星が消えないうちに
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9月19日:公演中 康side
長野からバスで新潟に到着し、すぐにリハーサル、そして本番が始まった。
私にとってはこれが最後の出張公演だから、一抹の寂しさがある。
公演は順調に進み、あっという間に中盤MCの時間になった。
MCのお題はバスでの話の通り、「やらかした話」だ。
自分の口から説明するのは気が重いけど、せめて私だけのやらかし話として笑ってもらえるように話の流れを作る。…時間が押して、話さなくていい流れにならないかなぁ。
ユニット明けの中盤MCが始まった。回し役の愛佳が満面の笑みでマイクを握る。
「中盤MCのお題は何にしますか、みーおんさん」
「出張公演中の事件〜!!」
「はい、ある人〜…あ、康さんはオチです、下げて。じゃあ、ずっきー!」
メンバーの他愛ない話が続く間、私はずっと気が気じゃなかった。
早く終わりの合図が出てくれと心から願う。
ずっきーの話が終わり、ついに私の番が来た。
愛佳がにやにやしながら目配せしてくる。
「それじゃあ最後オチ、康さんお願いします!」
「…自分で言うのめっちゃ嫌なんだけど」
「自分が悪いんだからしょーがないです」
愛佳の正論にぐうの音も出ない。
私は観念してマイクを口元に近づけた。
「はい、えーっと…酔って記憶をなくした挙げ句、後輩に迷惑を掛けました…」
会場が一瞬静かになり、次の瞬間、どっと大きな笑いが起こった。
メンバーも客席も爆笑している。
「えー、意外。康さんって酔うんだ」
「まほぴょんどこに感心してんのwww」
そこじゃないだろってところに食いつくまほぴょんを、みーおんが笑っている。
「これは楽しみですね~詳しくお願いします」
私は腹をくくって、福井の夜に部屋を間違えて朝まで寝ていた話をかいつまんで説明した。
みーおんと愛佳は事情を知っているので腹を抱えて笑っているが、後輩たちは意外な事実に驚いている。
後輩たちの中に、由奈の姿が見えた。由奈は緊張したように口元に手を当てている。
「で、その後輩っていうのが…」
「秋山由奈ちゃんです…」
「よりにもよって一番後輩っていうね~。本当にタチ悪いですよねw」
にやりと笑い、後輩の名前を聞く愛佳に観念して、白状したらみーおんにとどめを刺された。
「秋山ちゃん的にさ、どーだったのよ、酔った康さんは」
まさか由奈に振られると思ってなくて、由奈の方を見ると、少し恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
「えー、何か…普段とのギャップが凄くて…」
「いっつもあんなにクールなのにね、引いた?」
「引いてないですw なんかすっごい…可愛かったです」
すぐに客席から「ひゅ~!!」と歓声が上がる。
いつもならありがたく思う客席からの歓声も、今日はただただ恥ずかしいから勘弁してと思ってしまう。
それに由奈の真っ直ぐな、一点の曇りもない笑顔と、「可愛かったです」というストレートな言葉に、頬が燃えるように熱くなり、胸が高鳴るのを感じた。
おそらく耳の先まで真っ赤になったことが恥ずかしくなって、顔を隠すようにそのまましゃがみ込む。
追い打ちをかけるように、メンバーと客席からの「可愛い!」コールが会場に響き渡った。
愛佳がニヤニヤしながら私の隣にしゃがみ、諦めろ、とでも言うように肩をポンポン叩く。
「これはもう慰謝料払わないと、康さん」
「はい……」
絞り出した声が情けなく聞こえる。
「何が良い、秋山ちゃん」
「え、なんでも良いんですか?」
「なんでも良いよ、あの人お金持ってるから」
「じゃあ…今日の夜、ご飯に連れてってください!康さんのおごりで」
「え、2人きりで…?!」
「ちがうちがう!18期とです!」
みーおんの発言は誤解を産まないためのフォローなのか、いじりたいだけなのか…多分いじりたいだけだな。
思わぬ棚ぼたに、18期のメンバーが歓声を上げ、ハイタッチしている。
私は、もはや断る理由もなく、ただ笑顔で答えた。
「なんか康、役得じゃない?」
「まあでも康さんが後輩と喋ってるだけでもう大分おもろいですよ」
「じゃあ、由奈ちゃんはご飯の話をXとかで共有してもらうということで、次の曲の準備ができました」
愛佳が笑いのオチをつけ、みーおんが曲振りをして、爆笑のままMCが終わる。
どっと疲れたけど、気持ちを切り替えて公演に集中した。
公演が終わり、楽屋で帰り支度をしていると、18期に囲まれた。
早速、お店のリストアップをしたらしい。
半ば強制的に決まったことなのに、嬉そうに各々行きたいお店をプレゼンしてくれて、思わず顔が緩むが、同時にいきなり後輩に囲まれて緊張で心拍数が上がる。
でも、私が後輩に人見知りすることを知っている由奈が、上手く話を進めてくれるおかげで、いつもみたいなぶっきらぼうな会話にはならず、どうにか会話ができている。
時折、私の様子を伺うように目線を上げる由奈と目が合う度に、心臓がどきんと鳴る。
後輩に気を回されている申し訳なさと、緊張からくる気恥ずかしさで目線を上げると、ちょうど視線の先にみーおんとせいちゃんがいた。
にやにやしながら2人がこっちに近づいてくる。イジられるわ、これ。
「康が後輩に囲まれてんのめっちゃおもろいwww」
「笑いすぎでしょ」
「ちょっと緊張してるでしょ」
「うっさい。してないし」
指さして笑うみーおんと、緊張を見透かしていたせいちゃんをしっしっと追い払う。
そろそろホテルまでのバスが出る時間だ。
「じゃあ行きますかー」と声をかけると、18期が「はーい!」と元気よく返事をした。