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◇◇
侍ってのは剣だけできやりゃあいいと思っていた。
それなのに土方のクソヤローと近藤さんが『本も読め』と言ってくるもんだから、こうして非番の日に図書館に通う羽目になっちまった。
けどまァ、本ってやつはハマってみると案外面白い。ただ漫然と生きているだけじゃ知りえない沢山のことを教えてくれる。ムカつくし認めたくないが、土方死ねクソヤローが立てる作戦も実戦経験だけでなく、こういうのから参考にしているのもあるのだろう。不本意だがヤツを蹴落とし、副長の座を頂く為には学も必要であると気づかされた。だから俺は今日も図書館に通う。
通い始めて3ヶ月、季節はあっという間に秋になった。最近は異常気象のせいで夏と冬がエラく長い。可哀想に、春と秋は長く居座る奴らのせいで肩身が狭いときたもんだ。そんな今日は珍しく小春日和の秋らしい日だ。少し肌寒い秋風から身を守るのに薄手のマフラーと羽織が役に立つ。
今は借りた本を返すのと新しく本を借りるために図書館に向かっている。あと……あの人に会うために。
◇◇
「《三国志演義》《分かりやすい武家諸法度》《もしも剣道部の俺が織田信長の敦盛を舞ったら》《SMの根源》《サルでもわかるスピーチのいろは》以上5冊の返却ですね。承りました」
図書館に着いてすぐ、眼鏡をかけた受付の女に本を渡す。そう、俺が会いたかったのはこの女だ。俺が図書館に通う前からいるこの女。人と話す時はニコリとも笑わねぇし、ただ淡々と仕事をこなしている。最初は|機械《からくり》かなんかか?と思って見ていたが、どうやら生身の人間だ。こんなに無表情な人間がいるのかと感心したぐらいだ。
なんとなく、本当になんとなくだ。本を読みながら自然とこの女のことを目で追うようになった。この無表情女の顔が変わる時があるのか?そんな些細なことが気になってしまったのだ。そしてこの前の夏、初めて表情が変わるところを見た。
◇◇
あの日は猛暑日で、皆涼しさを求めて図書館に来ていた。が、経費節約のためか分からないが、思ってたほど涼しくない図書館に気づくと早々と出ていき、結果人は数える程しかいなかった。
そんな猛暑日でもこの女はいつもと同じだった。コイツは元々受付業務が落ち着いている時は基本本を読んでいる。いや、どっちかっていうと本を読む合間に仕事をしている感じだ。ボーッと彼女を見ているとあれよあれよという間に彼女の横に本が積み重ねられていく。思わず目を見開いた。読むスピードが尋常じゃない。速すぎる。銀行にある札を数える機械並に速い。速読選手権なんてモンがあればぶっちぎりで優勝するんじゃないか。なんてことを考えながら目にも止まらぬ速さでページを捲る彼女を眺めていた。すると、突然その手がピタッと止まった。
――彼女がニコリと微笑んだ。
見間違いじゃないかと思った。図書館の窓から見える綿飴のような白い雲と絵の具を流したような真っ青な空。窓から入ってくる光を横から受け逆光で影ができる彼女の顔。光が反射してまるで宝石のように輝く眼鏡のフレーム。それらが合わさって絵画のようにひどく美しく見えた。それに今まで見たことない彼女の微笑み。俺の心臓の音が大きく聞こえてしまうのも当たり前だった。
なんの本を読んでいるんだろう。何がアンタの顔を変えたんだと気になってしょうがない。だから俺は図書館で本を読むだけじゃなく、本を借りることも始めたんだ。アンタの顔を近くで見たくて。
……俺ってやつは剣と近藤さんの隣以外には興味がねェはずだったが、存外人並みに女にも興味があったらしい。俺の手でアンタの顔を変えさせてみたくなったんだ。
◇◇
「コレ。借りやす」
アンタが本を読んでいる途中でワザと貸出の受付に行く。アンタは本を読んでいる手を止め俺をチラリと見ると「お預かりします」と手を出した。まるで邪魔だなァと言ってるような目。まず1個目、表情を変えることが出来た。
「……全部で7冊ですね。今回は多いですね、沖田さん」
おっと思わぬ反撃だ。この人、俺の名前知ってたのか。思わず嬉しいと感じてしまった。クソ、チョロいな俺。
「俺の名前……」
