穢れを知らぬ人
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あの問いに、私はぎこちなく頷いた。そうするしかできなかった。遠い昔、叶わない約束をした彼の名前。あの誤解を解けず終いで何処かに失踪した彼が、此処に居るなんて。
でも、よく考えてみればそうなのだ。ゲームをこなす為に此処に来ているのだから、彼に会うのとゲームをこなす、その順番が多少前後しても構わないのだ。少なくとも、主催側からしたらそうなのだろう、きっと。だから彼が此処に居る、というのは本来考えて、覚悟を決めておくべき事柄だったのだろう。
ああして頷いた後、私は簡易的な地図を貰った。この荘園の中にある墓場の小屋……恐らく守衛所の場所が書かれている。そこに彼はよく居るらしい。
……ルカさんもエマさんも、彼は優しいと言う。私にはそれが信じられない。確かに私の知る彼は優しかった。だが、化け物だと言われ続けて優しさを保てる人間が、一体この世の何処に居るというのか。私は居ないと思うし、失礼な話だが、彼はそんなに強くないと思っている。絶対に一つや二つの間違いを犯している。私はそう強く確信していた。そうするだけの理由もあった。
そんなことを考えている内に、守衛所が視界の中に入ってしまった。
……どうしよう。
顔を合わせる分には問題ない。挨拶する分には問題ない。そうだシンシア・サリヴァン。あなたはいつだって嫌いな人の前でもこの引き攣った笑みを崩さずに極めて冷静を装って関わってきた。今回もそう思えばいい。大丈夫、大丈夫。
そう言い聞かせていないと、今すぐ此処から逃げ出してしまいそうだった。
ドアの前に立ち、ノックをする。
心臓が痛い、足が震える。今にも崩れ落ちてしまいそうだ。
「す、すみません、一度も顔を……見ていないので、挨拶に来ました」
声も手も震える。情けなくて、まだ顔を見ていないのに顔を下に向けてしまう。震える手を後ろに隠してしまう。
ドアが開く音がして、私は反射的に目を瞑る。
「……お前が新しく入ってきた奴か」
「そ、そう……です……」
「はぁ……。顔を上げろ。あのサリヴァンともあろう人間が、みっともない」
溜息と共に、罵倒が頭上から降ってくる。知ってはいた、私は彼に嫌われている。知ってはいたけど、でも。
「おい、聞いているのか。それともなんだ、呪われた子の言うことには意地でも聞かないつもりか?」
「ち、ちが……」
辛い。心がその感情で軋んでも、青ざめていても、頬は釣り上がったままで。
「……知ってるだろうが、一応。墓守、アンドルー・クレスだ。お前の名前は」
「……シンシア。シンシア・サリヴァン。今は金貸しを……しています……」
「……用件は済んだな」
「あ、はい、まぁ、一応」
「じゃあ、僕はこれで」
「ちょっ」
と待って。続きを言う前に、ドアを閉められてしまう。言いたいこと、もっと沢山あったのに。……まぁ、閉じられていなくても言えなかっただろうが。なんというか、情けなくて。その場に暫くぽつんと一人で居た。
でも、よく考えてみればそうなのだ。ゲームをこなす為に此処に来ているのだから、彼に会うのとゲームをこなす、その順番が多少前後しても構わないのだ。少なくとも、主催側からしたらそうなのだろう、きっと。だから彼が此処に居る、というのは本来考えて、覚悟を決めておくべき事柄だったのだろう。
ああして頷いた後、私は簡易的な地図を貰った。この荘園の中にある墓場の小屋……恐らく守衛所の場所が書かれている。そこに彼はよく居るらしい。
……ルカさんもエマさんも、彼は優しいと言う。私にはそれが信じられない。確かに私の知る彼は優しかった。だが、化け物だと言われ続けて優しさを保てる人間が、一体この世の何処に居るというのか。私は居ないと思うし、失礼な話だが、彼はそんなに強くないと思っている。絶対に一つや二つの間違いを犯している。私はそう強く確信していた。そうするだけの理由もあった。
そんなことを考えている内に、守衛所が視界の中に入ってしまった。
……どうしよう。
顔を合わせる分には問題ない。挨拶する分には問題ない。そうだシンシア・サリヴァン。あなたはいつだって嫌いな人の前でもこの引き攣った笑みを崩さずに極めて冷静を装って関わってきた。今回もそう思えばいい。大丈夫、大丈夫。
そう言い聞かせていないと、今すぐ此処から逃げ出してしまいそうだった。
ドアの前に立ち、ノックをする。
心臓が痛い、足が震える。今にも崩れ落ちてしまいそうだ。
「す、すみません、一度も顔を……見ていないので、挨拶に来ました」
声も手も震える。情けなくて、まだ顔を見ていないのに顔を下に向けてしまう。震える手を後ろに隠してしまう。
ドアが開く音がして、私は反射的に目を瞑る。
「……お前が新しく入ってきた奴か」
「そ、そう……です……」
「はぁ……。顔を上げろ。あのサリヴァンともあろう人間が、みっともない」
溜息と共に、罵倒が頭上から降ってくる。知ってはいた、私は彼に嫌われている。知ってはいたけど、でも。
「おい、聞いているのか。それともなんだ、呪われた子の言うことには意地でも聞かないつもりか?」
「ち、ちが……」
辛い。心がその感情で軋んでも、青ざめていても、頬は釣り上がったままで。
「……知ってるだろうが、一応。墓守、アンドルー・クレスだ。お前の名前は」
「……シンシア。シンシア・サリヴァン。今は金貸しを……しています……」
「……用件は済んだな」
「あ、はい、まぁ、一応」
「じゃあ、僕はこれで」
「ちょっ」
と待って。続きを言う前に、ドアを閉められてしまう。言いたいこと、もっと沢山あったのに。……まぁ、閉じられていなくても言えなかっただろうが。なんというか、情けなくて。その場に暫くぽつんと一人で居た。