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前世の「私」はオタクで、アニメや漫画に囲まれて生きていた。働くのは、少しでも推しに貢ぐため。そんな「私」が車に跳ねられたのは、クリスマスイヴのデートで、2年付き合っていた彼氏に「俺より趣味の方が大事なんだね。」と振られた帰り道だった。その日発売であった漫画の新刊が、「私」の血で真っ赤に染まっていくのが見えた。振られた帰り道に漫画を買うような女だから振られたのかな、そう考えたのが最期の記憶だ。
今世でこの記憶を思い出したのは、10歳の夏。父が目の前で海賊に殺された瞬間だった。父の血で真っ赤に染まった本が記憶を呼び覚ましたのかもしれない。父が目の前で殺されたショックと訳のわからない記憶が頭に流れてくる混乱。それは当時10歳であった私には到底耐えられるものではなく、私の意識はそこで途切れた。
次に目を覚ましたとき、私は「私」でもあった。前世の記憶は確かに「私」自身のもので、「私」は私として、今世に生まれたのだ。その事実は、意外にもすんなりと胸に落ち着き、私は「私」で、「私」は私なんだと受け入れることができた。
目が覚めて最初に目に入ったのは海軍制服を着たお兄さんだった。彼は私に体の調子を尋ねた。大丈夫だと答えるとともに、私が父について聞くと、彼は悲しそうに首を振った。父が死んだという事実を私は受け入れられなかった。今世において、私の家族は父だけで、父は私の世界のすべてだった。涙は出なかった。信じたくなかった。
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それから数年。私を拾ってくれた海兵さんに頼み込み、鍛えてもらった。父を殺した海賊を捕まえたかったからというのが一つ目の理由。そして二つ目の理由は「推しに会うため」。
父を失った私は絶望していた。もう生きる意味さえないと思うほどに。そんな私を支えてくれたのが、私を拾ってくれた海兵さんと前世の記憶。目を覚ました混乱で気がつかなかったが、落ち着いてきた頃にふと気がついたのだ。「あれ?この海兵さん、どっかで見たことあるぞ?」と。
結論から言えば、彼は青キジ─グザンだった。まだ、大将にはなっていなかったが。
このとき、私はONE PIECEの世界に転生していたという事実を知ったのだ。
父さん、私、生きる希望を見つけたよ。
前世オタクの私は、父を失った絶望を乗り越えるために、推しに会いに行くことを決意したのだった。あ、もちろん復讐は忘れないよ?
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かくして、海兵となった私なまえは、父さんの仇を探すため、推しに会うため、大将青キジの下で日々働いている。
「なまえー、お茶ー。」
因みに目の前でだらけているこの糞上司は、前世の私の推し3である。キャラとしてはすごく魅力的だし、戦闘とかのときはめちゃくちゃかっこいいけど、上司にしたら糞だった。まあ、恩人だし、鍛えて育ててくれたし、感謝はしているけれども。書類仕事を人に押し付けるわ、気がついたらいないわで超迷惑です。
私は、無言でお茶を机に置くと、彼を睨み付ける。
「…怒ってる?」
「人に仕事任せて旅に出ておいてよくそんな事が言えますね。」
今回も、彼は私と仕事だけを残し、1週間ほどどこかへ行ってしまったのだ。
「ごめんごめん。いつもありがとね?」
苦笑を浮かべながら、手を合わせるグザンにため息が溢れる。別に書類仕事を任せられるのは嫌じゃない。そういう作業は結構得意だし、重要書類までまかされるのは彼が信頼してくれているからだと思うし?
でも!私は!推しに!会わなきゃいけないの!私も旅に出たい!任務でもなんでもいいから、推しに会いたい!
「…次は連れてってくれるっていうなら許します。」
グザンは再び苦い笑みを浮かべると、しょうがないなと頷いた。
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それから私の推し探し計画に動きがあったのは、季節が二つ流れ、木々が色とりどりに色づき始めたある日のことだった。
遂にエースが賞金首になった。原作の開始の2年前だ。ここら辺からは原作で語られることが多くなったので、推しを追いやすくなる。
まあ、これよりも前に推しに会う機会は何度かあったのだが、仕事が忙しかったり、状況が許したくれなかったりでまだ姿もみていない。王下七武海であるドフラミンゴやミホークとは対面済みだから、我が推したちに繋がる伝手は既に押さえてある。…のだが、いざ会ったら多分発狂する。立場上、海賊をみて発狂(狂喜乱舞)したら明らかにまずいので、心の準備ができてからにしようとか思ってたら、原作始まっちゃいそう。どうしよう。
何かしら行動を起こさないと、推しに会うのが頂上戦争になってしまう。あの戦争は推しがどうとか言っている場合ではなくなると思うので、初対面には最悪の場だ。
あ。私、原作厨なので原作改編とかはするつもりないです。エースもサッチも白髭のオヤジも大好きだけど。黒髭とか殺してやりたいけど。でも、我慢。まあ、黒髭を捕まえる努力はします。海軍なので。
実は、明日からの遠征(今回は糞上司はいないよ!)が、白ひげ海賊団の所なんだよね。なんかセンゴクさんが白ひげにお手紙持ってけって。つまり確実に推しに会っちゃうんだよ。発狂しないように気を付けなきゃ。
あ、でもサッチとかエース(多分まだいない)とかオヤジに会っちゃうと助けたくなるので、会いたくないな。
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という訳で、やって来ました新世界!いやー!相変わらずすごい天気だね!
