ブレワイ短編集

○月✕日 天気:ヘブラ地方・晴れ時々雪

◇◇


 オオワシの弓が壊れたのでリトの村へ。ハーツに作ってくれないかとお願いすると「……大事に使ってくれって言ったよな?」と睨みつけられた。確かに3日前にも修理を頼んだが、そう言うなら耐久をあげてくれ。言わなかったけど。少し不満げにしていたら「まぁオオワシの弓を扱えるのもお前しかいないし、何回も作れるのは職人冥利に尽きるか」と彼に笑われた。

 作るのに一晩かかるということで、ちゅん天堂で買い出しに行った。木の矢など買い物した後、ミササさんに「ミンフラーの秘湯に行ったことある?」と聞かれた。突然聞かれてビックリしてたら「なんか疲れてそうな顔してるから」と言われた。そんなに疲れてそうな顔をしていただろうか。話を聞けば、その温泉はリトの三大隠し湯の1つらしい。行くのは少し大変だが、効能がとてもいいと教えてくれた。オオワシの弓が出来るまで時間はあるし、行ってみることにした。


◇◇

 
 ビロン雪原とヘブラツンドラ越え、更に山を越えたところでミンフラーの秘湯を見つけた。温泉を見下ろせる位置に何匹かリザルフォスが居た。魔物も温泉に入るのだろうか?とにかく、ゆっくり浸かるためにもソイツらを倒して、無事ミンフラーの秘湯にたどり着いた。

 ミンフラーの秘湯は綺麗な薄緑の湯に、ぷくぷくと気泡が上がっていた。炭酸泉なのだと思う。ミササさんにここをおすすめされたのも分かった気がした。せっかくなのでウツシエを撮ろうとシーカーストーンを起動させると、急にゼルダ様の声がした。声はシーカーストーンからした。とても驚いた。どうやら百年前にリーバルとここを訪れていたらしい。その記録を声と一緒にシーカーストーンに残していたようだ。
 突然のゼルダ様の声に驚いたが、ウツシエを撮って湯に入った。予想した通り炭酸泉だった。シュワシュワと気泡が体を包んでくれたおかげか、じんわりと体が温まった。少し雪が降っていたが、全く気にならなかった。むしろいい景色だと思った。

 ゆっくり湯に入ったおかげか、あの時を思い出した。百年前、神獣ヴァ・メドーの定期視察にゼルダ様とリトの村を訪れた。その時、リーバルが急に「今日の姫の護衛は僕がするから」と言ってきた。そんなことを言われても俺は護衛としてここに来たのに、と思っていたらゼルダ様にも「ずっと私と一緒だと貴方も休まらないでしょう。好意に甘えて村でゆっくりしてください」と言われた。困惑しているうちにリーバルがゼルダ様を背に乗せてどこかへ行ってしまった。一人村に残された俺を、リトの村の人達が労ってくれた。そうだ。あのとき食べたマックスサーモンのクリームシチューは美味しかったな。確か、日暮れまでには二人とも帰ってきた。そういえばあのときのゼルダ様は、肌艶が良くなってスッキリしたお顔で戻られていた。なるほど、この湯のおかげだったのか。

 シーカーストーンの声によるとリーバルがゼルダ様に「根を詰めすぎだ」と言ってここに連れてきたらしい。ということは、あの場でいきなり提案した訳ではなく、二人で口裏を合わせていたのだろう。俺に聞かれるとまずいと思ったんだろうな。
 ……そう思うと、ゼルダ様をここに連れてきたのはアイツなりの気遣いだったんだと思う。俺にはできなかった気遣い。一介の騎士でしかない俺が、ゼルダ様を気遣うことはできなかった。騎士は主の剣となり盾となることしか出来ない。彼女が必死にやっていることを否定してはいけない。国王様に「修行に専念せよ」と命じられた彼女に、それ以外のことを俺が提案できるはずもない。なぜなら、姫と騎士だから。そこには主従関係しかなかった。

 リーバル……アイツはゼルダ様と対等であろうとしてくれたように思う。ウルボザが母の如く彼女を見守っていたように、ミファーがお互い姫という、彼女の良き理解者であったように、ダルケルが親戚のおじさんみたいな懐の広さで彼女を包んでくれたように。リーバルは彼女と友人のようになっていたと思う。「根を詰めすぎ」なんて、俺には思っていても言えなかった。アイツだから言えたのだと思う。そこの部分は……素直に羨ましい。今思えば俺も百年前のあの時、リーバルみたいにゼルダ様を支えたかったのかもしれない。けれど、俺には無理だったとも思う。俺は彼女にコンプレックスしか与えられなかったから……。
 

