伏黒家の日常
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【伏とスイーツと時々クマ】
──その結界に導きを乞うことはまだ知らない──
「ただいま」
「おかえり。出掛けてたんだな」
「まぁな」
甚爾と恵の間で「ただいま」と「おかえり」を自然に言えるようになり、1階の荷解きはほとんど済んだ頃。
先に帰宅しキッチンで飲み物を取り出した恵に甚爾が声をかけた。手に持っていた、しっかりラミネート加工されている小さめの紙袋をダイニングテーブルに置き、もはや定位置となった「人をダメにするソファ」にドカッと座った。
「恵。それ。何か諸々やっといてくれ」
「ん?ケータイショップの袋?」
「ああ。新規で契約してきた」
今まで使用していたものは既に解約済み。心機一転番号も変えた。目的は過去の繋がりを断ち切るため。一度きりの女を含めその類いの奴は元々電話番号が必要なツールでやり取りはしていない。メールアドレスを変えれば済むかも知れないがそれすら面倒くさい。稼業のクライアントにはもちろん知られているがそれごと切った。
新しいスマホには、ただただ恵と紗奈の名前と電話番号だけが登録されているのみだ。
「俺の番号登録しとけ」
「わかった」
恵もそれ以上は何も言わない。甚爾に「外に女子供作ってないだろうな」と聞くくらいだから父の素行は何となく知っているし、稼業とやらも以前「まぁまともな稼ぎ方ではねぇわな」と本人から聞いたこともある。スマホなんて1人最低1台、肌身離さずにいるほどのこの時代。それをごっそり切り替えるなんて行為に、本人の意思を想像するに難くない。だから何も言わない。
登録しとけと言われたその手で袋、箱の順に開け、電源は入っていたスマホを操作。とりあえず甚爾のスマホから自分の番号へかけた。
「あと便利機能入れといてくれ」
「はいはい」
ソファから指示が飛んできた。恵はダイニングに座り見繕う。自分のスマホを確認しながらダウンロードや登録作業を代行した。
「…こんなもんか。はい、確認してくれ」
「ありがとよ」
言われた通り確認。元々入っていたものに追加されたいくつかのアイコン。それらを1つずつタップしていく。
「これは?」
「それと隣のやつ、Googleな。写真とカレンダー。カレンダーは俺と紗奈と同期してる」
「ふーん。しあさって"妊婦健診"」
「そうそう。ちゃんと見れてんな」
同期や共有などしたことがない。よくわからねぇが便利機能っぽいな、と甚爾は頷く。これで残業だ出張だの、仕事のアルナシをそれぞれが入力しておくことですぐ確認出来るから確かに便利だ。
「天気のウィジェット表示させといた。あとはフードデリバリー。一応地図アプリ」
「ほー」
「あとLINEな。アカウント作っといたから」
「あーそれよく聞くな。ラインとかインスタとかID教えてくれって言われたことあったわ」
「さすがに存在は知ってるんだな」
「んなめんどくせぇモンやる訳ねぇっつーの」
機能うんぬんではなく甚爾の素行の延長上から来る「めんどくせぇ」なのは残念ながらすぐ理解できてしまう。
「まぁもう関係ねぇからな。いいようにしといてくれ」
「ん」
「おい恵。ちょっと待て」
LINEのアイコンをタップし中を確認していた甚爾は眉間にしわを寄せて画面に顔を近付けた。
「これ俺の名前だよな」
「to-jijiな。そう、父さんの名前設定した」
「それはいいとして。おいこれ何だ」
「何が?」
「これ俺のか?」
甚爾はスマホの画面を恵に向けてトントンと指でその場所を叩いた。その指先にあるのは甚爾のアカウントにわざわざ設定されたアイコン。ピンクの背景にピンクのクマがピンクのハートを抱いている、やたらラブリーなそれだった。
「そうだな」
「お前やったな?」
「…何が?」
「笑ってんじゃねぇふざけんな」
「くくっ…」
