#6 お前の魂は何色か
空欄の場合「鏡華」になります。
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その頃船内では、高杉の腹心 である来島また子と武市変平太を、神楽と新八が足止めしていた。ふごををを!!と、新八が顔に汗を滲 ませ叫びながら武市と鍔迫り合う。一旦間合いを取ったところで、武市が話し始めた。
「ふむふむ、道場剣術はひとしきりこなしたようですが、真剣での斬り合いは初めてのようですね。震えていらっしゃいますよ。」
汗を滲ませながら剣を握る新八の手は、彼自身も気付かぬうちにカタカタと震えていた。震えを指摘された新八が、やや逆ギレ気味に武市に言い返す。
「これは酔剣 といってなァ、酔えば酔う程強くなる幻の……」
「フフ、無理はせぬ方がいいですよ。」
武市が余裕綽々 と、新八を気遣うように言う。だがよく見ると、武市が握る剣もカタカタと震えている。
「ちなみに私の剣技は志村剣といって、あの志村けんがコントの時よくやる、あの……」
「お前もかいィィィ!!」
新八の素早いツッコミが飛ぶ。ムッとした顔で、言い訳がましく武市が話を続ける。
「私はね、どっちかっていうと頭脳派タイプだから、こういうのはあの猪女にいつも任せているんです。」
「誰が猪っスかァァ!!そのへっぴり腰に、一発ブチ込んでやろうか!!実戦は度胸っス先輩!こっちが殺 らなきゃ殺 られるのみっスよ!」
武市の発言に、神楽の相手をしている来島から怒号が飛んできた。二丁の拳銃を持ち、神楽に向かって弾を放つ来島。相対する神楽は、うがァァァァ!!と声を出しながら、両手で弾を避けつつ来島に向かっていく。
来島が神楽の足元を狙って撃った。それを神楽は兎のように、跳んで避ける。来島がニヤリと笑う。
―――かかった!空中では自由もきくまい!
来島の策に見事に嵌 ってしまった神楽。来島が、死ねェェェェ!!と叫んで、神楽に三発の弾丸を放った。弾丸の一つが顔面に当たったのか、神楽は空中で大きく顔を仰 け反 らせた
―――殺 った……。
勝利を確信した来島。だが、殺 られたと思われた神楽は、なんと歯と手で弾丸を受け止めていたのだ。
……えー、読者の皆様におかれましては、あたり前田のクラッカー並みに常識となっていることだが、原作銀魂のヒロイン神楽は、戦闘民族『夜兎 』という天人 である。
透き通るような白い肌と旺盛な食欲、そして太陽の光を苦手とするこの種族は、見た目が少年や少女であっても、地球人ではとても敵わないバカ強い力を持つ。神楽も例に漏れず、原作においては最強の一角を担っている。
この作品内ではすっかり説明を忘れ……否、省いてしまっていたため、ここで紹介させていただいた。
そんな最強の一人である神楽が、予想外のやり方で弾丸を受け止め、ニッと笑う姿を見て、来島が面食らった表情で「なっ!」と声を漏らす。その間にも受け止めた弾丸を捨て、空中で神楽が拳を構えた。
「私を殺 ろうなんざ百年早いネ、小娘ェェェェ!!」
神楽が着地し、来島に馬乗りになって殴りかかろうとした時だった。天井に砲撃が当たったかのような、ドォンという轟音と共に穴があき、そこから何かが落下した。その付近で戦っていた新八達が、困惑しつつ周りを見渡す。
土煙が晴れ、そこにいたのは、両腕が異形と化した岡田と、その岡田に捕まり、そして床に叩きつけられ、血を流して気を失っている銀時だった。
「!!銀さん!!」
万事屋最強がやられているという信じられない光景に、新八と神楽の目が見開く。仲間であるはずの来島と武市の顔にも、困惑の表情が宿る。
「なっ……なにィィィ!?な……なんスかこりゃああ!!」
驚く声を上げる来島。隣にいる武市は、困惑しつつも冷静に岡田の様子を見ていた。
「……似蔵さん?」
武市は岡田の背中越しに呼びかけた。その呼びかけに反応した岡田の形相は、もはや人間のそれではなかった。白目を剥 き、額には血管が浮き出て、大きく開けた口からは涎 が滴り続けていた。
武市がその様子を確認したのも束の間、岡田が触手のように蠢 く、コードだらけの腕を武市めがけて振り切り、武市はとてつもない力で後方の壁に思いっきり吹っ飛ばされた。
「だからこういうの苦手なんだってば……」
そう言い残すと、武市は血を吐き床に崩れ落ちた。すかさず来島が武市と岡田の間に入る。
「先輩ィィ!!……似蔵ォォ!貴様、乱心したっスかぁ!!」
来島の声にも全く反応しない岡田。変わらず口を開け、コアァァという呼吸音だけを発している。異常なその様子に、来島の顔に冷や汗が落ちる。
「意識が……。まさか紅桜に!……チッ!嫌な予感が的中したっス!!」
来島は岡田に対して銃を構え、「止まれェ、似蔵ォ!!」と叫びながら、ドン、ドン、ドン!と三発の弾丸を放つ。しかし岡田には全く効かず、それどころか岡田が突き出した腕で壁に叩きつけられ、来島もまた倒れたのだった。
「完全に紅桜に侵食されたようだな!自我さえない、似蔵殿の身体 は全身、これ剣と化した!」
穴が空いた天井から、村田が岡田達を見下ろし話す。話を聞く鉄子は、その目に映る、己が助けを求めた男を掴んだ、……兄が作りたかったモノを、困惑した眼差しで見つめる。
「最早白夜叉といえど、アレは止められまい!アレこそ紅桜の完全なる姿、アレこそ究極の剣!!
