#15 進捗は聞くものじゃない待つものですので何卒どうか
空欄の場合「鏡華」になります。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
◇◇
仕事が終わり、夜。土方と鏡華はかぶき町に居た。カッチリとした制服を脱ぎ、着流しに羽織をかけ帯刀した土方と、いつもの薄緑色の着物の下に、パーカーとレギンスを着た鏡華がある店の前に立っていた。看板には《スナック すまいる》と書いてある。
「ホストの次はキャバクラか……」
どこか既視感のある展開に鏡華がボソッと呟く。隣にいる土方は煙草に火をつけると、「行くぞ」と鏡華に声をかけた。鏡華は「はいはい」と気だるく返事をすると、土方の後ろについて行ったのだった。
◇◇
「いらっしゃいませェェ!!あっ!」
「キャアアア土方はん!土方はんやわ!」
「今日はあの近藤 じゃなくて土方はんが来てくれはったわ!」
「キャアアア!こっちの席にきて土方はん!」
土方が店内に入った途端、キャバ嬢たちの黄色い声が飛びまくる。さすが真選組の色男、モテモテっぷりが凄まじい。土方のモテっぷりとは反対に、ゴリラと呼ばれてしまう近藤が不憫だなと鏡華が苦笑いした。
「土方さん、ご指名は?」
この場から土方を逃がすように、ボーイが困り顔の土方に尋ねた。
◇◇
「……土方くんモテモテだねェ」
通された席に座った鏡華が電子タバコを吸いながら土方に話しかける。土方もため息と一緒に煙を吐いた。
「オメーが居りゃ少しはキャーキャー言われなくて済むかと思ったが……そんなことは無かったか」
「え、何?私牽制役だったの?私ごときじゃ無理でしょーよ。みんな土方くんに夢中で私のこと見えてなかったよ。ガチで空気だったよ」
そう鏡華は言うが、実際のところキャバ嬢たちに「あの女は誰だ」「まさか土方の女か?」とざわつかれている。土方はその事に気づいているが鏡華は全く気づいていない。鈍感にも程がある。
「……オメーの鈍感さがこれほど羨ましいと思った事はねェな」
「何それ褒めてんの?貶してんの?イヤミなの?」
2人で話していると、鏡華の向こうから一人のキャバ嬢がこちらに近づいてくるのが見えた。
「あら?貴女は銀さんの」
そう声をかけたのは、土方が指名したお妙である。以前見た桃色の可愛らしい着物とは違い、今夜は鮮やかな紫色の着物に身を包み、まるで夜の蝶のように艶やかである。
「お妙ちゃん久しぶり。泉です」
ヒラリと手を上げてにこやかに挨拶をする鏡華。お妙もニコッと微笑むと土方の隣に座った。
「裏で他の子たちが『土方さんと一緒に居る女は誰よ!』ってジェラシーたっぷりに言ってたの。まさか泉さんだとは思わなかったわ。あっ、この前は新ちゃんたちの看病してもらったみたいで。本当にありがとうございました」
「いえいえとんでもない」
遠慮がちに鏡華が答える。お妙はテーブルに置いてあるグラスを手に取り「飲まれますよね?」と微笑んで2人に尋ねた。「飲む飲む」と鏡華が答えると、お妙はグラスに氷を入れお酒と水を注いだ。
「その後行けてなくて申し訳ないんだけど、みんな元気になった?」
「えぇ、すっかり」
それは良かった、と言って鏡華はお妙が作った酒をクッと呷った。2人の間に挟まれた土方は煙をくゆらせていた。
「ところでなんで泉さんが土方さんと一緒なんです?」
「あー、実は真選組の常勤医になってね。今日はよく分からないけど連れてこられたのよ」
へぇ……とお妙が土方の方をちらりと見た。
「どーいう風の吹き回しですか?」
お妙が土方に問いかける。一方の土方は腕を組み目を閉じている。
「最近近藤 がおとなしくなったと思ったら、今度はアナタですか。わざわざ身内まで連れてきて。真選組の皆さんは豪気な方が多いですね。税金使ってキャバクラ遊びですか」
「俺だって来たくて来たんじゃねーってんだよ」
