左足のリグレット
name chenge
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季節は秋。この間まで暖かかったのに、ここ数日で急に冷え込んだからもうすぐ季節は冬に変わる。
私は自室のベッドで左足首に巻かれたアンクレットの冷たさを感じていた。
去年の夏、空が不器用に笑いながら着けてくれたシルバーのチェーン。
季節は巡り、海岸沿いもすっかり肌寒さを増す11月だというのに、私はそれを外せないでいた。
【左足のリグレット】
別れたのは、今年の春。
些細な口論が原因だったはずだ。私も空も意地を張った。
何をきっかけに言い争いが始まったのかは、もう思い出せない。
ただ、二人とも譲れなかった結果、別れが訪れた。
毎年夏に2人で行っていたビーチハウスも今年は行ってない。
空がいない日々にいつか慣れると思っていた。
でも、秋が限界だった。
(連絡してみようか)
ここ数週間、その思いが頭から離れなかった。
あの時、もっと大人になれていれば別れずに済んだんだろうか。
半年以上経っても後悔が薄れるどころか増すばかりだ。
連絡しようとLINEを開いては閉じ、連絡しようか迷う日々。
新しい人ができたなら、諦められるはずだと自分に言い聞かせても、それが自分ではないことが嫌だ。
そう思っていた矢先、ポケットの中のスマホが震えた。
画面には「山﨑空」の文字。
まるで思考を読まれたかのようなタイミングに、私は思わず息を飲む。
あの日から動いていなかったトーク画面に、新しいメッセージが表示される。
『急にごめん。少し話せないかな。いつもの場所で』
指が勝手に返信を打ち込んでいた。『わかった』
――――――――
待ち合わせ場所に指定されたのは、二人が一番よく通ったビーチハウスだった。
いつもなら賑やかなはずの空間は、季節外れなのも相まって、潮騒の音だけが響き、寂しさを感じる。
時間より早く着いたはずなのに、空からは『もう着いたよ』とメッセージが入っていた。
【close】の札がかかった扉の前に空を見つけた。
自慢のさらさらなストレートヘアは変わらないけど、別れた春より伸びた髪に会わなかった時間の長さを感じた。
空はまだ私に気づいていないらしく、海を眺めている。
「久しぶり」
その声は震えていなかっただろうか。
振り返った空の笑顔が昔と変わっていなくて胸が熱くなる。
そうだ、私はこの笑顔が好きだったんだ。
空は私を見上げると、左手を軽く上げて見せた。まるで挨拶のように、軽く。
しかし、その薬指には、細いゴールドの指輪が光っていた。
恋人ができたんだろうか、今日はその報告?嫌な予感が頭をよぎる。
でも、私と空の関係はもう終わっている。今更口出しする権利なんて、私にはない。
否定と肯定の相反する感情が頭のなかを駆け巡った。
2人並んで海沿いを歩く。あの頃よりも広くなった二人の距離が、別れたことを実感させた。
いきなり指輪のことは聞けなくて、当たり障りない話で場をつなぐ。
7ヶ月ぶりなのに、話し始めると付き合っていた頃に戻ったようで別れなきゃよかったと後悔が増す。
緊張も解けたころ、私は決心して話を切り出した。
「左手の指輪…新しい人ができたんだね。おめでとう、空」
私は立ち止まって祝福の言葉を絞り出した。
空が自分より優しい人、自分よりもっと彼女を大切にしてくれる人を見つけられたなら、仕方がない。
そう納得しようと思っていたのに。
その役割が自分ではないことがとてつもなく嫌だった。でもそれを、空に押し付けるわけにいかない。
気持ちを押し殺して、精一杯の笑顔を向ける。
振り返った空は私の祝福を聞いても、ただ静かに私を見つめ返した。
その口数が少ない様子が、私の心に重くのしかかる。
(引き止めてよ)
そう言外に責められているような気がした。
指輪を見せたのは、新しい幸せを報告するためじゃないのか?
私を試すための、あるいは挑発するためのポーズだったのかもしれない。
私は唇を噛みしめ、選択を迫られていた。
結末① 僕の負け
結末② 君の勝ち
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