穢れを知らぬ人
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……勢いで走って、走って、此処は何処だろう。きょろきょろと辺りを見回しても見覚えなんてものは存在しなくて。此処に来て初日で迷子とかとんだ笑い話だ。ていうか本当にどうしよう。此処、割と広いんじゃ……。
「……あなたは……もしかして、迷子ですか?」
「あ、イソップさん。お恥ずかしながら、そうです……」
流石に恥ずかしくて、顔に熱が集まってしまう。風が涼しく、すぐに冷えてくれそうなのは幸運か。
「……失礼な話。不気味な女性だと思っていましたが、迷子になるし、それを恥じるし、結構人間くさいんですね。……まぁ、迷っている人を置いて行くほど僕は非情では無いので。送りますよ、館まで」
「ありがとうございます。正直に言うと、私も貴方のことを不気味に思っていましたよ。でも、優しいんですね。認識を改めようと思います」
そんな、本当に礼節を欠いている会話をしながら歩みを進める。隣を歩くその人には迷いが無く、当たり前だが此処じゃこの人の方が先輩なのだなと思った。
「歩くの、早いんですね」
「昔は男の後ろを歩けと言われていたんですけど、良い家の正真正銘一人娘だけが遺されちゃそうもいかなくなりましてね」
「……ご両親、亡くなられたんですか」
「はい。といっても、もう何年も前の話だから気にしてはいないんですけど」
……それは嘘だ。いや嘘じゃない。どっちを言っても嘘になる。引き摺っていないわけではないし、引き摺っているわけでもない。ただ時々思い出して、もう居ないんだよなと思って、どうしようもない寂しさに襲われるだけ。ただそれだけ。数年経ってもまだ受け入れられない部分があるだけなのだ。
暫く、足音と風の音だけが響いていた。
「すみません、あまりにも踏み入った話をしてしまって」
先に沈黙を破ったのはイソップさんだった。
「いえ、構いませんよ。本当に気にしてませんから」
実際、両親のことをつつき回されるよりも、アンドルーとの関係について聞かれる方が余っ程困るし悲しくなる。だから本当に気にしていない。普通、家は男性が継ぐもので、女は後ろを歩くから不思議に思われて当然だし。
「まぁ、そうですね。踏み入った話をされたのは事実ですから。一つ聞いても?」
「……あまり、踏み入り過ぎない程度にお願いします」
「勿論。聞きたいことは彼が此処に来てからの話だから」
「彼?」
……私が、彼のことがとても気がかりだったのには理由がある。約束とか、ずっと慕っていたとか、そういうのもあるが。生きているか死んでいるかがまず気がかりだったし、生きていると分かれば次に気になるのは……
「……アンドルー・クレスという男は……ちゃんと、此処に馴染めていますか……? 仲良い人は、作れているんでしょうか……」
「……お姉さんか何かで?」
「そういうんじゃないんですけど……昔、少し付き合いがありまして」
此処に馴染めているか。それが気がかりだった。あの日の約束はきっと忘れられているか、覚えていて破るつもりなんだろうし。だったら私は、この恋を胸にしまって、彼の幸せな生活を祈りたい。そっちの方がきっとまだ、私の心は平穏である。だから、馴染めているかが気になった。
「……お二人の関係は、僕には分かりませんし、特別アンドルーさんと仲が良いわけではありませんが。時々浮くことはあれど……致命的なまでに馴染めていないわけではないと思います。時と場合によって浮くことがあるのは……どの人もそうですからね」
「そっか……」
その言葉を聞いてほっとした。少しでも馴染めているのなら……良かった。ほんの少し、寂しさもあるけど。でも、別に。今更どうということもない。
「……やっぱり、お姉さんか何かで?」
「違いますって」
「そうですか。……あ、もう館ですよ。目の前ですし、行けますよね?」
「流石にそこまで方向音痴ではないので。ありがとうございました」