もちろん恵の悪ふざけで甚爾のイメージとかけ離れた絵柄のアイコンを設定されたのだ。こんな、可愛いとされているものなんて今まで自分の身の回りにあったことはない。それなのにそのアプリの中で自分を表すアイコンが可愛いこれか。我ながらギャップに笑いが込み上げる。
「あとで変えろよ」
「はいはい」
恵は自分のスマホを操作する。とりあえずLINEグループを作って家族2人を招待した。甚爾はそのまますぐに対応する。
「おい、てめぇは全部普通かよ」
「まぁそりゃあな」
アカウント名は「伏黒恵」、アイコンは黒地に「伏」の1文字。これ以上でも以下でもない、と何も考えずに設定して何年にもなる。
「これで紗奈も参加すりゃ連絡もちょっとは楽になるだろ」
「そうなのか。そりゃいいな。……あとこれは何だ」
「どれ」
「鎖の結界みたいなやつだ」
「鎖の結界…?ああ、ChatGPT。便利だぞ」
「なんだそりゃ」
またスマホ画面を見せ画面を指先でトントンと叩く。恵は簡単に使い方と機能を説明した。
「へぇ。聞けば何でも答えてくれんのか」
「ある程度な」
「何でもじゃねぇのかよ」
「まぁ返事は即レスでしてくれる」
精度には多少のツッコミどころはあるにはあるがレスポンスは優秀。など、都合のいいところをピックアップして使えと言い足す。
そしてしばらく。
──ブブブ、
──ピロン♩
「お、紗奈かな」
2人のスマホがそれぞれ通知の反応をした。
『え、このクマちゃんお父さん?』
『そうだ』
『スマホ新しくした』
『番号登録しろ』
『080×××…』
『前のやつ消しとけ』
『連続クマちゃん!なんで可愛いアイコンにしてるの笑』
『恵だ恵』
『こいつ俺で遊びやがる』
恵の画面には例のピンクのクマとソフトクリームのアイコンのやり取りが増える。絵だけ見ると何とも微笑ましい。パッと視線を上げるとやはりソファに沈んでいるゴツくてイカツい父。その父が発言すると現れるクマ。いやはや面白い。思わずウンウンと頷いた。
【紐の硬い息子と緩い嫁】
──無論、父は甘い方につく──
「父さん、これ渡しとく」
リビングでくつろいでいる甚爾に恵が手渡す。見上げた先にはカッチリしたカード。それを受け取り表面らしき方を確認した。
「ん?クレジットカードか。…俺の名前?」
「家族カード。作ってもらった。今日からでも使ってくれ」
表と裏を交互に見て不思議そうにしている甚爾に、恵は短く説明した。そんな2人に、紗奈はローテーブルに紅茶入りのマグカップを置く。
「必要なものあったらそれで支払いしてくださいね」
「おーわかった」
「ちなみにそれ紗奈名義だからな」
「あ?恵じゃねぇのか」
「俺名義だと無駄遣いするだろ」
「ちっ、わかってるじゃねぇか」
甚爾は眉をしかめて舌打ちをする。この人はただでさえ他人に遠慮しない上に、息子相手だと更に容赦がない。生活の一切にかかる出費は自分に任せてもらってもいいが、今まで通り散財してもらっては困る。先回りした策だ。
「あははっ、全然大丈夫!好きなもの買っていいからねお父さん」
「うしっ。欲しかったバイクのパーツあるんだよな」
「おい、甘やかすなよ。それ必要なものじゃねぇし」
とは言え紗奈にはいくらなんでも無茶はしないだろう。新しいスマホで早速パーツを眺めているが。恵は「ほどほどにしてくれ」と2人にため息を吐いた。
【迷宮にて未知との遭遇】
──後日、結局あれもこれもそれも──
こちらもそろそろ動かなければならない。恵も紗奈もネットで情報を見たり見繕ってはいたから全く着手してなかった訳ではないが。赤ちゃんを迎えるにあたって、ベビー用品を揃えて準備しなければ。
「おはよう恵」
「おはよう」
「今日は休みだよね」
「ああ、夕方から高専へ行くが」
「私も出勤が午後からでよくなったんだよね。午前中ベビチャンヒャッカ行かない?」
赤ちゃん、幼児、妊婦の必要なものが揃っている大手。割と近くに大型店舗があるらしい。今日でなくても問題はないのだが紗奈は思い付きで恵に提案した。
