#13 箸の使い方は育ちが出るから気をつけろ
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◇◇
「アレだよ!砂糖とお酒入れて煮て食べるんだよ!そのカボチャ!」
「しつけーな何回同じこと言うんだよ!!」
「大きい声出すんじゃないのォ!!アンタはもう人のアゲ足ばっかりとってェェ!!」
騒動があった次の日の夜、万事屋の玄関でやかましいやりとりが行われていた。田舎に帰ろうと万事屋を出る前のオバチャンと銀時たちである。そしてそこには「お裾分けするから来なさい」と呼ばれた鏡華も居た。
「オバチャン、そろそろ電車の時間来るから行かないと」
「アリャ、もうそんな時間かい。アレだよ!あんま煮すぎてもダメだよ!グズグズになるから!適度に!」
「しつけーな何回同じ事言うんだよ!!」
「大きい声出すんじゃないのォ!!アンタはもう人のアゲ足ばっかりとってェェ!!」
なおもコントのようなやりとりをする彼らにチベスナ顔になる鏡華。その手にはカボチャの煮物が入ったタッパーと、調理前のカボチャが入った袋が握られている。
「アレだよ!よくかんで食べるんだよ!!」
「しつけーな何回同じ事言うんだよ!!」
「コレはまだ一回目だよ!だまされないよ私ゃ!」
「オバチャンもういいから早く行こ?私の方がソワソワしてきてるから」
時間が気になる鏡華が携帯で時間を確認する。オバチャンが「ハイハイ」と言って草履を履いた。
「それじゃ私行くけど、私行ったらちゃんとカギ閉めんだよ!最近物騒だから!!」
「しつけーな!もういいから早くいけよ!」
「あばよオバはんいい夢みろヨ」
「オメーもなクソガキ!」
優しいような優しくないような言葉の応酬に、思わず笑ってしまった鏡華に銀時が声をかける。
「ワリーな、ババアの見送りさせちまってよ」
「それは別にいいんだけど、時間気になるから早く行きたいんだよ。いつまでもコントしやがって」
「おねーちゃんゴメンねェ。それじゃあね」
オバチャンが銀時たちに別れを告げて鏡華と万事屋を出ようとした時、「あのっ……お母さん……」と新八が呼び止めた。
「あのっ……結局……力になれなくて……すいませんでした」
申し訳なさそうに謝る新八に、ニタとオバチャンが微笑む。
「何言ってんのさ。会わしてくれたじゃないの」
◇◇
場所は変わり、街の灯りが煌々と煌めくかぶき町のメイン通り。その一角にある《高天原》でかぶき町No.1ホストの狂死郎が、いつもと変わらず女性にお酒とトークを振る舞っていた。その様子を八郎とボーイが眺める。
「いつもと変わらないな狂死郎さん」
「きいたかアレ、結局名乗らなかったって」
「私はまだ胸を張って母に会える程立派な人間じゃないってさ。あの人は恥ずべきことなんて何もしちゃいないのに。オラは知ってるよ。あの人がどれだけキレイな心持ってるか。ずっと隣で見てきたから……」
長く支え合ってきた八郎が、狂死郎を見つめながらボーイに話す。すると入口の方から別のボーイが八郎の元へと走ってきた。
「八郎さんコレ、ちょっと表に変なモノが置いてあったんですけど」
ボーイの手の中には四角いお重の様な箱があった。
「狂死郎さんったらァ〜」
狂死郎を囲む女性たちが猫なで声で、彼の気を引こうと呼びかける。そのテーブルに八郎が「お待たせしました」と先程ボーイが渡してきた箱を置いた。
「……何コレ……煮物?」
「ちょっとォ、こんなもん頼んでないわよ!ちょ……何笑ってんの?」
八郎が微笑む理由はその箱の中身である。中にはカボチャの煮物が入っていたのだ。何故かぼちゃの煮物が出てきたのか分からない女性たちが、次々と不満を口にする。
「何なの?何なのコレ、カボチャ?」
「こんなダッセーもん誰頼んだの?もしかして狂死郎さん?」
「んなワケないじゃん。狂死郎さんがこんなイモいもん食べるワケないでしょ」
女性たちがガヤガヤと騒ぐ中、狂死郎がお重の下にある手紙に気づいたのだった。
◇◇
「本当によかったの?八郎さんにちゃんと会わなくて」
