5*女子マネージャー襲来
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「麗さん…!」
馨と話していると、背中から声をかけられ、振り返る…
「ハルヒ?」
声の持ち主はハルヒ、先ほどの雨のシーンで濡れたからか、片手にはタオルが掴まれている
「…ズボン持って…着替えるんですか?」
ハルヒが落とした視線を辿ると、自分の手元
馨から借りた長ズボンである
「……いや、次の出番まで履いてようかと…」
思っていたんだが…そう言い続けると、ハルヒは少し申し訳なさそうに
「あー…すいません、れんげちゃんが自分と麗先輩を呼んでて…」
…やっぱりか
「はぁ…」
「……麗先輩、ガンバ」
隠そうともせず、本能のままに出たため息に
馨がエールを送ってくれる
「おおきに…馨」
そう苦笑いを残し、ハルヒについていった
***
「今こちらの方々に特別出演をお願いしてましたの♡」
説明してあげてくださらない?
れんげ嬢のもとに向かうと、唐突にそんなことを言われた
はぁ…?誰に
そう視線を彼女の後ろに向けると
「出演?」
「何のことだ?」
D組の連中…
1人は1年だろう、そしてもう1人は
「あ”?なんか用か特待生…と、女?」
「いや、男子制服着てんだろ…って、スカート……早乙女…!?」
2年…D組なのだから、もちろん同じクラスだ
…茶色く染め、傷んだ髪がトレンドマークのこいつは
「え、先輩、あいつと知り合いっすか?」
1年が嫌にキラキラした目を向けてくる
「や…え、待てよ、何でお前…そんな“っ!っつ…!」
こちらを指差し、目を見開き、わなわなと震えるそいつの襟を掴み、思いっきり自分の方に引き寄せる
「……………宇佐ぁ……」
「ヒッ…!!」
「言ったら殺す、言うなら殺す、今ここで殺す…!!!」
今自分がどんな顔をしているかは知らないが、目の前の宇佐は顔を青くしているのが見えれば、想像するのは容易い
「い、いや、待てよ!!怖えぇよ…!!」
「うっわ…近くで見ると余計綺麗っすね…!先輩の友達ってことは…2年生ですか?」
足もめっちゃ綺麗ですね!お姉さん!!
…空気の読めない1年が、こちらの顔を覗き込み、そんなことを言ってくる
……はぁ?
無意識に、掴んでいる手に力が入っていく
「う“っ…ごふっ…!ぅ、おいやめろ!それ以上何も言うんじゃねぇ!!」
掴んでいる手を剥がそうと宇佐が俺の手を引っ掻いてくるが、痛くも痒くもない
「………宇佐ぁ?誰にも言わないって」
「だ、誰にもいわねぇよ!ってか言えるはずねぇ…!!」
「言ったら指詰める」
「ひぃ…!!」
そんなやりとりをしている間にも、れんげ嬢の中で妄想は膨らみ続けているようで
「クライマックスには、やはり悪役が必要ですわ!」
彼女は人の話を聞くということを覚えた方がいいな
「バラバラだった部員たちが、真の悪者キャラと戦うことで一つになる…
調書によると、このお2人は資産家と言っても、ジャパニーズマフィアの御子息…!」
ハルヒに力説をするれんげ嬢…
興奮する気持ちはわからないでもないが…
言っていることは褒めたもんじゃない
「まさにうってつけの配役ですわ!」
「何だこの女!」
「親が何だろうと俺には関係ねぇだろ!」
D組の奴らが声を荒げる
「ちょっと、れんげちゃん…!」
それにも動じない
キャスティングのことしか考えていないのがありありとわかる
「そういうのって、便利なのかもしれないけど…『枠』で人を計ってたら見えないものもたくさんあるんじゃない?」
「…?仰ってる意味がよくわかりませんわ?」
ハルヒの言葉に少し目を見開いた
