直哉夢「15年」
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✦直哉視点
✦黒髪ピアスの姿のつもりです
──19歳
桜、散った。牡丹、くずれた。紫陽花、枯れた。
庭、裏庭、自室。そこら辺にある花なんか気にしたことない。せやけど、あいつが裏庭におらんこと、俺の部屋にある花の水換えに来やんこと。そこから花みたいなもんに気付くとは思えへんかった。
別に?どっかで元気にしとるんちゃう?もう梅雨の時期過ぎたのに連絡一つ寄越さんのも…無沙汰は無事の便りて言うし?
とは言えや。あいつ。俺のこと気にならんのか。「お変わりないですか」の一言でもあるやろ普通。
「………ちっ」
スマホみたいなモン気にさすなや。何回見ても無風なん変わらんのに。トークルームの履歴は当たり前に変わってへん。
「ふん。俺からするんもなんかちゃうやん」
こんなもん、あるんが悪い。あるから気ぃ反れる。これが鳴るんはお仕事あるときや。それしか言うて来んのやったら要らんやん。捨てたろか。うんともすんとも言わん板の機械に振り回されるんも癪や。
あれとかこれとかそれとか、あとは俺自身のこととか家のこと。色々考えてたら、夜に全然眠れんようになった。天井見つめて、目ぇつむって、無見つめて、まぶたの裏見て。ほんで頭満タンになって疲れたらいつの間にか寝とる。で大体おんなじ時間に起きる。完全に寝不足や。寝れるんやったら昼に1時間でも寝るけど。そんなことしとったら鍛練の時間削れる。ついでにあんまりお腹も空かん。部屋の花瓶も撤去した。練り切りも要らん。ほんでまた、長い夜が来るんや。
・
今日の鍛練は外でやってた。今は一時中断してなんとなく縁側に座って庭飛んどる蝶々眺めとった。
「おー直哉ぁ。腑抜けとるなぁ」
…はぁ。腹立つ声聞こえて来たで。無意識に目ん玉ぐるっと上向いてしもた。
「なんやクソじじい」
「おーこわ」
「だる」
ここ通るついでにおちょくりに来たんやろ。親父の顔見んのは最近は見合い関連のときだけや。ただでさえ別に見たないのに余計に見たない言うねん。
「近頃全く身についてないらしいな」
「ふん、どこ情報やねん」
「見たらすぐわかる」
「見んなや」
「そんなに心配せんでも皐月ちゃん、あっちでようやっとるらしいぞ」
「は?そんなん、関係ないし」
なんで親父が把握しとんねんとか、やっぱりどこ情報やねんとか。あいつと連絡取っとるとしてもなんでそれが俺にはないねんとか。
チラッと親父の顔見たらニタニタきしょい顔しとった。
「そうか?まぁ新天地だ。あの子もええ男の1人や2人見つけとるだろ」
「……あ?」
いや、乗らんで。そんな安い手ぇに。でもまぁこれ以上絡まれんようにはしとく。
「どこ行くんだ」
「風呂や。喋りかけんな」
「こわぁ。ああ、来週見合いだぞー」
「………」
中指立てたった。クソじじい過ぎるからしゃあないやん。行くわけあらへんのに毎度懲りひんな。せっかく組んだ見合い、当の息子が来ぉへんと恥かいとけ。まぁそれも屁ぇとも思とらんから何回も同じこと繰り返すんやろうな。俺かてもう二度と行かへん。
・
とは言え、なんかが埋まるかもしれへん思て、俺も2回3回女買うてみた。化粧臭くはあるけどしっかり金払うとこのんや。せやけど全然アカンかった。匂いが無理で気分悪なった。気色悪ぅて勃たんかった。目の前の光景が受け付けんくて吐いた。どれも女に追加の金握らせて帰らせた。
…まぁ結局、なんにもならんかった。なんにもならんのがわかった。
むしゃくしゃする胸ん中。眠れん夜。思うように行かん鍛練、仕事。寝不足、鍛練不足。なんにも考えへんようにしようとすればするほど、考えてしもうとる。これではアカンて焦る。せやけど頭ん中が忙しい。
イライラしながら部屋戻る。最近はずっと放置しとる棚の上のスマホ。なんとなしに見たらチカチカしとった。すぐ確認した。電池残り8パー。メッセージアプリのアイコンに1の数字。あいつからや。一瞬指先狂いそうになった。
『直哉さまへ。こんにちは。すでにご存知かもしれませんが、お盆の帰省がなくなってしまいました』
「……はぁ?」
これ来とったんは一昨日。それはそれとして、そもそも俺は帰って来ること存じてへんぞ。誰が聞いとるん。なんで俺が知らんねん。トークルーム、すぐ上確認した。最終2月や。
カッとなった。手元震えた。「もう帰って来んでええ」そう打ったけど、そんなことあらへん。消した。「別に報告いらん」…要るやろ、むしろ不足やねん。消した。「好きにせえ」…ちゃう。消した。「了解」。2文字だけ送った。
…何が了解やねん。なんにも知らされてへんし、勝手になくなっただけやん。これだけと違う。何をもって了解やねん…。わからん。知らん。
送った2文字に、すぐに既読は付かん。引き出しから出した充電器。スマホにさして、コンセントに繋いだ。
・
・
我ながら恥や。脚の骨折った。
鍛練足りてへんかった。寝不足やった。集中しとらんかった。後ろ確認してへんかった。足元狂った。それを差し引いても2級レベルの呪霊。雑魚相手にこのザマや。さすがにヘコむ。
「だっはっはっ!いい格好だな直哉!」
「……ホンマにな…」
「本当に腑抜けてどうする。ぶふっ」
「……そうやな」
怪我の次の日。廊下を、手当てされた腕で松葉杖使こて歩いてたら前から親父や。噂聞いてまたからかいに来たんやろ。俺見つけた瞬間にニンマリ顔や。なんでかもうその顔には腹立てへん。
