1500アクセス記念リクエスト企画
空欄の場合「鏡華」になります。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
◇◇
「……ッあ゙ぁ…疲れだァ……」
ウォーキングデッドもビックリの死んだ顔した私が歩いている現在の時刻は夜22時半。何故こんな時間に死んだ顔で歩いているのかって?これまたビックリ、仕事終わりだからである。繁忙期のせいかアリガテェことに次々に仕事がどんどん振られ、お陰でココ最近は朝7時半出社の夜22時退社だった。 終わりの見えない繁忙期に心身共に殺されるかと思った。だが……そんな地獄も今日で終わり。
繁忙期終わったぞコノヤロー!!
そうなのだ。クソみたいな繁忙期が終わったのである。そして明日は一週間ぶりの休み。しかも有給も使って三連休。夢じゃなかろうか。頼む現実であってくれ。間違っても『ミスあったんでちょっと来て貰えますか?』なんて連絡は来ないでくれ。頼む。マジで頼む。
嗚呼、こんなに家に帰るのが楽しみなのはいつぶりだろうか。繁忙期中は次が休みの日でも全く気が休まらなかった。ただ泥のように眠って『アレ?もう明日仕事?』という絶望を繰り返しただけだった。それが明日の休みは何も考えなくていい休み!泥のように眠ったとてまだ休みが2日ある!最高すぎる!繁忙期過ぎて全然連絡出来なかった恋人に連絡をしなきゃ!本当に申し訳なかった!とりあえず!家に帰ろう!
◇◇
家が見えてきた。家は大学時代から住んでいるマンション。広くは無いが風呂トイレ別、それにオートロックが有難い。ウォーキングデッドからミュージカル女優のようなルンルンのスキップに変わる。マンションの玄関を開けエレベーターに乗って降りて足早に家に向かって玄関の鍵をガチャリ。そして扉を開いた。
「あれ?」
明かりがついている。消し忘れたのだろうか。いや、違う。見慣れた男物の靴がある。靴を脱いでリビングのドアを開けた。
「おかえり。遅かったじゃねェか。社畜過ぎんだろーが」
「銀時くん!?なんでいるの!?」
リビングの座卓でパソコンを開いていたのは、恋人である坂田銀時くんだった。
彼とは大学で出会いなんやかんやでお付き合いを始めた。大学卒業後、私は就職、彼は大学院進学という別々の進路になった。進路は変わってしまったが、タイミングさえ合えば割とすぐ会いに行ける距離に住んでいる。だけど繁忙期だったため珍しく全然連絡取れない&会えなかったのである。最後に会ったのはいつだっただろうか……
「なんでいるのって、今日家行くからって連絡しただろーが。まァ既読つかねェから見てねェんだろーなとは思ってたけどよ」
「え!?……わ、マジだ、メッセージ来てた…気づかなくてごめんね」
「ケッ、しょーがねェな。許してやんよ。繁忙期、今日で終わりだよな?」
彼には合鍵を渡していたからそれで入ったんだろう。玄関で待ちぼうけさせることにならなくてよかった。ふと銀時くんがノートパソコンを閉じ座卓から立ち上がりキッチンに向かった。私はというと上着を脱いでハンガーに掛け、仕事のカバンを壁にかけていた。
「うん、今日で終わり!明日から三連休!ってかアレ?なんか部屋スッキリしてる…?」
「汚部屋だったからちょっと片付けといた。繁忙期だから仕方ねェよなって思ってたけど、さすがになァ」
「マジでか!ありがとうオカン…!」
「誰がオカンだ!ったく、彼氏に腐海の掃除させるなっての」
久々に聞けた彼のツッコミに思わず顔が綻ぶ。彼もいつものやりとりが出来たからかフッと軽く笑う。
「オラ、飯作っててやるから風呂入ってこい。寝んじゃねーぞ」
「やったー!ありがとうオカン!」
「だからオカンじゃねーっつーの!早く入ってこい!」
銀時くんに送り出されて風呂場に向かう。脱衣所で服を脱ぎながら『寝んじゃねーぞ』と言われたことにふと疑問が。だって一人暮らしだから基本シャワーだけだし。さすがの私でもシャワーだけじゃ寝ない。疲れすぎてると思われてんのかな。そう思いながら風呂のドアを開けた。そして開けた瞬間固まってしまった。
……まさかの、湯船に花が浮かんでる……
花だけじゃない、そもそも湯船に湯が張ってある。しかもよく見ると色ついてるしいい香りも…入浴剤だコレ!あと湯船の縁をよく見るとなんか丸いのがある。
もしかして?と思ってた風呂場の電気を消す。
