短編
name chenge
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恋をすると、自分が嫌いになる。
本当は言いたいことがあったのに、本当はもっと可愛い自分を見せたいのに、目が合う度に頭の中が真っ白になって空回りしてしまう。
どうして、康の前では素直になれないんだろう。
【だってだってだって】
放課後の教室はまだ、昼間の熱が残っていた。窓から入る初夏の風が、私の頬を撫でていく。
今日は部活がオフのあいちゃんと帰る予定だったけど、顧問の先生に呼ばれちゃったから先に帰っていいよと言われていた。
だけど帰りたくない理由があった。
隣の康の席に、まだ荷物が置かれているからだ。
帰宅部の康はホームルームが終わるとすぐ帰ってしまうのに、今日は珍しく学校にいるらしい。あわよくば、一緒に帰れないだろうか。そんな淡い期待をして待っていた。
頭の中で、康に話しかける練習をする。
他のクラスメイトとは、どう思われようが関係ないと割り切って「普通の私」でいられるのに、康だけは違った。
「可愛く見られたい」と「自然な自分を見せたい」という相反する気持ちが頭の中で混ざりあって、結果、話しかけられるたびに頭が真っ白になる。
そして、口から出るのは「ふーん」「そっか」といった、そっけない言葉ばかり。
本当はもっと話したいのに。
その時、ガラッと教室の扉が開く音がした。
「――っ!」
入ってきたのは、康だった。
康の姿を見た瞬間、全身が石のように硬直した。
康が私に気づき、優しい笑顔を向ける。
「あれ、水島。まだ帰らないの? 珍しいね」
優しく、穏やかな、いつもの康の声。
私の脳内では「一緒に帰ろうって!可愛らしく!」と指令が飛ぶが、回路はショートする。
「あ、うん……別に」
私は目を合わせることもできず、冷たく突き放すような響きで答える。
康は一瞬戸惑った。
「そっか。……もしかして、私に何か用事でもあった?」
話を繋ぐチャンス。しかし、私の口は開かない。
「いや、別に…」
康は、少し寂しそうな微笑みを残し、「そっか。じゃあまた明日」と言って教室を出ていった。
康が去った瞬間、私は机に突っ伏した。
「なんで……!なんで、あんなこと言っちゃったの、私……!」
せっかくのチャンスを台無しにしてしまった。
自分の不甲斐なさと情けなさに自己嫌悪した。
「あれ、みずみん。待ってたの?」
ちょうどあいちゃんが職員室から戻ってきた。
「あいちゃん……」
「え、なになに、どうしたの?」
「どうしよう!私、康に嫌われたかも」
さっきの康とのやり取りを話すと、あいちゃんはあちゃーと頭を抑えた。
「みずみん、康の前だけは素直になれないよねぇ」
「ねぇどうしよう」
「もー泣かないの」
あいちゃんの手が私の頬を包み優しく拭う。
「分かった。私がなんとかするよ」
翌日から、あいちゃんは私が千歳と自然に話せるようにキューピッドとして動き出した。
休み時間の度に私の席に来て、隣の康を巻き込み3人で話す機会を設けた。
あいちゃんのフォローのおかげで、私はぎこちないながらも、康相手に「普通の私」で会話ができるようになってきた。
私の中に小さな自信が芽生えた。
そして数日後の放課後。
私が教室であいちゃんを待っていると康が現れた。
「あれ、水島。まだ帰らないんだね。」
私は深呼吸をし、まっすぐ康の瞳を見て答える。
「うん。あいちゃん待ってるんだ」
康は少し真剣な顔で、私の隣の席に座った。
「あのさ、ちょっと聞いてもいいかな。」
「…うん。」
「実はね、水島って私のこと嫌いなんだと思ってたんだ。結構返事が素っ気ないし」