にこやかにイヤミを言うお妙に、ウンザリした顔の土方がボヤいた。
「で?近藤さんは知っているの?私たちがこういう関係にあるって」
「こういう関係ってどういう関係だよ」
「えっ土方くんとお妙ちゃんってそういう関係!?」
「オイ、コラ。テメーは乗っかんじゃねェよ。ややこしくなンだろーが」
突拍子も無いことを言い出したお妙に困惑の表情を浮かべる土方。さらに鏡華が悪ノリするものだから、圧倒的ツッコミ不足である。
頬に手を添えて、満更でも無い顔でお妙がハァと色っぽいため息をついた。
「まったくモテるというのも困ったものね。上司と部下で一人の女を取り合いなんて、まるで昼ドラだわ」
「オイ、何勝手に話進めてんだ。俺はだな……」
「近藤さんの想い人に横恋慕しに来たんでしょ?」
「だからちげーっつってんだよ!テメーは割り込むな!」
話を聞かないお妙と悪ノリで横槍を入れる鏡華にツッコミを入れる土方。そしてお妙は変わらず土方の話を聞かずに話を続ける。
「でも私はそんな安い女じゃないの。月9みたいな恋愛じゃないとお断りよ」
「お前ら俺の話を聞け。違うっつってんだよ、俺はだな」
「でもあなた、どう見ても日テレ顔ですよね。土曜9時にマヨラー探偵とかイロモン系ですよね」
「誰がマヨたんだ」
土方の言葉を無視して一方的に話し続けるお妙。コントのようなやりとりに、酒を飲む鏡華の笑いが止まらない。今日の彼女は酔いが回りやすかったらしい。いよいよカオスな空間になってきた。そして土方が懐かしのネタも拾ったところで近藤の話題にも触れた。
「まァ俺はいい。だが近藤さんはどうだ、月9顔じゃねーか。何回目のプロポーズ顔じゃねーか」
「近藤さんは火サスに出てくる死体顔です」
お妙の容赦ない近藤の表現に、鏡華は思わず吹き出して笑いだした。
そして土方が近藤の話を振ってきたことに、何かを察したお妙が土方の顔をまじまじと見た。
「土方さん、まさかアナタ近藤さんのためにここに……」
「「「お妙さァァァん!!」」」
突然山崎や原田を含む10人ほどの隊士達が現れ、大声でお妙の名前を叫んだ。
「「「どうか局長の女房に……俺たちの姐さんになってくだせェェ!!」」」
一斉にお妙に向かって土下座をする。予想外の展開に鏡華は大爆笑し、お妙は冷えた笑みを浮かべて男たちを見下ろした。
「なんですかコレは。腰の低い恐喝?」
「……実はな、今近藤さんに縁談の話が来てる」
煙を吐きながら土方が話し出した。
「あの人も三十路近い。世間体も考えろってんで幕府の方から来た見合い話なんだが、最近のあの人はアンタに振られ続けて疲労し、性別がメスなら誰でもいいという限界まで来ている……恐らくこの話、飲む」
「アラ、良かったじゃないですか。これで私へのストーキングも無くなるし、近藤さんも愛妻ができるしみんな幸せになれますね」
「ああ、なんせ猩猩星の第三王女バブルス様だ。逆タマだよ」
土方はため息をつきながら王女の写真をお妙に渡した。鏡華もお妙側に回り込み写真を覗き込む。
そこに写っていたのは着物を着たゴリラ。紛うことなきゴリラである。ぶっちゃけ地球人には見た目じゃ性別の判断はつかない。王女と言うからにはメスなのだろう。あまりにもゴリラな王女に、鏡華が涙を流しながら大笑いした。
「あっはっはっはっはっは!!マジでか近藤さん!マジでか!!あっはっはっはっは!!いやコレはお似合いでしょ!!あっはっはっはっは!!」
「先生ェェ!!笑いすぎ!!笑いすぎだから!!てか大笑いしてっけど、アンタもコレのこと姐さんって呼ぶ羽目になるんだぞ!?分かってる!?」
山崎が焦りながら鏡華にツッコむ。一方お妙は「まァ」と変わらずにこやかである。
「夫婦は顔が似てくるって言うけれど、既に長年連れ添った夫婦のようだわ。ゴリ二つよ」
「姐さんよく見て!!微妙に近藤さんと違うよ!!そっちはモノホンだよ!!」
鏡華に続いてお妙にも山崎がツッコんだ。山崎に続いて隊士達が次々とお妙に訴えかける。