少し時間は戻り、鏡華とオバチャンは駅へと向かう道を歩いていた。途中《高天原》に寄り、煮物が入ったお重と手紙を置いて来たのだ。鏡華の問いかけに「いいのよォ」とオバチャンが答えた。
「あの子も忙しいだろうからね。仕事の邪魔しちゃ悪いしさ」
「……ていうか、オバチャンいつから狂死郎さんが息子さんって気づいてたの?」
鏡華がオバチャンに尋ねる。狂死郎は何回も整形を重ねて、一般人がみたら分からないぐらいかつての面影はない。溝鼠組に捕まり次郎長が狂死郎の正体を教えた時も、オバチャンは既に目と耳を拘束されとても知れる状態ではなかった。それでもオバチャンは狂死郎が自分の息子だと分かったのである。その事が鏡華は不思議だった。
「いつからって言われたら、店で煮豆食べさせた時さね。あの子、箸の使い方は悪いしものを食べる時はクチャクチャ言わすしでほんと気になってねェ。直しなさいって言ってたんだけど、とうとう直らなかったねェ」
そう言ってハァとオバチャンがため息をついた。予想外の答えに鏡華は驚き目を見開いた。
「すげー。あの時そんなこと感じなかったけど……顔も姿も全然違うのに分かるんだ?」
「そりゃ分かるよ。母親だもの。特に昔からやってる子供の癖ってはよく覚えてるモンさ」
ヘェ、と鏡華が感心した声を出す。母が居ない自分にも、もし母がいたらこんなことを言うのだろうかと、狂死郎を少し羨ましく思った。
「おねーちゃんもそのうち子供ができたら分かるよ。母親ってのは血と魂の繋がりで子供を育てあげるんだ。癖を覚えてるなんて朝飯前にも程があるさね。だからたとえ子供が母親 に会わないって連絡を断ったって、顔が変わったり姿が変わったりしたって、無理にでも母親は会いに行って無事を確認するんだ。もししんどい思いをしてたら助けなきゃいけない。親は誰よりも子供の味方でいなきゃいけないからね。それで何も無くて、無事が確認できたならちゃんと会えなくてもそれでいいの。元気でやってたらそれでいい」
落ち着いた口調でしっかりと話すオバチャンと、その言葉に面食らう鏡華。正直オバチャンの言葉の真意はよく分かっていない。子供もいなければ母も居ないからだ。もし自分に子供がいればこんな言葉を言えるのだろうかと、鏡華は耳を触った。
「……会えなくても無事でいればいいって、オバチャン人間できすぎてるよ。すごいね」
「まァ正直なところ、会ったら説教ばっかりになってしまいそうだったからね。文字でサラッと言っちゃう方がちゃんと言えると思ったんだよ」
そう言ってアハハと笑うオバチャンに、なんだそりゃと肩をガクッと落とす鏡華。「おねーちゃんもさ」とオバチャンが話を続ける。
「銀さんなかなか面倒くさそうな男だけど、筋は通ってるよ。いい男見つけたねェ」
「だからアイツはダチだって何回言えば……」
変わらず銀時の彼女と言ってくるオバチャンに鏡華がため息をつく。「そうかい?」とオバチャンが目を丸くした。
「銀さんのあの感じ、友達以上なもんがしたけどねェ。勘だけど。私ゃ韓ドラで鍛えてるからね、勘はいいんだよ」
「オバチャンその勘外れてるよ。アイツが私のこと好きになるワケない。ただの幼なじみだし」
「そんな事ないよォ。アンタは良い女だしねェ。オバチャンが言うんだから間違いないよ」
オバチャンの言葉に、「良い女、か」と鏡華が笑う。
「じゃあもし私とアイツが結婚したらオバチャンが煮物作ってね」
「もちろんよォ!煮物どころか赤飯も炊いてあげるわ。ていうかおねーちゃん、そんなこと言うなんてアンタやっぱり銀さんのこと好きなんだね?」
「へ」
自分から予想外の言葉が出たことと、オバチャンに確認されたことに思わずフリーズして歩みを止める鏡華。脳内が急にフル回転をはじめた。
―――待って私なんて言った?結婚?は?私、銀時のこと好きなの?え?結婚って言葉が出るくらい?へ?待って、私銀時と結婚したいって思ってるってこと?は?付き合ってもないのに?いやいやいや、顔と声はタイプだよ?でも、タイプなだけで好きって……いや待って、好きって何?