「え?沖田さん定期的にいらっしゃってますから……常連さんは覚えてますよ」
「へぇ……」
本に付いたバーコードを機械で読み込む。ピッピッと一定のリズムで鳴る音が心地いい。俯く顔からはみ出る長いまつ毛が左右に揺れて俺の心も一緒に揺らす。
「あの……」
「はい?」
脳を通らずに声が出た。ヤバイヤバイ、マジでヤバイ。聞くことなんて何も考えてない。バーコードを読み取っている途中で声をかけてしまった。メガネ越しにキョトンとした瞳が俺の顔を見つめる。あ、この顔、2個目だ。
「あの……なにか?」
手を止めキョトンとした顔で俺の顔を見つめるアンタ。行き当たりばったりになってしまった俺が何とか言葉を出した。
「アンタのオススメ…教えてくれやせんか……?」
平静を装って尋ねる。いつものポーカーフェイスが出来ているはずだ。そう思い込みながらアンタの反応を待つ。
「ちょっとお待ちくださいね」
そう言ってピッピッとバーコードを読み取る作業を再開するアンタ。7冊分のバーコードを読み取った後、アンタが机に積んでる本の中から一冊取り出した。
「これ……もしかしたら沖田さんが好きそうな内容かもです。沖田さん、中国の兵法書読まれた事ありますか?」
そう言って渡された本は『孫子』だった。思ってたより相当分厚い。というか俺はアンタのオススメを聞いたのに。
「コレがアンタのオススメですかィ?」
「オススメというか…沖田さんが読まれそうな本を見繕ってみました。よく戦術書借りられてるじゃないですか」
心臓がドキンと跳ねる。は?この人、俺のことを考えて本を選んでくれたってことか?今まで俺が読んでた本のジャンルから?ドキドキと心臓を鳴らしながら本を手に取る。分厚いがせっかく選んでくれたんだ。読まないと悪いだろう。だが……
「コレもですけど……あとアンタが好きな本教えてくれやせんか?読んでみたいんでさァ」
「私の……ですか?」
意外そうな顔をするアンタ。これは3個目に数えてもいいんじゃねーかな。
「いつも沢山の本読んでるじゃねーですかィ。どんなの読んでるか気になっちまって」
ここは素直に聞きたいことを伝える。聞きたいことは変化球を入れず素直に聞いた方が良いって山崎が言っていた。「そうですねぇ……」と積みあげられた本を見ながらアンタは顎に手を添える。畜生、その仕草、ちょっと可愛いじゃねーか。
「……コレ、ですかね」
そう言って文庫本を手渡してきた。タイトルは《星降る秋のしらべ》。夜空の写真が表紙になっている。
「短編集なんですけどね。今の季節に読むとなんというか心がほっと安らぐんですよ。是非温かい飲み物を用意して、秋の夜空を見ながら読んでみてください。オススメです」
そう言って微笑むアンタ。その微笑み。夏に見た、あの微笑みと同じだ。そうか。アンタは心が安らぐときにその顔をするんだな。4個目。やっとその笑顔を見れた。
「……ありがとうございやす。そしたらこれも借ります。あ、上限なっちまいました?」
「上限は10冊なので大丈夫ですよ。手続きしますね」
本を渡すとまたいつもの無表情に戻っちまった。ピッピッとバーコードを読み取る音が2回鳴る。そして借りた本を半分に分けてカウンターに置いてくれた。
「ちょっと多いですけどバッグ入ります?無ければお貸ししますが」
「大丈夫でさァ。入りやす」
持ってきていた厚手のバッグに本を入れていく。今日は見栄張って多く借りちまった。期限内に全部読めるかな、コレ。
「良かった、入りましたね。今日はもう帰られるんですか?」
「うーん、もう少しだけ居ますぜィ。今週号のジャンプまだ読んでないんでさァ」
「そうですか。ではどうぞゆっくりお過ごしください」
「ええ。読書の邪魔してすいやせんでしたねィ」
ちょっと意地悪を言ってみたら、ムッとした顔になるアンタ。5個目だ。キリがいい。
「仕事ですから。ではまた」
そう言ってペコッと社交辞令の会釈をお互い交わす。受付が見える雑誌コーナーにジャンプを持って座った。受付を見ると、あの人は既に新しい本に手をつけている。やはりめちゃくちゃ素早い手つきでページを次々に捲っていっている。
「本当に読んでるんかねェアレは」
自然と口角が上がる。そして俺は窓から差し込む秋の陽気を照明にジャンプを読み進めていくのだった。
おわり
