#13 箸の使い方は育ちが出るから気をつけろ
空欄の場合「鏡華」になります。
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「……なんやどっかで見たツラや思うとったら、ほーかィ。あの兄ちゃんお登勢んトコの」
うつ伏せになって愛犬の出産を見守りる勝男がそう呟いた。隣で銀時の話をした舎弟がコクンと頷く。
「万事屋なんたらいう、なんでも屋やっとる胡散臭い浪人なんですがね、化け物みたいにごっつ強い男いう話ですねん。お登勢のババアも、なんや街でモメ事起こると首つっこんで節介焼いとるでしょ。仲間も多いが敵も多い。ほでも、あの男がババアの隣で目ェ光らしてるさかい、誰も手が出せんいうワケです」
「狂死郎の奴、わしらに対抗するためにアレ雇ったいうこっちゃな」
愛犬と産まれたての子犬たちを見守りながら物騒な話をする勝男と舎弟たち。勝男の愛犬・メルは、飼い主たちが帰ってきて安心しているようだ。
メルと子犬たちを見つめながら、男たちがなおも話を続ける。
「かぶき町四天王とモメんのは厄介ですぜアニキ。ほれにあのババア、うちのオジキがホレてるききましたで」
「そら昔の話やろ。わしゃなんや回覧板回すの遅れてモメて、十年以上口きいとらんききましたで。あっ!!アニキ今この子のしぐさ見ました!?まるでぬいぐるみみたいやァァァ!!」
「デカイ声出すなゆーたやろォォ!!メルちゃんは今一番デリケートな時期なんやでェェ!!」
大声を出した舎弟に、勝男が声を荒げながらスパンといい音で頭を叩いた。
「アニキィィ!!コレ!見て下さい!メルちゃんが……」
「オイオイなんやもう一匹出てきたでェ!四匹目やァァ!!」
別の舎弟がメルを指差す。新たな子犬の誕生に男たちのテンションがさらに上がるが、一人が異変に気づいた。
「アニキ、ほでもこの子、息しとりまへんで!!」
「なんやコレオイ、何?どないしたらエエねん、オイ」
まさかの展開にオロオロとし出す男たち。そこに予想外の人物が現れた。
「男がうろたえてんじゃないのォォ!!」
「ぶべら!!」
八郎の母ちゃん、通称オバチャンである。オバチャンは狼狽える勝男に平手打ちをお見舞いした。勝男は某世紀末漫画のモブのような声を出してその場に倒れた。
「アンタがしっかりしないで誰がこの子支えるんだィ!こんな時こそ男はどっしり構えないとダメでしょーが!!」
「す……すまん」
「ちょっとアンタ、乾いた清潔な布巾持ってきな!」
「へい!!」
オバチャンの勢いにタジタジになる勝男とその舎弟たち。オバチャンは舎弟が持ってきた布巾で息をしていない子犬を包むと、上下にフンフンと振り出した。
「オバはん!どないやねん、助かるんか?メルちゃんの子、助かるんか?」
「大丈夫だよ子猫ちゃん、いざとなれば私も手伝うよ☆」
「そうか、そら安心やわ」
オバチャンと子犬を固唾を飲んで見守る勝男たちと鏡華。オバチャンが子犬を振り続け、そして「クゥーン、クゥーン」と子犬が小さく鳴いた。
「うおしゃァァァ!!鳴いたでェェェ!!息吹き返しよったァ!!」
「奇跡じゃあ!!ミラクルじゃあ!!」
ワァアとお祭りのように喜ぶ勝男たち。勝男に至っては号泣して喜んでいる。
「オバはんありがとう、ホンマありがとう」
「いいんだよ、大事にしてやんだよ」
勝男とオバチャンがガシッと握手を交わす。その様子を微笑みながらウンウンと頷く鏡華。ふと勝男の涙が止まった。よくよく考えるとおかしな状況である。
