第2回戦 心霊現象を調査せよ
「なあ。志木折中って、戦争中に死人がいっぱい出た場所らしいぜ」
放課後の生徒会室。
様々な柄の傘が校門に向かっていく中、窓の外を見ていた生徒会長の秋元拓海は小さくつぶやいた。
「……え?」
テスト勉強をしていた私は思わず手を止めた。
「それで、行き場のない霊が廊下をさ迷い歩いているとか」
「そ、そんな冗談みたいなことを真面目な顔で言うのやめてくれない? 今、英語の勉強してるの。邪魔しないで」
思いきり怒ろうとしたが、自分でも恥ずかしいくらいに弱々しい声になった。そんな私を無視して、秋元は話を続ける。
「その中でも有名なのが6歳くらいの子どもの霊が、夜になると鳴き声を上げて学校の廊下を歩いていくんだ。『お母さん……お母さん……』って言いながら探し――」
「いや――っ! 聞きたくないっ!」
「もうやめなって」
私の叫び声と重なって、モッチーが丸めた教科書で軽く秋元の頭を叩いた。
「何だよ、春樹! いいところだったのに邪魔すんな」
「水野さん嫌がってるでしょ。作り話も大概にしなよ」
え……? 作り話?
☆ ★ ☆
「えー……。何でこんなに空気が悪いんでしょうかぁ、皆さん? 換気しましょうかぁ? 雨だけど」
一番最後に生徒会室に入ってきた美雪が席に着くと、私、秋元、モッチーがそれぞれ違う方向を向いて着席していたのを見て、異様な雰囲気を察したらしい。
「それで、会長はなんで頬が腫れてるのぉ? 虫歯?」
「ゴリラに殴られた」
不機嫌そうに私を横目で見ながら秋元は言った。人間に向かってゴリラとは、失礼極まりない。
「もう一発いかがです?」
「結構です」
「あー……。やっぱり窓開けよぉ」
美雪は窓を開けに席を立った。窓を開けると、アスファルトに叩きつけるような強い雨の音が聞こえる。
「うおー。凄い雨降ってきたねぇ」
美雪は窓から身を乗り出して外の様子を見た。
「これは雨が強くならないうちに帰ったほうがいいかもねぇ」
「それなら、早く始めたほうがいい」
モッチーが、生徒会室の外にある議題箱を取りに行こうとすると、秋元がストップをかけた。
「待て、春樹。今日の議題はここにある」
秋元は机の上に畳まれていた紙を広げて置いた。
「柊、読め」
「えぇー。何でわたし?」
渋々と秋元から手紙を受け取り、美雪は内容を音読した。
【完全下校時間を過ぎても校舎の明かりがつくことがあります。心霊現象でしょうか?】
「……って、何じゃこりゃ」
美雪は秋元を睨んだ。
「心霊現象なんか、あるわけないじゃーん! 遅くまで残ってた先生がつけたんだよ」
美雪はそう吐き捨てるように言うと、秋元が反論した。
「ロマンのないことを言うな、柊! 学校と言えば怪談・心霊現象だろ。いや、これは絶対心霊現象なんだ!」
「熱く語ってるところ悪いけど、いい加減その机の上に足乗っけながら喋る癖やめなさいよ」
私がそう言うと、不貞腐れながら秋元は机から足を下した。
「さっきの作り話はこの手紙のことね?」
「あーはいはい、だから何だよ」
「第一、お化けなんているわけない――」
私がそう言いかけたとき、突然雷鳴が聞こえた。
「――っ!!」
とっさに耳を塞いだが、間に合わなかった。
「おー。派手に落ちたねぇ」
「柊さん、外見てないで窓閉めて」
モッチーが美雪に声をかけて、2人でいそいそと窓を閉めている。
何なのよ、このタイミングは……。
秋元の方を見ると、天気を味方につけたと言わんばかりにドヤ顔をしている。神様、どうかヤツに雷を直撃させて黒焦げの炭にしてください。
「わっ、停電!?」
突然、電気がチカチカし始めたと思えば数秒後には消えてしまった。
「もう嫌だ……帰ろうよ」
「楽しくなってきたなあ」
不気味な笑いを浮かべる秋元と、秋元の横に座る冷めた顔をしたモッチー。美雪も何だかんだ状況を楽しんでいるようにも見える。
「水野、今日の議題を書け」
「無理!」
「生徒会長の命令に背くのか?」
「こんな暗い中じゃ書けないし、私帰る」
私は席を立った。
「夕夏、この雨の中だと危ないよー? 雷落ちるかもぉ」
美雪が窓の外を指さした。思わず身震いした。それはさすがに勘弁してほしい。
