箱庭
お前は俺のものだよ。
最近、新弥の様子がおかしい。見るからに元気が無い。挨拶にも覇気が無いし、食欲も落ちているようだ。
「ねぇ。新弥。どうしたの?なんかあった…?」
新弥と俺がいるのは、喫煙所。大体、新弥は楽屋にいなければ喫煙所かトイレにいるからね。
…新弥の吐き出した紫煙を吸い込んだ。何となくキスしているような感覚に陥る。俺の吐き出した煙草の煙も、新弥に移ってるのかな?
「あぁ…いや…最近さ、何か…部屋が変なんだよな…部屋だけじゃなくて、その…」
「部屋?他にも何かあるの?」
新弥は、少し言いづらそうにしながらもポツリポツリと話してくれた。
無言電話が掛かってくる。しかも、深夜に決まって。相手は非通知。拒否をしても、何故か掛かってくるらしい。
それに、部屋の配置が変わっている。出かけた時の靴の位置が、帰る時には違っていたり、脱ぎっぱなしにしていた服が綺麗に畳まれていたりする、と。
「…へぇ。気持ち悪いね。」
「だろっ?!それに、時々洗濯物も無くなってたりすんだよ。意味わかんねぇし…後さぁ…マンションのポストに俺の写真、隠し撮りしたヤツ入れられてた。…勘弁してくれって。」
「後さぁ…彼女にも連絡取れねぇんだよ。…浮気してんのかなって…」
「え?でも、付き合ったばっかりじゃなかった?」
「そうなんだけどさ…最近忙しいから、確かに構ってやれなかったのは事実だし…」
「…新弥。もし、アレなら…うち泊まりにくる?
部屋帰るの気持ち悪いでしょ?」
「え?いいの?咲人んち、大丈夫か?」
「いいよ。俺は、今フリーだから。」
じゃあ、お言葉に甘えようかなぁなんて言う新弥の安心したような表情。…あー…可愛いなぁ。
俺、ポーカーフェイス崩れてないよね?
とりあえず、今夜は新弥が家に泊まりに来る。
それだけで、俺の気持ちは果てしなく舞い上がりそうだった。
「…お邪魔しまーす。…咲人んち泊まるのって、どんぐらい振りだろうな?…お、荒れてるかと思ったら綺麗にしてんじゃん。」
「…流石にね。最近は、ちゃんと片付けたりしてるよ。上がって。何か、飲み物入れるから。」
新弥とそのまま仕事終わり、俺の部屋までやってきた。玄関で、靴を脱ぎながらそんなことを言っている新弥に俺はクスクス笑って部屋の中に入るよう促して先にフローリングの廊下を歩く。食事は、外で済ませてきたし。とりあえず、落ち着いて過ごしてもらうかな。
さて、冷蔵庫の中と相談。
「…新弥ぁー。何飲む?ハイボールが良い?新弥が好きそうなの、あとは焼酎とか…」
「え?いや、良いよ。適当なので!泊まらせて貰うんだしさぁ。」
俺の後に続いて、フローリングの廊下を渡ってリビングの方にやってきた新弥に俺は小さなソファーに座るよう促して。
…アロマ焚いといて良かった。
「んじゃ、適当にいれるね?」俺は、キッチンの戸棚からグラスを二つ取り出して自分にはカクテルを。新弥にはハイボールを作ってあげる事にした。新弥は、酒好きだからね。それに、自分でも作るくらいだし。俺も、出来た方がいいかと思って練習したんだよ。
慣れた手つきで、炭酸とベースを割る。…ほんの少し、新弥の分には隠し味を足して。
出来上がったカクテルと、ハイボールの入ったグラスを手に俺は新弥の元に向かう。
「はい。どうぞ。俺が作ったから、ちょっと味薄いかもしれないけど…」
「マジで?咲人も、酒作ったりすんだな?」
「うん。最近、ちょっとね。…飲みながら配信とかもしたりするしさ。」
「あぁー。俺もやるな。それー」
うん。知ってる。俺も新弥の配信は、聴いてるから。新弥の声は心地良いから、好き。
「んじゃ、今日もお疲れっした!」
グラス同士を軽くぶつけて乾杯。
互いにグラスに口を付ける。俺、このカクテル好きなんだよね。用意しといて良かったな。
「あ、咲人。これ美味いよ。ちゃんと出来てるじゃん。」
一口飲んでから、言われた言葉は賞賛の内容で。それが嬉しくて、俺は軽く笑ってみせた。
「…そう?ありがとう。練習した甲斐があったなぁ。」
そうして、飲みながら話しているうちに時間は過ぎて行って2人ともいい感じに仕上がってきた。…俺は、それほどでも無いけどね。
「新弥ー。先にシャワー浴びていいよ。…眠そうだし。その間に、着替えとか用意しとくから。」
「あー……ん。ごめ、…そうするわ…何か、最近ちゃんと寝れてねぇから…ありがとな?咲人…」
「どういたしまして。ほら、立てる?」
目がボーっとしている新弥の手を引いて、俺はソファーから立ち上がらせると浴室の方まで連れていってあげた。
さて、俺はその間に新弥の着替えと寝床を確保しないとね。
「…んー。…コレ、かな?…」新弥のサイズに合わせて買ったジャージ。これなら、着られるだろう。
バスタオルと下着も一緒に脱衣所の所に置いておく。
リビングと寝室に漂っているのは、俺が好きなイランイランの香り。
そうしているうちに、新弥はシャワーから出てきたらしく物音が聞こえた。
…何か、緊張してくる。別に、ソウイウコトする訳じゃ無いのに。
「咲人ー…シャワーありがと。…何か、着替えもサイズぴったりだったし、ありがとな?」
「んーん。いいよ。俺も、シャワー浴びてくるね?」
俺も、自分の分の着替えを持って浴室の方に向かって行く事にした。脱衣所で、服を脱いで洗濯もしてしまおうと思っていたから新弥の脱いだ分もそのままランドリーの中に突っ込んだ。
浴室に入ると、そんな訳無いのに新弥の匂いが残ってるような気がして…つい、昂った。から
俺は、自分が新弥に抱かれてるのを想像しながら自慰をした。
上がった息を整えて、身体もしっかり綺麗にした所で俺は浴室から出て着替えを済ませれば
リビングの方に向かう。
「あ、新弥。ベッド使っていいよ。俺、こっちで寝るから。」
「え?嫌、それは悪いしさ…俺が、こっちで…」
「別に良いって。ね?ベッドの方が、楽でしょ?」
「んー…嫌、でも泊まらせてもらってるんだし………咲人が、嫌じゃねぇなら一緒に寝る?」
「……へ?」「…嫌!ごめん!キモいよな?!やっぱ、咲人がベッドで…「いいよ。一緒に寝よ?」
俺、多分今までにないくらいにいい表情してたかもしれない。
それ以上に緊張もしてたんだけどさ。
俺の寝室の狭いベッドで、2人で横になった。
ダブルじゃないから、どうしても大の男2人が横になると身体同士ぶつかってしまう。
新弥は、謝ってたけど俺は嬉しかった。
その夜は、いつにないほど幸せな夢を見られたような気がする。
あ、明日は燃えるゴミの日だっけ。
ちゃんと出しておかないとな。
バラバラにすんのって、意外に大変なんだなぁ。
しかも、日が経ったら臭ってくるし。
ごめんね。新弥の彼女、もう、戻って来ないよ。
だって、全部やったの俺だもん。
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