「…………オバはん、なんでこんなトコおんねん?お前も……なんでおんねや?」
オバチャンの手を握りながら勝男がオバチャンと鏡華に尋ねる。
「出産だのなんだの言ってたからさ、こういう時は母ちゃんがいないと始まらんだろ」
「私も出産と聞いて医者が必要だと思って」
しれっとした顔で答えるオバチャンと鏡華。勝男は「あっ、そーかそーか」と言った直後、鬼の形相に変わった。
「……そーかちゃうわァァ!!なんやねん!まずお前は医者ちゃうやろーが!ホストやろが!そんでお前は誰やねんオバはん!」
「母ちゃん。八郎の母ちゃんだよ」
勝男のツッコミにも怯まずハッキリと答えるオバチャン。八郎の名を聞き、舎弟たちがザワザワとしだした。
「八郎って……あの八郎か?」
「黒板八郎だよ」
「?黒板八郎……」
「黒板八郎……聞いた名やないけ」
オバチャンと勝男たちがザワついていると、オバチャンの息子を知る人物が現れた。
「オジキ」
勝男と舎弟たちが一斉に頭を下げる。勝男たちの態度が変わったのを見て、鏡華がその人物を警戒し始めた。
……浅黒い肌に灰色の髪、キセルをふかす顔にはいくつか刀傷がある男。かぶき町四天王の一人、溝鼠組組長――『大侠客』泥水次郎長である。
「アンタ!八郎を知っているのかい!?あの子はどこにいるんだい!?」
「ちょっ、オバはん騒ぐなや」
オバチャンが次郎長に詰め寄り問い質す。慌てて舎弟たちがオバチャンを引き剥がした。
「ちょっと!離しなさいよ!八郎がどこにいるか聞かなきゃなんだよ!アンタ!八郎はどこにいるんだい!!」
舎弟たちに押さえつけられて暴れるオバチャンに勝男がキレた。
「あーもうー!うっさいわァァ!オイ!ちょっとオバはん縛っとけ!」
「へい!!」
勝男が舎弟たちにオバチャンを縛るように命令した。舎弟たちが縄でオバチャンを縛り上げようとしたその時。
「ぐぁあ!」
オバチャンを取り囲んでいた舎弟たちが放射状に吹っ飛んだ。勝男と次郎長がオバチャンを見る。そこには、オバチャンを守るように鏡華が立っていた。
「おーおー、寄ってたかって女性を縛り上げようっての。男の風上にも置けないねェ」
さっきまでのホストモードの口調は無くなり、いつもの鏡華の口調に戻った。吹っ飛ばされた舎弟たちが、青筋を浮かびあがらせながら立ち上がった。
「こンの……!」
男たちが一斉に殴りかかった。鏡華はその攻撃をいなし、確実に鳩尾に一発ずつ拳と蹴りを入れていく。「ぐッ!」と男たちが声を上げながら次々と倒れていき、10人近くの舎弟を倒した鏡華が勝男たちの方に視線を移した。
「……ホスト、お前何モンや」
「あん?全ての女性の味方だが?」
顎を上げ勝男を見下すように返事をする鏡華。一連の流れを見ていた次郎長がクックッ、と笑った。
「……エラい元気なネェちゃんが来やがったな」
「はァ!?女ァ!?」
勝男が本気で驚いた声を出した。雑な男装なのに気づかれていなかったことに鏡華はカチンときて拳を握った。
「いや気づいて無かったんかいィィ!こんなに分かりやすいのに!」
「いやいやお前胸な……ぶべ!」
鏡華の拳が勝男の顔面に突き刺さった。勝男は鼻血を流しながらその場に倒れた。
「これはちげーよ、あの、スーツ着るのに潰してんだよ、うん、ちゃんとそれなりにあるわ、うん、そう」
「胸あるって言うのに必死やないか!!」
鼻から血が出るのを抑えながら勝男がツッコむ。鏡華の後ろにいるオバチャンもようやく鏡華だということに気づいた。
「アンタ……銀さんの彼女さん!」
「ちげーから!ダチね!ダチ!!」