「いえ、困った時はお互い様なので」
ぺこりと頭を下げ、館の中へ入る。
……さて。歩いて走って歩いて小腹も空いたし、パーティーの余り物でもないか見に行ってみるかな。
「……あなたは……もしかして、迷子ですか?」
「あ、イソップさん。お恥ずかしながら、そうです……」
流石に恥ずかしくて、顔に熱が集まってしまう。風が涼しく、すぐに冷えてくれそうなのは幸運か。
「……失礼な話。不気味な女性だと思っていましたが、迷子になるし、それを恥じるし、結構人間くさいんですね。……まぁ、迷っている人を置いて行くほど僕は非情では無いので。送りますよ、館まで」
「ありがとうございます。正直に言うと、私も貴方のことを不気味に思っていましたよ。でも、優しいんですね。認識を改めようと思います」
そんな、本当に礼節を欠いている会話をしながら歩みを進める。隣を歩くその人には迷いが無く、当たり前だが此処じゃこの人の方が先輩なのだなと思った。
「歩くの、早いんですね」
「昔は男の後ろを歩けと言われていたんですけど、良い家の正真正銘一人娘だけが遺されちゃそうもいかなくなりましてね」
「……ご両親、亡くなられたんですか」
「はい。といっても、もう何年も前の話だから気にしてはいないんですけど」
……それは嘘だ。いや嘘じゃない。どっちを言っても嘘になる。引き摺っていないわけではないし、引き摺っているわけでもない。ただ時々思い出して、もう居ないんだよなと思って、どうしようもない寂しさに襲われるだけ。ただそれだけ。数年経ってもまだ受け入れられない部分があるだけなのだ。
暫く、足音と風の音だけが響いていた。
「すみません、あまりにも踏み入った話をしてしまって」
先に沈黙を破ったのはイソップさんだった。
「いえ、構いませんよ。本当に気にしてませんから」
実際、両親のことをつつき回されるよりも、アンドルーとの関係について聞かれる方が余っ程困るし悲しくなる。だから本当に気にしていない。普通、家は男性が継ぐもので、女は後ろを歩くから不思議に思われて当然だし。
「まぁ、そうですね。踏み入った話をされたのは事実ですから。一つ聞いても?」
「……あまり、踏み入り過ぎない程度にお願いします」
「勿論。聞きたいことは彼が此処に来てからの話だから」
「彼?」
……私が、彼のことがとても気がかりだったのには理由がある。約束とか、ずっと慕っていたとか、そういうのもあるが。生きているか死んでいるかがまず気がかりだったし、生きていると分かれば次に気になるのは……
「……アンドルー・クレスという男は……ちゃんと、此処に馴染めていますか……? 仲良い人は、作れているんでしょうか……」
「……お姉さんか何かで?」
「そういうんじゃないんですけど……昔、少し付き合いがありまして」
此処に馴染めているか。それが気がかりだった。あの日の約束はきっと忘れられているか、覚えていて破るつもりなんだろうし。だったら私は、この恋を胸にしまって、彼の幸せな生活を祈りたい。そっちの方がきっとまだ、私の心は平穏である。だから、馴染めているかが気になった。
「……お二人の関係は、僕には分かりませんし、特別アンドルーさんと仲が良いわけではありませんが。時々浮くことはあれど……致命的なまでに馴染めていないわけではないと思います。時と場合によって浮くことがあるのは……どの人もそうですからね」
「そっか……」
その言葉を聞いてほっとした。少しでも馴染めているのなら……良かった。ほんの少し、寂しさもあるけど。でも、別に。今更どうということもない。
「……やっぱり、お姉さんか何かで?」
「違いますって」
「そうですか。……あ、もう館ですよ。目の前ですし、行けますよね?」
「流石にそこまで方向音痴ではないので。ありがとうございました」
「いえ、困った時はお互い様なので」
ぺこりと頭を下げ、館の中へ入る。
……さて。歩いて走って歩いて小腹も空いたし、パーティーの余り物でもないか見に行ってみるかな。