すると、揺らりとオレンジの暖かな明かりが。コレ……アロマキャンドルじゃん!!思わず吹き出してしまった。
「リゾートホテルやないかーーーい!!」
風呂場のすぐ近くにある台所に居る銀時くん目掛けてツッコミを入れた。銀時くんがククッと笑った。
「だから言ったろ?『寝んじゃねーぞ』って」
「これで寝るなって言うの鬼じゃない?ほんと最高すぎるんだけど。え?わざわざやってくれたの?」
「いや別にィ?俺が入りたかったからやっただけ。お前はそのおこぼれ」
「ほぉん……?」
おこぼれにしてはお湯はホカホカ湯気が立ってるし、花は沈んでない。アロマキャンドルも全然溶けてないし。……ホント、素直じゃないなァ。
「まァありがとう。パパッとゆっくり入ってくるね〜」
「おう。釘刺すけどマジで寝んなよ?」
はーいと答えて風呂に入った。薄暗いお風呂ってだけでもテンションが上がるのに、入浴剤のいい香りが余計にテンションを上げてくれる。ノリノリで化粧を落としてから顔を洗い、次に髪と体を洗ってさァいよいよ湯船へ。
程よい湯加減、いい匂いのするお湯とよく分からんリゾートホテルみたいな花。それらをアロマキャンドルのオレンジのゆらめきが雰囲気をいい具合にまとめてくれる。はぁ、最高だ。ゆっくり肩までお湯に浸かった時だった。突然頭上からチルい音楽が流れてきた。
「えっ!ちょっ、えっ!?何!?え、エモいんだけどォ!ちょっとォォォ銀時くーーん!!」
突然の音楽にびっくりすると同時にエモさも感じてしまって思わず彼を呼んだ。
「なンだよ」
薄ら笑いをしながら銀時くんがドアを開ける。あ、こいつ、確信犯だな?!
「急に音楽流れてきたんだけど!銀時くんでしょ!?」
「さァ?とりあえずスピーカーは鏡の上な」
バッと見上げると確かに小さいスピーカーが置いてあった。よくよく聴くと音質いいじゃん。
「これ防水?音質いいね」
「防水じゃなかったら置かねーよ。てか気になるのそこかよ」
そう言って銀時くんが微笑む。物凄くエモい空間にいる銀時くんはとても心身に良いということに気づいた。
「何ニヤついてんだよ。逆上せたか?」
「へ?ニヤついてた?」
「あぁ、思いっきり。顔溶けてた。こんなん」
そう言って両手で自分のほっぺたを下に引っ張る銀時くん。あまりにも変な顔に思わず吹き出してしまった大笑いしてしまった。
「あはははは!やばいって!銀時くん、それはやばい!!」
「いやいや?結構再現度高かったと思うよ?クリソツだわ」
「だとしたらすごく嫌なんだけどォ?そろそろ上がるからあっち行ってて。顔戻すから」
「結局おめーも変顔に乗っかってるじゃねーか。わーったよ。飯はだいたい出来たからな。ちゃんと保湿してこいよ」
銀時くんが脱衣所を出たのを確認してお風呂から上がる。エモさと笑いを提供して貰えた、最高のお風呂だった。ありがとう銀時くん。
◇◇
「最高のお風呂頂きましたぁ〜」
「おーう、おけーり」
髪を乾かし部屋着に着替えてリビングに戻ると、座卓の上にご飯とまたもやノートパソコンを開く銀時くんがいた。
「夜飯、それな。もう遅いから軽めにしといた」
「ありがとうオカン……って」
席について銀時くんが作ったご飯を見る。正直に言うと、超美味しそう。その献立は、
・鰻の蒲焼き
・はまぐりのお吸い物
・とろろ+卵黄+刻み海苔
・ほうれん草のおひたし
・白ごはん
だった。日付が変わる直前というのもあって、全部が少しずつの量でついである。控えめに言って良いとこの料亭のご飯ってこんなんだろうなっていう感じのお膳だ。元々料理が上手いことは知っていたが、ここまで来ると和食の鉄人すぎる。土〇善〇先生がそこにいる。思わずカシャッとお膳の写真を撮った。
「オイ何撮ってんだよ。早く食べろや」
「いやいや、こんな綺麗なお膳撮らない方が失礼すぎるよ…すみません、いただきます」
「へーい、召し上がれ」
まずはお吸い物。一口啜るとはまぐりの芳醇な香りと出汁の旨味が一気に喉を通り抜けていった。お風呂で温まった体を、次は内側から温めてくれる。ほぉ……っと漏れるような声が出た。
次におひたし。うん、程よく柔らかく出汁の辛さがちょうどいい。生姜が乗ってるのも最高。
その次にとろろと卵黄を混ぜてご飯にかける。とろろにもう味が付いているようだ。そのまま一気にかっ込む!うん!美味い!!