「違うっ、私、康のこと……好きだから!話したいのに、可愛く見られたいのに……全部、頭の中でぐちゃぐちゃになって!頭が真っ白になっちゃうから…!」
康は驚きから一転、優しく微笑んだ。
「……そっか。そんな風に思ってくれてたんだ。
水島って、結構可愛い所あるんだね。」
「っ……!」思わず好きと言ってしまったことに気づいて顔から火が出るほど赤面する。
でも康は友達としての好きと受け取ったらしい。
康は「じゃあ、また明日」と言い残して教室を出ていった。
康の姿が見えなくなった瞬間、緊張の糸が切れ、椅子にへなへなと座り込んでしまった。
「みずみん、おまたせ~。って、どうしたの?」
戻ってきたあいちゃんに、さっきの出来事を話す。
「…………よかったじゃん、みずみん!」
あいちゃんは自分のことのように喜んで私を抱きしめてくれた。
それから数週間後。
あいちゃんのフォローと、康に素直な気持ちを言えたお陰で私は時折赤面しながらも、以前よりずっと自然に康と会話できるようになった。
放課後。今日はあいちゃんが部活だから一人で帰り支度をしていた。
本当はもっと早く帰れたけど、わざとゆっくり支度をする。
だってまだ隣に康の荷物があるから。
今日こそは、一緒に帰ろうって言おう、と心に決めて康が来るのを待つ。
「あれ、水島。今日も佐藤待ってんの?」
私は康の顔をまっすぐ見た。
「ううん。今日は康を待ってた」
「え、私?」
私の脳裏に、あの時の「可愛い所あるんだね」という康の言葉が蘇る。
今度は、ちゃんと素直に言える。
「あのさ、康」
「ん?どうした?」
「えっと……もしよかったら、一緒に帰らない?」
言えた。私は、心の中で歓喜する。
康は驚き、すぐに満面の笑みを浮かべた。
「もちろん!ちょうどよかった。水島と話したいことあったんだ。」
「よかった……!」
心の中で「だって」と叫び、自己嫌悪していた日々はもう終わりだ。
一歩、また一歩と、康の隣を歩く私の心は、夕焼け空のように明るく、澄み渡っていた。
本当は言いたいことがあったのに、本当はもっと可愛い自分を見せたいのに、目が合う度に頭の中が真っ白になって空回りしてしまう。
どうして、康の前では素直になれないんだろう。
【だってだってだって】
放課後の教室はまだ、昼間の熱が残っていた。窓から入る初夏の風が、私の頬を撫でていく。
今日は部活がオフのあいちゃんと帰る予定だったけど、顧問の先生に呼ばれちゃったから先に帰っていいよと言われていた。
だけど帰りたくない理由があった。
隣の康の席に、まだ荷物が置かれているからだ。
帰宅部の康はホームルームが終わるとすぐ帰ってしまうのに、今日は珍しく学校にいるらしい。あわよくば、一緒に帰れないだろうか。そんな淡い期待をして待っていた。
頭の中で、康に話しかける練習をする。
他のクラスメイトとは、どう思われようが関係ないと割り切って「普通の私」でいられるのに、康だけは違った。
「可愛く見られたい」と「自然な自分を見せたい」という相反する気持ちが頭の中で混ざりあって、結果、話しかけられるたびに頭が真っ白になる。
そして、口から出るのは「ふーん」「そっか」といった、そっけない言葉ばかり。
本当はもっと話したいのに。
その時、ガラッと教室の扉が開く音がした。
「――っ!」
入ってきたのは、康だった。
康の姿を見た瞬間、全身が石のように硬直した。
康が私に気づき、優しい笑顔を向ける。
「あれ、水島。まだ帰らないの? 珍しいね」
優しく、穏やかな、いつもの康の声。
私の脳内では「一緒に帰ろうって!可愛らしく!」と指令が飛ぶが、回路はショートする。
「あ、うん……別に」
私は目を合わせることもできず、冷たく突き放すような響きで答える。
康は一瞬戸惑った。