「まぁこれも何かのタイミングだろ。しばらく休め。その顔どうにかせい」
「せやな…」
背中バシバシ叩いて、親父は来た方向へ戻って行った。俺に付いとる女中に言うて、昼ご飯はやっぱり部屋に配膳することにして自室へ戻る。リズムは変えたないと思てたけど、まぁ今はもうええか…。
・
親父の言葉借りたら、俺は今腑抜けとる。寝られへん、食べられへん、動かれへん。脚のせいに出来たらラクや。けどそうやない。…やる気も力も出ぇへん。鍛練と仕事は休憩や。その合間、なんとなく筆と墨出した。写経始めた日ぃには女中に変な顔された。3日で飽きた。
「………」
ふっと思い立った。骨折して22日目。スマホと、メモと、現金10万ほどを握りしめて家から出た。着流しはさすがに替える。ティーシャツとスウェットやけど。すれ違ごた女中に「外出するなら松葉杖を」て差し出された。まだ万全とは言えんけど、もうそんな大層なモンは要らん。
とりあえず敷地出て、道へ出る。道路沿い歩いて、車よう走っとるとこまで来た。
「………」
右からがええんか、左からがええんか。ようわからんけど、俺が立っとる方の車線走ってくるタクシー。それに向かって手ぇ上げた。
「どうぞー」
「……ここへ行きたいんやけど…」
前に止まってドアが開く。乗り込んで、運転手のおっさんにメモ見せた。
電車はようわからん。けどとりあえず、言われるがまま京都駅。ここへ来るんもお仕事で遠出するときだけやったなぁ、とか、久しぶりに来たなぁ、とかうっすら思った。いつもは切符渡されて改札通るだけや。せやから買い方なんかは知らん。スマホで調べて、その通りに買う。それ持って、駅員に聞く。
14番線。そこから指定のやつに乗って15分ほど。ホーム降りたらタクシー乗り場目指して外へ出る。並んどるタクシー。一番前のそれへまた乗り込む。
「……ここへ行きたい」
「はいわかりました。安全運転で出発します」
またメモ渡す。運転手のおっさんはナビで地図軽く確認してからメモが返って来た。ほんでタクシーは出発した。俺は、手元のメモに目ぇ落とす。……あいつからもろた、大阪の住所書いた紙や。可愛らしいウサギのイラストが印刷されたピンク色のメモ用紙。出た先の家の住所決まった言うてもろたっきり、引き出しの中に仕舞っとった。それ握りしめて、とにかく進んでここまで来た。
またそれから20分くらいか。降りた先にはメモに書いてあるんとおんなじ名前の建物。ここの、7階にあいつは住んどるんやな…。マンションのロビーに入ってみる。オートロック。ああ、これでピンポン押すんやね。
「………。なな、ぜろ、にぃ…」
呼出て書いてあるボタン押した。薄く鳴るピンポンの音に反応はない。もう一回おんなじことしてみる。……やっぱり反応ない。
スマホ見る。17時46分。平日や。まだ帰って来とらんか…。
とりあえずその辺へしゃがむ。移動の半分以上は座っとったとは言え、さすがに折れてた脚に響いとる。
夏も終わりかけや。それでもまだ言うても暑い。こんな空調の効いとらんとこ、息苦しなる。けど、俺はここしか知らん。あいつがおるとこ。あいつが帰ってくるやろうここしか。
ロビーの外側の自動ドアが開く度に顔上げる。じろじろ見て来る奴には「知り合い待っとります」て言うたら会釈して入って行きよる。そんなことを何回かしとる間に、外はもうすっかり暗い。
ジー…ガコッ
自動ドアがまた開く。顔上げた。そしたら、目ぇ丸めてアホ面下げとる皐月が中入らんと突っ立っとる。
「直哉さまっ!?」
「……遅いわボケ…」
「どうしたんですか!?」
駆け寄って来る。高さも合わせて来よったんがわかる。せやけど、なんとなく腕ん中に顔伏せた。今、こいつの顔見れへん。
「連絡くれてましたか!?すみません!」
「…してへん」
「え、」
「そんなん……俺から出来ひんやん…」
「…直哉さま」
組んどる腕に軽く手ぇ乗ってきた。
「………」
「とりあえず、上がりましょう」
「……ん」
その手ぇに自分のん乗せようかどうか迷とる内に、離れてった。内側のオートロックが解除された。そこに一歩入ったこいつの足元見る。俺は立ち上がって、それに付いて行った。
・
702の部屋。熱い空気の中あいつは奥へ入って行く。電気がついて、ピッピッて機械音。風が一気に流れる音。それをうっすら認識しとると、玄関へ戻って俺を迎えに来た。腕引かれるままに、部屋の真ん中のソファに座らされる。ほんでちょっとしたら、タオルと冷えた青いラベルのペットボトルが出された。
「汗、拭きましょう。あそこにどのくらいいたんですか」
「…そんなにおらんよ…1時間くらいや」
「お待たせしてすみませんでした」
「……うん」
言いながら、俺の額とかこめかみ、首を拭いてくれとる。
「直哉さま、ちゃんと眠ってますか?クマが酷いです」
「いや…、あんまり寝れてへん」
「お食事はしっかり摂ってますか?」
「…まぁ、ほどほどやな」
「………」
俺の顔覗き込んであちこち確認しとる。ほんで、鼻で吐く溜め息の音。こいつも、こんな腑抜けた俺の顔見て呆れとるんやろな…。
「脚も怪我してますよね…」
「せやね…ちょっと前に折ったん。…でもまぁ、ほとんど治っとるんよ」
「そうでしたか…」
フタ開けられたペットボトル。手渡されたから一口飲んだ。冷たい感触が喉と胸んとこ通ってった。またそれフタ閉めてテーブル置かれる。一連を目ぇで追った。
