#14 弱ってる時優しくされるとコロッといっちゃうよねアレそんなことない?
空欄の場合「鏡華」になります。
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◇◇
仕事が終わり、外は雨が降りそうな曇り空。自身の私室に2人を通し、お茶を出してソファに座った鏡華はおもむろに電子タバコを取り出しスパーと吸い始めた。
「で、なんだっけ?私の恋バナだっけ?ははは!聞きたきゃ聞けよォォォ!!もう無理!!マジ無理!!いっそ殺してくれェェェ!!」
「オイィィ!?何投げやりになってんだ!!落ち着け!!とりあえず落ち着いてェェェ!!」
天を仰ぎながらものすごい勢いで電子タバコを吸う鏡華に慌てて山崎がツッコむ。電子タバコを吸いすぎた鏡華はむせてしまい激しく咳き込んだ。
「……先生でもこんなに取り乱すことあるんですねェ……意外でした」
鏡華を呆れた表情で見つめながら山崎が声をかける。だいぶ落ち着いた鏡華が項垂れたまま力なく笑った。
「はは……自分でもこんなにポンコツになるとは思いませんでしたよ……前の職場で切開ミスった時も『あ、やべ』ぐらいで普通に終わらせましたし。こんな……れ、れれれれ恋愛事で取り乱すなんて……医者失格ッ!!」
「だァァァ!!だから落ち着けっての!スイッチでもあるの!?恋バナするとポンコツになるスイッチでもあるの!?」
急に立ち上がり頭を壁にガンガンと打ち付け始めた鏡華を、慌てた山崎が彼女の体を壁から引き剥がす。彼女の対面に座っていた土方が煙をくゆらせてため息をついた。
「泉、とりあえず落ち着け。一から何があったか話せ。フォローできるところはしてやる」
「ひ、土方くん…?」
「先生、副長は上も下も問題児に囲まれ、ことフォローには一家言あるんです。大舟に乗ったつもりで言っちゃいましょう」
山崎が鏡華の肩を抱えながら親指を立てた。
「俺がフォローに一家言あるなんて初耳なんだが……まァ、とりあえず聞かねェと話進まねーからな。早く言え」
そう言ってトントンと携帯灰皿に灰を落とす土方。一方、「はい……」と言って鏡華がソファに座り直し、重い口を開いた。
……といっても、話す内容は先日オバチャンと話した事だけなので、内容はあまりにもペラッペラのペラである。彼女の話を聞いた土方と山崎がポカンと口を開けた。なんなら土方の口からは咥えていた煙草が落ちた。
「……は?それだけ、か?」
「え、待って下さい?てことは旦那と付き合うどころか思いも伝えてもいない、なんなら『好きかも……』って思い始めたって段階ですか?え?待って、マジで待って?それでこの数日仕事ミスりまくってるんですか?」
「…………」
耳を真っ赤にして黙る鏡華。3人の間になんとも言えない時間が流れる。
その静寂を打ち破ったのは山崎の全力のツッコミだった。
「いや小学生かよォォォォォ!!今どきの小学生でも『好きかも?』でこんなにポンコツにならねーよ!アンタ何歳だよアラサーだろーが!恋人いたこと無いんか!?」
「し、失礼な!それなりにあるわい!!」
「だったらこんな初期も初期で耳真っ赤にしないでしょーが!!」
「えっ!?はっ!?」
目を見開いて咄嗟に鏡華が耳を隠す。こんな小学生のような恋愛偏差値の奴に恋人がいた事なんてある訳ない……と山崎と土方はチベスナ顔で鏡華を見つめた。
チベスナ顔の土方が新しくタバコを取りだし火をつけると一際大きく吸い込み、それはそれは大きな煙を吐いた。
「……痴話喧嘩のレベルなら俺もフォロー出来るかと思ってたがよ、痴話喧嘩以前の問題だなこりゃ。ガキすぎて目も当てられねェや」
う……と鏡華が言葉を詰まらせた。土方の隣にいる山崎がヘドバンのように頭を縦に振る。