「そっか。……もしかして、私に何か用事でもあった?」
話を繋ぐチャンス。しかし、私の口は開かない。
「いや、別に…」
康は、少し寂しそうな微笑みを残し、「そっか。じゃあまた明日」と言って教室を出ていった。
康が去った瞬間、私は机に突っ伏した。
「なんで……!なんで、あんなこと言っちゃったの、私……!」
せっかくのチャンスを台無しにしてしまった。
自分の不甲斐なさと情けなさに自己嫌悪した。
「あれ、みずみん。待ってたの?」
ちょうどあいちゃんが職員室から戻ってきた。
「あいちゃん……」
「え、なになに、どうしたの?」
「どうしよう!私、康に嫌われたかも」
さっきの康とのやり取りを話すと、あいちゃんはあちゃーと頭を抑えた。
「みずみん、康の前だけは素直になれないよねぇ」
「ねぇどうしよう」
「もー泣かないの」
あいちゃんの手が私の頬を包み優しく拭う。
「分かった。私がなんとかするよ」
翌日から、あいちゃんは私が千歳と自然に話せるようにキューピッドとして動き出した。
休み時間の度に私の席に来て、隣の康を巻き込み3人で話す機会を設けた。
あいちゃんのフォローのおかげで、私はぎこちないながらも、康相手に「普通の私」で会話ができるようになってきた。
私の中に小さな自信が芽生えた。
そして数日後の放課後。
私が教室であいちゃんを待っていると康が現れた。
「あれ、水島。まだ帰らないんだね。」
私は深呼吸をし、まっすぐ康の瞳を見て答える。
「うん。あいちゃん待ってるんだ」
康は少し真剣な顔で、私の隣の席に座った。
「あのさ、ちょっと聞いてもいいかな。」
「…うん。」
「実はね、水島って私のこと嫌いなんだと思ってたんだ。結構返事が素っ気ないし」
「違うっ、私、康のこと……好きだから!話したいのに、可愛く見られたいのに……全部、頭の中でぐちゃぐちゃになって!頭が真っ白になっちゃうから…!」
康は驚きから一転、優しく微笑んだ。
「……そっか。そんな風に思ってくれてたんだ。
水島って、結構可愛い所あるんだね。」
「っ……!」思わず好きと言ってしまったことに気づいて顔から火が出るほど赤面する。
でも康は友達としての好きと受け取ったらしい。
康は「じゃあ、また明日」と言い残して教室を出ていった。
康の姿が見えなくなった瞬間、緊張の糸が切れ、椅子にへなへなと座り込んでしまった。
「みずみん、おまたせ~。って、どうしたの?」
戻ってきたあいちゃんに、さっきの出来事を話す。
「…………よかったじゃん、みずみん!」
あいちゃんは自分のことのように喜んで私を抱きしめてくれた。
それから数週間後。
あいちゃんのフォローと、康に素直な気持ちを言えたお陰で私は時折赤面しながらも、以前よりずっと自然に康と会話できるようになった。
放課後。今日はあいちゃんが部活だから一人で帰り支度をしていた。
本当はもっと早く帰れたけど、わざとゆっくり支度をする。
だってまだ隣に康の荷物があるから。
今日こそは、一緒に帰ろうって言おう、と心に決めて康が来るのを待つ。
「あれ、水島。今日も佐藤待ってんの?」
私は康の顔をまっすぐ見た。
「ううん。今日は康を待ってた」
「え、私?」
私の脳裏に、あの時の「可愛い所あるんだね」という康の言葉が蘇る。
今度は、ちゃんと素直に言える。
「あのさ、康」
「ん?どうした?」
「えっと……もしよかったら、一緒に帰らない?」
言えた。私は、心の中で歓喜する。
康は驚き、すぐに満面の笑みを浮かべた。
「もちろん!ちょうどよかった。水島と話したいことあったんだ。」
「よかった……!」
心の中で「だって」と叫び、自己嫌悪していた日々はもう終わりだ。
一歩、また一歩と、康の隣を歩く私の心は、夕焼け空のように明るく、澄み渡っていた。