「この議題には賛成できないけど……。雷雨は一時的なものだろうし、少し校内で雨宿りしていくのがいいと思うよ」
「おい、春樹! 聞き捨てならないな、今の言葉!」
「だって、どう考えても生徒会が解決する議題じゃないよ。生徒会は何でも屋じゃないんだから」
「確かに、解決してくださいとは一言も書いてないねぇ」
美雪が手紙を見て頷いている。
秋元は完敗ね、ご愁傷様。
「じゃあ、雨が弱まったら帰ることにするわ」
「だ、だけどな……! もし、完全下校時間を過ぎても下校していないヤツがいたら、それは校則違反だ! そいつは校内の風紀を守るためにも注意しておかないといけない、だろ」
秋元がしどろもどろに弁解した。3人は顔を見合わせる。
「心霊現象は捨てたわね」
☆ ★ ☆
議題:完全下校時間後に居残る生徒の取り締まりについて
私は秋元に言われた通りにホワイトボードに文字を書いた。
「言っておくけど、私は雨が弱まったら帰るからね。それまで会長様のお遊びに付き合ってあげるわ」
「だから、遊びじゃねーよ。立派な生徒会の仕事だっつーの」
秋元の不機嫌は続いている。
「それにしても、蝋燭が生徒会室から出てくるとは」
「会長の制服のポケットの中からマッチが出てきたのも、なかなかの驚きだけどねぇ」
モッチーの後に続いて美雪がそう言い、会長の机に置かれた蝋燭の火を見つめた。
「うるせーよ」
どうやら秋元は理科の時間に使ったマッチを返却し忘れたらしく、制服のポケットに入れっぱなしになっていたようだった。彼らしいと言えばそれまでだけど。
蝋燭は何故か生徒会室の棚から出てきた。これは秋元によれば、既に卒業した生徒会役員が修学旅行で買ってきたお土産らしい。円柱型で私の握りこぶし1つ分くらいあり、蝋が溶けるのには時間がかかりそうだ。
「はい。で、この議題に反対意見のあるやつは……いないと思うが、一応ルールだから賛成と反対の札を挙げてもらうぞ」
ありまくりですが、と心の中で思いつつも秋元の合図で一斉に札を挙げる。札を挙げたことで風が起きたからか、蝋燭の火は大きく横に揺れた。
なんと、賛成の札を挙げたのは秋元だけだ。
「は? 何でみんな反対なんだよ」
「はーい! じゃあ、わたしから言いまぁーす」
美雪が蝋燭に顔を近づけるように身を乗り出して、ベルを力強く押した。
「そんな遅くまで残ってたら『怪盗戦士☆マジョルカ』の放送時間に間に合わないじゃん! そんなの嫌~! 早く帰りたいもん。だから反対」
『怪盗戦士☆マジョルカ』は平日の夕方に放送されているアニメだ。詳しい内容は知らないが、美雪はアニメやゲームが好きと言っていたっけ。それに、家が志木折中から離れているそうだから、あまり遅くまで残っていたくないのだろう。
「そんなの、録画して観ろよ」
「リアルタイムで観たいのぉ!」
「オレは録画してるぞ!」
あんたも観てるんかーい!
「……あの、意見言っていいですか」
モッチーが秋元と美雪に一声掛け、ベルを鳴らした。
「僕らも生徒である以上、完全下校時間には下校しないといけないと思う。だから、もし残っている生徒がいた場合は、先生たちに下校するように促してもらえばいい」
僕らがすることじゃないよ、とモッチーは、もっともらしい発言をした。確かに、生徒が出る幕ではなさそうだ。
「お前はどうなんだ?」
「私は――」
「おい、ベルを鳴らしてから発言しろ」
秋元が食い込み気味に言う。この発言するときにベルを鳴らすルールは正直に言って不要だ。私は仕方なく、手元のベルをちょこんと鳴らした。
「私は、別に放っておけばいいと思う」
「はあ!?」
秋元が勢いよく身を乗り出したせいで、ろうそくの火が一瞬消えそうになった。
「だって、私たちや他の生徒にも害はないわけでしょ? 今のところだけど」
そう。居残っている生徒が何らかの問題を起こして、他の生徒が迷惑をしているとかであれば話は別だ。でも今回に限っては単に秋元の憶測である上、クレームなども報告がされていない。つまり、私たちには関係なく、完全下校時間を過ぎても残っている本人の問題だと思う。
「確かに、そうだね」
モッチーと美雪は私の意見に頷いてくれた。さあ、1対3で反対派が有利な状況だ。秋元はどう出る?