「今日いらっしゃるなら連絡くださればよかったのに」
「……連絡くれへんのは…お前やん」
せやろ。俺は待っとったのに。連絡来た思たら帰省なくなったて。それだけやったやん。
「…お前がおらへんから、寝られへんようになった…連絡寄越さんから、喉通らんようになった。…こんなんなったん、お前のせいや…」
「直哉さま…」
「……みっともないやろ…。笑ろてええで…」
「……っ」
こいつの手元見つめとった。それが動いた思たら、軽い衝撃。俺の体が後ろに倒れそうになった。
「…笑いません」
こいつの声が耳の近くで聞こえる。肩に感じる圧迫感、胸に感じる重み。ああ、抱き締められたんか、て時間差で理解した。
「直哉さま…ごめんなさい…」
「……うん」
こいつの腕に力入ったんがわかった。俺も、遅れて背中に腕回した。
「直哉さま…」
「……うん」
鼻の奥がじんじんする。もうこれ以上なんかが出てしまわへんように、腕に力込めた。
「………皐月」
その代わり、こいつの名前呼んだ。
・
朝、8時前の新幹線。窓の外は雨が降りそうや。
…あれから、あいつが作った夕ご飯よばれて、風呂もろて、一緒の布団で寝た。頭抱かれて、俺は体に腕回して、もぐり込んで。よう眠れたんかどうかはわからへん。せやけど、すっきりしとる。鏡で見た自分の顔は変わらんと酷いもんやったけど。
・
・
脚は完治や。多少なりとも鈍った分、鍛練しまくった。鍛練、祓う、鍛練、祓う、鍛練、祓う。また鍛練。精度も上がったし、呪力量も増えた思う。ひたすらにやっとると、周りは「さすがや」「さすが次期当主」て今まで以上に囃し立ててくるようになった。勝手に期待値上がっとる。次期当主が俺なんは元々やし、はっきり言うてうざい。
せやけど、順調かて言われたらそうではない。前より寝られるようになったはずやのに、目の下のクマは完全には消えへん。酷いツラや。こんなに目付き悪かったか?
ほんで、すっかり日課になったことがある。スマホチェックや。もっと言うたらメッセージアプリ。大阪へ行って、帰ったその日ぃからあいつから連絡来るようになった。最初は日に1回。それが2回、3回になって、秋の終わりの頃には頻繁になった。内容は大したもんやない。「おはようございます」「おやすみなさい」「行ってきます」「ただいま戻りました」。ほんで「今日はご飯何を召し上がりましたか?」「お怪我はありませんか?」て俺のこと気にかけとる内容や。俺も「おはよう」「ただいま」「蕎麦食べたよ」「お仕事は完璧や」とか返事しとる。すぐにやり取り出来んでも、来とるな、送れとるな、既読になったな、て。俺も確実に忙しなっとるし、あいつはあいつで学校と勉強で忙しそうにしとる。それでも。タイムラグはあるけど、繋がっとることに安心するんや。
・
「明日やんな、お友達と夜にご飯行く言うてたん」
『はい、6時半に始まって2時間くらいです』
「ふーん、楽しんでおいで」
鍛練とお仕事の連続の日々に、最近更に日課に追加された寝る前の電話。時間遅かったら5分くらいのときもある。あいつは夜は家におるから俺のタイミングでかけることが多い。日付け変わっとるときもある。
高校時分にもお友達と行けへんかった夜ご飯の会。短大の同級生とのやつに明日初めて参加するんやと。前から打診あった。全員で10人、男は3人や、て。諸々把握した上で、それやったら行っておいでて言うた。ちゃんと報告あるから、まぁ安心しとる。
次の日ぃ18時20分、あいつから「今お店に着きました」てメッセージ入る。行っとる店のURL添付されとった。クリックしたら、外観店内料理の写真。この辺に座るんか?とか、こんな料理食べるんか、とかうっすら確認した。
俺も今日はこの時間に夕飯やった。自室で落ち着いた頃にはちょうどええ時間や。20時22分。言うてそろそろやろ。
『食事会、もう終わる頃やろ』
『帰るときに連絡してな』
20時35分。返信ない。既読も付いてへん。まぁ大体や言うてたしな。
20時47分。まだ変わらん。…ま、場ぁが盛り上がることもあるか。
『終わっとる?』
『今どこ?』
21時11分。ない。さすがにない。9時過ぎとるやん。既読?付いてへん。言うとること違うやん。
『まだ店か?』
『もう9時過ぎとるで』
『2時間くらいとちゃうんか』
『おい』
『─通話キャンセル』
『─通話キャンセル』
『帰っとる?』
21時24分。
『─通話キャンセル』
『なんで出ぇへんの』
『なんかあった?』
『─通話キャンセル』
『電話出ろ』
『─通話キャンセル』
『おい』
電話に出えへん。そもそも既読が付かん。なんでや。2時間くらい…9時なるまではまぁ理解できたとしてもや。もう9時半やん。
嘘ついとるんか?…いや、あいつに限ってそんなことない。俺に言うた以上、時間過ぎてしもたら気付くはずやのに。周りうるさぁて気付かへん?充電切れてしもた?………。なんや最悪なことばっかり想像してまうやん。
ピリリリリリ…
21時33分。着信音鳴る。あいつの名前や。
「もしもし」
『直哉さま!ご連絡遅れてすみません!』
「別に。大丈夫なん」
『9時前にお店出て今さっき電車降りました』
「そうか。事故ったんちゃうかって思ただけや」
『ご心配お掛けしました』
「随分楽しかったみたいやね」
『はい』
「そらよかった。…まぁ、家着いたらまた連絡しぃ」
『わかりました』