一つの理念の元、余分なものを捨て去ったものだけが手にできる力!つまらぬ事にとらわれるお前達に、止められるわけがない!」
岡田と一体化した紅桜を、声高に讃える村田。その先にいる岡田は、触手のように動くコードで、なおも銀時を掴んで離さない。さらに新八達が「銀さァん!!」と大声で呼びかけても、銀時は目を覚さない。
―――……エナイ
―――メザワリナ光ガ……消エナ…………
もはや残滓 と呼ぶほどの、うっすらとしか意識が残らない岡田が、剣を振りかざす。そこに、ドッという衝撃が銀時を掴む岡田の腕に走る。
天井から剣を持った鉄子が飛び降り、剣を岡田の腕に突き刺したのである。村田の「鉄子ォォ!!」という驚愕した声が響き渡る。
「死なせない!!コイツは死なせない!これ以上その剣で、人は死なせない!」
「よく言った妹さん!!」
その声が聞こえたと同時に、鉄子が剣を突き刺した腕が一瞬岡田の胴体を離れた。同じく天井から飛び降りてきた、鏡華の仕業である。岡田の腕は斬り捨てられたと思われたが、瞬時に紅桜が血管のようにコードを這わせ、胴体と腕を繋ぎ合わせてしまった。
「チッ!ゴ○ブリ並みの生命力かっての!!大人しく斬られとけよ!」
鏡華が暴言を吐きながら、再度岡田に斬りかかる。岡田は叫びながら剣を振り上げ、鏡華ではなく腕に乗る鉄子を目がけて斬りかかった。
だが、その腕を神楽が蹴り飛ばし、剣は天井に突き刺さった。
「で〜か〜ぶ〜つ〜!!そのモジャモジャを!!」
岡田の剣となった右腕を蹴り上げた神楽は、間を置かずに岡田を足払いし体勢を崩した。少女の思わぬ力に、天井から戦闘を見る村田も驚きの声を出す。
「……離せェェェェェェェ!!」
そして体勢を崩した岡田の上に、続く新八が跳び乗って右腕に剣を突き刺した。人とは思えない叫び声を上げながら、新八達を振り払おうとする岡田。
岡田の腕にしがみついた神楽が、銀時を助けようと手を伸ばすが、触手のようなコードだらけの腕は振り解くことができなかった。
目標を変え、岡田の首を絞める神楽。だがそれでも岡田は暴れ続ける。
鏡華も斬撃を繰り出すが、あと一歩のところで致命傷を負わせることができない。
―――ここで、コイツを殺 れなきゃ、ココに来た意味が無いだろ、私……!!