そしてメインの鰻。はい、美味しいに決まってましたぁ〜優勝ですぅ〜!山椒がピリリと辛くてとても美味しい。
「銀時くん、全部超美味しい。最高に美味しい。腕めっちゃ上げてない?それか土〇善〇先生なの?」
「そりゃどーも。普通にク〇シル見ながら作ってるだけなんだけどな」
「レシピ通り作れるのすごすぎない?私いつも『アレ?』ってなるのに」
「それはおめーがレシピ通り作らねーからだよ!どうせ変なアレンジ入れてんだろ。生姜焼きにちょっと砂糖多めに入れちゃうとか」
「前シチューにオイスターソース入れたらなんとも言えない味になった」
「そりゃなんとも言えない味になるだろーよ!レシピ通りに作れレシピ通りによォ!」
ったく、と言ってまたパソコンをカタカタしだす銀時くん。
「それ何やってんの?修論?」
「いや、寿司打」
「寿司打かよ!!真面目な顔してキーボード打ってると思ったら!!」
「あと少しでクリア出来そうなんだよ……」
「……」
話してる途中で無言になったのでカタカタ音を聴きながらご飯を食べることにした。カタカタ音はちょっとうるさいが、久々に会う恋人が目の前にいると思うとやはり嬉しい。美味しいご飯に大好きな人。心も体も満たされた最高の晩御飯だった。
◇◇
「ご馳走様でした……ッ」
「お粗末サン」
この人は私の胃袋の容量を知っているのか?というぐらいにご飯の量が本当にちょうど良かった。胃もたれもせず、かといって少なすぎず。本当にすごい。
「マジで美味しかったです土〇善〇先生」
「誰が土〇善〇だ。美味かったなら何よりだわ」
「本当最高でした。ありがとう。かなり満たされて癒されたよ〜。じゃ、皿洗ってくるね」
空になった茶碗たちをお盆に乗せ台所に向かう。スポンジを泡立てワシャワシャと洗っていると、後ろから急に銀時くんに抱きしめられた。
「ちょっと、今洗ってるんだけど?」
「それは見てっから分かる」
「……どうしたの?」
「いや?ほんとお疲れさんだなァと思って。社会人は大変だな」
私の肩に顎を置いて、珍しく労いの言葉をかけてくれた。吐息が耳にかかってこそばゆい。なんだろう、寂しかったのかな?
「なぁに?珍しく労いの言葉なんてかけてくれちゃって。寂しかった?」
「うん。全然連絡取れねーし会えなかったから寂しかった」
「……ッ、マジか」
ちょっと待って、かなり珍しい。めちゃくちゃ素直だぞ?こんなに素直に『寂しかった』なんて言われたことないぞ?しかも本当に寂しそうな声だし?ちょっと顔が赤くなっちゃうな?
