星が消えないうちに
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9月17日:夜 由奈side
今月の頭から始まった出張公演も中盤戦。
今日から3日間は福井、長野、新潟での出張公演だ。
同じメンバーで3日間回るから、なんだか修学旅行みたいでワクワクする気持ちと、先輩方と地方でお泊りするのはほぼ初めてだから少し緊張もある。
特に今回は私が密かに憧れている先輩、秋元康さんもいる。
康さんと出張公演に出るのはこの3日間が最初で最後。
それに、AKB48劇場でやっていた誰恋公演でも一緒に出たことがなかったから、本当に最初で最後かもしれない。
新劇場になっても誰恋公演があると良いな。
誰恋公演は先輩のパフォーマンスを間近で見れるので、毎公演とても勉強になる。
出張公演が始まってからは、地方ごとで盛り上げ方や、MCの内容をその地方に寄せた話にしたりと、パフォーマンス以外の面でも勉強になることが多かった。
それに、公演の後に同期と集まって話すことも出張公演の醍醐味だったりする。
今日は、同期のあづ、さえ、ひなのとご飯に来た。
今日は、彩希さんのパフォーマンスがすごかった、愛佳さんのMCが面白すぎた、ずっきーさんと写真を撮ってもらった…みたいな先輩の話で盛り上がった。
「私今日、康さんと初めてちゃんと話したかも」
「あづも!」
「いいなー、ひなちゃんも康さんと話してみたーい」
「私もまだないかも~」
さえとあづが康さんと話せたことで盛り上がっている。
後輩メンバーの中でも康さんと話すのはかなりレアなイベントになってて、17期さんでも最近ちょっと話すようになったと、挨拶回りのときに言っていた。
15期の康さんは後輩の私達からすると少し近寄りがたい雰囲気をまとっている。
怖いとか厳しい人ではないんだけど、なんだろう…クール、なのかな。
公演中はスイッチが入るのか、MCの回しや先輩同士のボケツッコミみたいな軽快な会話をしてるけど、袖や楽屋では結構一人で静かにしている印象がある。
AKBに入る前はそんな一面があるなんて知らなかったけど、裏でのクールで物静かな雰囲気と、舞台上での明るい雰囲気のギャップに惹かれてしまう。
他の先輩に康さんについて聞くと、話しかければ普通に話してくれるよと言うけど、なかなか後輩の自分たちから絡みに行くのは難しい。
だから康さんから話しかけてくれるのはとんでもなくレア。羨ましい。
私は康さんのパフォーマンスが好きだし、康さんみたいになりたいって思うから、話してみたいけど、なかなかそんなチャンスは巡ってこなかった。
ホテルに戻って、お風呂も済ませてあとは寝るだけの状態。
SNSの投稿に付いたファンの方の返信を読んでいると、急にドアがガチャガチャと鳴った。
びっくりしてベッドから飛び起きる。
ドアがまだガチャガチャ鳴っている。
心臓がバクバクと跳ねるけど、隣部屋のあづがいたずらでもしてるんだろうと考えて、心臓を落ち着かせながらドアスコープを覗いた。
「…康さん?」
そこにいたのはまさかの康さんで、一瞬思考が止まる。
なんで康さん?という戸惑いと、こんなラフな格好で会うのは恥ずかしい気持ちが入り交じる。
…そういえばホテルの鍵が配られたときに、私の部屋の真上が康さんだったような。
多分、降りるフロアを間違えたことに気づいてないんだろう。きっとそうだ。
康さんの意外な一面を見れたことをちょっと嬉しく思いながら、私はドアを開けた
「…あ、開いた」
「康さん、フロア間違えてますよ」
「あれ…なんで由奈…」
微妙に会話が噛み合ってないし、康さんの目がいつもよりトロンとしてる。
「あれ、酔ってます…わっ」
そのまま康さんが倒れ込んできて、抱きかかえる形…いや、康さんのほうが身長が高いから覆い被されてるほうが近い。
ほんのりお酒の匂いがするから、酔って部屋を間違えたんだろうな。
なんとか部屋のドアを閉めると、上からスースーと寝息が聞こえる。
起こしてしまうのも悪いし、もう少し康さんといたいなっていう出来心もあって、とりあえず康さんをベッドに運ぶ。
なんとか降ろして、康さんのサンダルを脱がせたり、寝苦しくないように首元を緩めたりしていたら、急に腕を引っ張られた。
突然のことにびっくりしていると、そのまま康さんに抱え込まれる。
向かい合わせのまま、康さんの腕にすっぽりと包みこまれた。
おでこがくっつきそうな距離に、思わず心臓が跳ねる。
お酒のせいか、康さんの体がぽかぽかしている。
ほんのり香るお酒の匂いで、私も酔ってしまいそうだ。
すぅすぅと聞こえる穏やかな寝息と、包みこまれた腕から伝わる体温が心地よくて、私の意識はゆっくり夢へと溶けていった。