食い気味で鏡華が訂正する。一方倒れていた勝男がフンッと鼻から血を出し、よろりと立ち上がった。
「……ほォ。あの兄ちゃんの仲間ってワケやな?そんじゃあ、わしらの敵っちゅー事や」
「別に敵とか味方とかそんなんじゃねーよ。私はただ、息子に会いたい母ちゃんの手伝いに呼ばれただけよ」
ニッと笑いながら鏡華が話す。勝男もクク、と笑った。
「……そんだけでヤクザに手ェ出すとはなァ……酔狂なネェちゃんやで」
勝男がドスを構えた。鏡華もスッと拳を前に出して構える。
「ってコトで黒板八郎君のこと教えてくんない?親分さん知ってるらしいじゃん?」
「……」
2人のやりとりを煙をふかしながら余裕綽々と見ていた次郎長。拳を構える鏡華だが、彼の出す雰囲気に迂闊に手が出せない。鏡華がゴクリと唾を飲み込んだ。
「キャッ!!」
「!?オバチャン!?」
突然オバチャンの茶色い悲鳴が上がった。鏡華が急いで振り向くと、いつの間にか起き上がっていた舎弟たちにオバチャンが捕まっている。
アレよアレよという間に、オバチャンは縄とガムテープでぐるぐる巻きにされた。体だけでなく、鼻以外ぐるぐる巻きにされてしまったオバチャンが「んー!んーー!!」と必死に声を出そうとするが言葉にできない。勝男がほっとしたように大きく息を吐いた。
「やっとオバはん静かにできたわ〜。次はネェちゃんの番やな。大人しくしてもらわんと、オバはん
がどうなるか……分かるな?」
「ぐ……」
鏡華を持ってしても、オバチャンを人質に取られてしまっては手が出せない。鏡華はため息をつきながら両手を上げた。
直ぐに後ろで両手を縛られた上に、腕ごと体をぐるぐる巻きにされる鏡華。勝男がドスを収めてフーと息を吐いた。
「そうそう、大人しゅうしといてな。ヤクザかて女子供に手荒な真似はそんなしたないねん。まァこっちはボコスカやられたけどな。平和が一番や。な?」
「……ケッ」
眉間に皺を寄せて悪態を吐く鏡華。オバチャンと鏡華が舎弟たちに捕まえられたのを確認して、勝男が次郎長の方を向いた。
「すんまへんオジキ、待たせました。そんで黒板八郎って誰なんで?」
勝男の質問に次郎長が煙をくゆらせ、ニッ笑みを浮かべながら勝男を見た。
「勝男、おめェ知らねェのか。おめェが今相手してる奴だってェのに」
「は?……もしかして」
次郎長の言葉に勝男が細い目を見開く。
「そういうこった。分かったらヤクさばいとけよ」
次郎長はそう言うとキセルをふかしながらその場を後にした。一緒に話を聞いていた鏡華がフゥと息を吐いた。
「……やっぱりねェ」
「なんやネェちゃん、気づいとったんか」
「これでも医者なんでねェ。整形は専門外だけど、まァ分かるもんよ」
八郎の正体に確信を持った鏡華がオバチャンを見ながらそう話す。勝男が感心した声を出した。
「ほんまに医者やったんかい。……じゃあ、わしらはお前ら人質にして八郎呼ぶさかい。気ィ悪くせんでな」
そう言って勝男が携帯電話を取り出した。縛られた鏡華とオバチャンは舎弟たちに連れられ、壁を背にして座らされた。
「はー外道外道」
「いくらでも言ったらええ。オイ、アイツの電話番号なんや?」
呆れ顔で勝男に吐き捨てる鏡華とそれを軽く躱す勝男。勝男は舎弟に狂死郎の電話番号を聞くと、番号を打ち込み通話ボタンを押した。
数コールなった後、『はい』と狂死郎の声が電話口から聞こえた。
「もしもし狂死郎はん?勝男ですけどォ、まいど」
煽るように声に余裕を含ませながら勝男が話し始めた。舎弟たちが勝男に気を取られている間に、鏡華がバレないように、尻ポケットに入れてた携帯に手を伸ばし《高天原》の電話番号を押した。数コール後、微かにガチャと電話をとる音が聞こえた。