「……連絡全然できなくてごめんね」
「いや……俺も修論でちょっとバタついてはいたし、お前ばっかのせいじゃねーな。俺の方も連絡貰ってても返せたか分かんねーや」
「ちょっと待って銀時くん、今日マジで優しすぎない?いつもだったらもっとガラ悪いでしょ?」
「あ゙?ガラ悪いってなんだよ。優しい俺がもっと優しくなったら嬉しィだろーが感謝しろよ」
「あ、良かった、いつもの銀時くんだ」
そりゃどーいう意味だ、と銀時くんが脇をくすぐってきた。不意にやられたから泡がいろんな場所に飛んでしまった。2人でアハハと笑い合う。
「ちょっともう!あと少しで終わるとこだったのに!片付け増えたじゃん!」
「おめーが余計なこと言うからだろーが。壁の泡拭いてやっから早く茶碗洗え」
「はいはい」
そう言ってサッと洗い物と片付けを終わらせた。そして2人でリビングに戻った。
2人で並んで座り、壁にかけてある時計を見るともう深夜1時前。お腹は膨れて横には大好きな人。最高の癒しタイムである。銀時くんの肩にポンと頭を乗せると、彼は私の肩をギュッと抱き寄せてくれた。
「本当に…今すごい幸せ……超癒されてる…明日から三連休ってのが特に最高……」
「俺とかじゃなくて休みの方かよ」
フッと笑う銀時くん。私も彼のツッコミに笑った。
「いやいや銀時くんが居るのは大前提だよ。銀時くんが居るおかげで休みの有難みも三倍増し位ぐらいに嬉しい」
「そーいうことならOKにしてやろう」
「ふふっ……あー、銀時くんの匂い超落ち着く癒されるゥ……」
ギューッと彼の体に鼻を押し付ける。ほんのり甘い、ほっとする匂いだ。繁忙期、生き残ってよかったとしみじみ感じる。
ふと銀時くんに押し倒された。思わず「うぉっ」と声が出た。
「何その色気のねー声。『うおっ』って」
「突然押し倒すからでしょ!そりゃ『うぉっ』って声も出るよ」
「出ねーよ」
そう言って私の唇に口付けを落とす。顔が近づいてきた時点で目は閉じた。私の頬に添える手の温もりと彼の吐息を強く感じる。チュ、チュ、と軽い音を立ててゆっくり口を離した。
「今日の『繁忙期お疲れ様プレゼント』は部屋の片付け、風呂、飯とあともう一つあるんだが……どうする?」
口を離した銀時くんがニヤッと口角を上げて尋ねてくる。てか待って、えらい至れり尽くせりだなと思ったらプレゼントだったの?そのプレゼントがあともう一つ?この流れで言ってくるということは……そういうプレゼントなのだろうね。
「……貰えるもんは貰いたいですねェ」
「そりゃーそうだよな。っしゃ、任せろ。次はおめーの奥という奥まで癒してやるよ」
そう言って彼の瞳が紅く光る。銀時くんのお疲れ様プレゼント、楽しみだなァ。
おわり
「……ッあ゙ぁ…疲れだァ……」
ウォーキングデッドもビックリの死んだ顔した私が歩いている現在の時刻は夜22時半。何故こんな時間に死んだ顔で歩いているのかって?これまたビックリ、仕事終わりだからである。繁忙期のせいかアリガテェことに次々に仕事がどんどん振られ、お陰でココ最近は朝7時半出社の夜22時退社だった。 終わりの見えない繁忙期に心身共に殺されるかと思った。だが……そんな地獄も今日で終わり。
繁忙期終わったぞコノヤロー!!
そうなのだ。クソみたいな繁忙期が終わったのである。そして明日は一週間ぶりの休み。しかも有給も使って三連休。夢じゃなかろうか。頼む現実であってくれ。間違っても『ミスあったんでちょっと来て貰えますか?』なんて連絡は来ないでくれ。頼む。マジで頼む。
嗚呼、こんなに家に帰るのが楽しみなのはいつぶりだろうか。繁忙期中は次が休みの日でも全く気が休まらなかった。ただ泥のように眠って『アレ?もう明日仕事?』という絶望を繰り返しただけだった。それが明日の休みは何も考えなくていい休み!泥のように眠ったとてまだ休みが2日ある!最高すぎる!繁忙期過ぎて全然連絡出来なかった恋人に連絡をしなきゃ!本当に申し訳なかった!とりあえず!家に帰ろう!
