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その他


ふと意識が浮上したのは隣にあったはずの体温が消えたから。
寝ぼけ眼には窓から射す光が眩しくて目を細めた。
ぬくもりをなぞるようにシーツを撫でる。
目を開ける前に感じた通り、隣にいたはずの左馬刻さんはぽっかりといなくなっていた。
きっと水でも飲みに行ったのだろう。
床に落とされたまま散らばった上の服を着て、私もベットから出るとつま先からひやりとした冷気にぶるりと震える。
もう、冬の足音がすぐそこまで聴こえる。
寝室を出てリビングに行くと窓が開いており、冷え冷えとした風が吹き込んでいた。
なるほど、つま先から感じた冷気はこれのせいらしい。
探し人は思いの外早く見つかり―――まぁ家の中にいるはずだから、そう長くかかるは思ってなかったが―――少しばかり探す楽しみを取られたみたいで残念だ。
足音を隠さず、ベランダで煙草を吸っている左馬刻さんに近づく。

「さーまときさーん」

呼びかけながら後ろから抱きつくと、ぐしゃぐしゃっと犬みたいに頭を撫でられた。
セットした髪でこれをやられるとまた整えるのが大変だから嫌だが、寝起きにこれをしてもらうとひどく安心するから好きだ。
適当に撫でるくせして、その掌はあたたかいからまるで魔法でも使ってるじゃないかと密かに思う。

「煙吸っちまうからあっちいってろ」

「……別にちょっとくらい大丈夫なのに」

左馬刻さんは煙草を吸ってるとき私を近づかせない。
私はそれが大切にされてると感じて嬉しのだが、その一方でくっつけないからちょっと寂しく唇を尖らせる。
気遣いをされているのは分かる、だがなかなか合わない休みの日はできるだけ一緒にいたいのが本音だ。
頭を軽く押す私を離そうとするのを背中に頭をグリグリして抵抗する。
その際に洗い立てだった左馬刻さんが着てるグレーのスエットに煙草の匂いが移っているのがわかった。

「たっく……」

「おっ?これは私の粘り勝ちです???」

珍しく私を離すのを諦めたのが嬉しくて調子乗ってそんなことを言うと、うるせぇって言ってさっきよりぐちゃぐちゃに頭を撫でられた。
あーあ、これはきっと鳥の巣にでもなってるだろう。

「てか、オメェなんつーかっこして出てきてんだ」

しばらく頭を撫でるのを堪能した後、私の杜撰な格好に気づいたらしく左馬刻さんは柳眉を顰めた。

「ベランダまで出るつもりなかったから上だけでいかなーって思って」

丈長いし。と言うと瞬間額に鋭い痛みを感じる。

「いっ〜〜〜!!」

「バーカ、これでちょっとは反省しろ」

大体オメェはいっつもテキトーすぎんだよ。って言われてしまえばぐうの音も出ない。
確かに、外では取り繕ってる故にきちんとしているが、家の中では恥じらいだとかそういったものは消失している。

「それとも誘ってんのか?」

耳元で愉しそうな掠れた声で囁かれら突然のことに思わずかなりの力で左馬刻さんの肩を叩いた。
本当になにを言ってるんだ、このヤクザは。

「っ〜〜てェな!おい!」

「昨日、仕事あるから嫌って言ったのに散々抱き潰したの誰かわかってから言ってくださいッ!」

耳元はきっと羞恥で赤いだろう、背後を陣取った私に心底感謝する。
誕生日だからって口実使われてしまえば、断れないことを知ってあれよあれよとベットに連行したのはどこのどいつだと言いたい。
抱きついていた腕を解き、左馬刻さんの隣に移動しベランダの柵に頬をついてそっぽ向く。
私が出てきた時よりも日が昇り随分と綺麗な朝焼けへと変貌としていた。