……せやからホンマは嫌なん。俺が見れるかどうかは置いといて、どっか行っとるときはリアルタイムで知らせてくれんと。3人の内の1人と何かあったんちゃうか、9人とは関係ないとこで誰かに隙与えてんちゃうか、て。普段でさえこの部分は気になっとるとこや。
ホンマのホンマは、スマホもメッセージアプリももう嫌いやねん。こんなもんがあるから、こんなもんで薄っぺらいこと繋がっとるから囚われてまうんや。連絡くるか、送れたか、既読ついたか、なんでつけへんのか、返事でけへんのか、今どこおるんか、電話でけへんのか、見れるやろ、そんなわけあらへんやろ…て。全部気になるし、全部知りたなる。情報入ったら、その枠からはみ出てへんかが気になる。はみ出したら責めてしまいそうになる。せやから、ホンマは嫌いなん。最初は安心しとったのにな。…もう、見えてしまうのがしんどいねん。せやけど知らん方がもっとあり得へん。
・
・
「ああ、直哉クン」
「……はぁ、兄さんか。どうもごきげんよう」
午前中のお仕事から帰って風呂入ろうと廊下歩いとったら声かけられた。
下から2番目の兄さんや。呪力はあるようやけど特筆もない、お察しな兄さんの1人や。女中を四六時中付けてエラそうにしとる。好きな兄弟なんかおらへんけど、こいつは特に嫌いや。脳のないカスのくせして、歳の近い俺のこといっちょまえにライバル視しとる。関わるんも嫌やけど、まぁおんなじ屋根の下におったらそうも言うてられへん。
そんな奴が、なんや薄ら笑い浮かべて近付いて来よった。
「最近ヤッてるみたいだな」
「なにがや」
「コレだコレ」
…なんやねん、気色悪い。女とセックスしとんのか、てハンドサインで抜かして来よった。はぁ。女と金のことしか考えとらんカスやわやっぱり。次期当主候補にカスりもせん奴は頭軽そうでなんとも羨ましいことやな。俺の視界外で思う存分ヤッとけや。
「別に」
「またぁ。最近ずっとスマホ弄ってるみたいだしさぁ。都合のいい女出来たんだろ?」
「きしょ」
ハンドサインの次は下品にも空中掴んで腰前に振った。ダルすぎるし脳みそ下半身に支配されとる猿みたいや。こんなん無視するんに限るな。もう絡んで来んなよ。
「まぁお前に寄って来る女なんか、禪院の名前で来る股の緩い女だろ」
「……ああ"?」
「お前が思ってる程、女って純じゃねぇぞ」
はぁ?なんやこいつ。アホ面下げて女を語っとるんか?
「どうせどっかの安い家の女だろ。家柄目当てだ、目ぇ覚ませよー」
「……」
「まさか自分だけ特別だと思ってんのか?うまいこと遊べ」
「…黙れや」
「はっ。お前のことなんか好きな訳ないだろ」
「………」
「まぁその内飽きて離れて行くだろ、そんな女──」
ドゴッッ!
目の前のカスがぶっ飛んだ。女中の悲鳴が響く。床に体が着地すんのとほぼおんなじやった。こいつに馬乗りになって拳握った。
「お前の!周りのカスと!違うんじゃ!」
「ぐあぁっ…!」
ゴンッ!バコッ!ドカッ!
「雑魚が!俺のこと!踏み荒らすなや!!」
バキッ!ガコッ!グシャッ!
「直哉様!お止めくださいっ!」
女中が俺の腕抱えて動き止めて来る。掴んどる胸倉の先には歯ぁ折れて白目向いた血塗れの兄さん。顔面の形変わっとる。俺の拳も血塗れや。汚ったな。
「…次は命ないで」
手ぇからそれ払ろて、ここから去る。
風呂入ろう思たけど足は自分の部屋へ向いた。…棚の上のスマホ確認する。通知が来とる。
『今日の午後はいつもの友人3人とカフェに行ってきます』
あいつから連絡来とった。大体の時間と、行くらしい店のURLが続いとる。「気ぃつけてな」て返信した。
・
・
カラン、カラン
中道入ったとこ。白い壁に洒落とる植物と照明。くすんだ水色みたいな色の扉。それが開いて客が出てきた。
「皐月」
「…え!?直哉さま!?」
「迎えに来たで。またちょっと時間過ぎてるんと違う?」
もろてたURL先の店。そこから女4人で出て来たんを捕まえた。ああ、驚いとるな。
「君ら皐月のお友達?いつも仲良うしてくれてありがとうね」
「は、はい」
お友達も驚いとる。俺が誰かて聞いてへんのか?それか俺の書生服の姿が珍しいんかも知らんな。
「今日のお茶代、俺が持つわ。足らんかったら言うてね」
「えっ、えっ」
一番近くにおった子に懐から出した万札を渡す。戸惑うとるけど、指に札付けたら反射で受け取った。
「ほな、行こか」
「え、はい」
俺は皐月に左手出す。こいつも素直に手ぇ取った。
「ほなね、お友達」
3人に向かって手ぇ振った。引っ張られとるこいつもおんなじようにしとる。
「…あの、直哉さま?」
「………」
作っとった笑顔を戻した。こっち見上げとるこいつの顔は見んと、繋いどる手ぇにぎゅうって力込めた。
「すっかり寒なったな。今日は水炊きとかええんちゃう。作ってくれへん?」
「直哉さま…。…はい、美味しいの作りますね」
「うん」
皐月の手ぇにも力こもった気ぃした。
俺の右手は、まだ痛みがジクジク響いとる。
──第四章:19歳、欲しいものは END──
✦黒髪ピアスの姿のつもりです
──19歳
桜、散った。牡丹、くずれた。紫陽花、枯れた。
庭、裏庭、自室。そこら辺にある花なんか気にしたことない。せやけど、あいつが裏庭におらんこと、俺の部屋にある花の水換えに来やんこと。そこから花みたいなもんに気付くとは思えへんかった。
別に?どっかで元気にしとるんちゃう?もう梅雨の時期過ぎたのに連絡一つ寄越さんのも…無沙汰は無事の便りて言うし?
