
余程ショックなのか、環も部室の隅で膝を抱える
本当に…今部活中でお姫さん方がいると言うことを理解しているのかこいつらは…と、内心毒吐く
しょうがないなぁ…と環の方に向かおうとすると
パコ…と何かで頭を叩かれた
材質と音からしてもうわかる…鏡夜のファイルである
「…何?」
「それはこっちのセリフだ…勝手なことばかりして」
「勝手なことって…別にええやないか、先輩と仲良うなることくらい」
「…お前があそこまではしゃぐのは初めて見た」
「ん…?そう?」
思い返す…んん…確かにそうだったかもしれない
「口説いているようだったぞ」
「…ふふ、鏡夜とおんなじや、綺麗なもんには惹かれる」
ただそれだけだ、と微笑む
それにベルゼネフが案外可愛かったのだ
呪いようではなくても1つ買ってしまおうか…
飾るだけでも良いのだろうか…
「ベルゼネフ、買っても良いが部室に持ち込むなよ…環が怖がる」
「分かってますって、お母はん」
そう言い、口元に手を持って行きクスクスと笑う麗
「…お前は、そんな設定にいつも逃げる」
不意に、口元に当てていた手を鏡夜に取られる
「鏡、夜…?」
「俺は“お母さん”ほど、優しくはないぞ」
顔をずいっ…と近づけられる
距離を取ろうとしたが、いつの間にか腰を捕まえられていて、身動きが取れない
「ど、ないしはったん…?いつもの鏡夜ではおまへんみたいやなぁ」
「嫉妬した、と言ったら…どうする?」
小声ながらも、しっかりと耳に届いた言葉
どんどん近づいていく顔
…そして、周りに響くお客様の黄色い声
「…案外、家族設定も使いようやね」
「……そうだな」
ヒソヒソ声で話す
その姿でさえお客さんには興奮材料になっているようだ
環や双子のフォローなのだろうか、と考え
さすが副部長様…と笑みが溢れた
「「じゃあこうしようよ、どっちが光くんでしょうかゲームで当てられなかったら、罰として家に遊びに行く」」
鏡夜から離れ、衣服を整えていると
そんな会話が聞こえた
鏡夜と顔を見合わせ、その方向を見る
「「はーい、どっちが光くんでしょうか」」
先程姫さん達にやっていたゲームの矛先は、どうやらハルヒに向いたらしい
「こっちが馨で、こっちが光」
即答するハルヒに驚く
…いや、驚くのはその答えの方か
見事に的中していた。しかも迷いもなく
「「ブブー!はずれでーす!」」
「はずれてないよ、よく似てるけど、やっぱり違う」
当たり前のように嘘をつく双子だが、それに微笑み間違いはないと断言するハルヒ
その言葉に双子は僅かながらに目を見開いた
「ねぇねぇ、ハルヒくん!髪型の右分けと左分けを隠されると、光くんと馨くんの違いって全然わからなくなっちゃうんだけど」
「どうやって見分けたの?」
正解したことがわかり、姫さん達に囲まれるハルヒ
…確かに、自分も興味がある
そう思い耳をすます…と
「はぁ…そうですね…、強いて言えば
光の言動の方が、馨より1割マシ、性格悪いですよ」
この瞬間部室内の空気が固まった気がした
「ぷっ…ふふ…ごめ…光…!!」
その空気を壊したのは馨。
吹き出し、堪えていたかと思ったら盛大に笑い出した
それに光が嫌に硬い言葉を飛ばす
「ま、僕は包み隠さないだけで、そこ意地悪いのは馨の方だけどね」
「…適当言わないでよ光の我が儘な遊びに付き合ってんのは僕だろ」
急に険悪な雰囲気が出来上がる
先ほどまでの楽しそうな顔は何処へ…
2人は さもつまらないといった表情だ
「言い出しっぺは僕でも掘り下げんの馨じゃん、イヤなら止めろよバカかお前」
「あまりに光がバカでみてられないからだろ
大体おもちゃとか言いつつさぁ…なんだかんだですぐちょっかいだすし…」
口論はだんだんとヒートアップし、座っていられなくなったのか、立って口論し出す羽目に
…殴る蹴るとかの暴力沙汰だけはやめてくれよ
と、口には出さずに念じる
「光ってさぁ、本当はハルヒのこと好きなんじゃないの?」
「何ィ!?」
「ハァ!?何勘違いしてんだよ、やっぱバカだな馨は」
「そうだぞ馨!世の中には言っていいことと悪いことが…!」
暴力沙汰だけは、といったが
まさかこんな話の方向に行くとも思っていなかった…
なんだか肩透かしを受けた気分だ
「大体なんで僕がハルヒみたいな豆ダヌキを」
「ハルヒを豆ダヌキ呼ばわりするとは…何事だーー!!」
「…なんや、環がうざったらしいなぁ」
おい、落ち着けよお前ら、そう声をかけながら忙しい奴らに近づく
「光、馨…ケンカするのは別にかまへんけど、お客様の前だって言うことを忘れておらんか?」
「…っ!だって!麗さん!」
「でーたよ、馨はすぐ麗さん麗さんって…あ、馨こそ、麗さんのこと好きなんだろ?」
止めに入ると馨が真っ先に抗議に入る
しかし、それを面白くないとでも思ったのか、光がまた毒を吐く
…おいおい、やめてくれよ
「何ィ!!?」
「ハァ!?勝手なこと言わないでよ」
「いや本当、勝手に巻き込むなよ」
案の定、ヒートアップはさらに進み
止められないまま
「尻尾振ってんの見え見えなんだよ!」
「光だって、事あるごとに麗さんに突っかかるだろ…!?」
「な…!光、馨!!そうなの、がぁっ…!?」
「お前はうるさい」
とりあえず止められるものだけは止めておこうと、環の頭に拳骨を落としておく
お前が関わると余計ややこしくなるから大人しくしていなさい。
「素敵…!素敵ですわ…!!
ハルヒくんと麗様をめぐっての美しくも切ない五角関係!?しかも内2人は双子という泥沼的展開!!
れんげ、ご飯3杯はいけますわ!!」
「「オタクはひっこめ」」
ひどいですわ〜!!マネージャーに向かって!
急に出てきたホスト部マネージャー(?)にも止められないこの喧嘩騒ぎ
…まぁ、オタク論で止められないのは分かっているが
「いい加減にしろよ!
人のベッドにいつも入ってきやがって!いい迷惑だ!」
「光が寂しそうだから、仕方なく添い寝してやってんだろ、このバカ!!」
「何がバカだよ!僕よか数学弱いくせに!」
「よく言うよ!光こそ、もっと語学勉強した方が良いかもね!」
しかし、こんな口論でも
家での双子の様子が知れると言うのはお姫さん方にとっては嬉しいことなのか
周りの声が黄色く感じてきた
抜かりがないことに、しっかりと鏡夜はノートにメモを取っている
「歯軋りうるさいくせに!」
「寝相が悪くてベッド落ちてんの誰だよ!」
「エロガッパ!」「変態!」
「「お前の母さん厚化粧!!」」
散々悪口が飛び交う
それはお互いに言ってお互いに帰ってくるものがあるぞ…と部活メンバーが思っていたその時
「「絶交だッッ!!!」」
〜結果論〜
暇→機嫌最低 のち 絶交。
ため息をついたのは、きっと自分だけではない