目の前で気絶している銀時、必死に彼を助けようと頑張っている若者達、彼らを助けたいのにやりきれていない自分に苛立ちながら、鏡華は歯を食いしばって攻撃を続けていた。
―――何故……何故だ。鉄子、何故理解しようとしない。
一方、戦闘を天井から見つめる村田は困惑していた。
―――私はこれまで紅桜に全てを捧げてきた。他の一切、良心や節度さえ捨てて。
―――それは私の全てなんだ。それを失えば私には何も残らん。
戦闘を見つつ、村田は紅桜を作る前の頃を思い出していた……。
『……惜しい人を亡くしたな。あれ程の刀を打てる奴ァもう現れんだろうて。』
カン、カンと自分が鉄を打つ音に混じって、亡き父を惜しむ声が聞こえてくる。合わせて、自分の事も話してる声が聞こえた。
『息子がいるって聞いたが、ありゃどうなんでい?』
『ありゃダメだ。』
他人がバッサリと自分を切り捨てる言葉に、息ができなくなる。ただ鉄を打つことで、なんとか己を保つことができた。カン、カンと鉄を打ち続ける。それでも聞こえてくる他人の評価が、自分の奥深くに沈んでいく。
『親父があの稀代の刀工、仁鉄じゃなけりゃ比べられる事もなかったんだろうが……。まァ普通に食ってくには困らねーんじゃねーの。』
心の中に鉄ではなく、鉛のような重い感情が落ちていく。それでもカン、カンと鉄を打ち続けてきた。
それよりもっと前、父が生きていた頃のカン、カンと、自分とは違う鉄を打つ音を思い出す。
『鉄子……』
何回も教えを乞うた、稀代の刀工である父が妹の名を呼ぶ。妹のとても綺麗とは言えない、鉄を打つ音を、あの時の自分は背中越しに聞いていた。
『お前は鍛治の腕はメチャクチャだが、鉄矢にはねェもんを持ってる。野郎も、いつか分かってくれるといいんだが。』
ドスンと何かが自分の中に落ちる。この父の言葉を何度も何度も反芻 した。だが、わからなかった。だから、自分は鉄を打ち続けた。……のに。
岡田に必死に喰らいつく鉄子を見つめる村田は、困惑し動揺する己の感情を、必死にまとめようとしていた。
―――親父を越えるため、剣だけを見て生きてきた。全てを投げうち、剣だけを打ってきた。
―――いらないんだ。私は剣以外、何もいらない。それしかないんだ。私にはもう剣しか……
村田がそう思っている間に、岡田が鏡華達を振り払い、鉄子は床に叩きつけられた。
動けない鉄子に、岡田が剣を振り上げ――そして凄まじい音と共に振り下ろした。
剣圧で土煙が上がる中、鉄子は何故か無事だった。起き上がった鉄子が周りを見渡すと、そこには、血を流して倒れる村田の姿があった。彼が鉄子を岡田の凶刃から庇ったのである。まさかの人物に、鉄子の顔が驚きと哀しみに変わっていく。
「あっ……兄者ァァァ!!うっ……うあああああああああああ!!」
村田を抱き上げ号泣する鉄子の背後から、再び岡田が剣を振り上げる。岡田に意識はもう無い。……だが、彼の横から輝く、鈍い光が確かに見えた。
岡田が光を感じたその刹那、銀時が鉄子が刺していた剣を引き抜き、岡田の顔面を一文字に斬り捨てた。岡田の顔面から血が噴き出る。斬られた衝撃で岡田は吹っ飛び、ようやく銀時を離した。
「銀さん!!」
「銀時!!」
満身創痍で片膝をつき、剣を杖にしてようやく体勢を保っている銀時に、新八たちと鏡華が駆け寄る。その間に岡田は起き上がろうとしていた。
「兄者ッ!!兄者、しっかり!」
鉄子の叫び声を聞いて、鏡華が急いで鉄子の元に駆け寄る。鉄子の腕に抱かれた村田を一目見て、鏡華は眉を顰 めた。
「……っクソ、妹さん!お兄さんの服脱がして!今あるものしかないけど、手当する!」
伝説の攘夷志士である銀時でさえもボロボロにする岡田の剣を、武士ではない村田が受けて耐えれるはずがなかった。服の上からでもわかる致命傷だが、命を救ってきた者として、鏡華はなんとか救けようと村田に手を伸ばした。
「いや、もういい……」
鉄子の腕に抱かれた村田が、力なく言った。消化管をやられたのか、口から吐血している。「兄者!」と鉄子が大きな声で呼びかけた。
「クク、そういうことか。」