…ハルヒはやはり、そこら辺の奴らとは違う
そう思うと、わずかだが、口角が自然と上がったのがわかった
「さ!とにかくこちらでスタンバイを!」
「うわっ!こらテメェ!さっきから好き勝手言いやがって!」
「A組だからって図にのってんじゃねぇぞ!!」
無理矢理なれんげ嬢の腕を払う宇佐と
もう勘弁ならなかったのだろう…
れんげ嬢を突き飛ばす1年
「きゃっ……!」
押されたれんげ嬢のよろめく先には…
舞台照明器具やパイプ等の道具等
「危な…」
「ハルヒ…!!」
れんげの後ろに回り込み、支えようとするハルヒ
しかし、ハルヒは男装をしていても女子である
バランスを崩した人を、簡単に支えられるはずがない…
危ない…なんてのは、こちらの台詞だ
なんとか体をハルヒの後ろに滑り込ませ、ハルヒたちが怪我をするのをなんとか防ぐ
…しかし、2人分の体重を支え、器具やパイプにダイレクトにぶつかってしまう
「……っぅ!」
なんとか声は堪えたが、息が一瞬詰まり、呼吸が出来なくなる
ガシャーーーン…と派手な音を立て、器具が倒れる
「は、ハルヒくん!?大丈夫ですか…!?」
れんげ嬢はやっと自分が守られたことに気がついたのか、自分の肩を支えるハルヒに声をかける
「いや、自分は…麗せんぱ…いたっ」
「っつ……おい、ハルヒ大丈夫か…!?」
ハルヒが唐突に顔をおさえる
器具への衝突は防いだが、どこか痛めたところでもあるのだろうか…
顔に傷でもついていたら、そう思って恐怖してしまう自分がいた
大丈夫か…そう言いながら顔を覗き込むと
「…っつ…」
その大きな瞳は潤み、頬を滴が伝い落ちる…
「ハルヒ!?何だ今の…」
「げ…!須王!!」
「…!!」
音に驚いたのか、駆けつけてきた部員たち
その先頭にいたのはハルヒを娘と可愛がり、愛してやまないホスト部部長の環…
環の目にも映ったのだろう
ハルヒの涙が…
「…!」
一気に顔つきが変わる環
…ガッ
次の瞬間、頬に走る痛み…
「…!?え…麗…どうし」
表情が和らぎ、今度は驚く間抜け顔
それもそのはず…
自分が殴ったのは、掴みかかった宇佐ではなく
同じ部員仲間である、麗だったのだから
どうして、と問うその間抜け面に
怒りが沸沸と湧き上がる…
「ふ、…ざけんなっ!!」
目の前にある、環のネクタイを掴み、引き寄せる
「こいつらは何もしてねぇ…!むしろ、巻き込まれた挙句、言いたいこと言われて…被害者はこいつらの方だっ!!」
爆発した怒りを、環にぶつける
ふざけるな…頭の中にはその言葉でいっぱいだった
「状況もわかんねぇくせに、突っ走ってんじゃねぇ…っ!!」
捲し立てるように言葉を次々と吐いていくと
「え…あ…」
環は状況を理解したのか、冷静さを取り戻したようだった
おどおどする環に、また言葉が出てこようとしていたが、それをグッと飲み込む
「………環、ハルヒのこと大切に思うのはわかるけど…感情で動いていると、いつか後悔するぞ…」
「っ……」
最後に、それだけは伝えておく
伝えておかなきゃいけない気がしたんだ
「はぁ…悪ぃ、迷惑かけた…」
環のネクタイから手を離し
宇佐たちの方に向き直り謝罪をする
「…あ、いや、別にいい、お前こそ、大丈夫か」
言いながら自分の頬を指し示す宇佐に
環に殴られた方の頬を手の甲で少し隠す
…カッコ悪りぃ
「大丈夫…1年、お前も、迷惑かけたな」
こんなことで、心配なんかされてたまるか
そういう気持ちを抑え、1年にも詫びをする
「や…俺は、別に」
「…そか、じゃ、さっさといけ」
気まずい雰囲気は嫌いだ
早く帰れ、と言う様に、手の甲でしっしっと払う仕草をすると
宇佐が笑いながら礼を言ってきた