「買うのは通販でよくないか」
「まぁね。でも行ってみたいし」
紗奈は妊婦用の服や下着類を買うために何度かそういう店には単独で行ったことはある。が、子供のための用品目的で赴いたことはまだない。もう妊娠後期に入る。あと1ヶ月もすれば紗奈も産休に入るから何か出向く必要があれば甚爾に付き添いしてもらえばいいのだが。とりあえず、そろそろ、思い付き、という感じだ。
「いいぜ、散歩がてら俺がついてく」
ダイニングテーブルで頬杖をついてテレビを眺めていた甚爾。恵の後ろから答えた。
「ありがとうお父さん」
「お前は留守番しとけ」
「いや、行かないとは言ってない」
「紗奈ちゃん、なんか買ったら荷物持ってやるからな」
「ありがとうお父さん♡」
「俺も行くって」
2人はすでに朝食を済ませていたようだ。恵も遅れてパンとサラダとコーヒーを平らげ、本来は遅れるも何もないはずなのだが父に急かされいざ出発。行き先はベビチャンヒャッカ、目的は下見。
新しくダウンロードしたタクシーアプリで配車された車に乗り込む。一番奥にずいと座った父はどこか得意気。その隣で、恵は肩幅を出来る限り削っていた。「誰か前に乗ればよかったか」と紗奈の頭をよぎるが、すでに車は走り出していた。
さぁ目的地についたがさすが大型店舗。目的はあれど何から見るかは決めていない。目の前に広がる幾多の商品棚を前に3人は沈黙。元裏稼業、手練れの呪術師、デキるキャリアウーマン。いくら戦力は揃っていてもここでは完全なる初心者。異国にワープしてきた冒険パーティーのようだ。足が止まる。が、しかし場違いなどと言ってられない。
「……」
「……あー」
「んー。とりあえず回ろっか」
「だな」
一番やる気の紗奈が腕をまくり、処理落ちしている2人を引き連れとにかく前に進んだ。
──ベビーカー
「さっそく大物からか」
「やっぱ目立つからねー」
「ちなみにいくつか候補絞ってるぞ。ブックマークしてる」
「あ、そうなの、ありがとう」
「これとか…、これとか」
「いいじゃん。現物ありそう?」
「ん、見てみる」
「え!恵!これ20万以上するじゃん!」
「レビューもいいし星4.0だぞ。乗り心地いいらしい」
「なんだそれ。赤ん坊からのご意見かよ」
「タイヤもいいやつでデコボコ道もらくらく、だってさ」
「そりゃいいものだろうけどさぁ。ベビーカーって、必要かもだけど乗らない子は全然乗らないらしいよ。乗ってくれればいいけど。これくらいのラインでいいよ」
「まぁそうなのか」
「つーかこのA型とかB型ってなんだ?」
「ちょっと待ってお父さん…!ふ、ふふ…っ、お父さんベビーカー超似合う…!」
「ああ?ふん、そうだろうが」
「笑ってんじゃねぇか…素直に超似合わねぇって言え。何だったらベビーカーすら武器にするだろこの人」
「これグリップきいてて振り回しやすそうだな」
「やりかねねぇから怖い」
「やるかバカ」
「ふふっ。まぁベビーカーは急がないかな」
「だな。三輪も頑丈そうだし…。現物見たら余計迷うな」
「タイヤゴツくて押しやすけりゃいいだろ」
「あっ、もちろん恵もベビーカー似合うよ?」
「いやそこ妬いてねぇから」
──抱っこひも
「多分めっちゃ使うよ」
「まぁ要るわな」
「しかもさ、私とお父さんじゃ体格違い過ぎるから、物によるだろうけどいちいち調整してらんないじゃん。2個あってもいいんじゃない」
「確かに」
「下手すりゃ俺が一番色々使うだろうしな」
「そもそも体格いい人付けられるのか?父さんこのお試しのやつ装着してみてくれ」
「はい、この子5キロのお人形です」
「ん。……って、これどうやって付けんだ…恵手伝え」
「ちょっと待てよ…、ここ伸ばして…これがこう、で…こう。んで前から背負って…人形入れる、と…。ん、これで…オッケーか」
「できたか」
「装着はできた」
「全然大丈夫だね」
「……問題ないが…。父さんのこと知ってる人この姿見たら卒倒するぞ」