「で?オメーはどうしたいんだ?」
「どうって……」
「野郎と恋仲になりてェんじゃねーのか?」
「こ、こ、こ恋仲……!」
過剰に反応する鏡華がブブブと振動し始めたのを見て、また土方がため息をついた。
「小学生どころか幼稚園児の方が恋愛耐性ありそうだな……」
そう言うと呆れて何も言えない山崎に代わって、土方が「いいか?」と鏡華の前に顔を突き出した。グイッと近寄ってきた土方に思わず鏡華は後ろに下がった。
「正直な話、テメーの色恋なんざこれっっっっっっぽちも興味ねェ」
「えっ、ひどっ」
「だがな、仕事のパフォーマンスに関係するとなったら話は別だ。仕事の精度が落ちるってんならどうにかしてもらうしかねェ。野郎と恋仲になるなり、キッパリと諦めるなりな。このままの状態だとそうだなァ……クビかもな」
「クッ……!?」
突然のクビ宣告に鏡華の顔に冷や汗が流れる。突き出していた顔を引っこめ、座り直した土方が煙を吐いた。
「それぐらいテメーの今のポンコツっぷりには困ってんだよ。こちとらテメーの腕を買って雇ってんだ。そこがダメになってンなら、切り捨てるしかねーだろーが」
「ぐ、ぐぬぬ……」
鏡華が眉間に皺を寄せて言葉を詰まらせる。土方はその鏡華を一瞥すると、タバコの火を消して立ち上がった。慌てて山崎も立ち上がる。
「……まァ明日はオメー休みだろ。しっかり考えるんだな。調子戻らねェなら……残念だが切る。こっちだって命懸けで仕事してンだ。テメーの色恋に振り回されるような安い命じゃねーんだよ」
「…………ッ」
鋭い眼差しで鏡華を見下ろす土方。彼の正論に鏡華はぐうの音も出ない。鏡華は顔に冷や汗を垂らしながら、土方の目を真っ直ぐ見つめた。
話し終わった土方が部屋を出ようと部屋の襖に手をかけたところで、「あと」と言葉を発し鏡華の方を振り返った。
「これは個人的な考えだが……好きだなんだっていう思いは、ハッキリ相手に伝えるか墓場まで持って行くかの2択だ。テメーがどっち側か知らねェが、せいぜい後悔がねェようにな」
そう言うと土方と山崎は鏡華の部屋から出て行った。一人残された鏡華はソファにもたれ掛け天井を見上げた。そして電子タバコを一息吸うと大きく煙を吐いたのだった。
◇◇
「随分と荒いエールの送り方ですねィ」
土方と山崎が鏡華の部屋を出てすぐ、廊下の角から沖田が2人に声をかけた。陽は落ち、薄暗い中で雨が降り始めている。
「……総悟。いつから居た?」
話しかけられた土方が沖田に視線を移して尋ねる。沖田は土方たちに歩み寄りながら鏡華の私室を親指で差した。
「泉さんが『いっそ殺してくれェ!』って叫んでたところからですかねィ」
「……つまり最初からだな」
ハァと土方がため息をつき、隣にいる山崎が苦笑いをした。タンタンタンと、軽やかな足音を立てて3人が廊下を歩く。少し歩いたところで沖田が土方に話しかけた。
「……いいんですかィ?恋心をどうにかしないとクビだなんて。鬼の副長っぷりにも程がありやせん?泉さんみたいに腕のいい医者なんてそうそういやせんぜ?」
「それぐらい言わねーといけねーだろーが。俺らの命が小学生の恋愛でギャーギャー言う奴に預けられるかよ。ホント、たまったもんじゃねェ」
歩きながら思いっきり悪態をついて土方が答えた。その顔には、本当に迷惑を被っていたのだと感じさせるのに十分なほど疲れが見えている。
「それはそうですが……これで旦那とくっつかなかったらどうすんで?」
「9割9分9厘くっつくだろ」
「ほォ、言い切りましたね。その自信はどこから?」
確固たる自信を持って言い切った土方に驚いた沖田が尋ねた。