「…おう、ありがとな、早乙女」
「そう思うんなら今回のことは他言無用にするように」
「はは、わかった」
いつも連んでいるコイツの事だから
言いふらすような真似はしないと思うが、再度釘を刺しておく
2人は部員たちを一瞥すると、何事もなかったかのように去っていった
「ハルヒ、大丈夫か?」
「そ、そうだ!ハルヒ…?どこか痛むのか」
とりあえず、どこか痛めているかもわからないハルヒにまた声をかける
すると、環も焦りながらハルヒに近寄ってきた
「えぇ…コンタクトが…」
「…コンタクト、か…よかった…」
目を擦り、自然ととれたコンタクト
支えた時の衝撃でズレたのか…
「え…コン、タクト…?」
「えぇ…ちょっとずれちゃって…」
やはり当たっていたようだ
それを聞いた環は、一瞬ポカンとするも
次の瞬間には笑い出した
「そ、うか…はは、目薬使わずに泣けたのなら…もう一人前のホストだ」
…まぁ、怪我がないならよかった
安堵の息をつく
その瞬間ピリリと痛む、背中と頬
「……っ」
「麗さん…?」「どうしたのさ」
「…あぁ、光馨…いや、なんでもない」
別に、こんなの慣れているし言うべきことでもないか…と自己完結し双子の質問を適当に流す
…赤くなっているだろう頬を、ウィッグの長い髪で隠す
「か、カメラ…今の抑えまして!?」
そんな中、高らかに響くその声
「コンタクトの落ち以外は、まさに理想的なシーンですわ!」
代本を握りしめ、力説するれんげ嬢
…何も学んでいない、そう思ってしまう
「あとはラストに鏡夜様の感動的な…!」
ガシャ…と
何かが割れたような音
音の方を見ると、カメラのレンズに石を叩きつける鏡夜
「鏡夜さま…?」
「申し訳ないが、部員の暴力行為を記録に残すわけにはいかないんでね」
眼鏡を上げながら真剣な眼差しを向ける鏡夜
先ほどまでの、うっすらと浮かべた笑みは
今はもうれんげ嬢に向けられることはない
「こういう迷惑のかけられ方は非常に不愉快だ」
「あ…なんで」
今度はれんげ嬢が涙を流す番だった
「鏡夜様なら『気にしなくていいよ』って…優しく頭を撫でてくれるはずなのに…!
慈愛に満ちた優しいあなたが…どうして…」
「そんなの、鏡夜じゃないよ」
ポロポロと溢れる滴
しかし、環のその一言に目を見開く
「まーいいけどね、割と面白かったし」
「好きになる理由なんか人それぞれだと思うけど?」
光と馨が、やれやれ…と言うように語りかける
場の緊張が、ほろりほろりと解けていく
「ちゃんと『人』を見て、少しずつゆっくり知っていくのも、楽しいと思うよ?」
「人…を?」
ハルヒがれんげ嬢の前にしゃがみ、そう話す
ハルヒの言葉に目を瞬かせるれんげ嬢を見て気づくことが一つ…
この子は、人付き合いをゲームで学びすぎたのだ
「…れんげ嬢はさ、さっきのD組の奴らのことを見て、『悪役』にうってつけだって言ってたよね?」
ハルヒに並ぶように、れんげ嬢の前にしゃがみ、目線を合わせる
「親の仕事や見た目、クラスのランクでそう思ったの?」
「は…い」
少し気まずそうにするれんげ嬢
怒られるとでも思っているのだろう
「じゃあ、俺は?」
「……え?」
「俺は、れんげ嬢にはどういう風に見える?」
どのクラスだと思う?親の仕事は?悪役には見える?
いくつかの質問を投げかけると、何を言っているかわからないとでも言うような視線を向けられる
「麗先輩…?」
「俺も、あいつらと同じだよ」
「…え」
ハルヒも、俺の言っていることがわからないと言う雰囲気で、呼びかけてくる
しかし、軽く流し、言葉を進めた…
「俺も…あいつらと同じD組だけど?」
こんな俺は悪役に見える?