「アレ、もしかして気づいてなかったの?アンタ、銀さんのこと友達以上の目で見てる感じしてたよ?韓ドラでよく見る目だったねェ」
「待って、そんな分かりやすく!?てか韓ドラそんな万能じゃねーから!」
そうかねェ、とオバチャンが間延びした声を出す。鏡華の耳が一気に赤くなり熱を帯びる。彼女は今、こんな時に気づいてしまったのだ。自分が、銀時を好きかもしれないという事に。
「わ、私の話はいいからオバチャン早く駅行くよ!ほら電車間に合わない!」
と、話をごまかして鏡華はオバチャンの手を握り走り出した。夜空に浮かぶ月とオバチャンだけが、鏡華の耳だけでなく全身が真っ赤に染め上がったのを知っているのだった。
14話へ続く
「アレだよ!砂糖とお酒入れて煮て食べるんだよ!そのカボチャ!」
「しつけーな何回同じこと言うんだよ!!」
「大きい声出すんじゃないのォ!!アンタはもう人のアゲ足ばっかりとってェェ!!」
騒動があった次の日の夜、万事屋の玄関でやかましいやりとりが行われていた。田舎に帰ろうと万事屋を出る前のオバチャンと銀時たちである。そしてそこには「お裾分けするから来なさい」と呼ばれた鏡華も居た。
「オバチャン、そろそろ電車の時間来るから行かないと」
「アリャ、もうそんな時間かい。アレだよ!あんま煮すぎてもダメだよ!グズグズになるから!適度に!」
「しつけーな何回同じ事言うんだよ!!」
「大きい声出すんじゃないのォ!!アンタはもう人のアゲ足ばっかりとってェェ!!」
なおもコントのようなやりとりをする彼らにチベスナ顔になる鏡華。その手にはカボチャの煮物が入ったタッパーと、調理前のカボチャが入った袋が握られている。
「アレだよ!よくかんで食べるんだよ!!」
「しつけーな何回同じ事言うんだよ!!」
「コレはまだ一回目だよ!だまされないよ私ゃ!」
「オバチャンもういいから早く行こ?私の方がソワソワしてきてるから」
時間が気になる鏡華が携帯で時間を確認する。オバチャンが「ハイハイ」と言って草履を履いた。
「それじゃ私行くけど、私行ったらちゃんとカギ閉めんだよ!最近物騒だから!!」
「しつけーな!もういいから早くいけよ!」
「あばよオバはんいい夢みろヨ」
「オメーもなクソガキ!」
優しいような優しくないような言葉の応酬に、思わず笑ってしまった鏡華に銀時が声をかける。
「ワリーな、ババアの見送りさせちまってよ」
「それは別にいいんだけど、時間気になるから早く行きたいんだよ。いつまでもコントしやがって」
「おねーちゃんゴメンねェ。それじゃあね」
オバチャンが銀時たちに別れを告げて鏡華と万事屋を出ようとした時、「あのっ……お母さん……」と新八が呼び止めた。
「あのっ……結局……力になれなくて……すいませんでした」
申し訳なさそうに謝る新八に、ニタとオバチャンが微笑む。
「何言ってんのさ。会わしてくれたじゃないの」
◇◇
場所は変わり、街の灯りが煌々と煌めくかぶき町のメイン通り。その一角にある《高天原》でかぶき町No.1ホストの狂死郎が、いつもと変わらず女性にお酒とトークを振る舞っていた。その様子を八郎とボーイが眺める。
「いつもと変わらないな狂死郎さん」
「きいたかアレ、結局名乗らなかったって」
「私はまだ胸を張って母に会える程立派な人間じゃないってさ。あの人は恥ずべきことなんて何もしちゃいないのに。オラは知ってるよ。あの人がどれだけキレイな心持ってるか。ずっと隣で見てきたから……」
長く支え合ってきた八郎が、狂死郎を見つめながらボーイに話す。すると入口の方から別のボーイが八郎の元へと走ってきた。
「八郎さんコレ、ちょっと表に変なモノが置いてあったんですけど」
ボーイの手の中には四角いお重の様な箱があった。
「狂死郎さんったらァ〜」
狂死郎を囲む女性たちが猫なで声で、彼の気を引こうと呼びかける。そのテーブルに八郎が「お待たせしました」と先程ボーイが渡してきた箱を置いた。
「……何コレ……煮物?」
「ちょっとォ、こんなもん頼んでないわよ!ちょ……何笑ってんの?」
八郎が微笑む理由はその箱の中身である。中にはカボチャの煮物が入っていたのだ。何故かぼちゃの煮物が出てきたのか分からない女性たちが、次々と不満を口にする。
「何なの?何なのコレ、カボチャ?」
「こんなダッセーもん誰頼んだの?もしかして狂死郎さん?」
「んなワケないじゃん。狂死郎さんがこんなイモいもん食べるワケないでしょ」
女性たちがガヤガヤと騒ぐ中、狂死郎がお重の下にある手紙に気づいたのだった。