死の間際、村田は悟ったように鉄子に話し始めた。鏡華は複雑な表情で二人を見守る。
「剣以外の、余計なものは捨ててきたつもりだった……。人としてよりも、刀工として、剣をつくることだけに、生きるつもりだった……。」
「だが、」と言って村田は震える手で、涙を浮かべ鼻水を垂らして己の話を聞く鉄子の頬に、手を伸ばした。
「最後の最後で、お前だけは……捨てられなんだが。」
目を閉じ、自身のやってきたことを瞼 の裏に思い浮かべながら、村田は言葉を続ける。その声にはもう、先ほどまでの力強さはなくなっている。
「……こんな生半可な覚悟で、究極の剣など打てるわけもなかった……」
「余計なモンなんかじゃねーよ。」
村田の消え入りそうな声に被せてきたのは、よろりと立ち上がった銀時だった。フラフラとしつつも、銀時はしっかりと村田に言葉を紡 ぐ。
「余計なモンなんてあるかよ。全てを捧げて、剣をつくるためだけに生きる?それが職人だァ?大層なこと吐 かしてんじゃないよ。ただ面倒くせーだけじゃねーか、てめーは。いろんなモン背負って頭抱えて生きる度胸もねー奴が、職人だなんだカッコつけんじゃねェ。」
銀時の向こう側にいる岡田が立ち上がり、銀時に向かってくる。咄嗟 に銀時の横に鏡華が剣を構えて立つが、銀時が鏡華の前に腕を出し彼女を止めた。
「!?オイ、銀時、何を……!?」
銀時のまさかの行動に動揺する鏡華。銀時はゼェハァと肩で呼吸をしながら、だが、前から来る岡田を見据えたまま、柔らかい声音で鏡華に声をかけた。
「オメーは、手ェ出すんじゃねーって言ったろ。……見とけ、てめーのいう余計なモンがどれだけの力を持ってるか。……てめーの妹が魂こめて打ち込んだ刀 の斬れ味、しかとその目ん玉に焼き付けな。」
そう言うと銀時は剣を構え、突進してくる岡田に、ピンと背を伸ばして相対した。岡田の重機のような振動が場に響く。
「銀さん!!無理だ!正面からやり合って紅桜に……」
「銀ちゃーん!!」
鉄子と神楽の叫ぶ声が、岡田の突進音で消される。
騒がしいはずなのに、銀時たちの周りは時がゆっくりと流れるかのように、静寂が包む。
上から真っ直ぐに巨大な紅桜 を振り下ろす岡田と、真横一文字に龍の鍔の刀を振り切る銀時。
その銀時の背後から、辛そうでもあり泣きそうでもある、複雑な表情をして鏡華が見守る。
―――あぁ、あんたはそういう奴だったよな……。
鏡華は幼い頃から戦争の頃までの、己が知っている限りの銀時を思い出していた。
―――いつも……自分を犠牲に、他人を護る奴なんだよなァ……。
一方、鉄子に抱き抱えられ、岡田と銀時の勝負の行方を見つめる村田。その目は、銀時に言われたように、しっかりと見開いていた。
―――『刀なんぞ、しょせん人斬り包丁。』
ふと、亡き父の言葉が、心の中に響く。幼い頃からずっと言われてきた言葉だ。
その言葉と一緒に、キィンと、金属がぶつかり合う音がして、目の前にいる銀髪と岡田の場所が入れ替わった。銀髪が持っていた刀の刀身は宙を舞い、床に突き刺さった。
―――『どんだけ魂込めて打とうが、コイツは変わらねェ。だが、だからといって俺達ゃ槌 を止める訳にはいかねェよ。おまんま食いっぱぐれちまう。』
―――『いやいやそれだけじゃねェ。俺たちのつくるもんは武器だ。だからこそ打って打って打ちまくらなきゃならねェ。』
次に続く言葉を思い出し、村田がそっと目を閉じる。そうだ、どうしてこの言葉を忘れていたのか……。
―――『鉄じゃねーよ。てめーの魂だ。』
―――『鉄を叩きながら、てめーの魂を叩きあげろ。優しく清廉 な人になれ。美しく生きろ。お前らがちったァマシになりゃ、それに応えて剣 を少しはマシに使ってくれる奴が集まってくるだろうよ。』
―――『なァ、オイ。オメーはどんな剣が打ちたい?』
そういえば父が妹の頭に手を乗せながら、そんな質問をしていた。あの時……妹はなんて答えたか……。
―――「……護る剣。」
―――『あ?声が小せーよ。』
そうだ、あの時妹ははっきり言っていた。
―――「人を、護る剣。」
村田がその言葉を思い出したのと同時に、紅桜がまるで春の終わりに散る桜の花びらのように、細かく砕け散り、岡田はその場に倒れた。