「……なんや、八郎の母ちゃんです八郎の母ちゃんです騒ぎよってな、コレどないしたらエエねん。こっちで勝手に処理してもええか?問題あるんやったらすぐに引き取りにきてや。グズグズしとったらわしら何するかわからんよって。ほなな、黒板八郎はん」
勝男はそう言い終わると通話を終わらせた。それに合わせて鏡華も通話終了ボタンを押した。
―――なんとか銀時たちに伝わりますように……
そう思いながら尻ポケットに携帯を戻した鏡華であった。
◇◇
時間は少し遡り、夜の街で銀時たちが八郎から狂死郎の正体を聞いたところに戻る。勝男たちが店を出てオバチャンと鏡華が居ないと分かったあと、狂死郎も店を出ていき行方が分からなくなっていた。3人を探すため、万事屋3人組と八郎らホストたちが夜の街を走り回っていたのである。
「万事屋さん!」
「八郎!狂死郎見つかったアルか!?」
店の方角から、八郎が銀時たちの元に駆け寄る。ハァハァと息を切らしながら八郎が口を開いた。
「今、店に電話があって……黒駒の勝男と狂死郎さんが会う場所が分かりました!街外れの建設途中の倉庫に行くみたいです!」
「……そーかい。行くぞオメーら」
銀時が短く返事をし、新八たちと一緒に走り出す。真っ直ぐ前を向いて走る銀時に新八が声をかけた。
「……そこに泉さんもいますかね」
「……多分な」
銀時の表情は変わらないが、目が静かに燃えている。口には出していないが、鏡華の事が心配なのだろうと新八は察した。
「お母さんも泉さんも無事ですよ、きっと」
「あぁ……心配はしてねェよ。そんなヤワな奴じゃねェからな、アイツは。ヤクザもんなんかにやられねーよ」
口ではそう言うが、目は明らかに心配の色を宿している。こんな時でも素直じゃないなァ……と新八と神楽は少し呆れたのだった。
うつ伏せになって愛犬の出産を見守りる勝男がそう呟いた。隣で銀時の話をした舎弟がコクンと頷く。
「万事屋なんたらいう、なんでも屋やっとる胡散臭い浪人なんですがね、化け物みたいにごっつ強い男いう話ですねん。お登勢のババアも、なんや街でモメ事起こると首つっこんで節介焼いとるでしょ。仲間も多いが敵も多い。ほでも、あの男がババアの隣で目ェ光らしてるさかい、誰も手が出せんいうワケです」
「狂死郎の奴、わしらに対抗するためにアレ雇ったいうこっちゃな」
愛犬と産まれたての子犬たちを見守りながら物騒な話をする勝男と舎弟たち。勝男の愛犬・メルは、飼い主たちが帰ってきて安心しているようだ。
メルと子犬たちを見つめながら、男たちがなおも話を続ける。
「かぶき町四天王とモメんのは厄介ですぜアニキ。ほれにあのババア、うちのオジキがホレてるききましたで」
「そら昔の話やろ。わしゃなんや回覧板回すの遅れてモメて、十年以上口きいとらんききましたで。あっ!!アニキ今この子のしぐさ見ました!?まるでぬいぐるみみたいやァァァ!!」
「デカイ声出すなゆーたやろォォ!!メルちゃんは今一番デリケートな時期なんやでェェ!!」
大声を出した舎弟に、勝男が声を荒げながらスパンといい音で頭を叩いた。
「アニキィィ!!コレ!見て下さい!メルちゃんが……」
「オイオイなんやもう一匹出てきたでェ!四匹目やァァ!!」
別の舎弟がメルを指差す。新たな子犬の誕生に男たちのテンションがさらに上がるが、一人が異変に気づいた。
「アニキ、ほでもこの子、息しとりまへんで!!」