「……悪かった」

納得いかなさそうな態度して何だかんだ謝る様子が愛おしくて、つい笑い声をこぼしてしまった。
それが気に食わなかったのかオイってドスの効いた声が聞こえ、益々ツボにハマってしまうのは悪くない。

「まさか、謝るとは思わなくって、ふふっ」

「……俺様も謝るときは謝るンだよ」

目を私から逸らした左馬刻さんの顔を覗き込めば、先程の私のようにそっぽ向かれてしまった。
あーーこれは拗ねさせたかなと思ったけど、風に靡く白銀から除く耳が赤かったので、まぁ大丈夫だろう。
本当にこの男はこういうとこが可愛いんだよなーと思い、これは私だけが見れる優越感を噛み締める。
しあわせだ。
さまときさーんと呼びかけると、ちょっと拗ねたような声でンだよってチラりとこちらを見るもんだから、また笑みそうになったがグッと我慢する。
ここでまたへそ曲げられたら、ちょっと面倒くさい。

「改めて、左馬刻さん誕生日おめでとうございます」

「……ん」

「次の休みの日にちゃんと改めて祝わせてくださいね」

「……別に特別なことしなくていいからな」

「それは私がしたいからするんですよー」

本当は当日に祝いたかったのだが、思いどりいかないのが現実だ。
そんな気持ちを察してか、気持ちだけで嬉しいンだよ。と頭をポンポンするのは本当にこの男、本当にずるいたらありゃしない。

「……そういとこがずるいんですよ」

「そんな男が好きなのはおまえだろ」

ニヤリと再び機嫌が良さそうに笑むかんばせを新鮮な陽の光が照らし、顔の良さを引き立てているのだからたまったもんじゃない。
私が何だかんだその顔に弱いことを熟知してることが腹立つ。
なんだか我慢できなくて目を逸らすと こっち見ろ、頬を掴めれて強制的に見つめ合う形にさせられる。
私を射抜くルビーが陽光を受けてキラキラと輝く。
この世にこれ以上に綺麗なものはないんじゃないかと思う。
どんなに綺麗な宝石を見ても、この男のそれには勝てそうにない。

「さまと、」

「うるせぇ、黙ってろ」

言葉ごと飲み込むように、まるで食べてしまうかのようにキスは交わされた。
そのくせして重なる唇の温度はひどく優しいのだから、この男は本当に罪深い。
ずるく、優しく、甘い。
何度も、熱を分け与えるように交わされる口付けは深く、そして甘さを増すものだからこれは本当に中毒に変わりない。

「!?ちょ、ちょっと……!ここベランダですけど?!」

ふと自分たちがどこにいるのか思い出し、離された隙に口と口の間に手を滑り込ませてストップをかける。
イイところなのに邪魔すなと言わんばかりの雄弁な目と合うが知ったこっちゃない。
ここは左馬刻さんが借りてるところのような高層階ではない。
低層階であるから本当に誰に見られるか分からない。

「しゃーねーな」

「うわっ?!ちょっと!?」

仕方が無いとため息をつかれ、急に抱き上げられたものだから思わず驚きの声が漏れる。
そんな私を知らん顔して、脚冷てェとか言いながら脚に手を滑らせるもんだから悲鳴が上がる。

「ちょっ、ちょっとなにするつもりなんですか!?」

「そんなの1つに決まってんだろ」

そう言って寄越す顔は蠱惑的で思わず息を詰めた。
これはまずい。

「いや、冗談抜きに、本当に勘弁してください……!」

「まだ時間あるからイイだろ」

「良くないです……!!!!」

そんな私の悲鳴も虚しく、昨日の夜みたいにあれよあれよと流されるままになってしまったのだから、私も彼に随分と甘くて困ってしまう。
でも、そんな今がしあわせだ。





その後朝礼時間ギリギリに出勤し、銃兎先輩に「朝から随分とお盛んですね。首元ついてますよ」と揶揄われ、帰宅後に左馬刻さんにクッション投げたのはまた別の話。

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