中編
name chenge
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【#4 さざ波を数えてもキリがない】
まぶしすぎる太陽の下、私は防波堤の上で膝を抱えて、必死に胸の鼓動を鎮めようとしていた。
海から吹き寄せる風が、カモメたちの鳴き声を運んでくる。
上空をくるくると旋回する白い鳥たちが、まるで「早く本当の気持ちを言っちゃいなよ」と私を囃し立てているように聞こえて、思わず耳を塞ぎたくなった。
(無理だよ……言えるわけないじゃん)
あづが私に向ける視線が、日に日に熱を帯びていくのを痛いほど感じていた。
あの日、「告白された」と嘘をついて距離を置こうとしたのに、効果は真逆だった。
あづは幼馴染という境界線を踏み越えて、まっすぐ私にぶつかってくる。
防波堤の上から、砂浜へ押し寄せるさざ波を一つ、二つと数えてみる。
波を数えて理性を保とうとしても、あづへの愛しさが次から次へと溢れ出してきて、どうにもキリがない。
「あいちゃんっ!」
不意に背後から声をかけられたかと思うと、肩を叩かれた。
「きゃっ!? ちょっと、あづ! 危ないでしょ~!」
バランスを崩しそうになりながら、私はおどけてあづの肩をポカポカと叩いた。
あづの体温が、触れ合った肩から直接流れ込んでくる。
弾む息、間近に見えるあづの整った顔、真夏の太陽を浴びて輝く瞳。
ときめきと愛しさと、苦しさが混ざり合って、息が詰まりそうだった。
「ねえ、あいちゃん」
あづの声から急におどけたトーンが消えた。
「本当は、どう思ってるの?」
まっすぐな瞳が、私の顔を捉えて離さない。
「告白のこと。……本当はどう思ってるの?
あいちゃん、あの時からずっと何か隠してるでしょ。私に本当のこと、言ってくれないじゃん」
胸が激しく跳ね上がった。
バレている。私が嘘をついていることも、何かから逃げようとしていることも、あづには全部お見通しなのだ。
あづの作るまっすぐな波が、私の中の防波堤に容赦なく打ち寄せてくる。
「あのね、あいちゃん」
あづが私の両肩を強く掴んだ。
その指先から伝わってくる強い熱量。
あづの口元が動き、決意に満ちた言葉が紡がれようとしている。
(ダメ……! 言わせちゃダメ……!)
その言葉を聞いてしまったら、もう戻れない。
「私も好き」と叫んで抱きしめてしまいたくなる。
けれど、あづの人生を私が縛り付けるわけにはいかない。
責任を持てない私が、あづの真っ直ぐな想いを受け取るなんて、絶対に許されない。
「私、あいちゃんに伝えなきゃいけないことが――」
「あづ、競争しよ!」
私はあづの言葉を遮るように、大声でおどけて笑った。
あづの手を振り払い、防波堤を駆け下りる。
「え……!? あいちゃん!?」
驚くあづの顔を見ないようにして、私は熱い砂浜へと飛び出した。
全力で走る。あづの告白から逃げるように。自分の溢れ出しそうな感情から逃げるように。
「待ってよあいちゃん! どこ行くの!?」
背後からあづが追いかけてくる声が聞こえる。
風を切って走るうち、目奥がツンと痛くなり、涙が溢れそうになった。
(どうして……どうして私は、あづの一つ年上なんだろう)
走りながら、恨めしい思いが込み上げてきた。
たった「1年」の差。
生まれが1年違うだけで、どうしてこんなにも苦しまなければいけないんだろう。
もし私とあづが同い年だったなら。
同じ学年で、同じ未来を見据えていられたなら。
来春に自分だけが遠くへ行ってしまう罪悪感も「責任が持てないから」なんて言い訳で自分を縛らなくて済んだかもしれない。
同い年だったら、この抑えきれない愛しさを隠すことなく、まっすぐにあづへ伝えられていたのかもしれない。
けれど、その「1年」という境界線は、どうしても越えられない現実として私たちの間に立ちはだかっている。
(ごめんね、あづ……ごめんね……!)
あづのまっすぐな気持ちに応えられなくて、ごめんね。
あづの好きという言葉を途中で奪ってしまって、ごめんね。
はるか遠く、青い空と海が溶け合う水平線が見える。
私は来年、あの線の彼方へ一人で旅立つ。
あづとの関係は、大好きな幼馴染のままでいい。
好きと言えないまま、この夏を終わらせる。
「追いつけるもんなら追いついてごらんー!」
私は振り返らず、泣き顔を隠すように笑い声を上げながら、夏の砂浜を一人で走り続けた。