とは言えや。あいつ。俺のこと気にならんのか。「お変わりないですか」の一言でもあるやろ普通。
「………ちっ」
スマホみたいなモン気にさすなや。何回見ても無風なん変わらんのに。トークルームの履歴は当たり前に変わってへん。
「ふん。俺からするんもなんかちゃうやん」
こんなもん、あるんが悪い。あるから気ぃ反れる。これが鳴るんはお仕事あるときや。それしか言うて来んのやったら要らんやん。捨てたろか。うんともすんとも言わん板の機械に振り回されるんも癪や。
あれとかこれとかそれとか、あとは俺自身のこととか家のこと。色々考えてたら、夜に全然眠れんようになった。天井見つめて、目ぇつむって、無見つめて、まぶたの裏見て。ほんで頭満タンになって疲れたらいつの間にか寝とる。で大体おんなじ時間に起きる。完全に寝不足や。寝れるんやったら昼に1時間でも寝るけど。そんなことしとったら鍛練の時間削れる。ついでにあんまりお腹も空かん。部屋の花瓶も撤去した。練り切りも要らん。ほんでまた、長い夜が来るんや。
・
今日の鍛練は外でやってた。今は一時中断してなんとなく縁側に座って庭飛んどる蝶々眺めとった。
「おー直哉ぁ。腑抜けとるなぁ」
…はぁ。腹立つ声聞こえて来たで。無意識に目ん玉ぐるっと上向いてしもた。
「なんやクソじじい」
「おーこわ」
「だる」
ここ通るついでにおちょくりに来たんやろ。親父の顔見んのは最近は見合い関連のときだけや。ただでさえ別に見たないのに余計に見たない言うねん。
「近頃全く身についてないらしいな」
「ふん、どこ情報やねん」
「見たらすぐわかる」
「見んなや」
「そんなに心配せんでも皐月ちゃん、あっちでようやっとるらしいぞ」
「は?そんなん、関係ないし」
なんで親父が把握しとんねんとか、やっぱりどこ情報やねんとか。あいつと連絡取っとるとしてもなんでそれが俺にはないねんとか。
チラッと親父の顔見たらニタニタきしょい顔しとった。
「そうか?まぁ新天地だ。あの子もええ男の1人や2人見つけとるだろ」
「……あ?」
いや、乗らんで。そんな安い手ぇに。でもまぁこれ以上絡まれんようにはしとく。
「どこ行くんだ」
「風呂や。喋りかけんな」
「こわぁ。ああ、来週見合いだぞー」
「………」
中指立てたった。クソじじい過ぎるからしゃあないやん。行くわけあらへんのに毎度懲りひんな。せっかく組んだ見合い、当の息子が来ぉへんと恥かいとけ。まぁそれも屁ぇとも思とらんから何回も同じこと繰り返すんやろうな。俺かてもう二度と行かへん。
・
とは言え、なんかが埋まるかもしれへん思て、俺も2回3回女買うてみた。化粧臭くはあるけどしっかり金払うとこのんや。せやけど全然アカンかった。匂いが無理で気分悪なった。気色悪ぅて勃たんかった。目の前の光景が受け付けんくて吐いた。どれも女に追加の金握らせて帰らせた。
…まぁ結局、なんにもならんかった。なんにもならんのがわかった。
むしゃくしゃする胸ん中。眠れん夜。思うように行かん鍛練、仕事。寝不足、鍛練不足。なんにも考えへんようにしようとすればするほど、考えてしもうとる。これではアカンて焦る。せやけど頭ん中が忙しい。
イライラしながら部屋戻る。最近はずっと放置しとる棚の上のスマホ。なんとなしに見たらチカチカしとった。すぐ確認した。電池残り8パー。メッセージアプリのアイコンに1の数字。あいつからや。一瞬指先狂いそうになった。
『直哉さまへ。こんにちは。すでにご存知かもしれませんが、お盆の帰省がなくなってしまいました』
「……はぁ?」
これ来とったんは一昨日。それはそれとして、そもそも俺は帰って来ること存じてへんぞ。誰が聞いとるん。なんで俺が知らんねん。トークルーム、すぐ上確認した。最終2月や。
カッとなった。手元震えた。「もう帰って来んでええ」そう打ったけど、そんなことあらへん。消した。「別に報告いらん」…要るやろ、むしろ不足やねん。消した。「好きにせえ」…ちゃう。消した。「了解」。2文字だけ送った。
…何が了解やねん。なんにも知らされてへんし、勝手になくなっただけやん。これだけと違う。何をもって了解やねん…。わからん。知らん。
送った2文字に、すぐに既読は付かん。引き出しから出した充電器。スマホにさして、コンセントに繋いだ。
・
・
我ながら恥や。脚の骨折った。
鍛練足りてへんかった。寝不足やった。集中しとらんかった。後ろ確認してへんかった。足元狂った。それを差し引いても2級レベルの呪霊。雑魚相手にこのザマや。さすがにヘコむ。
「だっはっはっ!いい格好だな直哉!」
「……ホンマにな…」
「本当に腑抜けてどうする。ぶふっ」
「……そうやな」
怪我の次の日。廊下を、手当てされた腕で松葉杖使こて歩いてたら前から親父や。噂聞いてまたからかいに来たんやろ。俺見つけた瞬間にニンマリ顔や。なんでかもうその顔には腹立てへん。
「まぁこれも何かのタイミングだろ。しばらく休め。その顔どうにかせい」
「せやな…」
背中バシバシ叩いて、親父は来た方向へ戻って行った。俺に付いとる女中に言うて、昼ご飯はやっぱり部屋に配膳することにして自室へ戻る。リズムは変えたないと思てたけど、まぁ今はもうええか…。
・
