「……ん」
なんてことない、普段と変わらない朝。とうの昔に過ぎ去ったあの日を夢に見て、小鳥が鳴き喚く声を聞く、理想とはかけ離れた日常。
ベッドから床に足をつき、化粧台の前に向かう。鏡に映る、まだ眠たげで……歪な笑顔が貼り付いた自分の顔を見る。
シンシア・サリヴァン。性別は女で年齢は二十四。この地で金を貸して得る利息で生計を立てる、金貸しの家の現当主。本来なら男が継ぐこの家を私が継ぐことになったのは、ラズ墓場で眠る私の両親が私一人しか産めなかったからだ。
ぐいぐい、とむくんでいるように見える自分の顔をマッサージするように押し上げていれば、扉を数回ノックする音。
「……当主様、入ってもよろしいでしょうか」
「どうぞ」
召使いが私のことを呼びに来たらしい。扉の方には体を向けず、鏡越しに召使いのことを見る。
「朝食の準備が整いましたので、食べるのであれば着替えて来てくだされば」
「分かった」
ここまでは、普通だった。
「それと」
「珍しい、まだ何か？」
「はい。あなた宛の手紙が一通」
この時はただの手紙だと思っていた。きっと召使いもそうだっただろう。だから此処に置いておきますね、なんて普段通りの調子で私の傍に手紙を置いたんだ。
誰もこの手紙が運命的な再会をさせてくれるとは、夢にも思わなかった。