侍ってのは剣だけできやりゃあいいと思っていた。
それなのに土方のクソヤローと近藤さんが『本も読め』と言ってくるもんだから、こうして非番の日に図書館に通う羽目になっちまった。
けどまァ、本ってやつはハマってみると案外面白い。ただ漫然と生きているだけじゃ知りえない沢山のことを教えてくれる。ムカつくし認めたくないが、土方死ねクソヤローが立てる作戦も実戦経験だけでなく、こういうのから参考にしているのもあるのだろう。不本意だがヤツを蹴落とし、副長の座を頂く為には学も必要であると気づかされた。だから俺は今日も図書館に通う。
通い始めて3ヶ月、季節はあっという間に秋になった。最近は異常気象のせいで夏と冬がエラく長い。可哀想に、春と秋は長く居座る奴らのせいで肩身が狭いときたもんだ。そんな今日は珍しく小春日和の秋らしい日だ。少し肌寒い秋風から身を守るのに薄手のマフラーと羽織が役に立つ。
今は借りた本を返すのと新しく本を借りるために図書館に向かっている。あと……あの人に会うために。
◇◇
「《三国志演義》《分かりやすい武家諸法度》《もしも剣道部の俺が織田信長の敦盛を舞ったら》《SMの根源》《サルでもわかるスピーチのいろは》以上5冊の返却ですね。承りました」
図書館に着いてすぐ、眼鏡をかけた受付の女に本を渡す。そう、俺が会いたかったのはこの女だ。俺が図書館に通う前からいるこの女。人と話す時はニコリとも笑わねぇし、ただ淡々と仕事をこなしている。最初は|機械《からくり》かなんかか?と思って見ていたが、どうやら生身の人間だ。こんなに無表情な人間がいるのかと感心したぐらいだ。
なんとなく、本当になんとなくだ。本を読みながら自然とこの女のことを目で追うようになった。この無表情女の顔が変わる時があるのか?そんな些細なことが気になってしまったのだ。そしてこの前の夏、初めて表情が変わるところを見た。
◇◇
あの日は猛暑日で、皆涼しさを求めて図書館に来ていた。が、経費節約のためか分からないが、思ってたほど涼しくない図書館に気づくと早々と出ていき、結果人は数える程しかいなかった。
そんな猛暑日でもこの女はいつもと同じだった。コイツは元々受付業務が落ち着いている時は基本本を読んでいる。いや、どっちかっていうと本を読む合間に仕事をしている感じだ。ボーッと彼女を見ているとあれよあれよという間に彼女の横に本が積み重ねられていく。思わず目を見開いた。読むスピードが尋常じゃない。速すぎる。銀行にある札を数える機械並に速い。速読選手権なんてモンがあればぶっちぎりで優勝するんじゃないか。なんてことを考えながら目にも止まらぬ速さでページを捲る彼女を眺めていた。すると、突然その手がピタッと止まった。
――彼女がニコリと微笑んだ。
見間違いじゃないかと思った。図書館の窓から見える綿飴のような白い雲と絵の具を流したような真っ青な空。窓から入ってくる光を横から受け逆光で影ができる彼女の顔。光が反射してまるで宝石のように輝く眼鏡のフレーム。それらが合わさって絵画のようにひどく美しく見えた。それに今まで見たことない彼女の微笑み。俺の心臓の音が大きく聞こえてしまうのも当たり前だった。
なんの本を読んでいるんだろう。何がアンタの顔を変えたんだと気になってしょうがない。だから俺は図書館で本を読むだけじゃなく、本を借りることも始めたんだ。アンタの顔を近くで見たくて。
……俺ってやつは剣と近藤さんの隣以外には興味がねェはずだったが、存外人並みに女にも興味があったらしい。俺の手でアンタの顔を変えさせてみたくなったんだ。
◇◇
「コレ。借りやす」
アンタが本を読んでいる途中でワザと貸出の受付に行く。アンタは本を読んでいる手を止め俺をチラリと見ると「お預かりします」と手を出した。まるで邪魔だなァと言ってるような目。まず1個目、表情を変えることが出来た。
「……全部で7冊ですね。今回は多いですね、沖田さん」
おっと思わぬ反撃だ。この人、俺の名前知ってたのか。思わず嬉しいと感じてしまった。クソ、チョロいな俺。
「俺の名前……」
「え?沖田さん定期的にいらっしゃってますから……常連さんは覚えてますよ」
「へぇ……」