「元々野郎は外野が見ても分かるくらい泉に惚れてんだ。今まではアイツが自分の気持ちに気づいてなかったから何も無かったが、アイツが己の気持ちに気づいたらあとの展開ははえーだろーよ。野郎がアイツのことを断るのはねーだろーしな」
―――これだから副長は絶対敵にしたくないんだよなァ……。
土方の話を聞いた山崎が心の中で呟く。監察として土方に仕えていると、この男の洞察力の鋭さに脱帽する。こと人間が無意識に考え・感じていることを察する能力は、超能力と言えるのではないかと感じられるぐらいにはキレッキレである。この能力が長けている土方は、そうして言外に他人を上手くコントロールしていく。
「おぉ、恐ェー。あの荒いエールは泉さんから旦那にけしかけようってことですかィ?そこまで考えてあの人にムチ打ったワケだ。旦那と泉さんは土方さんの手のひらの上で転がされてるんですねィ」
わざとらしく驚く声を出して沖田が自身の頭に手を回す。
「小学生2人の色恋なんざ、手のひらに乗せるまでもねェや」
そう言って土方は足を止めると、新しい煙草に火をつけてフーと煙を吐いた。釣られて沖田と山崎も足を止める。雨は本降りとなってきたようで、ザーッと屋根を強く打ち付けている。
「……これでアイツの人質としての価値が上がる。野郎の事も、万が一あった時に情報を手に入れやすい。一石二鳥だな」
鋭い眼差しでそう呟いた土方。ほんの少し眉をひそめた沖田がため息をついた。
「……情ってヤツを持ち合わせていねーんで?マヨネーズしか持ってねーんじゃねーすか?」
「バカヤロー、俺ほど情が深い人間もいねーよ」
沖田の嫌味にククッと笑みを浮かべて土方が反論する。横にいる山崎は「人質っつったって、副長負けてたくせに……」などと失礼なことを考えていた。
「あと俺らに出来ることは見守るだけだ。上手くいったら盛大にからかってやろう」
土方はそう言うと2人を連れてまた歩き出した。逢魔ヶ刻の雨、屯所の雨樋からは男たちの悪巧みが流れていたのだった。
仕事が終わり、外は雨が降りそうな曇り空。自身の私室に2人を通し、お茶を出してソファに座った鏡華はおもむろに電子タバコを取り出しスパーと吸い始めた。
「で、なんだっけ?私の恋バナだっけ?ははは!聞きたきゃ聞けよォォォ!!もう無理!!マジ無理!!いっそ殺してくれェェェ!!」
「オイィィ!?何投げやりになってんだ!!落ち着け!!とりあえず落ち着いてェェェ!!」
天を仰ぎながらものすごい勢いで電子タバコを吸う鏡華に慌てて山崎がツッコむ。電子タバコを吸いすぎた鏡華はむせてしまい激しく咳き込んだ。
「……先生でもこんなに取り乱すことあるんですねェ……意外でした」
鏡華を呆れた表情で見つめながら山崎が声をかける。だいぶ落ち着いた鏡華が項垂れたまま力なく笑った。
「はは……自分でもこんなにポンコツになるとは思いませんでしたよ……前の職場で切開ミスった時も『あ、やべ』ぐらいで普通に終わらせましたし。こんな……れ、れれれれ恋愛事で取り乱すなんて……医者失格ッ!!」
「だァァァ!!だから落ち着けっての!スイッチでもあるの!?恋バナするとポンコツになるスイッチでもあるの!?」
急に立ち上がり頭を壁にガンガンと打ち付け始めた鏡華を、慌てた山崎が彼女の体を壁から引き剥がす。彼女の対面に座っていた土方が煙をくゆらせてため息をついた。
「泉、とりあえず落ち着け。一から何があったか話せ。フォローできるところはしてやる」
「ひ、土方くん…?」
「先生、副長は上も下も問題児に囲まれ、ことフォローには一家言あるんです。大舟に乗ったつもりで言っちゃいましょう」
山崎が鏡華の肩を抱えながら親指を立てた。