「お願いだ姐さん!俺達このままじゃその化物、姐さんと呼んで一生敬わなきゃならねェ!今の局長止められるのは姐さんだけだ!!」
「大丈夫よ、毛深い女は情も深いと言われているの。きっといい奥さんになってくれるわ」
「深すぎるんですけど!情も毛も彫りも深すぎるんですけど!」
山崎がそう言うと、再び隊士達がお妙に向かって土下座した。必死すぎる隊士達を見て鏡華の爆笑は止まらない。
「この通りだ姐さん!結婚までとは言わない!止めてくれるだけでいい!男がこれだけ頭下げてるんだ、その重み!義に通ずる姐さんなら分かってく……」
「アラ、どこが重いのかしら?この頭」
にこやかに笑みを浮かべて、お妙はなんと山崎の頭を鷲掴みして持ち上げた。
「スカスカの脳みそしか詰まってねーだろうがァァ!!」
そして次の瞬間には般若のように青筋を浮かび上がらせながら、隊士達に向かって山崎をぶん投げた。
「てめーらしつこいんだよォ!」とお妙のシャウトが店内に響く。店内にいるボーイやキャバ嬢たちがお妙に声をかけるが、全く聞こえない様子である。
「んなマネしたらまた勘違いされて、ストーカーに拍車がかかること山の如しだろーが!」
隊士達の叫び声とお妙の怒号が店内を飛び交う。そしてその様子をツマミにして笑いながら酒を飲む鏡華。キャバクラが本格的にカオスな空間になってしまった。
ふと土方が、携帯を取りだしてどこかに電話をかけた。
「もしもし近藤さん……やっぱり無理だった。もう覚悟決めるしかねーな」
どうやら相手は近藤らしい。鏡華は土方の近くに座り直した。ニヤついて聞き耳を立てる彼女を鬱陶しそうに土方が眉を顰める。携帯越しに聞こえる近藤の声は半べそをかいているようだ。
「イヤよイヤよも好きなうち?いや、イヤなもんはイヤなんだろ。それからよォ、俺ァもうこんなお使いさせられるのは御免だぜ」
ハァとため息をつきながら土方が通話を切った瞬間、土方と鏡華が座るテーブルに隊士が飛ばされてきた。
「なっ……なんだてめェェェェ!!」
鏡華たちが隊士らの方を見ると、編笠を被った小柄な侍がお妙を守るかのように立っていた。恐らくこの人物が投げ飛ばしたようである。
「貴様ら、こんな多勢で女に手を出すたァそれでも侍かね?」
編笠の人物が山崎たちに問いかけた。
「何言ってんの!!どう見ても俺達が姐さんにボコられてただろーが!!それでも僕らは侍です!!」
山崎の言葉に思わず吹き出す鏡華。編笠の人物は声色を変えず、隊士たちに話し続ける。
「この女に手ェ出してもらっちゃ困る。僕の大事な人だ」
「あ゙――!?チビ助が何ナマ言ってんだ!」
「オイ、やめろ」
隊士達が編笠の人物に突っかかろうとするのを土方が制止した。そして「これ以上店騒がすな」と隊士たちに声をかけた。
「オイ、引き上げるぞ」
と、土方は鏡華にも声をかけた。「はーい」と悪ノリ女は返事をすると、おもむろに席を立った。
「それからガキんちょ、お前も来い。お前未成年だろ。こんな店に来ていいと思ってんのか」
土方が編笠の人物にも声をかける。『ガキんちょ』という言葉に反応したのか、ピクリと編笠が揺れた。
「オイ貴様、今何て言った?」
編笠の人物が怒気の孕んだ声色で土方に話しかける。そして編笠を上に投げた。
「僕は」
皆が投げられた編笠に気を取られた瞬間。隊士達がその場に倒れていた。
あっという間の出来事に場の空気がシンと静まり返る。よく見ると倒れた隊士達の中心には、刃を交える土方と編笠の姿があった。
土方は編笠の速い剣に反応していたが、その顔に余裕は無い。ギシシと鋼がぶつかり合う鈍い音が響く。
「ガキんちょなんかじゃない……柳生九兵衛だ」
左目に眼帯をつけ、長めのポニーテールをサラリと揺らしながら侍が名乗りを上げた。土方のすぐ横に居た鏡華も、一気に酔いが覚め目を見開いていた。そして彼女の反対側に立つお妙を見ると、困惑した面持ちで侍を見ている。
