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第3回戦 夏休み前の試練

「会長、かわいいんだけどぉー!」
「うるせーよ! これしかなかったんだよ!」

 翌日の放課後、家庭科室はにぎわっていた。主に美雪と家庭科部員によって。

「どうしたの、あれ」

 私は遠くから女子生徒たちに囲まれる秋元を指さした。

「お姉さんのエプロンしかなかったんだって」

 モッチーは自分のエプロンをつけながら私に教えてくれた。秋元のエプロンは薄いピンク色にハムスター柄という何とも乙女チックなものだ。そんな彼は嫌々エプロンをつけているが、女子たちに囲まれているためか少し嬉しそうにも見える。

「水野さんはひまわり柄なんだね」
「うん。これ、小6の時に家庭科の授業で作ったんだ」

 ――友達がね、と私は心の中で呟いた。
 諸事情があり、それに同情した友達が手伝ってくれたのだ。情けなくて泣きそうになり、裁縫が嫌いになったトラウマのきっかけとなったエプロンだが、家にこれしかなかったので仕方がない。

「えー! 会長も自分が作ったやつ持ってくればよかったのにー。まあ、これはこれでいいけどぉ」

 美雪はいつの間にか女子の輪から抜けて会話に混ざっていた。

「ああ、秋元は――」
「おい、水野! 来てるなら言えよ」

 秋元が私と美雪の会話を遮って間に割り込んだ。

「随分とかわいいエプロンで来たのね。勝負服かしら?」
「うるせーよ。姉のだ! さっさとルール説明しろ。早く終わらせるぞ」

 早くエプロンを脱ぎたいようだが、なかなか似合っているとは本人には口が裂けても言えない。私はエプロンと三角巾をつけ終わると、家庭科室の黒板を借りてルールを書いた。

 今回は家庭科部員が出したテーマに沿って料理をすること、食材は家庭科部で用意してくれていることを続けて伝えた。有り難いことに、金子さんが夏休み前でちょうど期限が切れそうな食材があるということで、お肉、野菜、卵などを用意してくれた。その中から料理テーマに沿って料理を作っていくという流れだ。お米は事前に炊いてくれていたという徹底ぶりに感謝しかない。

「なんだか、料理番組みたいだねぇ」

 美雪が興味津々に机の上に並べられた食材を手に取った。あまりベタベタ触らないでとモッチーに言われて頬をぷくりと膨らませている。

「それで、料理でどうやって決闘するんだよ」
「家庭科部の皆さんに決めてもらおうと思って」

 金子さんだけに声を掛けていたのだが、他の部員も面白そうという理由で立ち会うことになり、5人中3人が参加してくれることになった。私は自分のバッグの中から用意していた紙とペンを取り出した。

「見た目・味・テーマ性の3項目をそれぞれ5点満点で出してもらって、合計点数が高かったチームの勝ちっていうルールにしようかと思って」
「見た目も評価されるんだね……」

 モッチーは驚いたようだった。
 初めは味とテーマ性だけにしようと思ったが、秋元の普段の雑さからすれば、見た目にはあまりこだわりがなさそうという理由で入れたのだ。我ながらやり方が汚いと思うが、勝つためには仕方のないことだ。

