8*小学生ホストの弟子入り
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「いつまで拗ねているんだ?麗」
流れる窓の外の風景をぼんやりと眺めていると、隣からかけられた言葉
「別に拗ねてるわけやおへん」
「…悪かったって、そやけど相手がお前とも食事したいって言うんや」
しょうがないだろう…?と顔を覗き込んでくる相手は俺の父親
授業後のHRを終え、電話が入ったと思ったら「迎えに来ているからすぐ来るように」とだけ言われ、今は何処か知らぬ料亭まで連行されている
「親父の友達やろ…なんで俺まで」
「そう言うなって、アイツの息子もお前と同い年や言うしな!」
豪快に笑う横顔をじとりと睨みつける
と、それに気づいたのか少し大人しくなり
「機嫌治してくれよ〜」と様子を伺ってくる
「麗は連れて来られたことに怒っているわけじゃない…ですよ」
不意に聞こえた声は運転席から
俺が乗っている車だから、もちろん運転手は乾だ
「うるさい、わんこ」
「ごめん」
「ほな乾、麗は何に怒ってるんや?」
親父が乾に問いかけると、ミラー越しにチラッと目があった
俺の決定権なんか、親父の前では無いものと同じだろう
そんな意味を込めて、わんこと合っていた視線をわざと逸らし外の景色に移す
「……麗は、親父さんと2人で食事に行きたかったんじゃないですかね」
「いや違うわ 待てわんこ、それ以上言うな」
自分が考えていたものとは全く違うその考えに
とっさに静止をかける
それ以上言うな、面倒くさくなる
「そっか…そうかぁ…ふふ、ほな今からでも場所を変更して」
「大きな勘違いだから、このまま目的の場所まで行ってくれ」
「わかった」
わんこのせいで今日はずっと親父が五月蠅くなりそうだ…
そうため息をついていると、携帯が振動した
中を確認すると鏡夜からのメールが1件
…?ちゃんと部活を休む件は伝えてあるが
そう思いメールを開くと
「…また、面白そうなことになってるな」
きっと騒がしい事になっているだろう部室を想像し、軽く笑みを浮かべた
***
「まぁ…環君にお弟子さんが…?」
翌日。
毎度お馴染みの第3音楽室にて
今日も開かれるホストと姫たちの茶会
しかし、今日はその中に一際小さいホストの姿が…
「あぁ…まだ初等部の子だが、いい目をしていてね…」
「そんな小さな子に、ホストが務まりますの…?」
「恋に年齢は関係ありませんよ…いや、正直に告白すれば 僕だって君を前にすれと胸が高鳴り、いつだって…幼い子供の様になってしまうのです…」
「あぁ……!環君…♡」
会話だけ聞けば、いつもと同じ様子に思うだろうが、おかしいのはその状態だ
「あんな近くで見学させて…やり辛くないんですかね」
「人は見られる距離に比例して、より美しくなると普段から力説しているからな」
その環の弟子とやらが、環の接客を近くで…そりゃあもう間近で観察しているのだ
「ふーん、あれが昨日言うとった“環の弟子”ねぇ…なんや、えらい可愛い子やな」
「可愛い…まぁ、年齢的にはまだ幼いですしね」
「環に弟子入りってことは、特に俺たちが手ェ出すことあらへんのやろ?」
「あぁ…ま、放っておこう」
可愛いのと厄介ごとはまた別だ
俺はあんな距離で観察されたくは無い
「禁断の実を僕に教えたいけない人」
しかし環はそんな違和感にも動じず、自分の世界を作っている
その点はさすがキングだな…なんて感心してしまう
「君は…孤独という名の海に光をもたらしてくれた、人魚姫だ」
「私が…人魚姫…?」
姫にも違和感を抱かせない
その接客に、もう関わるまいと踵を返そうとすると
「どっちかっつーと、うちの池のフナだよ、僕はそんな見えすいたお世辞は言いたくない」
環の弟子が飛んだ爆弾を落としてくれた
環もフォローに回るが、焦りすぎてさらに自分の首を締める羽目になっている
「仮にフナだとしても、それは美しい…!」
なんぞ言い始めた
姫はというと「やっぱりフナ…!!」
とショックを受け、環君のバカー!と、ホスト部では珍しい声を残して席を立った
「…放っておいてもいいのか…?副部長サマ?」
「…かわいそうに」
散々な環の姿を見て
ハルヒも呆れの言葉を漏らす
鏡夜はこちらの言葉に、再度環の方を見る
その方向には「泣き虫なフナ」などと言う反省の様子もない弟子(?)
ふぅ…と控えめながらも十分重みのある溜息を一つ着くと
「……麗、行けるか」
「あいよ、まかせろ」
「?麗先輩…?」
鏡夜が言うなら、仕事しましょうか
…と目的の相手の方に向かう
「麗には先程、あのバカどもが失礼をした姫のフォローに行ってもらう…ハルヒは麗がやるはずだったお茶の方を頼む」
「あ、はい」
***
扉に手をかけ、帰ろうとするお姫さん
「もう帰ってまうの?お姫さん」
「!……麗、くん?」
その寂しそうな背中に声をかければ
こちらを振り向く…その目は赤くなっている
「あらら…どないしたん?そんなに目ぇを赤うして」
「…っ!麗くん…!!」
「なんて、ちょい いけずやったね、…見とったよ、さっきの」
こちらを真っ直ぐに見つめると、次には目に滴を溜めていく姫さん
「環は別に、姫さんのことを傷つけたかったわけやおへん…君を傷つけまいと、少し焦ってしもたんよ」
俺の方からも謝る…嫌な思いさせてすまんな…?
というと、鼻をすすりながら首を横に振る姫
「…ふふ、姫さんは優しいね、やけど、あの子の言うことも一理あるかもね?」
「…え?」
「…人魚姫やなく、家のフナなら、いつでもその美しい姿を見られるやろ?
それも魅力的やな…なんて思て」
「い、つでも…?」
姫さんの表情が、少し明るくなってきた
普段、俺はこんな口数の多い接客はしないのだが
環のお客は大抵こういう言葉に弱い…
「うん…俺ってね?意外と独占欲強いんや、綺麗なものは近くに置いておきたなる…人魚姫になんてなったら、君は広い海の中で自由気ままに過ごすんやろう?」
そんなのすぐ会えないってことじゃん
そうやって微笑み
「そんなの、耐えられない…」と顔を覗き込むと顔が桃色に染まる
小さく震えるまつ毛の振動で、また瞳から溢れそうになった涙を親指で拭う
「…ね?それに、案外囲われるのも、悪ないかもよ?」
なんて呟けば、K.O 終了 ノックアウトで俺の勝ち
ついでに…きっとこの子は俺の客になるだろう
なんて、心の中で笑みをこぼした