「なんやコレオイ、何?どないしたらエエねん、オイ」
まさかの展開にオロオロとし出す男たち。そこに予想外の人物が現れた。
「男がうろたえてんじゃないのォォ!!」
「ぶべら!!」
八郎の母ちゃん、通称オバチャンである。オバチャンは狼狽える勝男に平手打ちをお見舞いした。勝男は某世紀末漫画のモブのような声を出してその場に倒れた。
「アンタがしっかりしないで誰がこの子支えるんだィ!こんな時こそ男はどっしり構えないとダメでしょーが!!」
「す……すまん」
「ちょっとアンタ、乾いた清潔な布巾持ってきな!」
「へい!!」
オバチャンの勢いにタジタジになる勝男とその舎弟たち。オバチャンは舎弟が持ってきた布巾で息をしていない子犬を包むと、上下にフンフンと振り出した。
「オバはん!どないやねん、助かるんか?メルちゃんの子、助かるんか?」
「大丈夫だよ子猫ちゃん、いざとなれば私も手伝うよ☆」
「そうか、そら安心やわ」
オバチャンと子犬を固唾を飲んで見守る勝男たちと鏡華。オバチャンが子犬を振り続け、そして「クゥーン、クゥーン」と子犬が小さく鳴いた。
「うおしゃァァァ!!鳴いたでェェェ!!息吹き返しよったァ!!」
「奇跡じゃあ!!ミラクルじゃあ!!」
ワァアとお祭りのように喜ぶ勝男たち。勝男に至っては号泣して喜んでいる。
「オバはんありがとう、ホンマありがとう」
「いいんだよ、大事にしてやんだよ」
勝男とオバチャンがガシッと握手を交わす。その様子を微笑みながらウンウンと頷く鏡華。ふと勝男の涙が止まった。よくよく考えるとおかしな状況である。
「…………オバはん、なんでこんなトコおんねん?お前も……なんでおんねや?」
オバチャンの手を握りながら勝男がオバチャンと鏡華に尋ねる。
「出産だのなんだの言ってたからさ、こういう時は母ちゃんがいないと始まらんだろ」
「私も出産と聞いて医者が必要だと思って」
しれっとした顔で答えるオバチャンと鏡華。勝男は「あっ、そーかそーか」と言った直後、鬼の形相に変わった。
「……そーかちゃうわァァ!!なんやねん!まずお前は医者ちゃうやろーが!ホストやろが!そんでお前は誰やねんオバはん!」
「母ちゃん。八郎の母ちゃんだよ」
勝男のツッコミにも怯まずハッキリと答えるオバチャン。八郎の名を聞き、舎弟たちがザワザワとしだした。
「八郎って……あの八郎か?」
「黒板八郎だよ」
「?黒板八郎……」
「黒板八郎……聞いた名やないけ」
オバチャンと勝男たちがザワついていると、オバチャンの息子を知る人物が現れた。
「オジキ」
勝男と舎弟たちが一斉に頭を下げる。勝男たちの態度が変わったのを見て、鏡華がその人物を警戒し始めた。
……浅黒い肌に灰色の髪、キセルをふかす顔にはいくつか刀傷がある男。かぶき町四天王の一人、溝鼠組組長――『大侠客』泥水次郎長である。
「アンタ!八郎を知っているのかい!?あの子はどこにいるんだい!?」
「ちょっ、オバはん騒ぐなや」
オバチャンが次郎長に詰め寄り問い質す。慌てて舎弟たちがオバチャンを引き剥がした。
「ちょっと!離しなさいよ!八郎がどこにいるか聞かなきゃなんだよ!アンタ!八郎はどこにいるんだい!!」
舎弟たちに押さえつけられて暴れるオバチャンに勝男がキレた。
「あーもうー!うっさいわァァ!オイ!ちょっとオバはん縛っとけ!」
「へい!!」
勝男が舎弟たちにオバチャンを縛るように命令した。舎弟たちが縄でオバチャンを縛り上げようとしたその時。
「ぐぁあ!」
オバチャンを取り囲んでいた舎弟たちが放射状に吹っ飛んだ。勝男と次郎長がオバチャンを見る。そこには、オバチャンを守るように鏡華が立っていた。