「俺がフォローに一家言あるなんて初耳なんだが……まァ、とりあえず聞かねェと話進まねーからな。早く言え」
そう言ってトントンと携帯灰皿に灰を落とす土方。一方、「はい……」と言って鏡華がソファに座り直し、重い口を開いた。
……といっても、話す内容は先日オバチャンと話した事だけなので、内容はあまりにもペラッペラのペラである。彼女の話を聞いた土方と山崎がポカンと口を開けた。なんなら土方の口からは咥えていた煙草が落ちた。
「……は?それだけ、か?」
「え、待って下さい?てことは旦那と付き合うどころか思いも伝えてもいない、なんなら『好きかも……』って思い始めたって段階ですか?え?待って、マジで待って?それでこの数日仕事ミスりまくってるんですか?」
「…………」
耳を真っ赤にして黙る鏡華。3人の間になんとも言えない時間が流れる。
その静寂を打ち破ったのは山崎の全力のツッコミだった。
「いや小学生かよォォォォォ!!今どきの小学生でも『好きかも?』でこんなにポンコツにならねーよ!アンタ何歳だよアラサーだろーが!恋人いたこと無いんか!?」
「し、失礼な!それなりにあるわい!!」
「だったらこんな初期も初期で耳真っ赤にしないでしょーが!!」
「えっ!?はっ!?」
目を見開いて咄嗟に鏡華が耳を隠す。こんな小学生のような恋愛偏差値の奴に恋人がいた事なんてある訳ない……と山崎と土方はチベスナ顔で鏡華を見つめた。
チベスナ顔の土方が新しくタバコを取りだし火をつけると一際大きく吸い込み、それはそれは大きな煙を吐いた。
「……痴話喧嘩のレベルなら俺もフォロー出来るかと思ってたがよ、痴話喧嘩以前の問題だなこりゃ。ガキすぎて目も当てられねェや」
う……と鏡華が言葉を詰まらせた。土方の隣にいる山崎がヘドバンのように頭を縦に振る。
「で?オメーはどうしたいんだ?」
「どうって……」
「野郎と恋仲になりてェんじゃねーのか?」
「こ、こ、こ恋仲……!」
過剰に反応する鏡華がブブブと振動し始めたのを見て、また土方がため息をついた。
「小学生どころか幼稚園児の方が恋愛耐性ありそうだな……」
そう言うと呆れて何も言えない山崎に代わって、土方が「いいか?」と鏡華の前に顔を突き出した。グイッと近寄ってきた土方に思わず鏡華は後ろに下がった。
「正直な話、テメーの色恋なんざこれっっっっっっぽちも興味ねェ」
「えっ、ひどっ」
「だがな、仕事のパフォーマンスに関係するとなったら話は別だ。仕事の精度が落ちるってんならどうにかしてもらうしかねェ。野郎と恋仲になるなり、キッパリと諦めるなりな。このままの状態だとそうだなァ……クビかもな」
「クッ……!?」
突然のクビ宣告に鏡華の顔に冷や汗が流れる。突き出していた顔を引っこめ、座り直した土方が煙を吐いた。
「それぐらいテメーの今のポンコツっぷりには困ってんだよ。こちとらテメーの腕を買って雇ってんだ。そこがダメになってンなら、切り捨てるしかねーだろーが」
「ぐ、ぐぬぬ……」
鏡華が眉間に皺を寄せて言葉を詰まらせる。土方はその鏡華を一瞥すると、タバコの火を消して立ち上がった。慌てて山崎も立ち上がる。
「……まァ明日はオメー休みだろ。しっかり考えるんだな。調子戻らねェなら……残念だが切る。こっちだって命懸けで仕事してンだ。テメーの色恋に振り回されるような安い命じゃねーんだよ」
「…………ッ」
鋭い眼差しで鏡華を見下ろす土方。彼の正論に鏡華はぐうの音も出ない。鏡華は顔に冷や汗を垂らしながら、土方の目を真っ直ぐ見つめた。
話し終わった土方が部屋を出ようと部屋の襖に手をかけたところで、「あと」と言葉を発し鏡華の方を振り返った。
