暫くドアの前に立っていたら、見かねたのかアンドルーが守衛所の中に入れてくれた。どうやら帰り道が分からないとか、或いはもっと話したくて堪らないと勘違いされたようだ。ただ立ち尽くしていただけなのに。
守衛所の中は、まぁ外見通りだった。木造で、雨風凌げて、守衛所にしては少し広めかもしれない。人が一人、頑張れば二人住める小屋を守衛所としている、というのが正しいかもしれない。簡易的で寝心地も悪そうだがベッドもあるし、コーヒーを入れる為の道具も一式揃っている。というか、狭いがキッチンもある。昔は人が住んでいたのかもしれない。
「……で？ なんでドアの前で突っ立ってたんだよ」
「あ、え、えっと、それは……」
落ち着かない様子で周りをきょろきょろと見回していれば、アンドルーから話しかけられる。まさかあちらから話しかけてくるとは思わず、言葉に詰まってしまう。最も、こちらから話しかけようとしても同じだっただろうが。
「……まさか特に理由も無く突っ立っていたのか？」
「そ、そういうわけじゃないけど」
本当に、そういうわけではない。ただ、立ち去るのももう一度話しかけるのも、理由が多過ぎて迷っていただけだ。だから、そういうわけではない。だが、じゃあ何なのかと聞かれても即答はできず、黙ってしまう。
「はぁ……ったく。大体、その微妙なニヤケ面は何だ。可愛くない」
「なっ、誰のせいだと思って……！」
はぁ？ とでも言いたげな顔をしているが、もう知らない。話したいこともいっぱいあったが、ここまでわからず屋だったとは！
ひらりと背を向けて、守衛所から出て行く。止める彼の声が聞こえたような気がするが、まぁ気の所為だろう。だってこんなことを言う奴が私のことを呼び止めるわけがないから。

「はは、どうやら今のところ二人っきりにするのは良くなかったみたいだな」
「ルカさん、やっぱりこうしてつけて回るの、エマは良くないと思うの……」
「確かにそうかもしれないが、何かあった時に仲裁できる人間は必要だろう？ まぁ、今関わりに行くのもよした方がいいだろうし、今日のところはそっとしておくことにしよう」