Two of us

 寒くて、息を吐けば白くなるような異国の地で移動時間の合間に訪れたその大聖堂はとても荘厳で、美しくて圧倒された。メンバーはみんないたけれど、ゾジーさん達が少し離れた間に、俺と新弥はたまたまその大聖堂の中で二人になった。初めてのヨーロッパツアーで、日本とは違う景色を感じながら確かにテンションは上がってはいたものの、どこかほんの少し寂しさ…に似たようなものを感じていて。足を踏み入れた大聖堂の中は、ステンドグラスが輝いて立ち並ぶ椅子席には、ちらほらと他の観光客達や、地元民らしき外国人の姿が見えた。
 奥の方、空いている誰もいない席に座るとなんとなく隣に新弥も座ってきて、二人とも言葉を発さずにステンドグラスの方を見上げる。…外からの光が反射して映し出された世界はとても…言葉にできないくらいで。不意に俺は、隣の新弥の手を握った。それに驚いたのか、新弥は俺の方に視線を向けてそれから小さく微笑むとその手を握り返してくれた。
「…どうした?珍しいなって。」俺は、基本的に外ではこういったことはしないから、確かに珍しいことをしていると思う。でも、このキラキラとしたステンドグラス達を見ていると不意にそんな気持ちが芽生えたんだ。
「いいじゃん…俺らのこと知ってる人は、ココにはいないんだからさ。…だから、少しこうさせてよ。」珍しく、俺から甘えてみるようなことを言ってみた。すると、新弥は照れたような表情をして俺の手をぎゅっとまた握り返してくれた。
 どれくらいの間、そうしていたんだろうか。周りにいた観光客の姿は、変わり始めていて。近くをカップルか、夫婦らしき二人組が通っていく。彼らは、俺らを通り過ぎてから奥の方のステンドグラスグラスの前まで向かっていき…そうして、抱き合ってから互いにキスを交わしていた。日本ではなかなか見られない光景に、俺は若干面食らってしまって思わず新弥の方に視線を向ける。…なんか、他人のキスシーンを見てドギマギする、なんて中高生じゃないんだからって思うけど。でも、多少は仕方ないとは思う。
「あー…すげぇな。やっぱり、海外だな。自分に素直っつーかさ。」そう言って、また新弥は軽く笑って俺の手を今度は少し力強く握ってみせた。
「…にぃや。」俺は、新弥の行動に嬉しいような…恥ずかしいようなそんな相反する感情を抱えつつ新弥の方を見つめる。すると、新弥も俺の方を見つめ返してきて…気づけば唇が軽く触れ合っていた。
「…えっ??」普段なら、外でなんて絶対にしない行動なのに。…海外でだから、だろうか?それともさっきのに、感化されたとか?
 思わず、何もいえなくてそのまま新弥の方を見つめていると
「…いや、そうされると逆に恥ずかしいんだけど…」照れたような新弥の赤い頬。互いに歳を重ねた、と言ってもそういった表情や仕草は変わらないんだろうなってわかる。二十代の頃にも、よく見た新弥の表情。…俺は好きだ。惹かれるように、俺は新弥の頬に口付けた。きっと、異国のどこかノスタルジックな空気のせい。そんな風にしておこう。
 すると、さっきのカップルが俺らの方を見て「Que vous viviez heureux!」なんて言ってきて、なんとなくフランス語っぽい響きがしたからフランスからの観光客だったのかな?二人はニコニコと笑っていて、でも決してアジア人を馬鹿にしているような笑顔でも無かったから俺達も笑って会釈をしておいた。
 大聖堂を出てきて、二人で寒い空の下を歩く。ホテルまでは、もう少し。気になったから、スマホでさっきカップルから言われた言葉の意味を検索してみた。…その意味を知って、俺は自分の頬が赤く染まっていくのを感じて早歩きになるとホテルに辿り着くまで新弥の方を見ることが出来なかった。
 
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