本に付いたバーコードを機械で読み込む。ピッピッと一定のリズムで鳴る音が心地いい。俯く顔からはみ出る長いまつ毛が左右に揺れて俺の心も一緒に揺らす。
「あの……」
「はい?」
脳を通らずに声が出た。ヤバイヤバイ、マジでヤバイ。聞くことなんて何も考えてない。バーコードを読み取っている途中で声をかけてしまった。メガネ越しにキョトンとした瞳が俺の顔を見つめる。あ、この顔、2個目だ。
「あの……なにか?」
手を止めキョトンとした顔で俺の顔を見つめるアンタ。行き当たりばったりになってしまった俺が何とか言葉を出した。
「アンタのオススメ…教えてくれやせんか……?」
平静を装って尋ねる。いつものポーカーフェイスが出来ているはずだ。そう思い込みながらアンタの反応を待つ。
「ちょっとお待ちくださいね」
そう言ってピッピッとバーコードを読み取る作業を再開するアンタ。7冊分のバーコードを読み取った後、アンタが机に積んでる本の中から一冊取り出した。
「これ……もしかしたら沖田さんが好きそうな内容かもです。沖田さん、中国の兵法書読まれた事ありますか?」
そう言って渡された本は『孫子』だった。思ってたより相当分厚い。というか俺はアンタのオススメを聞いたのに。
「コレがアンタのオススメですかィ?」
「オススメというか…沖田さんが読まれそうな本を見繕ってみました。よく戦術書借りられてるじゃないですか」
心臓がドキンと跳ねる。は?この人、俺のことを考えて本を選んでくれたってことか?今まで俺が読んでた本のジャンルから?ドキドキと心臓を鳴らしながら本を手に取る。分厚いがせっかく選んでくれたんだ。読まないと悪いだろう。だが……
「コレもですけど……あとアンタが好きな本教えてくれやせんか?読んでみたいんでさァ」
「私の……ですか?」
意外そうな顔をするアンタ。これは3個目に数えてもいいんじゃねーかな。
「いつも沢山の本読んでるじゃねーですかィ。どんなの読んでるか気になっちまって」
ここは素直に聞きたいことを伝える。聞きたいことは変化球を入れず素直に聞いた方が良いって山崎が言っていた。「そうですねぇ……」と積みあげられた本を見ながらアンタは顎に手を添える。畜生、その仕草、ちょっと可愛いじゃねーか。
「……コレ、ですかね」
そう言って文庫本を手渡してきた。タイトルは《星降る秋のしらべ》。夜空の写真が表紙になっている。
「短編集なんですけどね。今の季節に読むとなんというか心がほっと安らぐんですよ。是非温かい飲み物を用意して、秋の夜空を見ながら読んでみてください。オススメです」
そう言って微笑むアンタ。その微笑み。夏に見た、あの微笑みと同じだ。そうか。アンタは心が安らぐときにその顔をするんだな。4個目。やっとその笑顔を見れた。
「……ありがとうございやす。そしたらこれも借ります。あ、上限なっちまいました?」
「上限は10冊なので大丈夫ですよ。手続きしますね」
本を渡すとまたいつもの無表情に戻っちまった。ピッピッとバーコードを読み取る音が2回鳴る。そして借りた本を半分に分けてカウンターに置いてくれた。
「ちょっと多いですけどバッグ入ります?無ければお貸ししますが」
「大丈夫でさァ。入りやす」
持ってきていた厚手のバッグに本を入れていく。今日は見栄張って多く借りちまった。期限内に全部読めるかな、コレ。
「良かった、入りましたね。今日はもう帰られるんですか?」
「うーん、もう少しだけ居ますぜィ。今週号のジャンプまだ読んでないんでさァ」
「そうですか。ではどうぞゆっくりお過ごしください」
「ええ。読書の邪魔してすいやせんでしたねィ」
ちょっと意地悪を言ってみたら、ムッとした顔になるアンタ。5個目だ。キリがいい。
「仕事ですから。ではまた」
そう言ってペコッと社交辞令の会釈をお互い交わす。受付が見える雑誌コーナーにジャンプを持って座った。受付を見ると、あの人は既に新しい本に手をつけている。やはりめちゃくちゃ素早い手つきでページを次々に捲っていっている。
「本当に読んでるんかねェアレは」
自然と口角が上がる。そして俺は窓から差し込む秋の陽気を照明にジャンプを読み進めていくのだった。
おわり
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