星が消えないうちに
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9月19日:移動中 由奈side
集合場所に現れた康さんは、なぜか美音さんと愛佳さんに脇を固められていた。
話しかけようと思ったけど、先輩2人に挟まれた状態で話しかけるのは、恥ずかしい。
ちらちらと康さんを盗み見るけど、朝のことなんて何もなかったとでも言うように全然目が合わなくて、期待してたのは私だけなのかなと胸がチクリとした。
AKBではバスの座席は先輩が先に乗って、後輩がその後に座るのが暗黙のルールになっている。
18期は今回の出張公演メンバーで一番後輩だから、一番最後にバスに乗り込んだ。
開いていた席が康さんたちの2つ前だったから、少し緊張する。
あづが窓側、私が通路側で席に座わった。
バスがゆっくりと出発する。車内は少しざわついていて、なんとなく修学旅行っぽいなと思う。
あづとおしゃべりしようと思ったのに、隣のあづは寝たりないみたいで、バスが出発すると同時に眠ってしまった。
することないし、私も寝ようかなと思ったら、後ろの席から康さんたちの声が聞こえてきた。
思わず話の内容に耳を澄ませる。
「…私、見ちゃったんですよね~朝早くに康さんの部屋から可愛い後輩が出てくるところ」
「私も見ちゃったんだよね~康が夜中に可愛い後輩と2人っきりで話してるところ」
愛佳さんと美音さんの会話に、私の顔は一気に熱くなった。
全部バレてしまうんじゃないかと思うと心臓がバクバクする。
「後輩ちゃん顔真っ赤だったけど、何したんですか?」
「別に何もしてないよ…」
「別に何もしてない」という康さんの声に、胸がチクリと痛む。
キスをしたことまで、「何もなかったこと」として片付けられていくような気がした。
「福井の夜に何があったんですか?!」
「あー、いや…」
「酔って可愛い後輩の部屋でやらかしちゃったんだよね」
「えっ!?まじ!?」
「変な言い方しないでよ…酒に酔って部屋を間違った挙げ句、寝ちゃって後輩に迷惑かけたの!そんだけ!」
私にとっては特別な出来事でも、康さんにとってはちょっとしたハプニングだったのかと思うと心が沈んだ。舞い上がっていたのは私だけだったのかな…
「…まあ、どっちも私が迷惑掛けたんだよ。酔って部屋間違えたのも、部屋に連れてっちゃったのも」
康さんがポツリと言った言葉にハッとした。
…私に話の矛先が向かないようにしてくれてるんだ。
康さんが迷惑を掛けたって全部自分の責任にしてる。
私との出来事が、先輩や同期からイジられるネタにならないように、自分が悪いことにして私を守ってくれてるんだ。
その事実に、胸が締め付けられた。
舞い上がっていたのは自分だけなのかもしれないという寂しさと、康さんから守られていることへの嬉しさが混ざり合った、複雑な感情だった。
「今日の中盤MC、康さんがやらかした話にしませんか」
愛佳さんの提案に、康さんが観念して最終的に同意する声が聞こえる。
私は、康さんとのことを、何もなかったことにはしたくないのに…
もやもやした気持ちを抱えたまま、バスが最後のトンネルを抜けた。