親父の言葉借りたら、俺は今腑抜けとる。寝られへん、食べられへん、動かれへん。脚のせいに出来たらラクや。けどそうやない。…やる気も力も出ぇへん。鍛練と仕事は休憩や。その合間、なんとなく筆と墨出した。写経始めた日ぃには女中に変な顔された。3日で飽きた。
「………」
ふっと思い立った。骨折して22日目。スマホと、メモと、現金10万ほどを握りしめて家から出た。着流しはさすがに替える。ティーシャツとスウェットやけど。すれ違ごた女中に「外出するなら松葉杖を」て差し出された。まだ万全とは言えんけど、もうそんな大層なモンは要らん。
とりあえず敷地出て、道へ出る。道路沿い歩いて、車よう走っとるとこまで来た。
「………」
右からがええんか、左からがええんか。ようわからんけど、俺が立っとる方の車線走ってくるタクシー。それに向かって手ぇ上げた。
「どうぞー」
「……ここへ行きたいんやけど…」
前に止まってドアが開く。乗り込んで、運転手のおっさんにメモ見せた。
電車はようわからん。けどとりあえず、言われるがまま京都駅。ここへ来るんもお仕事で遠出するときだけやったなぁ、とか、久しぶりに来たなぁ、とかうっすら思った。いつもは切符渡されて改札通るだけや。せやから買い方なんかは知らん。スマホで調べて、その通りに買う。それ持って、駅員に聞く。
14番線。そこから指定のやつに乗って15分ほど。ホーム降りたらタクシー乗り場目指して外へ出る。並んどるタクシー。一番前のそれへまた乗り込む。
「……ここへ行きたい」
「はいわかりました。安全運転で出発します」
またメモ渡す。運転手のおっさんはナビで地図軽く確認してからメモが返って来た。ほんでタクシーは出発した。俺は、手元のメモに目ぇ落とす。……あいつからもろた、大阪の住所書いた紙や。可愛らしいウサギのイラストが印刷されたピンク色のメモ用紙。出た先の家の住所決まった言うてもろたっきり、引き出しの中に仕舞っとった。それ握りしめて、とにかく進んでここまで来た。
またそれから20分くらいか。降りた先にはメモに書いてあるんとおんなじ名前の建物。ここの、7階にあいつは住んどるんやな…。マンションのロビーに入ってみる。オートロック。ああ、これでピンポン押すんやね。
「………。なな、ぜろ、にぃ…」
呼出て書いてあるボタン押した。薄く鳴るピンポンの音に反応はない。もう一回おんなじことしてみる。……やっぱり反応ない。
スマホ見る。17時46分。平日や。まだ帰って来とらんか…。
とりあえずその辺へしゃがむ。移動の半分以上は座っとったとは言え、さすがに折れてた脚に響いとる。
夏も終わりかけや。それでもまだ言うても暑い。こんな空調の効いとらんとこ、息苦しなる。けど、俺はここしか知らん。あいつがおるとこ。あいつが帰ってくるやろうここしか。
ロビーの外側の自動ドアが開く度に顔上げる。じろじろ見て来る奴には「知り合い待っとります」て言うたら会釈して入って行きよる。そんなことを何回かしとる間に、外はもうすっかり暗い。
ジー…ガコッ
自動ドアがまた開く。顔上げた。そしたら、目ぇ丸めてアホ面下げとる皐月が中入らんと突っ立っとる。
「直哉さまっ!?」
「……遅いわボケ…」
「どうしたんですか!?」
駆け寄って来る。高さも合わせて来よったんがわかる。せやけど、なんとなく腕ん中に顔伏せた。今、こいつの顔見れへん。
「連絡くれてましたか!?すみません!」
「…してへん」
「え、」
「そんなん……俺から出来ひんやん…」
「…直哉さま」
組んどる腕に軽く手ぇ乗ってきた。
「………」
「とりあえず、上がりましょう」
「……ん」
その手ぇに自分のん乗せようかどうか迷とる内に、離れてった。内側のオートロックが解除された。そこに一歩入ったこいつの足元見る。俺は立ち上がって、それに付いて行った。
・
702の部屋。熱い空気の中あいつは奥へ入って行く。電気がついて、ピッピッて機械音。風が一気に流れる音。それをうっすら認識しとると、玄関へ戻って俺を迎えに来た。腕引かれるままに、部屋の真ん中のソファに座らされる。ほんでちょっとしたら、タオルと冷えた青いラベルのペットボトルが出された。
「汗、拭きましょう。あそこにどのくらいいたんですか」
「…そんなにおらんよ…1時間くらいや」
「お待たせしてすみませんでした」
「……うん」
言いながら、俺の額とかこめかみ、首を拭いてくれとる。
「直哉さま、ちゃんと眠ってますか?クマが酷いです」
「いや…、あんまり寝れてへん」
「お食事はしっかり摂ってますか?」
「…まぁ、ほどほどやな」
「………」
俺の顔覗き込んであちこち確認しとる。ほんで、鼻で吐く溜め息の音。こいつも、こんな腑抜けた俺の顔見て呆れとるんやろな…。
「脚も怪我してますよね…」
「せやね…ちょっと前に折ったん。…でもまぁ、ほとんど治っとるんよ」
「そうでしたか…」
フタ開けられたペットボトル。手渡されたから一口飲んだ。冷たい感触が喉と胸んとこ通ってった。またそれフタ閉めてテーブル置かれる。一連を目ぇで追った。
「今日いらっしゃるなら連絡くださればよかったのに」
「……連絡くれへんのは…お前やん」
せやろ。俺は待っとったのに。連絡来た思たら帰省なくなったて。それだけやったやん。