「なあ、ぞうきんの――」

 秋元がそう言いかけたとき、私は反射的に彼の口を両手でふさいだ。

「……っ! なにするんだよ!」
「ちょっと、こっち来なさい」

 私は秋元の肩を押して引きずるように家庭科室の廊下に出した。

「バカ! ぞうきんを手伝う手伝わないの件は家庭科部には話してないの! じゃないと、あんたとモッチーのチームに点数が多く入るのは必然的じゃない!」

 今回はぞうきんのお手伝いの件は伏せて家庭科部に協力をお願いしているのだ。あくまでも生徒会で料理対決がしたいと金子さんには伝えてある。

「ぞうきんのお手伝いの件は今は禁句。いいわね?」
「わ、わかったよ……」

 相当私が怖かったのか、うろたえる秋元。何だか悪いことしたなとは思いつつも、事情が事情だから負けられない。私と秋元は家庭科室に戻ると、説明を続けた。

「時間は45分間。家庭科部の皆さんも大変な時期だから、手っ取り早く終わらせましょう」
「水野さん、その……気を遣ってくれてありがとうございます」

 金子さんが私にペコリとお辞儀をした。

「こちらこそ、無理言ってごめんね。あと、水野さんじゃなくて、夕夏でいいからね」


☆  ★  ☆


「では、料理テーマを発表いたしますね」

 タイムキーパーを務める部長の金子さんが喋り出すと、全員が金子さんに注目する。
 さあ、どんなテーマが来るだろう。自分が予想している料理テーマに合った食材は大体目星をつけてある。和食、洋食、中華と、一通り昨日の夜に簡単に作れるレシピ集は読み込んできた。
 発表を前に、私は息をのみこむ。

「テーマは……公園デートですっ!」
「……ん?」

 家庭科部の3人はテンションが高まっているのか、キャーと言いながらぴょんぴょんと跳ねている。

「お弁当箱は食材の置いてある机に置いておきますね」

 家庭科部の部員が、人の顔よりも一回り大きめのお弁当箱を2つ机の上に置いた。運動会で家族など大人数で食べるときのような、重箱タイプのお弁当箱だ。

「ただ、45分となると少し時間的に厳しい気がしますので、冷凍食品も冷凍庫にご用意があります。数に限りがあるので、早い者勝ちになりますが」

 金子さんはそう付け加え、家庭科室にある大きな冷蔵庫を指さした。

「では、今から45分計りますね」
「えっ? ちょ、ちょっと――」
「始めです!」

 いやいや、待って! 公園デートって何!? そこは卵料理とかじゃないの!? そういうテーマなの!? 混乱する私の隣で美雪が声を掛ける。

「夕夏、食材取りに行こぉー」
「わからない……。公園デートってなに……」
「えぇー……。口から魂が抜けてるような顔してるよぉ? 大丈夫?」

 美雪に肩を掴んで揺さぶられた。全く大丈夫ではない。

「……美雪、公園デートしたことある?」
「え? ないよー」

 終わった。私は膝から崩れ落ちた。

「あっ、でもぉー。少女漫画とかで見たことあるよ。公園デート」
「本当!?」

 一筋の希望の光が見えた。今回は美雪に託そう。立ち上がると、秋元とモッチーが視界に入った。彼らは既に食材を選んでいるところらしい。秋元がモッチーに何かを説明しているあたり、主導権は秋元にありそうだ。もしかして、彼は公園デートの経験者なのかもしれない。

「じゃあ、わたし食材取ってくるねぇー!」

 美雪は軽い足取りで食材の置いてある机に向かった。なんて心強い。

 しかし、秋元に彼女がいるなんて聞いたことない。本人が私に話していないだけかもしれないが。確かに彼は生徒会の会長という地位にいて、運動神経が良くて、容姿も言われてみれば女子受けしそうな顔している。身長は平均よりも低めだが、さぞモテるのだろうとは思う。

 ……いや、今は秋元のことはどうでもいい。決闘に勝つことを最優先に考えよう。


☆  ★  ☆


「夕夏ぁ~。卵焦げた……」

 私は何もわかっていなかった。美雪は公園デートを知っていると言っただけで、料理は全くといって出来ないことを。

「あー……。そういうこともあるよね」

 卵の割り方から怪しかったので、そこで気がつくべきだった。美雪の焼いた卵焼きは、黄色よりも黒の面積の方が多くなっていた。

「美雪って普段料理するの?」

 ご飯を炊飯器からよそい、おにぎりを作っていた私はその手をいったん止めた。

「したことない。家政婦さんがやってくれるもん」

 美雪は今にも泣きそうな声で答えた。
 家政婦……! ドラマや映画でしか聞いたことなかったが、本当に存在するとは。何か家政婦を雇わなければいけない事情が柊家にはあるのだろうか。