◇◇
家が見えてきた。家は大学時代から住んでいるマンション。広くは無いが風呂トイレ別、それにオートロックが有難い。ウォーキングデッドからミュージカル女優のようなルンルンのスキップに変わる。マンションの玄関を開けエレベーターに乗って降りて足早に家に向かって玄関の鍵をガチャリ。そして扉を開いた。
「あれ?」
明かりがついている。消し忘れたのだろうか。いや、違う。見慣れた男物の靴がある。靴を脱いでリビングのドアを開けた。
「おかえり。遅かったじゃねェか。社畜過ぎんだろーが」
「銀時くん!?なんでいるの!?」
リビングの座卓でパソコンを開いていたのは、恋人である坂田銀時くんだった。
彼とは大学で出会いなんやかんやでお付き合いを始めた。大学卒業後、私は就職、彼は大学院進学という別々の進路になった。進路は変わってしまったが、タイミングさえ合えば割とすぐ会いに行ける距離に住んでいる。だけど繁忙期だったため珍しく全然連絡取れない&会えなかったのである。最後に会ったのはいつだっただろうか……
「なんでいるのって、今日家行くからって連絡しただろーが。まァ既読つかねェから見てねェんだろーなとは思ってたけどよ」
「え!?……わ、マジだ、メッセージ来てた…気づかなくてごめんね」
「ケッ、しょーがねェな。許してやんよ。繁忙期、今日で終わりだよな?」
彼には合鍵を渡していたからそれで入ったんだろう。玄関で待ちぼうけさせることにならなくてよかった。ふと銀時くんがノートパソコンを閉じ座卓から立ち上がりキッチンに向かった。私はというと上着を脱いでハンガーに掛け、仕事のカバンを壁にかけていた。
「うん、今日で終わり!明日から三連休!ってかアレ?なんか部屋スッキリしてる…?」
「汚部屋だったからちょっと片付けといた。繁忙期だから仕方ねェよなって思ってたけど、さすがになァ」
「マジでか!ありがとうオカン…!」
「誰がオカンだ!ったく、彼氏に腐海の掃除させるなっての」
久々に聞けた彼のツッコミに思わず顔が綻ぶ。彼もいつものやりとりが出来たからかフッと軽く笑う。
「オラ、飯作っててやるから風呂入ってこい。寝んじゃねーぞ」
「やったー!ありがとうオカン!」
「だからオカンじゃねーっつーの!早く入ってこい!」
銀時くんに送り出されて風呂場に向かう。脱衣所で服を脱ぎながら『寝んじゃねーぞ』と言われたことにふと疑問が。だって一人暮らしだから基本シャワーだけだし。さすがの私でもシャワーだけじゃ寝ない。疲れすぎてると思われてんのかな。そう思いながら風呂のドアを開けた。そして開けた瞬間固まってしまった。
……まさかの、湯船に花が浮かんでる……
花だけじゃない、そもそも湯船に湯が張ってある。しかもよく見ると色ついてるしいい香りも…入浴剤だコレ!あと湯船の縁をよく見るとなんか丸いのがある。
もしかして?と思ってた風呂場の電気を消す。
すると、揺らりとオレンジの暖かな明かりが。コレ……アロマキャンドルじゃん!!思わず吹き出してしまった。
「リゾートホテルやないかーーーい!!」
風呂場のすぐ近くにある台所に居る銀時くん目掛けてツッコミを入れた。銀時くんがククッと笑った。
「だから言ったろ?『寝んじゃねーぞ』って」
「これで寝るなって言うの鬼じゃない?ほんと最高すぎるんだけど。え?わざわざやってくれたの?」
「いや別にィ?俺が入りたかったからやっただけ。お前はそのおこぼれ」
「ほぉん……?」
おこぼれにしてはお湯はホカホカ湯気が立ってるし、花は沈んでない。アロマキャンドルも全然溶けてないし。……ホント、素直じゃないなァ。
「まァありがとう。パパッとゆっくり入ってくるね〜」
「おう。釘刺すけどマジで寝んなよ?」
はーいと答えて風呂に入った。薄暗いお風呂ってだけでもテンションが上がるのに、入浴剤のいい香りが余計にテンションを上げてくれる。ノリノリで化粧を落としてから顔を洗い、次に髪と体を洗ってさァいよいよ湯船へ。
程よい湯加減、いい匂いのするお湯とよく分からんリゾートホテルみたいな花。それらをアロマキャンドルのオレンジのゆらめきが雰囲気をいい具合にまとめてくれる。はぁ、最高だ。ゆっくり肩までお湯に浸かった時だった。突然頭上からチルい音楽が流れてきた。
「えっ!ちょっ、えっ!?何!?え、エモいんだけどォ!ちょっとォォォ銀時くーーん!!」
突然の音楽にびっくりすると同時にエモさも感じてしまって思わず彼を呼んだ。
「なンだよ」
薄ら笑いをしながら銀時くんがドアを開ける。あ、こいつ、確信犯だな?!