「きゅ……九ちゃん!?」
「え?知り合い?」
お妙の発言に鏡華からこの場にそぐわない素っ頓狂な声が出た。それに何やら波乱の予感がしてきた鏡華であった。
仕事が終わり、夜。土方と鏡華はかぶき町に居た。カッチリとした制服を脱ぎ、着流しに羽織をかけ帯刀した土方と、いつもの薄緑色の着物の下に、パーカーとレギンスを着た鏡華がある店の前に立っていた。看板には《スナック すまいる》と書いてある。
「ホストの次はキャバクラか……」
どこか既視感のある展開に鏡華がボソッと呟く。隣にいる土方は煙草に火をつけると、「行くぞ」と鏡華に声をかけた。鏡華は「はいはい」と気だるく返事をすると、土方の後ろについて行ったのだった。
◇◇
「いらっしゃいませェェ!!あっ!」
「キャアアア土方はん!土方はんやわ!」
「今日はあの
「キャアアア!こっちの席にきて土方はん!」
土方が店内に入った途端、キャバ嬢たちの黄色い声が飛びまくる。さすが真選組の色男、モテモテっぷりが凄まじい。土方のモテっぷりとは反対に、ゴリラと呼ばれてしまう近藤が不憫だなと鏡華が苦笑いした。
「土方さん、ご指名は?」
この場から土方を逃がすように、ボーイが困り顔の土方に尋ねた。
◇◇
「……土方くんモテモテだねェ」
通された席に座った鏡華が電子タバコを吸いながら土方に話しかける。土方もため息と一緒に煙を吐いた。
「オメーが居りゃ少しはキャーキャー言われなくて済むかと思ったが……そんなことは無かったか」
「え、何?私牽制役だったの?私ごときじゃ無理でしょーよ。みんな土方くんに夢中で私のこと見えてなかったよ。ガチで空気だったよ」
そう鏡華は言うが、実際のところキャバ嬢たちに「あの女は誰だ」「まさか土方の女か?」とざわつかれている。土方はその事に気づいているが鏡華は全く気づいていない。鈍感にも程がある。
「……オメーの鈍感さがこれほど羨ましいと思った事はねェな」
「何それ褒めてんの?貶してんの?イヤミなの?」
2人で話していると、鏡華の向こうから一人のキャバ嬢がこちらに近づいてくるのが見えた。
「あら?貴女は銀さんの」
そう声をかけたのは、土方が指名したお妙である。以前見た桃色の可愛らしい着物とは違い、今夜は鮮やかな紫色の着物に身を包み、まるで夜の蝶のように艶やかである。
「お妙ちゃん久しぶり。泉です」
ヒラリと手を上げてにこやかに挨拶をする鏡華。お妙もニコッと微笑むと土方の隣に座った。
「裏で他の子たちが『土方さんと一緒に居る女は誰よ!』ってジェラシーたっぷりに言ってたの。まさか泉さんだとは思わなかったわ。あっ、この前は新ちゃんたちの看病してもらったみたいで。本当にありがとうございました」
「いえいえとんでもない」
遠慮がちに鏡華が答える。お妙はテーブルに置いてあるグラスを手に取り「飲まれますよね?」と微笑んで2人に尋ねた。「飲む飲む」と鏡華が答えると、お妙はグラスに氷を入れお酒と水を注いだ。
「その後行けてなくて申し訳ないんだけど、みんな元気になった?」
「えぇ、すっかり」
それは良かった、と言って鏡華はお妙が作った酒をクッと呷った。2人の間に挟まれた土方は煙をくゆらせていた。
「ところでなんで泉さんが土方さんと一緒なんです?」
「あー、実は真選組の常勤医になってね。今日はよく分からないけど連れてこられたのよ」
へぇ……とお妙が土方の方をちらりと見た。
「どーいう風の吹き回しですか?」
お妙が土方に問いかける。一方の土方は腕を組み目を閉じている。
「最近
「俺だって来たくて来たんじゃねーってんだよ」
にこやかにイヤミを言うお妙に、ウンザリした顔の土方がボヤいた。
「で?近藤さんは知っているの?私たちがこういう関係にあるって」
「こういう関係ってどういう関係だよ」
「えっ土方くんとお妙ちゃんってそういう関係!?」