「おーおー、寄ってたかって女性を縛り上げようっての。男の風上にも置けないねェ」
さっきまでのホストモードの口調は無くなり、いつもの鏡華の口調に戻った。吹っ飛ばされた舎弟たちが、青筋を浮かびあがらせながら立ち上がった。
「こンの……!」
男たちが一斉に殴りかかった。鏡華はその攻撃をいなし、確実に鳩尾に一発ずつ拳と蹴りを入れていく。「ぐッ!」と男たちが声を上げながら次々と倒れていき、10人近くの舎弟を倒した鏡華が勝男たちの方に視線を移した。
「……ホスト、お前何モンや」
「あん?全ての女性の味方だが?」
顎を上げ勝男を見下すように返事をする鏡華。一連の流れを見ていた次郎長がクックッ、と笑った。
「……エラい元気なネェちゃんが来やがったな」
「はァ!?女ァ!?」
勝男が本気で驚いた声を出した。雑な男装なのに気づかれていなかったことに鏡華はカチンときて拳を握った。
「いや気づいて無かったんかいィィ!こんなに分かりやすいのに!」
「いやいやお前胸な……ぶべ!」
鏡華の拳が勝男の顔面に突き刺さった。勝男は鼻血を流しながらその場に倒れた。
「これはちげーよ、あの、スーツ着るのに潰してんだよ、うん、ちゃんとそれなりにあるわ、うん、そう」
「胸あるって言うのに必死やないか!!」
鼻から血が出るのを抑えながら勝男がツッコむ。鏡華の後ろにいるオバチャンもようやく鏡華だということに気づいた。
「アンタ……銀さんの彼女さん!」
「ちげーから!ダチね!ダチ!!」
食い気味で鏡華が訂正する。一方倒れていた勝男がフンッと鼻から血を出し、よろりと立ち上がった。
「……ほォ。あの兄ちゃんの仲間ってワケやな?そんじゃあ、わしらの敵っちゅー事や」
「別に敵とか味方とかそんなんじゃねーよ。私はただ、息子に会いたい母ちゃんの手伝いに呼ばれただけよ」
ニッと笑いながら鏡華が話す。勝男もクク、と笑った。
「……そんだけでヤクザに手ェ出すとはなァ……酔狂なネェちゃんやで」
勝男がドスを構えた。鏡華もスッと拳を前に出して構える。
「ってコトで黒板八郎君のこと教えてくんない?親分さん知ってるらしいじゃん?」
「……」
2人のやりとりを煙をふかしながら余裕綽々と見ていた次郎長。拳を構える鏡華だが、彼の出す雰囲気に迂闊に手が出せない。鏡華がゴクリと唾を飲み込んだ。
「キャッ!!」
「!?オバチャン!?」
突然オバチャンの茶色い悲鳴が上がった。鏡華が急いで振り向くと、いつの間にか起き上がっていた舎弟たちにオバチャンが捕まっている。
アレよアレよという間に、オバチャンは縄とガムテープでぐるぐる巻きにされた。体だけでなく、鼻以外ぐるぐる巻きにされてしまったオバチャンが「んー!んーー!!」と必死に声を出そうとするが言葉にできない。勝男がほっとしたように大きく息を吐いた。
「やっとオバはん静かにできたわ〜。次はネェちゃんの番やな。大人しくしてもらわんと、オバはん
がどうなるか……分かるな?」
「ぐ……」
鏡華を持ってしても、オバチャンを人質に取られてしまっては手が出せない。鏡華はため息をつきながら両手を上げた。
直ぐに後ろで両手を縛られた上に、腕ごと体をぐるぐる巻きにされる鏡華。勝男がドスを収めてフーと息を吐いた。
「そうそう、大人しゅうしといてな。ヤクザかて女子供に手荒な真似はそんなしたないねん。まァこっちはボコスカやられたけどな。平和が一番や。な?」
「……ケッ」