「急に音楽流れてきたんだけど!銀時くんでしょ!?」
「さァ?とりあえずスピーカーは鏡の上な」
バッと見上げると確かに小さいスピーカーが置いてあった。よくよく聴くと音質いいじゃん。
「これ防水?音質いいね」
「防水じゃなかったら置かねーよ。てか気になるのそこかよ」
そう言って銀時くんが微笑む。物凄くエモい空間にいる銀時くんはとても心身に良いということに気づいた。
「何ニヤついてんだよ。逆上せたか?」
「へ?ニヤついてた?」
「あぁ、思いっきり。顔溶けてた。こんなん」
そう言って両手で自分のほっぺたを下に引っ張る銀時くん。あまりにも変な顔に思わず吹き出してしまった大笑いしてしまった。
「あはははは!やばいって!銀時くん、それはやばい!!」
「いやいや?結構再現度高かったと思うよ?クリソツだわ」
「だとしたらすごく嫌なんだけどォ?そろそろ上がるからあっち行ってて。顔戻すから」
「結局おめーも変顔に乗っかってるじゃねーか。わーったよ。飯はだいたい出来たからな。ちゃんと保湿してこいよ」
銀時くんが脱衣所を出たのを確認してお風呂から上がる。エモさと笑いを提供して貰えた、最高のお風呂だった。ありがとう銀時くん。
◇◇
「最高のお風呂頂きましたぁ〜」
「おーう、おけーり」
髪を乾かし部屋着に着替えてリビングに戻ると、座卓の上にご飯とまたもやノートパソコンを開く銀時くんがいた。
「夜飯、それな。もう遅いから軽めにしといた」
「ありがとうオカン……って」
席について銀時くんが作ったご飯を見る。正直に言うと、超美味しそう。その献立は、
・鰻の蒲焼き
・はまぐりのお吸い物
・とろろ+卵黄+刻み海苔
・ほうれん草のおひたし
・白ごはん
だった。日付が変わる直前というのもあって、全部が少しずつの量でついである。控えめに言って良いとこの料亭のご飯ってこんなんだろうなっていう感じのお膳だ。元々料理が上手いことは知っていたが、ここまで来ると和食の鉄人すぎる。土〇善〇先生がそこにいる。思わずカシャッとお膳の写真を撮った。
「オイ何撮ってんだよ。早く食べろや」
「いやいや、こんな綺麗なお膳撮らない方が失礼すぎるよ…すみません、いただきます」
「へーい、召し上がれ」
まずはお吸い物。一口啜るとはまぐりの芳醇な香りと出汁の旨味が一気に喉を通り抜けていった。お風呂で温まった体を、次は内側から温めてくれる。ほぉ……っと漏れるような声が出た。
次におひたし。うん、程よく柔らかく出汁の辛さがちょうどいい。生姜が乗ってるのも最高。
その次にとろろと卵黄を混ぜてご飯にかける。とろろにもう味が付いているようだ。そのまま一気にかっ込む!うん!美味い!!
そしてメインの鰻。はい、美味しいに決まってましたぁ〜優勝ですぅ〜!山椒がピリリと辛くてとても美味しい。
「銀時くん、全部超美味しい。最高に美味しい。腕めっちゃ上げてない?それか土〇善〇先生なの?」
「そりゃどーも。普通にク〇シル見ながら作ってるだけなんだけどな」
「レシピ通り作れるのすごすぎない?私いつも『アレ?』ってなるのに」
「それはおめーがレシピ通り作らねーからだよ!どうせ変なアレンジ入れてんだろ。生姜焼きにちょっと砂糖多めに入れちゃうとか」
「前シチューにオイスターソース入れたらなんとも言えない味になった」
「そりゃなんとも言えない味になるだろーよ!レシピ通りに作れレシピ通りによォ!」
ったく、と言ってまたパソコンをカタカタしだす銀時くん。
「それ何やってんの?修論?」
「いや、寿司打」
「寿司打かよ!!真面目な顔してキーボード打ってると思ったら!!」
「あと少しでクリア出来そうなんだよ……」
「……」
話してる途中で無言になったのでカタカタ音を聴きながらご飯を食べることにした。カタカタ音はちょっとうるさいが、久々に会う恋人が目の前にいると思うとやはり嬉しい。美味しいご飯に大好きな人。心も体も満たされた最高の晩御飯だった。
◇◇
「ご馳走様でした……ッ」
「お粗末サン」
この人は私の胃袋の容量を知っているのか?というぐらいにご飯の量が本当にちょうど良かった。胃もたれもせず、かといって少なすぎず。本当にすごい。
「マジで美味しかったです土〇善〇先生」
「誰が土〇善〇だ。美味かったなら何よりだわ」
「本当最高でした。ありがとう。かなり満たされて癒されたよ〜。じゃ、皿洗ってくるね」
空になった茶碗たちをお盆に乗せ台所に向かう。スポンジを泡立てワシャワシャと洗っていると、後ろから急に銀時くんに抱きしめられた。
「ちょっと、今洗ってるんだけど?」
「それは見てっから分かる」
「……どうしたの?」
「いや?ほんとお疲れさんだなァと思って。社会人は大変だな」
私の肩に顎を置いて、珍しく労いの言葉をかけてくれた。吐息が耳にかかってこそばゆい。なんだろう、寂しかったのかな?