「オイ、コラ。テメーは乗っかんじゃねェよ。ややこしくなンだろーが」
突拍子も無いことを言い出したお妙に困惑の表情を浮かべる土方。さらに鏡華が悪ノリするものだから、圧倒的ツッコミ不足である。
頬に手を添えて、満更でも無い顔でお妙がハァと色っぽいため息をついた。
「まったくモテるというのも困ったものね。上司と部下で一人の女を取り合いなんて、まるで昼ドラだわ」
「オイ、何勝手に話進めてんだ。俺はだな……」
「近藤さんの想い人に横恋慕しに来たんでしょ?」
「だからちげーっつってんだよ!テメーは割り込むな!」
話を聞かないお妙と悪ノリで横槍を入れる鏡華にツッコミを入れる土方。そしてお妙は変わらず土方の話を聞かずに話を続ける。
「でも私はそんな安い女じゃないの。月9みたいな恋愛じゃないとお断りよ」
「お前ら俺の話を聞け。違うっつってんだよ、俺はだな」
「でもあなた、どう見ても日テレ顔ですよね。土曜9時にマヨラー探偵とかイロモン系ですよね」
「誰がマヨたんだ」
土方の言葉を無視して一方的に話し続けるお妙。コントのようなやりとりに、酒を飲む鏡華の笑いが止まらない。今日の彼女は酔いが回りやすかったらしい。いよいよカオスな空間になってきた。そして土方が懐かしのネタも拾ったところで近藤の話題にも触れた。
「まァ俺はいい。だが近藤さんはどうだ、月9顔じゃねーか。何回目のプロポーズ顔じゃねーか」
「近藤さんは火サスに出てくる死体顔です」
お妙の容赦ない近藤の表現に、鏡華は思わず吹き出して笑いだした。
そして土方が近藤の話を振ってきたことに、何かを察したお妙が土方の顔をまじまじと見た。
「土方さん、まさかアナタ近藤さんのためにここに……」
「「「お妙さァァァん!!」」」
突然山崎や原田を含む10人ほどの隊士達が現れ、大声でお妙の名前を叫んだ。
「「「どうか局長の女房に……俺たちの姐さんになってくだせェェ!!」」」
一斉にお妙に向かって土下座をする。予想外の展開に鏡華は大爆笑し、お妙は冷えた笑みを浮かべて男たちを見下ろした。
「なんですかコレは。腰の低い恐喝?」
「……実はな、今近藤さんに縁談の話が来てる」
煙を吐きながら土方が話し出した。
「あの人も三十路近い。世間体も考えろってんで幕府の方から来た見合い話なんだが、最近のあの人はアンタに振られ続けて疲労し、性別がメスなら誰でもいいという限界まで来ている……恐らくこの話、飲む」
「アラ、良かったじゃないですか。これで私へのストーキングも無くなるし、近藤さんも愛妻ができるしみんな幸せになれますね」
「ああ、なんせ猩猩星の第三王女バブルス様だ。逆タマだよ」
土方はため息をつきながら王女の写真をお妙に渡した。鏡華もお妙側に回り込み写真を覗き込む。
そこに写っていたのは着物を着たゴリラ。紛うことなきゴリラである。ぶっちゃけ地球人には見た目じゃ性別の判断はつかない。王女と言うからにはメスなのだろう。あまりにもゴリラな王女に、鏡華が涙を流しながら大笑いした。
「あっはっはっはっはっは!!マジでか近藤さん!マジでか!!あっはっはっはっは!!いやコレはお似合いでしょ!!あっはっはっはっは!!」
「先生ェェ!!笑いすぎ!!笑いすぎだから!!てか大笑いしてっけど、アンタもコレのこと姐さんって呼ぶ羽目になるんだぞ!?分かってる!?」
山崎が焦りながら鏡華にツッコむ。一方お妙は「まァ」と変わらずにこやかである。
「夫婦は顔が似てくるって言うけれど、既に長年連れ添った夫婦のようだわ。ゴリ二つよ」
「姐さんよく見て!!微妙に近藤さんと違うよ!!そっちはモノホンだよ!!」
鏡華に続いてお妙にも山崎がツッコんだ。山崎に続いて隊士達が次々とお妙に訴えかける。
「お願いだ姐さん!俺達このままじゃその化物、姐さんと呼んで一生敬わなきゃならねェ!今の局長止められるのは姐さんだけだ!!」