◇◇
「本当によかったの?八郎さんにちゃんと会わなくて」
少し時間は戻り、鏡華とオバチャンは駅へと向かう道を歩いていた。途中《高天原》に寄り、煮物が入ったお重と手紙を置いて来たのだ。鏡華の問いかけに「いいのよォ」とオバチャンが答えた。
「あの子も忙しいだろうからね。仕事の邪魔しちゃ悪いしさ」
「……ていうか、オバチャンいつから狂死郎さんが息子さんって気づいてたの?」
鏡華がオバチャンに尋ねる。狂死郎は何回も整形を重ねて、一般人がみたら分からないぐらいかつての面影はない。溝鼠組に捕まり次郎長が狂死郎の正体を教えた時も、オバチャンは既に目と耳を拘束されとても知れる状態ではなかった。それでもオバチャンは狂死郎が自分の息子だと分かったのである。その事が鏡華は不思議だった。
「いつからって言われたら、店で煮豆食べさせた時さね。あの子、箸の使い方は悪いしものを食べる時はクチャクチャ言わすしでほんと気になってねェ。直しなさいって言ってたんだけど、とうとう直らなかったねェ」
そう言ってハァとオバチャンがため息をついた。予想外の答えに鏡華は驚き目を見開いた。
「すげー。あの時そんなこと感じなかったけど……顔も姿も全然違うのに分かるんだ?」
「そりゃ分かるよ。母親だもの。特に昔からやってる子供の癖ってはよく覚えてるモンさ」
ヘェ、と鏡華が感心した声を出す。母が居ない自分にも、もし母がいたらこんなことを言うのだろうかと、狂死郎を少し羨ましく思った。
「おねーちゃんもそのうち子供ができたら分かるよ。母親ってのは血と魂の繋がりで子供を育てあげるんだ。癖を覚えてるなんて朝飯前にも程があるさね。だからたとえ子供が
落ち着いた口調でしっかりと話すオバチャンと、その言葉に面食らう鏡華。正直オバチャンの言葉の真意はよく分かっていない。子供もいなければ母も居ないからだ。もし自分に子供がいればこんな言葉を言えるのだろうかと、鏡華は耳を触った。
「……会えなくても無事でいればいいって、オバチャン人間できすぎてるよ。すごいね」
「まァ正直なところ、会ったら説教ばっかりになってしまいそうだったからね。文字でサラッと言っちゃう方がちゃんと言えると思ったんだよ」
そう言ってアハハと笑うオバチャンに、なんだそりゃと肩をガクッと落とす鏡華。「おねーちゃんもさ」とオバチャンが話を続ける。
「銀さんなかなか面倒くさそうな男だけど、筋は通ってるよ。いい男見つけたねェ」
「だからアイツはダチだって何回言えば……」
変わらず銀時の彼女と言ってくるオバチャンに鏡華がため息をつく。「そうかい?」とオバチャンが目を丸くした。
「銀さんのあの感じ、友達以上なもんがしたけどねェ。勘だけど。私ゃ韓ドラで鍛えてるからね、勘はいいんだよ」
「オバチャンその勘外れてるよ。アイツが私のこと好きになるワケない。ただの幼なじみだし」
「そんな事ないよォ。アンタは良い女だしねェ。オバチャンが言うんだから間違いないよ」
オバチャンの言葉に、「良い女、か」と鏡華が笑う。
「じゃあもし私とアイツが結婚したらオバチャンが煮物作ってね」
「もちろんよォ!煮物どころか赤飯も炊いてあげるわ。ていうかおねーちゃん、そんなこと言うなんてアンタやっぱり銀さんのこと好きなんだね?」
「へ」
自分から予想外の言葉が出たことと、オバチャンに確認されたことに思わずフリーズして歩みを止める鏡華。脳内が急にフル回転をはじめた。
―――待って私なんて言った?結婚?は?私、銀時のこと好きなの?え?結婚って言葉が出るくらい?へ?待って、私銀時と結婚したいって思ってるってこと?は?付き合ってもないのに?いやいやいや、顔と声はタイプだよ?でも、タイプなだけで好きって……いや待って、好きって何?
「アレ、もしかして気づいてなかったの?アンタ、銀さんのこと友達以上の目で見てる感じしてたよ?韓ドラでよく見る目だったねェ」
「待って、そんな分かりやすく!?てか韓ドラそんな万能じゃねーから!」
そうかねェ、とオバチャンが間延びした声を出す。鏡華の耳が一気に赤くなり熱を帯びる。彼女は今、こんな時に気づいてしまったのだ。自分が、銀時を好きかもしれないという事に。
「わ、私の話はいいからオバチャン早く駅行くよ!ほら電車間に合わない!」
と、話をごまかして鏡華はオバチャンの手を握り走り出した。夜空に浮かぶ月とオバチャンだけが、鏡華の耳だけでなく全身が真っ赤に染め上がったのを知っているのだった。
14話へ続く