***
あの騒動から
ハルヒや俺の言葉もあってか
れんげ嬢は自分の言動を思い返し、静かに謝罪をした
…別に謝罪をして欲しかったわけではないが
それが彼女の中で、何かを変えるきっかけになるのなら
それはそれでいいものなのだろう
そう考えながら、他の部員たちより一足早く部室に戻る
ロングヘアーのウィッグとスカートなんて格好…
今回は宇佐だったからまだ、大人しかったものの
他の奴らにでも見られたら…
そう考えただけでも…
スカートからいつも通りの、ズボンに履き替え
化粧もおとし
ウィッグを放る
「はぁ…」
ウィッグを取ったことにより、明るみに出るのは
赤くなった頬
ひと撫ですると、ピリ…と感じた痛みに、ため息をこぼした
「「てかいいの?殿」」
「?」
麗がさっさと、1人で部室に帰る背中を視線で追いかけていると
双子が環にそんな声をかけた
環といえば、双子が言い示すものが何かわからず、首を傾げる
「麗さんのことだよ」
「あんなに頬真っ赤にさせてたのにさ」
「……あ…!!」
それで思い返すのは先ほどの騒動
ハルヒをよくも泣かせたなと…
拳を振るった先にいるは、D組の奴らだと思っていたが
実際、自分が殴ったのは麗の頬だった
「レーちゃん、痛そうだったねぇ」
「ちゃんと謝らないと」
「どうなっても知らないよ」
勘違いとはいえ、勝手に突っ走ってしまったのは自分で
しかも頬を思いっきり殴ってしまった
そんな自分を必要以上に攻めようとせず、静かに去っていった麗…
「お、俺はなんてことを…!」
「…」
慌て、動揺し、顔が青くなる環の様子を
鏡夜は静かに黙って見ていた。
麗…!と走り出し部室に向かう環と、それに続く部員一同
***
バン…!!と大きな音を立ててドアを開ける
開けた先には、もう女装ではなく、元の姿に戻った麗
…元の姿といっても、変わった点が一つ
その頬の異常な赤みである
それを見て環が一番に顔を歪ませる
「麗!…さっきは、その」
「別に、気にしてねぇ」
食い気味に言う麗
目は伏せられ、こちらに向けられることはない
いつも目を見て話す麗には珍しい行動だ
「でも、傷が…」
「ほっとけば治る」
冷たくあしらわれても、鈍感な環は気付かない
心から心配をしているから何だろう
「痛い…か?」
「……あぁ、そうだな」
麗の頬に触れようと、手を伸ばすが
「帰る」
それも、あっさり払われてしまう
「「迎えきたの?」」
早くない…?と疑問を投げかけられる麗
確かに、いつもの時間からしたら早い気がする
「家には帰らないからな」
「え」
「どういうこと?」
パチクリ、と、目を瞬かせる双子
言っている意味を理解できていないのだろう
「そのままの意味」
「どっかにお泊り〜?」
「ん、適当なとこ泊まります」
鞄を背負い、あくびをしながら部室を後にしようとする麗
やれやれ…なんて思い、自分も鞄を持ち
軽く部員に声をかけると、麗の背中を追いかける
…あぁ、いた。
「なぜそんなに不機嫌なんだ」
「別に」
少し離れた背中にそう言うと、またもや食い気味な返答が返ってきた
「環に殴られたからか」
「詮索すんな、ウゼェ」
接客中のはんなりした姿とは正反対な今の麗を見たら、客はどう思うだろうか…
これはこれで、ギャップ萌えだと言いながら騒ぐのだろうなと言う想像はついてるのだが…
「…今日はなぜ家に帰らない」
「うるせぇ、俺の勝手だ」
「怪我と関係があるなら、関係なくはないだろう」
「……怪我はどうってことない、こんなの慣れてる」
早歩きする麗にようやく追いつき
方に手をつき、静止をかける
麗は少しの沈黙の後、諦めたのか、呆れを少し含んで声色で話し始めた
「けど、思ったより赤くなってきてる、こんなの見せらんねぇ」
誰に、とは言わないのか…
「…」
「他に言うことはねぇ、帰る」
再度歩き出そうとする麗の肩を
逃すかと言うように掴み直す
「どこに泊まる」
「適当にっつったろ」
「俺の家にこい」
「は?」
元から、こうするつもりではいた
麗が自宅に帰らないと言うのは予想外だったが
ならば、俺の家に泊まらせればいい
「適当なら、別に俺の家でもいいだろ」
もうやることはやった
回収すべきものも回収した
俺も今から帰る、とだけ、短めに言うと
まだ理解ができないと言う顔をする麗
「まぁ、聞いた所でお前に拒否権は認めないが」
背中をぐっと押すと…
「んい“っ……!!ったぁ…!」
「頬と、この背中の手当てをしてやる」
「いっ…らねぇよ…!!」
変な気まわすな…と背中を押した手を叩かれる
「別にお前に気は使っていない、ただお前のこの傷は、早く治ってもらわなきゃ困ると言うだけだ」
清楚系の名に相応しくない
麗の髪の毛の中に手を差し入れ
後頭部に手を添えながらそう言えば
「……っ、…はぁ……」
わかった…
と、折れたように言葉を落とす麗
「…礼として菓子折は今度、家に送る」
「それこそ気にしなくてもいいがな」
そういう事はしっかりしているんだよな…
なんて思ってしまって
胸の中に宿っていた愛しさが
大きくなるのを感じた