「…お前がおらへんから、寝られへんようになった…連絡寄越さんから、喉通らんようになった。…こんなんなったん、お前のせいや…」
「直哉さま…」
「……みっともないやろ…。笑ろてええで…」
「……っ」
こいつの手元見つめとった。それが動いた思たら、軽い衝撃。俺の体が後ろに倒れそうになった。
「…笑いません」
こいつの声が耳の近くで聞こえる。肩に感じる圧迫感、胸に感じる重み。ああ、抱き締められたんか、て時間差で理解した。
「直哉さま…ごめんなさい…」
「……うん」
こいつの腕に力入ったんがわかった。俺も、遅れて背中に腕回した。
「直哉さま…」
「……うん」
鼻の奥がじんじんする。もうこれ以上なんかが出てしまわへんように、腕に力込めた。
「………皐月」
その代わり、こいつの名前呼んだ。
・
朝、8時前の新幹線。窓の外は雨が降りそうや。
…あれから、あいつが作った夕ご飯よばれて、風呂もろて、一緒の布団で寝た。頭抱かれて、俺は体に腕回して、もぐり込んで。よう眠れたんかどうかはわからへん。せやけど、すっきりしとる。鏡で見た自分の顔は変わらんと酷いもんやったけど。
・
・
脚は完治や。多少なりとも鈍った分、鍛練しまくった。鍛練、祓う、鍛練、祓う、鍛練、祓う。また鍛練。精度も上がったし、呪力量も増えた思う。ひたすらにやっとると、周りは「さすがや」「さすが次期当主」て今まで以上に囃し立ててくるようになった。勝手に期待値上がっとる。次期当主が俺なんは元々やし、はっきり言うてうざい。
せやけど、順調かて言われたらそうではない。前より寝られるようになったはずやのに、目の下のクマは完全には消えへん。酷いツラや。こんなに目付き悪かったか?
ほんで、すっかり日課になったことがある。スマホチェックや。もっと言うたらメッセージアプリ。大阪へ行って、帰ったその日ぃからあいつから連絡来るようになった。最初は日に1回。それが2回、3回になって、秋の終わりの頃には頻繁になった。内容は大したもんやない。「おはようございます」「おやすみなさい」「行ってきます」「ただいま戻りました」。ほんで「今日はご飯何を召し上がりましたか?」「お怪我はありませんか?」て俺のこと気にかけとる内容や。俺も「おはよう」「ただいま」「蕎麦食べたよ」「お仕事は完璧や」とか返事しとる。すぐにやり取り出来んでも、来とるな、送れとるな、既読になったな、て。俺も確実に忙しなっとるし、あいつはあいつで学校と勉強で忙しそうにしとる。それでも。タイムラグはあるけど、繋がっとることに安心するんや。
・
「明日やんな、お友達と夜にご飯行く言うてたん」
『はい、6時半に始まって2時間くらいです』
「ふーん、楽しんでおいで」
鍛練とお仕事の連続の日々に、最近更に日課に追加された寝る前の電話。時間遅かったら5分くらいのときもある。あいつは夜は家におるから俺のタイミングでかけることが多い。日付け変わっとるときもある。
高校時分にもお友達と行けへんかった夜ご飯の会。短大の同級生とのやつに明日初めて参加するんやと。前から打診あった。全員で10人、男は3人や、て。諸々把握した上で、それやったら行っておいでて言うた。ちゃんと報告あるから、まぁ安心しとる。
次の日ぃ18時20分、あいつから「今お店に着きました」てメッセージ入る。行っとる店のURL添付されとった。クリックしたら、外観店内料理の写真。この辺に座るんか?とか、こんな料理食べるんか、とかうっすら確認した。
俺も今日はこの時間に夕飯やった。自室で落ち着いた頃にはちょうどええ時間や。20時22分。言うてそろそろやろ。
『食事会、もう終わる頃やろ』
『帰るときに連絡してな』
20時35分。返信ない。既読も付いてへん。まぁ大体や言うてたしな。
20時47分。まだ変わらん。…ま、場ぁが盛り上がることもあるか。
『終わっとる?』
『今どこ?』
21時11分。ない。さすがにない。9時過ぎとるやん。既読?付いてへん。言うとること違うやん。
『まだ店か?』
『もう9時過ぎとるで』
『2時間くらいとちゃうんか』
『おい』
『─通話キャンセル』
『─通話キャンセル』
『帰っとる?』
21時24分。
『─通話キャンセル』
『なんで出ぇへんの』
『なんかあった?』
『─通話キャンセル』
『電話出ろ』
『─通話キャンセル』
『おい』
電話に出えへん。そもそも既読が付かん。なんでや。2時間くらい…9時なるまではまぁ理解できたとしてもや。もう9時半やん。
嘘ついとるんか?…いや、あいつに限ってそんなことない。俺に言うた以上、時間過ぎてしもたら気付くはずやのに。周りうるさぁて気付かへん?充電切れてしもた?………。なんや最悪なことばっかり想像してまうやん。
ピリリリリリ…
21時33分。着信音鳴る。あいつの名前や。
「もしもし」
『直哉さま!ご連絡遅れてすみません!』
「別に。大丈夫なん」
『9時前にお店出て今さっき電車降りました』
「そうか。事故ったんちゃうかって思ただけや」
『ご心配お掛けしました』
「随分楽しかったみたいやね」
『はい』
「そらよかった。…まぁ、家着いたらまた連絡しぃ」
『わかりました』