「大丈夫よ、毛深い女は情も深いと言われているの。きっといい奥さんになってくれるわ」
「深すぎるんですけど!情も毛も彫りも深すぎるんですけど!」
山崎がそう言うと、再び隊士達がお妙に向かって土下座した。必死すぎる隊士達を見て鏡華の爆笑は止まらない。
「この通りだ姐さん!結婚までとは言わない!止めてくれるだけでいい!男がこれだけ頭下げてるんだ、その重み!義に通ずる姐さんなら分かってく……」
「アラ、どこが重いのかしら?この頭」
にこやかに笑みを浮かべて、お妙はなんと山崎の頭を鷲掴みして持ち上げた。
「スカスカの脳みそしか詰まってねーだろうがァァ!!」
そして次の瞬間には般若のように青筋を浮かび上がらせながら、隊士達に向かって山崎をぶん投げた。
「てめーらしつこいんだよォ!」とお妙のシャウトが店内に響く。店内にいるボーイやキャバ嬢たちがお妙に声をかけるが、全く聞こえない様子である。
「んなマネしたらまた勘違いされて、ストーカーに拍車がかかること山の如しだろーが!」
隊士達の叫び声とお妙の怒号が店内を飛び交う。そしてその様子をツマミにして笑いながら酒を飲む鏡華。キャバクラが本格的にカオスな空間になってしまった。
ふと土方が、携帯を取りだしてどこかに電話をかけた。
「もしもし近藤さん……やっぱり無理だった。もう覚悟決めるしかねーな」
どうやら相手は近藤らしい。鏡華は土方の近くに座り直した。ニヤついて聞き耳を立てる彼女を鬱陶しそうに土方が眉を顰める。携帯越しに聞こえる近藤の声は半べそをかいているようだ。
「イヤよイヤよも好きなうち?いや、イヤなもんはイヤなんだろ。それからよォ、俺ァもうこんなお使いさせられるのは御免だぜ」
ハァとため息をつきながら土方が通話を切った瞬間、土方と鏡華が座るテーブルに隊士が飛ばされてきた。
「なっ……なんだてめェェェェ!!」
鏡華たちが隊士らの方を見ると、編笠を被った小柄な侍がお妙を守るかのように立っていた。恐らくこの人物が投げ飛ばしたようである。
「貴様ら、こんな多勢で女に手を出すたァそれでも侍かね?」
編笠の人物が山崎たちに問いかけた。
「何言ってんの!!どう見ても俺達が姐さんにボコられてただろーが!!それでも僕らは侍です!!」
山崎の言葉に思わず吹き出す鏡華。編笠の人物は声色を変えず、隊士たちに話し続ける。
「この女に手ェ出してもらっちゃ困る。僕の大事な人だ」
「あ゙――!?チビ助が何ナマ言ってんだ!」
「オイ、やめろ」
隊士達が編笠の人物に突っかかろうとするのを土方が制止した。そして「これ以上店騒がすな」と隊士たちに声をかけた。
「オイ、引き上げるぞ」
と、土方は鏡華にも声をかけた。「はーい」と悪ノリ女は返事をすると、おもむろに席を立った。
「それからガキんちょ、お前も来い。お前未成年だろ。こんな店に来ていいと思ってんのか」
土方が編笠の人物にも声をかける。『ガキんちょ』という言葉に反応したのか、ピクリと編笠が揺れた。
「オイ貴様、今何て言った?」
編笠の人物が怒気の孕んだ声色で土方に話しかける。そして編笠を上に投げた。
「僕は」
皆が投げられた編笠に気を取られた瞬間。隊士達がその場に倒れていた。
あっという間の出来事に場の空気がシンと静まり返る。よく見ると倒れた隊士達の中心には、刃を交える土方と編笠の姿があった。
土方は編笠の速い剣に反応していたが、その顔に余裕は無い。ギシシと鋼がぶつかり合う鈍い音が響く。
「ガキんちょなんかじゃない……柳生九兵衛だ」
左目に眼帯をつけ、長めのポニーテールをサラリと揺らしながら侍が名乗りを上げた。土方のすぐ横に居た鏡華も、一気に酔いが覚め目を見開いていた。そして彼女の反対側に立つお妙を見ると、困惑した面持ちで侍を見ている。
「きゅ……九ちゃん!?」
「え?知り合い?」
お妙の発言に鏡華からこの場にそぐわない素っ頓狂な声が出た。それに何やら波乱の予感がしてきた鏡華であった。