「はっ。殴る手間省けるじゃねぇか。…っと、それにまぁまぁ揺れても安定感ありそうだな。中身入りでもある程度暴れられそうだ」
「使用感レビューはいいが……そういうのから足洗ったんじゃなかったか?ちょいちょい片鱗見せんな」
「試す日が来なけりゃいいなぁ」
「来てたまるか」
「まーた物騒な話してる」
──おしり拭きウォーマー
「お、これよくないか」
「何それ。え、おしり拭きずっと温めとくの?」
「尻拭くときあったかい方がいいじゃねぇか」
「はぁ?お前過保護すぎか。冷たくていいだろそんなもん」
「でも冬場寒かったら可哀想だろ」
「ちびすけの尻甘やかすな、鍛えてやれ」
「尻に鍛えるもねぇだろ」
「じゃあ甘やかすのも違ぇだろ」
「だから甘やかすとかもねぇって」
「絶対無駄だ」
「…この討論、孫のおしりについてだよね…」カシャ
「「撮るな」」
──鼻吸い器
「ほー、色々あるな」
「ゴツいのからコンパクトなモンまで…。これはノーチェックだった」
「鼻つまれば要るし、不要かもしれないやつだね」
「これも必要性あれば買う方向か」
「頭押さえてストローで吸やぁいいと思うがなぁ」
「ええっ!」
「…まぁ一理ある」
「昔は直接口で吸ってたって聞くぞ」
「えーそうなの!まぁ昔はこんな機械ないもんね」
「…でもこれの場合、星4.5だぞ」
「出た~レビューの星オタ!伏黒家の天体観測者!」
「うまいこと言うな紗奈ちゃん」
「なんだよ、お前らも参考にするくせに…」
──ベビー服
「ベビーカーと抱っこひもは日を改める、かさ張るオムツとかは通販で買うとしてさ。ベビー服何着か買おうよ」
「ある程度必要数も調べてある。肌着と部屋着とお出かけ着。あと必要なら退院着としてベビードレスもだな」
「うわーほんとにいっぱいあるねー!ちっちゃくて可愛い~!」
「新生児は60サイズくらいらしいが…」
「60!ちっちゃい~」
「60は3ヶ月程度まで。すぐでかくなるから70サイズで裾折って使うのもいいみたいだな」
「じゃあとりあえず60サイズを1人1着選ぼうよ」
「えー。難しいな」
「俺もか?」
「もちろん!」
「あとで文句言うなよ」
「言わない言わない、ちゃんと着せます!」
「…この店にいる父さん、だいぶ見慣れたつもりだったが……ベビー服選んでるとこマジで皆に見せたい」
「見たやつに"試しに"行くからな?」
「怖ぇ」
「決まった~?見せてー」
「……白とグレーのボーダー、胸に恐竜の刺繍…これだな」
「ステゴザウルス?さすが恵、安定のシンプル選び」
「これ生地がいいし汚れも目立たなさそうだし。前開きで着替えさせやすそう」
「理由が全部現実的だな」
「私はこれ!水色でぞうさんと風船柄、胸ポケット付き」
「何だよその小さいポケット」
「意味あるか?何入れんだ」
「えー。夢と希望?」
「何だそれ」
「じゃあもっとデカイポケットにしろ」
「もー。この無意味が可愛いんじゃん。そう言うお父さんはどんなの選んだの」
「俺はこれだな」
「お。セットアップ?プリントか?」
「1枚でシャツもベストもズボンも揃ってんだぞ。蝶ネクタイも別途付いてる。お得だろ」
「めっちゃいい!キメてて可愛い~!確かにお得~」
「意外とセンスいいのが腹立つ」
「そうか?もっと褒めてもいいぞ」
しばらくの迷宮探索の末、伏黒家の冒険者たちは一旦ここから離脱。1人は別の戦場へ。残りは拠点へと帰還した。
結局今日の戦利品と言えば3枚入りの肌着と3着のカバーオール。あれも、これも、それも、と紗奈のカードが火を吹くのは少し先の話。
リビング横の、現在物置きになっているがもうすぐ子供部屋兼プレイルームになるそこに、小さな服が増えチェストに仕舞われる。段々と子供仕様に変わり、1階がカラフルになる日も近い。
───つづく
★次回:「名前会議、出産編」
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