たからもの
うちの兄は、少し変わっていると思う。
何故なら、高校生になった弟に対してずっと世話を焼くからだ。誕生日には、ちゃんと毎年プレゼントくれるし仕事が休みの時は、どこかしら連れてってくれるし、一緒にゲームでも遊んでくれたりする。(下手だけど…)
年が離れているせいかと思っていたけど、どうやら周りの兄弟はそうでも無いらしい。俺の友達は、弟がいる兄の立場だけど「休みの日は、たまに遊んだりするけど…そこまで一緒にいねーよ?」
そういうことみたい。じゃあ、何でうちの兄ちゃんは、俺にそんなに世話焼いてくれるのかな…考えてみれば昔からそうだった。
俺が子供の頃、よく兄ちゃんの背中を追いかけてよちよち歩いていると俺の名前を呼んで優しい笑顔でよく抱き上げて頭を撫でてくれた。その時の、笑顔が俺はホントに好きだった記憶が残ってる。…それは、今でも変わらないんだけど、流石に高校生にもなると「兄ちゃん、兄ちゃん。」って甘えに行くのは恥ずかしいから最近はやらないけど。
…それと、兄ちゃんはカッコいい。今まで、何人か好きな女の子を家に呼んだことがあるんだけど、みんながみんな兄ちゃんの方を好きになってしまう。…それでフラレたことも何回か。悲しいかな、おかげで今のところ彼女無し。…まだ、未経験な俺なんですよ。
はぁー…悲しいけど、俺はだからと言って兄ちゃんのことを嫌いになるなんて出来ないし、今は学校とバイト、それに中学の頃から始めたギターが俺の中では重要なウェイトを占めてるから。そうだ。今は、彼女なんかいなくても寂しくないし。…ないし。
そんなある日のこと。
俺は、学校が休みの日、バイトをこなして家に帰ってきたらリビングで兄ちゃんが電話をしている声が聞こえてきた。
「…だから、悪いって…。…その、お前が悪いんじゃねぇから。俺の問題なんだよ。…うん…ホントに、ごめん…じゃあ……」
そういう内容が聞こえてきて、少し悪いかな?って思いながらも「ただいま…」って小さな声で兄ちゃんに声を掛けてから、リビングを横切って二階にある自分の部屋に向かおうと階段を上りかけたところだった。
「あ、咲人。おかえり。」電話が終わったのか、スマホを片手に俺の方に視線を向けてそう言う兄ちゃん。
「あ、うん……」
なんとなく、電話の向こうの相手は彼女だったのかなって思った。兄ちゃん、大学に行く時に家を出るのかなって思ったんだけど、親に「咲人が高校卒業するまで、実家にいる。」って言い切っててさ。いや、まあ…いいんだけど…。一人暮らしの方が、彼女とかも呼びやすいんじゃ無いのかなって思ったり。なんでなんだろ…それが、一番の謎だ。
「…兄ちゃん。今のってさ、彼女じゃないの?」
俺が声を掛ければ、兄ちゃんは少し挙動不審っぽいように視線を泳がせた。図星かな…
「兄ちゃんさ、俺に気を使わなくていいよ。俺に今、彼女いないからって合わせようとしてくれなくてもさ。」
そう言って笑うと、俺はまた兄ちゃんに背を向けて階段を上がっていこうとした。
すると。
っ
何故か、俺の腕は掴まれて兄ちゃんの方に引き戻される。
「え?ど、どうしたの?兄ちゃ…??…ッ…」
何か俺…今、兄ちゃんに抱きしめられてる??何で?
意味がわからない…そう思って、恐る恐る兄ちゃんの方に視線を向けると、いつになく真剣な目をした兄ちゃんが俺の方を見ていた。その眼差しに俺は、少しドキッとしてしまう。
弟の俺から見ても兄ちゃんは、カッコよくて…細身の俺とは違って同じように細いのに筋肉付くところは付いてるし…何となくそんなこと考えていると、兄ちゃんの顔が近づいてきて……軽く頬に口付けられた。…??え?何で??俺ら、兄弟じゃん。そんな風に驚いて、俺は兄ちゃんの顔を見上げる。
「…俺がさ、女作っても長続きしねぇのわかるか?…
俺は、ずっと昔から咲人のことが好きだったから…子供の頃から、咲人のことが大事で、可愛くて仕方なかったんだよ。」
……そう言って、少し切ないような表情をして兄ちゃんは俺のことを見つめた。
………あれ。俺、何で嫌じゃなかったんだろ…普通、男からキスされたりしたら、振り解くか殴ってる筈で。
でも、兄ちゃんからされたのは嫌じゃなかった。…抱きしめられたことも、嫌じゃなくて。……
「……俺、も、兄ちゃんのこと…好き、なのか…な?」……自分でも、変なこと言ってるとは思う。でも、そんな風に言った途端、兄ちゃんは凄く嬉しそうな顔をして。また、俺のことをぎゅって抱きしめた。
…俺ら、兄弟なのに。こんなの変だって、おかしいってわかるのに。嬉しそうな兄ちゃんの顔を見ると、俺はそれでも良いかって思えて。釣られて俺も、にこりと微笑んだ。すると…
「咲人の初めては、俺が奪うって決めてたからな!」
「へ……?や、えと……」
そうこうしてるうちに、兄ちゃんの顔がぐって近づいてきて…今度は俺の唇に兄ちゃんの唇が重なって……
「……ッ…んぅ……」気づけば、俺のファーストキスは兄ちゃんに奪われてしまっていた。…なんか、想像してたファーストキスとは全然違うけど、爽やかなそんな感じじゃなくて、兄ちゃんの吸ってるタバコの苦い味がして。
でも、多分俺はこのキスのことずっと忘れないんだろうなって、なんかそんな気がした。
因みに俺と兄ちゃんは、お互いの両親が再婚して兄弟になったから直接の血の繋がりは無い、と知るのはもう少し後の話。
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