秋元は静かにベルを鳴らした。
「まあ、水野の意見もわからなくはない」
遠まわしな表現だが、私の意見を素直に認めた。反発が多い秋元だが、珍しいこともあるものだと驚いた。
「じゃあ、こうしよう」
秋元が立ち上がって、ホワイトボードに何かを書き始める。
「春樹はさっき、先生に任せればいいと言ったな?」
「うん。そうだけど」
「でも、先生も根拠がないと動いてくれない」
書き終わった秋元は、私たちに書いた文章を見せるようにホワイトボードの横に立った。
「期間は1週間だ。生徒会で完全下校時間を手分けして見回る。手分けすれば短時間で終わるだろ。それで、もし居残っている生徒を見つけたら先生に報告。あとは先生たちが対応すればいい」
そう説明すると、自分の席に座り話を続けた。
「期末テストも迫ってるし、そんな長い期間はやらない。それで残ってる奴がいなかったらもうこの企画自体終了。これでどうだ」
普段感情的な秋元がここまで淡々と、しかも順序立てて説明するのが珍しかったからか、私を含めた3人は思わず固まってしまった。秋元ではない違う人を見ているのではないかと錯覚してしまうほどだった。
「あー……。1週間って限定されてるなら、別にいいかな……」
静まり返り、雨の音だけが生徒会室の中で聞こえる中、私はそう発言した。蝋燭の火で照らされた秋元の口角が上がっているのを私は見逃さなかった。
「これで賛成は2人だ」
しまった――! 秋元は誰かを賛成派に誘い込むために、この演出をしたのだ。つまり、ここまで彼の計算通りだったということになる。しかも、まんまと引っかかったのは私だ。なんて卑怯なやり方なんだろう。
「さあ、お待ちかねの決闘の時間だぜ」
「……拓海が決闘したいだけだよね」
私もモッチーの意見にまったく同じだ。
放課後の生徒会室。
様々な柄の傘が校門に向かっていく中、窓の外を見ていた生徒会長の秋元拓海は小さくつぶやいた。
「……え?」
テスト勉強をしていた私は思わず手を止めた。
「それで、行き場のない霊が廊下をさ迷い歩いているとか」
「そ、そんな冗談みたいなことを真面目な顔で言うのやめてくれない? 今、英語の勉強してるの。邪魔しないで」
思いきり怒ろうとしたが、自分でも恥ずかしいくらいに弱々しい声になった。そんな私を無視して、秋元は話を続ける。
「その中でも有名なのが6歳くらいの子どもの霊が、夜になると鳴き声を上げて学校の廊下を歩いていくんだ。『お母さん……お母さん……』って言いながら探し――」
「いや――っ! 聞きたくないっ!」
「もうやめなって」
私の叫び声と重なって、モッチーが丸めた教科書で軽く秋元の頭を叩いた。
「何だよ、春樹! いいところだったのに邪魔すんな」
「水野さん嫌がってるでしょ。作り話も大概にしなよ」
え……? 作り話?