眉間に皺を寄せて悪態を吐く鏡華。オバチャンと鏡華が舎弟たちに捕まえられたのを確認して、勝男が次郎長の方を向いた。
「すんまへんオジキ、待たせました。そんで黒板八郎って誰なんで?」
勝男の質問に次郎長が煙をくゆらせ、ニッ笑みを浮かべながら勝男を見た。
「勝男、おめェ知らねェのか。おめェが今相手してる奴だってェのに」
「は?……もしかして」
次郎長の言葉に勝男が細い目を見開く。
「そういうこった。分かったらヤクさばいとけよ」
次郎長はそう言うとキセルをふかしながらその場を後にした。一緒に話を聞いていた鏡華がフゥと息を吐いた。
「……やっぱりねェ」
「なんやネェちゃん、気づいとったんか」
「これでも医者なんでねェ。整形は専門外だけど、まァ分かるもんよ」
八郎の正体に確信を持った鏡華がオバチャンを見ながらそう話す。勝男が感心した声を出した。
「ほんまに医者やったんかい。……じゃあ、わしらはお前ら人質にして八郎呼ぶさかい。気ィ悪くせんでな」
そう言って勝男が携帯電話を取り出した。縛られた鏡華とオバチャンは舎弟たちに連れられ、壁を背にして座らされた。
「はー外道外道」
「いくらでも言ったらええ。オイ、アイツの電話番号なんや?」
呆れ顔で勝男に吐き捨てる鏡華とそれを軽く躱す勝男。勝男は舎弟に狂死郎の電話番号を聞くと、番号を打ち込み通話ボタンを押した。
数コールなった後、『はい』と狂死郎の声が電話口から聞こえた。
「もしもし狂死郎はん?勝男ですけどォ、まいど」
煽るように声に余裕を含ませながら勝男が話し始めた。舎弟たちが勝男に気を取られている間に、鏡華がバレないように、尻ポケットに入れてた携帯に手を伸ばし《高天原》の電話番号を押した。数コール後、微かにガチャと電話をとる音が聞こえた。
「……なんや、八郎の母ちゃんです八郎の母ちゃんです騒ぎよってな、コレどないしたらエエねん。こっちで勝手に処理してもええか?問題あるんやったらすぐに引き取りにきてや。グズグズしとったらわしら何するかわからんよって。ほなな、黒板八郎はん」
勝男はそう言い終わると通話を終わらせた。それに合わせて鏡華も通話終了ボタンを押した。
―――なんとか銀時たちに伝わりますように……
そう思いながら尻ポケットに携帯を戻した鏡華であった。
◇◇
時間は少し遡り、夜の街で銀時たちが八郎から狂死郎の正体を聞いたところに戻る。勝男たちが店を出てオバチャンと鏡華が居ないと分かったあと、狂死郎も店を出ていき行方が分からなくなっていた。3人を探すため、万事屋3人組と八郎らホストたちが夜の街を走り回っていたのである。
「万事屋さん!」
「八郎!狂死郎見つかったアルか!?」
店の方角から、八郎が銀時たちの元に駆け寄る。ハァハァと息を切らしながら八郎が口を開いた。
「今、店に電話があって……黒駒の勝男と狂死郎さんが会う場所が分かりました!街外れの建設途中の倉庫に行くみたいです!」
「……そーかい。行くぞオメーら」
銀時が短く返事をし、新八たちと一緒に走り出す。真っ直ぐ前を向いて走る銀時に新八が声をかけた。
「……そこに泉さんもいますかね」
「……多分な」
銀時の表情は変わらないが、目が静かに燃えている。口には出していないが、鏡華の事が心配なのだろうと新八は察した。
「お母さんも泉さんも無事ですよ、きっと」
「あぁ……心配はしてねェよ。そんなヤワな奴じゃねェからな、アイツは。ヤクザもんなんかにやられねーよ」
口ではそう言うが、目は明らかに心配の色を宿している。こんな時でも素直じゃないなァ……と新八と神楽は少し呆れたのだった。