「じゃあ、こうしない? 美雪が思い描いてる公園デートのお弁当をイラストにするの。それを元に私が作るわ」
「おー! それいいねぇー!」
 美雪の表情がパッと明るくなった。よかった、これでようやくスタートラインに立てる。美雪に紙と黒いボールペンを渡すと、楽しそうに書き始めた。その間に、ちらっと秋元とモッチーの様子を遠目でうかがった。

「卵焼きは砂糖だろ」
「僕の家では塩だよ」

 卵焼きの調味料で揉めているようだ。これはいい時間稼ぎだ。ずっと揉めていなさいと心の中で思っていると、秋元が決定的な発言をした。

「周りが塩気のあるものだから、ここは砂糖を使って味にギャップを出したほうがいい」

 まともな意見――! 何も考えてないで、好きな物を詰め込むだけ詰め込むという雑さを期待していた私は唖然とし、2人のやり取りを見ていた。モッチーはなるほどと納得し、秋元に調理を任せて何かの下準備に回った。凄まじいチームワークだ。

「書けたよぉー」
「ありがとう! どれどれ……」

 私は美雪から受け取った紙をじっくり見た。じっくり見たのだが……。

「あのー、美雪さん。この顔が書いてあるものは何?」
「タコさんウインナーだよぉ!」

 ああ、なるほど。言われてみて初めて気がつくレベルだ。

「それで……何で頭から髪の毛生えてるの?」
「これは、つまようじだよぉ!」

 彼女の描いている世界観が独特すぎて、一般人の私には到底理解できなかった。そんな美雪画伯の絵を本人に聞きながら、私は調理を進めていった。


☆  ★  ☆


「5、4、3、2、1……はい、調理終了です!」

 金子さんのカウントダウンで、それぞれが調理をしていた手を止めた。結局、時間までにすべて作り終わらす、お弁当箱の4分の3しか食べ物が埋まらなかった。隙間ができてしまっているので、見た目の点数は期待しないでおこう。それよりも、味で勝負だ。

 私たち生徒会4人はお弁当箱を持ち寄って、黒板前にいる家庭科部員に届けた。

「さあ、食べましょうか」
「生徒会さんの作ったお弁当、楽しみですね!」

 家庭科部の女子3人はわくわくしながら、2つのチームのお弁当の蓋を開けた。

「わぁー! 素敵ですね!」

 部員たちは歓声をあげた。金子さんが秋元・望月チームのお弁当を見てはしゃいでいる。

「サンドイッチ、私好きなんですよね」
「ああ、それは良かった。時間も少ないし、弁当箱も大きいからサンドイッチで幅を取ろうと思ってな」

 秋元は腕を組んで満足気な表情だ。

「すごい……! 公園デートでこんなお弁当を彼氏が作ってくれたら喜んで食べますよ」

 家庭科部員から大絶賛の嵐だ。秋元・望月チームのメインはサンドイッチで野菜も色々と使われているからか、彩り鮮やかなお弁当となっている。私もあまりの完成度に見入ってしまった。