☆ ★ ☆
「えー……。何でこんなに空気が悪いんでしょうかぁ、皆さん? 換気しましょうかぁ? 雨だけど」
一番最後に生徒会室に入ってきた美雪が席に着くと、私、秋元、モッチーがそれぞれ違う方向を向いて着席していたのを見て、異様な雰囲気を察したらしい。
「それで、会長はなんで頬が腫れてるのぉ? 虫歯?」
「ゴリラに殴られた」
不機嫌そうに私を横目で見ながら秋元は言った。人間に向かってゴリラとは、失礼極まりない。
「もう一発いかがです?」
「結構です」
「あー……。やっぱり窓開けよぉ」
美雪は窓を開けに席を立った。窓を開けると、アスファルトに叩きつけるような強い雨の音が聞こえる。
「うおー。凄い雨降ってきたねぇ」
美雪は窓から身を乗り出して外の様子を見た。
「これは雨が強くならないうちに帰ったほうがいいかもねぇ」
「それなら、早く始めたほうがいい」
モッチーが、生徒会室の外にある議題箱を取りに行こうとすると、秋元がストップをかけた。
「待て、春樹。今日の議題はここにある」
秋元は机の上に畳まれていた紙を広げて置いた。
「柊、読め」
「えぇー。何でわたし?」
渋々と秋元から手紙を受け取り、美雪は内容を音読した。
【完全下校時間を過ぎても校舎の明かりがつくことがあります。心霊現象でしょうか?】
「……って、何じゃこりゃ」
美雪は秋元を睨んだ。
「心霊現象なんか、あるわけないじゃーん! 遅くまで残ってた先生がつけたんだよ」
美雪はそう吐き捨てるように言うと、秋元が反論した。
「ロマンのないことを言うな、柊! 学校と言えば怪談・心霊現象だろ。いや、これは絶対心霊現象なんだ!」
「熱く語ってるところ悪いけど、いい加減その机の上に足乗っけながら喋る癖やめなさいよ」
私がそう言うと、不貞腐れながら秋元は机から足を下した。
「さっきの作り話はこの手紙のことね?」
「あーはいはい、だから何だよ」
「第一、お化けなんているわけない――」
私がそう言いかけたとき、突然雷鳴が聞こえた。
「――っ!!」
とっさに耳を塞いだが、間に合わなかった。
「おー。派手に落ちたねぇ」
「柊さん、外見てないで窓閉めて」
モッチーが美雪に声をかけて、2人でいそいそと窓を閉めている。
何なのよ、このタイミングは……。
秋元の方を見ると、天気を味方につけたと言わんばかりにドヤ顔をしている。神様、どうかヤツに雷を直撃させて黒焦げの炭にしてください。
「わっ、停電!?」
突然、電気がチカチカし始めたと思えば数秒後には消えてしまった。
「もう嫌だ……帰ろうよ」
「楽しくなってきたなあ」
不気味な笑いを浮かべる秋元と、秋元の横に座る冷めた顔をしたモッチー。美雪も何だかんだ状況を楽しんでいるようにも見える。
「水野、今日の議題を書け」
「無理!」
「生徒会長の命令に背くのか?」
「こんな暗い中じゃ書けないし、私帰る」
私は席を立った。
「夕夏、この雨の中だと危ないよー? 雷落ちるかもぉ」
美雪が窓の外を指さした。思わず身震いした。それはさすがに勘弁してほしい。
「この議題には賛成できないけど……。雷雨は一時的なものだろうし、少し校内で雨宿りしていくのがいいと思うよ」
「おい、春樹! 聞き捨てならないな、今の言葉!」
「だって、どう考えても生徒会が解決する議題じゃないよ。生徒会は何でも屋じゃないんだから」
「確かに、解決してくださいとは一言も書いてないねぇ」
美雪が手紙を見て頷いている。
秋元は完敗ね、ご愁傷様。
「じゃあ、雨が弱まったら帰ることにするわ」
「だ、だけどな……! もし、完全下校時間を過ぎても下校していないヤツがいたら、それは校則違反だ! そいつは校内の風紀を守るためにも注意しておかないといけない、だろ」
秋元がしどろもどろに弁解した。3人は顔を見合わせる。
「心霊現象は捨てたわね」
☆ ★ ☆
議題:完全下校時間後に居残る生徒の取り締まりについて
私は秋元に言われた通りにホワイトボードに文字を書いた。
「言っておくけど、私は雨が弱まったら帰るからね。それまで会長様のお遊びに付き合ってあげるわ」
「だから、遊びじゃねーよ。立派な生徒会の仕事だっつーの」
秋元の不機嫌は続いている。
「それにしても、蝋燭が生徒会室から出てくるとは」
「会長の制服のポケットの中からマッチが出てきたのも、なかなかの驚きだけどねぇ」
モッチーの後に続いて美雪がそう言い、会長の机に置かれた蝋燭の火を見つめた。
「うるせーよ」
どうやら秋元は理科の時間に使ったマッチを返却し忘れたらしく、制服のポケットに入れっぱなしになっていたようだった。彼らしいと言えばそれまでだけど。
蝋燭は何故か生徒会室の棚から出てきた。これは秋元によれば、既に卒業した生徒会役員が修学旅行で買ってきたお土産らしい。円柱型で私の握りこぶし1つ分くらいあり、蝋が溶けるのには時間がかかりそうだ。
「はい。で、この議題に反対意見のあるやつは……いないと思うが、一応ルールだから賛成と反対の札を挙げてもらうぞ」
ありまくりですが、と心の中で思いつつも秋元の合図で一斉に札を挙げる。札を挙げたことで風が起きたからか、蝋燭の火は大きく横に揺れた。
なんと、賛成の札を挙げたのは秋元だけだ。
「は? 何でみんな反対なんだよ」
「はーい! じゃあ、わたしから言いまぁーす」
美雪が蝋燭に顔を近づけるように身を乗り出して、ベルを力強く押した。
「そんな遅くまで残ってたら『怪盗戦士☆マジョルカ』の放送時間に間に合わないじゃん! そんなの嫌~! 早く帰りたいもん。だから反対」
『怪盗戦士☆マジョルカ』は平日の夕方に放送されているアニメだ。詳しい内容は知らないが、美雪はアニメやゲームが好きと言っていたっけ。それに、家が志木折中から離れているそうだから、あまり遅くまで残っていたくないのだろう。
「そんなの、録画して観ろよ」
「リアルタイムで観たいのぉ!」
「オレは録画してるぞ!」
あんたも観てるんかーい!