◇◇

 
 湯冷めしないうちに村へと戻った。ミササさんにミンフラーの秘湯に行ってきた報告と教えてくれた礼を伝えると、「どういたしまして」と微笑んでくれた。店をあとにして夕飯にしようと調理場に向かうと、カッシーワ家族が声をかけてくれた。聞けば、夕飯を一緒にしないかということだった。ありがたいお誘いだったので二つ返事で返事をした。

 夕飯はマックスサーモンのクリームシチューだった。ちょうど今日思い出した料理だったので、なんだか笑えてしまった。ちなみにマックスサーモンはコッツが獲ったらしい。自慢気に教えてくれた。夕飯を食べたあとは、カッシーワの演奏に合わせて五つ子たちが歌う歌を聴いた。歌を聴きながら見た、満天の星空が印象的だった。
 
 子どもたちが寝たのでお暇しようとしたら、カッシーワに「少しよろしいですか」と声をかけられた。何かしたかなと思いながら二人でリーバル広場に行くと、カッシーワが「お元気が無いように見えたのが気になりまして。何かありましたか?」と言ってきた。ミササさんといい、リト族は本当に目がいい。……リーバルも、目が良かったんだな。

 カッシーワに今日ミンフラーの秘湯で思い出したことを話した。カッシーワは穏やかな顔で俺の話を聞いてくれた。人と話すのが不得手な俺だから、言葉が足りないところもあったかもしれない。それでもカッシーワは「リーバル様と貴方を比べる必要はありません。リーバル様はリーバル様、貴方は貴方で姫様を支えてらっしゃったのだと思いますよ」と言ってくれた。「それに貴方は大厄災から百年経った今、姫とこのハイラルを救わんとされている。リーバル様を含めた英傑の皆様の意志をその身に受けて厄災に立ち向かうのは、貴方にしかできないことです」とも。
 予想外のところからプレッシャーを与えられた。びっくりした。でも、よく分からないが吹っ切れた気がした。今の俺ができること。カッシーワの言う通り、リーバルと俺は違う。俺は、俺のできることで彼女を支えていかなければならない。


◇◇


 奮発してリトの羽毛ベットで寝たおかげか、目覚めがかなり良かった。受付のセセリーに「昨日より顔色がいいな!」と言われた。どんだけ顔色悪かったんだ俺は。

 オオワシの弓を受け取りにハーツのところに行くと、眠そうな顔をしたハーツが「できたぞ」と弓を渡してくれた。オオワシの弓にはダイヤモンドを使っている。それが弓自体を重くするが、ツバメの弓とは比較にならない程の強さを生むのだという。そしてずっと気になっていた英傑の服と同じ色の布をどうして巻くのかと聞いたら、「空色の布は、英傑リーバル様の誇りの証なんだってよ」と教えてくれた。リーバルもこの色に誇りを持っていたのかと、百年越しに少し親近感が湧いた。


◇◇


 村を離れる前に、メドーに立ち寄った。風のカースガノンを倒した後、ハイラル城に照準を合わせてからずっと静かに、俺がガノンの元へ向かうのを待っていてくれている。
 メドーの近くに来ても、アイツの声は聞こえてこない。話しかけても返事はない。メドーの頭上をよく見てみると、薄らと緑青色のもやが見えたような気がしたけど、よく分からなかった。
 昨日ゼルダ様の声を聞いたおかげで、アイツともっと話せば良かったと思った。アイツに憎まれ口を叩かれていたのは流石の俺でもわかっている。でも、俺たちはゼルダ様を通してもっと分かり合えていたのかもしれない。そして、ゼルダ様にも。姫と騎士の関係を超え、もっと貴女に寄り添えることができたかもしれない。彼女を救ったその後は、百年前にできなかったことをしようと思う。必ず、やらなければならない。

 ……ゼルダ様で思い出した。4体の神獣を解放したあと彼女の声が聞こえた。確か、さらなる力を手に入れられると言っていた。回生の祠に向かわないと。忘れそうなので書き留めておく。
 願わくば。ゼルダ様のご命令が、今は会えないかつての友とまた会えるようなものでありますように。強く、願う。



終わり
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