sweet nightmare?
ーーあの淫魔が俺の前に現れてから、早くも数日が経っていた。首周りに残されていた痕は、薄くなってきたけどまだ消えてはいない。さすがに、人前に出る仕事上大っぴらには出来ないし、首元を隠せるような服を着るかメイクで隠すしか無くて…とんだ災難だ。
確かに、新弥には似ていたけど…それだけ。
彼は、きっとあんなんじゃない。
……あの痕を指摘されてからと言うもの、何となくギクシャクとしてしまって話し辛い感じになってるんだよね。
ーーはぁ。一つ溜め息が零れた。
「咲人ー…あのさぁ。今日、時間あったりする??」
撮影の仕事が終わって、喫煙所にいた時だった。ゆーじくんが、そんな事を言ってきたもんだから俺は思わず変な表情になっていたかもしれない。
だって、凄く珍しい事だから…ゆーじくんが俺の事誘うなんてさ。緊張しちゃうじゃん。
「え、う、うん。大丈夫。」
「そっか。じゃあ、ちょっと飲みに行かね?」
「え、あ、うん。」
大丈夫かな?俺、ちゃんと顔作れてた?
変な顔してなかったかな?普段の俺だったかな?あ、でもゆーじくんと久しぶりに2人で出かけられるんだ…緊張はするけど楽しみ。
映画観に行った時以来だもんね。
帰宅準備をしてから、2人でタクシーを捕まえて近所の居酒屋まで飲みに出かけた。
そう言えば、彼は何で俺を誘ったんだろう?
何か、仕事の話でもあったのかな?
それなら、それで相談に乗るまでなんだけど。
「あのさ……すげぇ、変な話していいか?…」
「変な話?」
「おー…あのさ、多分引かれるって思うんだけど……夢、だと思うんだけどさ……」
「うん…?」
「咲人そっくりなヤツが出てくんだよ。…何か、夢にしてはすっげぇリアルなんだよな…でも、アレは咲人じゃねぇってのはわかる。尻尾生えてんだもん。」
ーーーお?
何だか、雲行きが怪しいような話の展開なんだけど?それは、ひょっとしてアレだろうか?こんな時、俺もゆーじくん並みに鈍ければ良かったのに。頭の回転が速い方だとは自負してるから、その先の展開に気づいてしまった。多分、それは…
「…ツノとか、生えてるし、やったら露出度高ぇしさぁ。一瞬、女?って思ったけど胸とかねぇし。自分は、淫魔だって言うし…俺、疲れすぎておかしくなったんかと思ってさ…」
ーーゆーじくん。多分、それと同じ類のヤツが俺の所にも現れましたよ。
「う、ん……で、何かされたの…?」
俺の質問が少し地雷だったのか、彼は少し俯いてしまったんだけど意を決したように顔を上げて
「……多分、精気吸われた…。正直、アレはすっげえ…ヤバかった…」
そう言って、少し頬が赤くなった。
え、何されたんだ?ホントに。
「…ってか、咲人…俺の言った話信じてくれんの?」
あ、少し不安そうにこっちを見る目。
何か、大型犬が困ってるような表情に見えて可愛らしくも見える。やだな。こんな事思うなんてさ。恋は盲目って、言葉は間違っちゃいないんだ。
「うん…信じる。だって……
俺の所にも同じようなのが出たから。」
淫魔…所謂、インキュバス、サキュバスと言われる悪魔。夢の中に現れて異性の姿で、人間を惑わせて精気を喰らう。
俺たちの前に現れたのは、互いの姿を模したもの。
でも、そんな事ってある…?
呆気に取られているような彼の姿を見て、俺はまたあの淫魔が現れるような気がしていた。