「これは個人的な考えだが……好きだなんだっていう思いは、ハッキリ相手に伝えるか墓場まで持って行くかの2択だ。テメーがどっち側か知らねェが、せいぜい後悔がねェようにな」
そう言うと土方と山崎は鏡華の部屋から出て行った。一人残された鏡華はソファにもたれ掛け天井を見上げた。そして電子タバコを一息吸うと大きく煙を吐いたのだった。
◇◇
「随分と荒いエールの送り方ですねィ」
土方と山崎が鏡華の部屋を出てすぐ、廊下の角から沖田が2人に声をかけた。陽は落ち、薄暗い中で雨が降り始めている。
「……総悟。いつから居た?」
話しかけられた土方が沖田に視線を移して尋ねる。沖田は土方たちに歩み寄りながら鏡華の私室を親指で差した。
「泉さんが『いっそ殺してくれェ!』って叫んでたところからですかねィ」
「……つまり最初からだな」
ハァと土方がため息をつき、隣にいる山崎が苦笑いをした。タンタンタンと、軽やかな足音を立てて3人が廊下を歩く。少し歩いたところで沖田が土方に話しかけた。
「……いいんですかィ?恋心をどうにかしないとクビだなんて。鬼の副長っぷりにも程がありやせん?泉さんみたいに腕のいい医者なんてそうそういやせんぜ?」
「それぐらい言わねーといけねーだろーが。俺らの命が小学生の恋愛でギャーギャー言う奴に預けられるかよ。ホント、たまったもんじゃねェ」
歩きながら思いっきり悪態をついて土方が答えた。その顔には、本当に迷惑を被っていたのだと感じさせるのに十分なほど疲れが見えている。
「それはそうですが……これで旦那とくっつかなかったらどうすんで?」
「9割9分9厘くっつくだろ」
「ほォ、言い切りましたね。その自信はどこから?」
確固たる自信を持って言い切った土方に驚いた沖田が尋ねた。
「元々野郎は外野が見ても分かるくらい泉に惚れてんだ。今まではアイツが自分の気持ちに気づいてなかったから何も無かったが、アイツが己の気持ちに気づいたらあとの展開ははえーだろーよ。野郎がアイツのことを断るのはねーだろーしな」
―――これだから副長は絶対敵にしたくないんだよなァ……。
土方の話を聞いた山崎が心の中で呟く。監察として土方に仕えていると、この男の洞察力の鋭さに脱帽する。こと人間が無意識に考え・感じていることを察する能力は、超能力と言えるのではないかと感じられるぐらいにはキレッキレである。この能力が長けている土方は、そうして言外に他人を上手くコントロールしていく。
「おぉ、恐ェー。あの荒いエールは泉さんから旦那にけしかけようってことですかィ?そこまで考えてあの人にムチ打ったワケだ。旦那と泉さんは土方さんの手のひらの上で転がされてるんですねィ」
わざとらしく驚く声を出して沖田が自身の頭に手を回す。
「小学生2人の色恋なんざ、手のひらに乗せるまでもねェや」
そう言って土方は足を止めると、新しい煙草に火をつけてフーと煙を吐いた。釣られて沖田と山崎も足を止める。雨は本降りとなってきたようで、ザーッと屋根を強く打ち付けている。
「……これでアイツの人質としての価値が上がる。野郎の事も、万が一あった時に情報を手に入れやすい。一石二鳥だな」
鋭い眼差しでそう呟いた土方。ほんの少し眉をひそめた沖田がため息をついた。
「……情ってヤツを持ち合わせていねーんで?マヨネーズしか持ってねーんじゃねーすか?」
「バカヤロー、俺ほど情が深い人間もいねーよ」
沖田の嫌味にククッと笑みを浮かべて土方が反論する。横にいる山崎は「人質っつったって、副長負けてたくせに……」などと失礼なことを考えていた。
「あと俺らに出来ることは見守るだけだ。上手くいったら盛大にからかってやろう」
土方はそう言うと2人を連れてまた歩き出した。逢魔ヶ刻の雨、屯所の雨樋からは男たちの悪巧みが流れていたのだった。