「……あの、意見言っていいですか」
モッチーが秋元と美雪に一声掛け、ベルを鳴らした。
「僕らも生徒である以上、完全下校時間には下校しないといけないと思う。だから、もし残っている生徒がいた場合は、先生たちに下校するように促してもらえばいい」
僕らがすることじゃないよ、とモッチーは、もっともらしい発言をした。確かに、生徒が出る幕ではなさそうだ。
「お前はどうなんだ?」
「私は――」
「おい、ベルを鳴らしてから発言しろ」
秋元が食い込み気味に言う。この発言するときにベルを鳴らすルールは正直に言って不要だ。私は仕方なく、手元のベルをちょこんと鳴らした。
「私は、別に放っておけばいいと思う」
「はあ!?」
秋元が勢いよく身を乗り出したせいで、ろうそくの火が一瞬消えそうになった。
「だって、私たちや他の生徒にも害はないわけでしょ? 今のところだけど」
そう。居残っている生徒が何らかの問題を起こして、他の生徒が迷惑をしているとかであれば話は別だ。でも今回に限っては単に秋元の憶測である上、クレームなども報告がされていない。つまり、私たちには関係なく、完全下校時間を過ぎても残っている本人の問題だと思う。
「確かに、そうだね」
モッチーと美雪は私の意見に頷いてくれた。さあ、1対3で反対派が有利な状況だ。秋元はどう出る?
秋元は静かにベルを鳴らした。
「まあ、水野の意見もわからなくはない」
遠まわしな表現だが、私の意見を素直に認めた。反発が多い秋元だが、珍しいこともあるものだと驚いた。
「じゃあ、こうしよう」
秋元が立ち上がって、ホワイトボードに何かを書き始める。
「春樹はさっき、先生に任せればいいと言ったな?」
「うん。そうだけど」
「でも、先生も根拠がないと動いてくれない」
書き終わった秋元は、私たちに書いた文章を見せるようにホワイトボードの横に立った。
「期間は1週間だ。生徒会で完全下校時間を手分けして見回る。手分けすれば短時間で終わるだろ。それで、もし居残っている生徒を見つけたら先生に報告。あとは先生たちが対応すればいい」
そう説明すると、自分の席に座り話を続けた。
「期末テストも迫ってるし、そんな長い期間はやらない。それで残ってる奴がいなかったらもうこの企画自体終了。これでどうだ」
普段感情的な秋元がここまで淡々と、しかも順序立てて説明するのが珍しかったからか、私を含めた3人は思わず固まってしまった。秋元ではない違う人を見ているのではないかと錯覚してしまうほどだった。
「あー……。1週間って限定されてるなら、別にいいかな……」
静まり返り、雨の音だけが生徒会室の中で聞こえる中、私はそう発言した。蝋燭の火で照らされた秋元の口角が上がっているのを私は見逃さなかった。
「これで賛成は2人だ」
しまった――! 秋元は誰かを賛成派に誘い込むために、この演出をしたのだ。つまり、ここまで彼の計算通りだったということになる。しかも、まんまと引っかかったのは私だ。なんて卑怯なやり方なんだろう。
「さあ、お待ちかねの決闘の時間だぜ」
「……拓海が決闘したいだけだよね」
私もモッチーの意見にまったく同じだ。