移動中ぽけーっとしながら、思ったんだけどさ。良く考えたら、現海兵の私が一人で白ひげ海賊団に会いに行くって、死亡フラグじゃない?え?私捨て駒だったの?つら…ってなったんだよね。おかしくない?我、大将補佐ぞ?一応だけども。
まあ、仕事だし行くけどね。皆!私が死なないことを願ってくれ!いや、推しに殺されるならいっそ本望か?でも、彼はあくまで推し2だからな。推し1に会って、更に父の仇を打つまでは死ねない。
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どういうことだろう?近くの海域まで送ってくれた軍艦と別れ、1人小舟でどんぶらことモビーディック号に近づいた私。だが、白ひげ海賊団からは何のアプローチもない。私、思いっきり隊服だし、砲弾の一発や二発、若しくは空飛ぶ我が推しあたりが来てもおかしくないと思ったんだけど。あ、女1人にそこまでする必要ないからかな。そりゃそうか。しかも1人で来るってことは、何か用があるんだろうって思うだろうしね。上に登っていってもいいかな?それとも、ここからご挨拶した方がいい?
うーん…。と顎に手をあて悩む私の前に現れたのは、美しい青と黄色の炎を纏った、我が麗しの推しだった。
私は声にならない悲鳴を上げた。
「───────っ!!!!!」
正確には漏れ出る悲鳴を必死に押し殺した。だって、目の前にいきなり推しが出てきたら吃驚するじゃん。私気配には敏感な方なのに!そんなの、叫ぶじゃん。感動で泣きそうになるじゃん。しょうがないよね!
まあ、叫びかけた時点で首にナイフ突きつけられたので、涙は引っ込んだけどね?
「…海軍が、こんなところに何のようだぃ?」
あー、耳元で!耳元でマルコが喋ってる!耳が!耳が幸せ!!好き!!!
止めどなく溢れる感情をどうにか隠し、私は用件を伝える。
「センゴク元帥からお手紙を預かって参りました。…よろしければ、白ひげ…船長さんにお目通り願いたい。」
白ひげって言った時にちょっとナイフが首に食い込んで血が流れた。本当にオヤジが大好きなんだね…。敵の口から名前が出るだけで力入っちゃうほど。なにそれ尊い。私の推し2は、糞上司と違って実際に会ってもかっこ良かったです。神様ありがとう。
「手紙だけ置いて帰りな。わざわざ、オヤジに会う必要はないだろぃ。」
「センゴク元帥から、手紙の返事も貰うようにと仰せつかっています。お目通りが叶わないのなら、返事が頂けるまで、こちらで待たせていただきます。」
「…。」
マルコは私を解放すると再び船内へと戻っていった。
私は彼に切られた首筋を触る。薄皮一枚切れただけで、大した傷ではなさそうだったが、一応軽く手当てをする。
モビーディックの中、入ってみたかったなぁ…。推しの居住スペース、見たかったなぁ…。そんなことを考えていると、マルコが再び船から降りてきた。降りてくる際に能力を使うのが、いちいち格好よくて辛い。日の光と相まって、もはや神々しい。尊い辛い。語彙力ないな私。
「センゴクには、分かったとだけ伝えてくれよい。」
それだけ言うと、マルコは私の返事も待たずに、船へと戻っていく。
あーつれない!でも格好良い!!好き!!!1人、推しの尊さに咽び泣く私を、上からマルコが見ていたことには、このときは気がつかなかった。
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「只今、戻りましたー。」
マリンフォードに帰還した私を出迎えてくれたのは、センゴクさんのペット?のヤギさんだった。
「メェ~!」
可愛らしく鳴く彼(彼女かもしれないが)に着いていくと、バルコニーで休憩中のセンゴクさんの元へ辿り着いた。
「おお、なまえか。無事で何よりだ。」
ふぅと一息つき、安心したようにいう姿に、この人は私のことを捨て駒だなんて思ってないんだなと嬉しくなる。まあ、本気で思ってた訳ではないし、センゴクさんがそんな人ではないことは知っていたけれど。
「で、どうだった?」
「白ひげは、"分かった"とだけ。」
「そうか…。」
顎に手を当て考え込むセンゴクさん。この時点で海軍の元帥が四皇である白ひげに伝えることなんて、想像もつかないが、何か大変なことでも起きたのだろうか。そもそもここが私の知るONE PIECEの世界なのかもよく分からないし、もしかしたら原作通りに物事は進まないかもしれない。そう考えると、少し怖くなる。
「あれ、なまえ帰ってきてたの。おかえり。」
考え込むセンゴクさんの隣で佇んでいた私を見つけ、グザンさんが声をかけてきた。同時に、不安に押し潰されそうだった私の脳が仕事モードに切り替わる。
「只今帰りました。…ところでグザンさん。今の時間は仕事をしているはずでは?」
笑顔でそう問うと、我が上司は途端にまずった!という表情をする。
「あー。ちょっと行き詰まったっていうか、疲れたっていうか?」
「仕事が貯まっていないなら別にいいんですよ?どうですか?貯まってませんか?」
再び笑顔で問いかけると、この糞上司、あろうことか、すっごく良い笑顔で
「貯まってる。」
とか抜かしやがるから、センゴクさんに別れの挨拶をし、糞上司に仕事をさせるべく、彼と共に執務室へと足を向けた。
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落ちは多分グザンさん。
気が向いたら続きます。
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