「うそ、これ本当にあんたが作ったの?」
「失礼だな! 本当だよ。まあ、春樹も手伝ってくれたけどな」
「お弁当の中身を考えたのは拓海だけどね」

 秋元のドヤ顔はムカつくが、今回ばかりは彼を甘く見ていた私の作戦負けだ。

「夕夏さんと柊さんのお弁当も素敵ですよ! かわいらしい見た目で写真を撮りたくなります」

 私たちのチームはおにぎりを中心に、問題のタコさんウインナー、卵焼き、アスパラとベーコンの串刺しなど、美雪がセレクトした食べ物を中心に詰め込んだ。

「ああ、私たちは……」
「時間がなくてぇ……」

 私と美雪は目を合わせて苦笑いした。初めは絶望的で一品もできないのではないかと思っていた。未完成ではあるが、ここまで作れたことに正直安堵している。

「夕夏ぁ、わたしたち頑張ったねえ……」
「本当ね……」

 お互い遠い目をしながら、私と美雪は固く握手を交わした。

「……何があったか知らねーけど、女の友情は熱いな」
「そうだね」

 家庭科部員による味見も終了して、いよいよ結果発表となった。審査員の家庭科部3人は、味・見た目・テーマ性の3つの項目で、それぞれ5点ずつ評点をつける。そして、その合計が高かったチームの勝利だ。

「両方美味しかったのですが……合計点数を計算したところ、45対37で、秋元会長と望月副会長のチームの勝ちです!」
「やったぞ、春樹!」

 金子さんが勝敗を言い終わると、秋元は飛び上がって喜んだ。

「テーマ性も素晴らしいと思いました。サンドイッチもラップに1つずつ包まれているので、外のデートにはピッタリなのではないでしょうか」
「サンドイッチに挟まれている薄焼きの卵がいい味出してますね」

