星が消えないうちに
name chenge
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9月19日:夜 康side
ホテルを出て2人で夜道を歩く。
由奈からのLINEは、私が頭の中で巡らせていた気持ちと一緒で、同じ事を考えていたんだと思うと少し期待してしまう。
「なんかあっという間だったね」
「そうですね」
「3日前までは由奈と2人きりで話すことになるなんて思わなかったな」
「ふふ、私もです。あの日、康さんが酔ってなかったらこんなに話すことなかったかもですね」
「う、確かに…。でもなんか、予想外のことがありすぎて夢みたいな3日間だった」
今日が終われば、しばらく由奈とは会えなくなる。
この3日間の関係が、夢のようにさめてしまうんじゃないかと思うと少し怖い。
由奈がどう思っているかは、わからないけど。
大通りを道なりに進むと開けた川沿いに出た。
二人でぼんやりと夜の川を見る。
川の向こう岸の街の灯りが水面に長く伸び、夜風が二人の間を吹き抜ける音だけがやけに大きく聞こえる。
空には月が出ていたけど、薄雲がかかっていて、周囲をぼんやりと照らしていた。
「康さん…」
その声に、私は由奈を見る。
由奈は俯いていて、表情が見えない。
その手が、私の服の裾をきゅっと掴んでいた。
「ん、どうしたの?」
由奈が意を決したように顔を上げる。
「康さん…私、今日までのことを夢で終わりにしたくないです」
「え、それはどういう…」
「この3日間で、康さんがただの先輩じゃなくて、色んなところを知ってる特別な先輩になったんです…だから…だからもっと、康さんの事が知りたいです、もっと近くにいたいです」
「えーっと…」
まさか、こんなにストレートに感情をぶつけられるとは思わなくて、言葉が詰まる。
先輩として、適切な距離を取ることが正解なんだろうけど、そんな理性を私の感情があっという間に飛び越える。
湧き上がる熱を抑えながら、返答を必死に考える。
一瞬の沈黙を、否定的な意味に捉えてしまったのだろう。
由奈の目に不安の色が広がる。
「だめ、ですか…?」
その表情が、あまりにも切なくて胸を締め付けられた。
「っ…いや、だめじゃないよ、むしろ嬉しいと言うか…その、なんて、返事しようかって思っちゃって…」
由奈を不安にさせてしまった事に気づき、慌てて沈黙が否定ではないことを伝えようとしたけど、うまく言葉がまとまらない。
「私も、こんなに素を出せた後輩は由奈が初めてで、話してて楽しかったし、もっと由奈のこと知りたいって思った。それに…私ももっと由奈と一緒にいたいなって…」
とにかく、自分の気持ちを正直に伝えようと思って、言葉がまとまらないまま話してしまったけど、由奈は真剣な眼差しで聞いてくれていた。
そして由奈は勢いよく私の胸に抱きついてきた。
私もそっと由奈を抱きしめ返す。
細い背中に回した腕に伝わる熱と、この匂いと、この感情を、もう大事な後輩という言葉で誤魔化すことはできそうにない。
ずっとこのままでも良かったけど、流石に誰かに見られるのはまずいから、抱き寄せた体を離す。
2人で顔を見合わせて笑った。涙で由奈の目が潤んでいる。
空を見上げると月が出ていた。
「月が綺麗だね…あっ」
何気なく言った言葉に、有名な別の意味があることに気づいて、私の顔は一気に熱くなった。
由奈もそれに気づいたようで、照れたように笑っている。
「本当に、月が綺麗ですね」
そう言った由奈の眼差しは真剣で、同じ気持ちだったことを直感した。
無意識のうちに二人の距離がゼロになる。
周囲の雑音が全部消えて、うるさく跳ねる心臓の音だけが聞こえた。
そろそろ戻らないと配信の時間に間に合わないから2人で来た道を戻る。
肩が触れそうな距離で歩いていたら、お互いの手が触れてどちらからともなく手を絡めた。
石壁に二人の影が揺れていた。
エレベーターに乗り込むと由奈がポツリと言った。
「康さんの部屋、お泊りしてもいいですか?
しばらく会えなくなっちゃうし…」
申し訳なさそうで、どこか期待したような表情が愛しくて、おいでと返事をしたら由奈がぱっと笑顔になる
「ずっきーの日跨ぎ配信で先輩みんなずっきーの部屋にいるから、その間においで。じゃないと面倒な人らに会っちゃうから」
美音と愛佳を思い浮かべながら由奈に言うと、由奈も意図を汲み取ったようで笑いながら返事をした。
エレベーターが部屋のあるフロアに到着する。
扉が開く直前、由奈が私の耳元でこっそり呟いた。
「夢が覚めちゃう前に、次の魔法をかけてくださいね」
終わり
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