……せやからホンマは嫌なん。俺が見れるかどうかは置いといて、どっか行っとるときはリアルタイムで知らせてくれんと。3人の内の1人と何かあったんちゃうか、9人とは関係ないとこで誰かに隙与えてんちゃうか、て。普段でさえこの部分は気になっとるとこや。
ホンマのホンマは、スマホもメッセージアプリももう嫌いやねん。こんなもんがあるから、こんなもんで薄っぺらいこと繋がっとるから囚われてまうんや。連絡くるか、送れたか、既読ついたか、なんでつけへんのか、返事でけへんのか、今どこおるんか、電話でけへんのか、見れるやろ、そんなわけあらへんやろ…て。全部気になるし、全部知りたなる。情報入ったら、その枠からはみ出てへんかが気になる。はみ出したら責めてしまいそうになる。せやから、ホンマは嫌いなん。最初は安心しとったのにな。…もう、見えてしまうのがしんどいねん。せやけど知らん方がもっとあり得へん。
・
・
「ああ、直哉クン」
「……はぁ、兄さんか。どうもごきげんよう」
午前中のお仕事から帰って風呂入ろうと廊下歩いとったら声かけられた。
下から2番目の兄さんや。呪力はあるようやけど特筆もない、お察しな兄さんの1人や。女中を四六時中付けてエラそうにしとる。好きな兄弟なんかおらへんけど、こいつは特に嫌いや。脳のないカスのくせして、歳の近い俺のこといっちょまえにライバル視しとる。関わるんも嫌やけど、まぁおんなじ屋根の下におったらそうも言うてられへん。
そんな奴が、なんや薄ら笑い浮かべて近付いて来よった。
「最近ヤッてるみたいだな」
「なにがや」
「コレだコレ」
…なんやねん、気色悪い。女とセックスしとんのか、てハンドサインで抜かして来よった。はぁ。女と金のことしか考えとらんカスやわやっぱり。次期当主候補にカスりもせん奴は頭軽そうでなんとも羨ましいことやな。俺の視界外で思う存分ヤッとけや。
「別に」
「またぁ。最近ずっとスマホ弄ってるみたいだしさぁ。都合のいい女出来たんだろ?」
「きしょ」
ハンドサインの次は下品にも空中掴んで腰前に振った。ダルすぎるし脳みそ下半身に支配されとる猿みたいや。こんなん無視するんに限るな。もう絡んで来んなよ。
「まぁお前に寄って来る女なんか、禪院の名前で来る股の緩い女だろ」
「……ああ"?」
「お前が思ってる程、女って純じゃねぇぞ」
はぁ?なんやこいつ。アホ面下げて女を語っとるんか?
「どうせどっかの安い家の女だろ。家柄目当てだ、目ぇ覚ませよー」
「……」
「まさか自分だけ特別だと思ってんのか?うまいこと遊べ」
「…黙れや」
「はっ。お前のことなんか好きな訳ないだろ」
「………」
「まぁその内飽きて離れて行くだろ、そんな女──」
ドゴッッ!
目の前のカスがぶっ飛んだ。女中の悲鳴が響く。床に体が着地すんのとほぼおんなじやった。こいつに馬乗りになって拳握った。
「お前の!周りのカスと!違うんじゃ!」
「ぐあぁっ…!」
ゴンッ!バコッ!ドカッ!
「雑魚が!俺のこと!踏み荒らすなや!!」
バキッ!ガコッ!グシャッ!
「直哉様!お止めくださいっ!」
女中が俺の腕抱えて動き止めて来る。掴んどる胸倉の先には歯ぁ折れて白目向いた血塗れの兄さん。顔面の形変わっとる。俺の拳も血塗れや。汚ったな。
「…次は命ないで」
手ぇからそれ払ろて、ここから去る。
風呂入ろう思たけど足は自分の部屋へ向いた。…棚の上のスマホ確認する。通知が来とる。
『今日の午後はいつもの友人3人とカフェに行ってきます』
あいつから連絡来とった。大体の時間と、行くらしい店のURLが続いとる。「気ぃつけてな」て返信した。
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カラン、カラン
中道入ったとこ。白い壁に洒落とる植物と照明。くすんだ水色みたいな色の扉。それが開いて客が出てきた。
「皐月」
「…え!?直哉さま!?」
「迎えに来たで。またちょっと時間過ぎてるんと違う?」
もろてたURL先の店。そこから女4人で出て来たんを捕まえた。ああ、驚いとるな。
「君ら皐月のお友達?いつも仲良うしてくれてありがとうね」
「は、はい」
お友達も驚いとる。俺が誰かて聞いてへんのか?それか俺の書生服の姿が珍しいんかも知らんな。
「今日のお茶代、俺が持つわ。足らんかったら言うてね」
「えっ、えっ」
一番近くにおった子に懐から出した万札を渡す。戸惑うとるけど、指に札付けたら反射で受け取った。
「ほな、行こか」
「え、はい」
俺は皐月に左手出す。こいつも素直に手ぇ取った。
「ほなね、お友達」
3人に向かって手ぇ振った。引っ張られとるこいつもおんなじようにしとる。
「…あの、直哉さま?」
「………」
作っとった笑顔を戻した。こっち見上げとるこいつの顔は見んと、繋いどる手ぇにぎゅうって力込めた。
「すっかり寒なったな。今日は水炊きとかええんちゃう。作ってくれへん?」
「直哉さま…。…はい、美味しいの作りますね」
「うん」
皐月の手ぇにも力こもった気ぃした。
俺の右手は、まだ痛みがジクジク響いとる。
──第四章:19歳、欲しいものは END──
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