 家庭科部員からの評価も上々だ。

「オレたち頑張ったな!」
「まさか満点を貰えるなんてね」

 秋元と望月は嬉しさからか、抱き合っている。そうか、45点は満点だ。家庭科部3人が味・見た目・テーマ性でそれぞれ5点を出しているということだ。

「男の友情は熱いねぇ」
「そうね。でも、まあ――」

 私は嬉しそうに喜ぶ秋元を見ながら、思わず拍手をしていた。

「今回は、あいつの勝ちね」

 自分で言い出した決闘で負けているのに、何だか清々しい気持ちだった。

「さあ、生徒会の皆さんも一緒に食べましょう!」

 金子さんはみんなに声を掛けると、全員が1つの机に集まった。談笑をしながらお弁当を食べる時間は本当に楽しく、あっという間に時間が過ぎていくように感じた。

「悔しいけど、本当に美味しいわ」

 私は緊張の糸が切れ、秋元とモッチーの作ったサンドイッチを無心にほおばった。

「ねえ、会長とモッチーは料理するのぉ?」

 美雪はサンドイッチ片手に質問する。

「オレは日によって夕飯作ったりしてるぞ」
「僕は母親の料理を手伝うくらいしかやらないよ。だから今回は拓海がほとんど進めてくれた」

 モッチーは謙遜しているようだが、どうやら2人とも普段から料理をしているらしい。事前に調査をしておけばよかったと後悔した。

「水野さんと柊さんのお弁当も美味しいよ。ねえ、拓海」
「まあ、そうだな。オレたちには負けるけどな」
「素直じゃないね」

 モッチーはそう言って苦笑いした。

「あの……」

 金子さんと部員2人が申し訳なさそうに会話に入った。

「秋元さん……いや、秋元会長! もしよろしければ、家庭科部に入部していただけないでしょうか」

 金子さんは秋元に向かって頭を下げた。

「秋元会長の包丁使いや手際の良さを、私も是非見習いたいです!」
「3年生が抜けて、今5人しかいないんです……」

 家庭科部の部員が続けて頭を下げる。私たち生徒会4人は顔を見合わせた。

「……オレには生徒会があるから、それはできない。でも誘ってくれてありがとな。たまに家庭科室に顔出すよ」

 料理を食べに、と秋元は付け加えると家庭科部員たちは喜んで手を叩きあった。

「生徒会は部活をやっちゃいけないなんてルールはないけど」

 モッチーが横から秋元にたずねた。

「オレは生徒会一筋だからな。志木折中の平和を守るために」

 最後の一言はかっこいい風に言っているが、いつから生徒会は志木折中の平和を守るパトロール隊になったのだろうか。

「思い出したけど、金子さん。今ここにいない部員はぞうきん縫ってるんだよな?」

「あっ、は、はい……。そうなんです」
「その件だけど――」

 秋元が言いかけている途中に、家庭科室のドアが「バン」と音を立てて勢いよく開いた。

「美味しそうな匂いがするんだけどー! あたしも食べるー!」

 大量の雑巾を抱えて、足で扉を開けた“彼女”には見覚えがあった。

「おっすー! 夕夏じゃん!」
「菊乃!」

 小林菊乃は私の小学生の同級生で、中学生になった今でも仲のいい友人だ。男勝りな短髪のスポーツ少女で、小学校まではソフトボールをやっていたらしいが、中学入学後は家庭科部に入部している。

「あ、小林さん。生徒会でぞうきん100枚手伝うから、それちょうだい」

 秋元は菊乃が手に持っている大量のぞうきんを指さした。

「え、まじ? それは助かるわー。でもコレ完成品だから、あとで持ってくるね」

 そうだ、私たちは決闘に負けたのだ。ぞうきん作りの手伝いをしなければいけない。

「ねえ、今……『生徒会で』って言わなかった? もしかして、この人もやるの?」
「この人とは何よ。失礼ね」

 菊乃は私が座っている椅子の後ろに回り、私の肩に顎を乗せた。

「そうだけど。4人で25枚ずつやればすぐ終わると思うから」
「秋元くん、正気? ミシンブレイカー水野の異名を持つ女に裁縫させるの?」
「ちょっと、菊乃!」
「この子、小6の裁縫の時間にミシンを立て続けに壊して『ミシンブレイカー水野』って言われてたんだよ」
「お願いだから、もうやめてってば!」

 菊乃の口に私の作った卵焼きを突っ込み、彼女はようやく静まった。
 そう、今つけているエプロンは菊乃に手伝ってもらったのだ。そのきっかけとなったのが、裁縫中に私がミシンを2台連続で壊したこと。そして、当時のクラスメイトから暫くの間『ミシンブレイカー水野』と呼ばれていたトラウマが蘇ってきた。

「おまえ、どうやったらミシンを壊せるんだよ。逆にすげーよ」

 秋元が呆れながら言った。

「う、うるさいわよ」
「ミシンブレイカー水野って、なんか語呂がいいねぇ」
「こら、からかうのはやめなって」

 秋元と美雪の頭にモッチーが軽く、ぽんと手を置いた。

「誰にも苦手なことはあるでしょ」
「……まあ、そうだけどぉ~」

 そう言って美雪は口を尖らせた。自分にも思い当たるところがあるのだろう。しかし、これ以上傷口が広がらなくてよかった。モッチーにはいつも助けてもらってばかりだ。

 遠くからぞうきんを運ぶのを手伝ってほしいと菊乃から声がかかり、秋元とモッチーが同行することになった。2人は立ち上がって家庭科室を出ていく。

「私たち、夏休みは登校確定ね」

 ぞうきんの作成は夏休み前に終わらせるとして、9月1日の配布に間に合うように志木折だよりも作らないといけない。そもそも、ミシンブレイカーの私がミシンを貸してもらえるのか不明だが。

「なんで会計も志木折だより手伝わないといけないのぉ~」
「会計は会計しないからね」

 志木折中学校の生徒会の会計は名目上の会計であって、実際に仕事があるかといったらない。要は雑務なのだ。

 「負けは負け。さあ、片づけましょ」

「ねえ、会長って夕夏と同じクラスだったんじゃないの? 小学6年生のとき」
「え? そうだけど」
「なんで夕夏がミシン壊した話知らなかったの? 初めて聞いた感じだったよねぇ」

 美雪は首を傾げた。

「ああ、うん。あいつ、あれでも学校休みがちだったから」

 休みがちなんて言葉が自分の口から出てきたが、正確には違う。名簿に名前はあったものの、秋元は小6の時、一度も学校に来ることはなかった。彼は小学校の卒業式にすら出席していないのだから。
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