中編
name chenge
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【#3 度が過ぎた愛しさを謝ろうと思う】
夏休みが終わっても、太陽は容赦なくジリジリと肌を灼いてくる。
あの日、あいちゃんが「告白された」なんて言い出してから、私の世界はガラリと姿を変えてしまった。
海沿いの道を並んで歩いていても、視線があいちゃんの横顔に吸い寄せられて離れない。
風に揺れる髪、汗ばんだ華奢な首筋、薄い唇。
そのひとつひとつが息を飲むほど可愛くて、愛おしくて、直視すると心臓がうるさいくらい跳ね上がる。
今まで幼馴染として見ていたフィルターが完全に剥がれ落ちてしまったのだ。
「あいちゃーん、何してるのー?」
防波堤の上、あいちゃんは膝を抱えて海を見ていた。
私に向けるのは、いつもと変わらない柔らかい笑顔。
だけど、あいちゃんの瞳の奥には、いつからか固くて冷たい「壁」のようなものが立ちはだかっていた。
私が一歩踏み込もうとするたび、あいちゃんはその壁の向こうへすっと身を引いてしまう。
このままだと、あいちゃんがどこか遠くに行ってしまう気がして、隣を並んで歩くときは腕を組んだり、手を繋いだりして、ずっとそばにいて、と念じていた。
「あいちゃんっ!」
私はおどけながら、わざとあいちゃんの肩を強めに叩いた。
「きゃっ!? ちょっと、あづ! 危ないでしょ~!」
バランスを崩しかけたあいちゃんが、照れ隠しのように私の肩をポカポカと叩いてくる。
「えへへ、油断してるあいちゃんが悪い~」
「もう、子供じゃないんだから……」
呆れたようにため息をつくあいちゃん。
叩かれた肩の痛みが引く前に、私は真面目な顔で、あいちゃんの瞳をじっと覗き込んだ。
「ねえ、あいちゃん」
「……ん? なあに?」
「本当は、どう思ってるの?」
「え……?」
あいちゃんの笑顔が、ぴくっと引きつった。
たぶん、あいちゃんは自分の感情を押し殺している。
本当は何かを抱え込んでいるのに、私には絶対にそれを見せようとしない。
それがもどかしくて、悔しくて、たまらなかった。
「告白のこと。……本当はどう思ってるの?
あいちゃん、あの時からずっと何か隠してるでしょ。私に本当のこと、言ってくれないじゃん」
ストレートすぎる問いかけに、あいちゃんは分かりやすく視線を泳がせた。
潮風が二人の間を吹き抜けていく。
防波堤の下では、激しい波がドサリと音を立てて砕けていた。
(ごめんね、あいちゃん。困らせてるのは分かってるよ)
私の強引なアプローチが、あいちゃんを困らせていることを自覚していた。
「好きすぎてごめんね」と心の中で謝る。
だからといって、この気持ちを仕舞っておけるほど私は大人じゃなかった。
「あのね、あいちゃん」
深く息を吸い込む。胸の奥で、熱い塊が爆発しそうだった。
青く澄み渡る海を見つめる。あのどこまでも続く真っ青な海は、私の胸にある愛しさにそっくりだ。
永遠なんて言葉、信じたこともなかったけれど、あいちゃんを想うこの気持ちだけは永遠なのだと確信できる。
「私、あいちゃんに伝えなきゃいけないことがあるの」
あいちゃんの肩を掴む。あいちゃんの瞳が、揺れ動く波のように大きく見開かれた。
口を開き、「好き」という言葉を紡ごうとした、その瞬間——。
「あづ、競争しよ!」
あいちゃんは私の言葉を遮るように言うと、私の手を振り払い、防波堤を駆け下りてしまった。
「え……!? あいちゃん!?」
砂浜へと飛び出し、走り去っていくあいちゃん。
私は慌てて砂浜へ飛び出した。
「待ってよあいちゃん! どこ行くの!?」
熱い砂に足を取られながら、必死で前を走るあいちゃんの背中を追いかける。
眩しい太陽の下、白く煙る砂浜を走るあいちゃんの背中。
それを見た瞬間、胸の奥がキュッと締め付けられた。
(ああ、ずっとこうだった……)
思い返せば、子どもの頃からずっと、私はあいちゃんの背中を追いかけてばかりだった。
小学校に入学したときも、中学校に上がったときも、高校に入ったときも。
一つ年上のあいちゃんはいつも私の一歩先を歩いていて、私がようやく同じ校舎に入って「追いついた!」と思った頃には、あいちゃんは卒業して次の世界へ行ってしまう。
追いついたと思った瞬間に、また離れていってしまう。
もし——もしも私とあいちゃんが同い年だったなら。
同じ学年で、同じ景色を見て、同じ時間を歩めていたなら。
卒業に怯えることもなく、一つ年下という立ち位置に甘えることもなく、対等に肩を並べて「好きだ」って言えたのかな。
こんな風に逃げるあいちゃんの背中を、虚しく追いかけずに済んだのかな。
「お願いだから止まってよ、あいちゃん……!」
届かない手を伸ばしながら、私は叫ぶ。
波の音にかき消されそうな声は、夏の強い風に乗って虚しく消えていった。