「なぁに?珍しく労いの言葉なんてかけてくれちゃって。寂しかった?」
「うん。全然連絡取れねーし会えなかったから寂しかった」
「……ッ、マジか」
ちょっと待って、かなり珍しい。めちゃくちゃ素直だぞ?こんなに素直に『寂しかった』なんて言われたことないぞ?しかも本当に寂しそうな声だし?ちょっと顔が赤くなっちゃうな?
「……連絡全然できなくてごめんね」
「いや……俺も修論でちょっとバタついてはいたし、お前ばっかのせいじゃねーな。俺の方も連絡貰ってても返せたか分かんねーや」
「ちょっと待って銀時くん、今日マジで優しすぎない?いつもだったらもっとガラ悪いでしょ?」
「あ゙?ガラ悪いってなんだよ。優しい俺がもっと優しくなったら嬉しィだろーが感謝しろよ」
「あ、良かった、いつもの銀時くんだ」
そりゃどーいう意味だ、と銀時くんが脇をくすぐってきた。不意にやられたから泡がいろんな場所に飛んでしまった。2人でアハハと笑い合う。
「ちょっともう!あと少しで終わるとこだったのに!片付け増えたじゃん!」
「おめーが余計なこと言うからだろーが。壁の泡拭いてやっから早く茶碗洗え」
「はいはい」
そう言ってサッと洗い物と片付けを終わらせた。そして2人でリビングに戻った。
2人で並んで座り、壁にかけてある時計を見るともう深夜1時前。お腹は膨れて横には大好きな人。最高の癒しタイムである。銀時くんの肩にポンと頭を乗せると、彼は私の肩をギュッと抱き寄せてくれた。
「本当に…今すごい幸せ……超癒されてる…明日から三連休ってのが特に最高……」
「俺とかじゃなくて休みの方かよ」
フッと笑う銀時くん。私も彼のツッコミに笑った。
「いやいや銀時くんが居るのは大前提だよ。銀時くんが居るおかげで休みの有難みも三倍増し位ぐらいに嬉しい」
「そーいうことならOKにしてやろう」
「ふふっ……あー、銀時くんの匂い超落ち着く癒されるゥ……」
ギューッと彼の体に鼻を押し付ける。ほんのり甘い、ほっとする匂いだ。繁忙期、生き残ってよかったとしみじみ感じる。
ふと銀時くんに押し倒された。思わず「うぉっ」と声が出た。
「何その色気のねー声。『うおっ』って」
「突然押し倒すからでしょ!そりゃ『うぉっ』って声も出るよ」
「出ねーよ」
そう言って私の唇に口付けを落とす。顔が近づいてきた時点で目は閉じた。私の頬に添える手の温もりと彼の吐息を強く感じる。チュ、チュ、と軽い音を立ててゆっくり口を離した。
「今日の『繁忙期お疲れ様プレゼント』は部屋の片付け、風呂、飯とあともう一つあるんだが……どうする?」
口を離した銀時くんがニヤッと口角を上げて尋ねてくる。てか待って、えらい至れり尽くせりだなと思ったらプレゼントだったの?そのプレゼントがあともう一つ?この流れで言ってくるということは……そういうプレゼントなのだろうね。
「……貰えるもんは貰いたいですねェ」
「そりゃーそうだよな。っしゃ、任せろ。次はおめーの奥という奥まで癒してやるよ」
そう言って彼の瞳が紅く光る。銀時くんのお疲れ様プレゼント、楽しみだなァ。
おわり