……そして、人斬り似蔵は、二度と立ち上がることは、なかった。
「護るための……剣か……。お前……らしいな、鉄子。」
鉄子の腕にもたれながら、弱々しい声で村田が話し続ける。村田を抱く鉄子の顔は、涙と鼻水でグチャグチャになっている。
「……どうやら私は……まだ、打ち方が……足りなかった……らしい。」
消え入りそうな声で、しかと鉄子を見つめて話す村田。妹は兄の手をギュッと握り、最期の言葉に耳を傾ける。
「鉄子。いい鍛冶屋に……な…………」
村田が言葉を言い切らないうちに訪れる静寂。まだ温かさの残る兄の手を、離せない鉄子。
「…………聞こえないよ、……兄者。」
すでに瞼を閉じた兄を寝かせ、その上に顔を埋めながら妹は兄に呼びかける。
「いつもみたいに……大きな声で言ってくれないと……聞こえないよ…………」
鉄子の息を詰まらせながら泣く声が、鏡華たちの背中越しに聞こえる。銀時と鏡華の二人はただ、この戦いの終わりを静かに感じていた。
「ふむふむ、道場剣術はひとしきりこなしたようですが、真剣での斬り合いは初めてのようですね。震えていらっしゃいますよ。」
汗を滲ませながら剣を握る新八の手は、彼自身も気付かぬうちにカタカタと震えていた。震えを指摘された新八が、やや逆ギレ気味に武市に言い返す。
「これは
「フフ、無理はせぬ方がいいですよ。」
武市が余裕
「ちなみに私の剣技は志村剣といって、あの志村けんがコントの時よくやる、あの……」
「お前もかいィィィ!!」
新八の素早いツッコミが飛ぶ。ムッとした顔で、言い訳がましく武市が話を続ける。
「私はね、どっちかっていうと頭脳派タイプだから、こういうのはあの猪女にいつも任せているんです。」
「誰が猪っスかァァ!!そのへっぴり腰に、一発ブチ込んでやろうか!!実戦は度胸っス先輩!こっちが
武市の発言に、神楽の相手をしている来島から怒号が飛んできた。二丁の拳銃を持ち、神楽に向かって弾を放つ来島。相対する神楽は、うがァァァァ!!と声を出しながら、両手で弾を避けつつ来島に向かっていく。
来島が神楽の足元を狙って撃った。それを神楽は兎のように、跳んで避ける。来島がニヤリと笑う。
―――かかった!空中では自由もきくまい!
来島の策に見事に
―――
勝利を確信した来島。だが、
……えー、読者の皆様におかれましては、あたり前田のクラッカー並みに常識となっていることだが、原作銀魂のヒロイン神楽は、戦闘民族『
透き通るような白い肌と旺盛な食欲、そして太陽の光を苦手とするこの種族は、見た目が少年や少女であっても、地球人ではとても敵わないバカ強い力を持つ。神楽も例に漏れず、原作においては最強の一角を担っている。
この作品内ではすっかり説明を忘れ……否、省いてしまっていたため、ここで紹介させていただいた。
そんな最強の一人である神楽が、予想外のやり方で弾丸を受け止め、ニッと笑う姿を見て、来島が面食らった表情で「なっ!」と声を漏らす。その間にも受け止めた弾丸を捨て、空中で神楽が拳を構えた。
「私を
神楽が着地し、来島に馬乗りになって殴りかかろうとした時だった。天井に砲撃が当たったかのような、ドォンという轟音と共に穴があき、そこから何かが落下した。その付近で戦っていた新八達が、困惑しつつ周りを見渡す。
土煙が晴れ、そこにいたのは、両腕が異形と化した岡田と、その岡田に捕まり、そして床に叩きつけられ、血を流して気を失っている銀時だった。
「!!銀さん!!」
万事屋最強がやられているという信じられない光景に、新八と神楽の目が見開く。仲間であるはずの来島と武市の顔にも、困惑の表情が宿る。
「なっ……なにィィィ!?な……なんスかこりゃああ!!」
驚く声を上げる来島。隣にいる武市は、困惑しつつも冷静に岡田の様子を見ていた。
「……似蔵さん?」
武市は岡田の背中越しに呼びかけた。その呼びかけに反応した岡田の形相は、もはや人間のそれではなかった。白目を
武市がその様子を確認したのも束の間、岡田が触手のように
「だからこういうの苦手なんだってば……」
そう言い残すと、武市は血を吐き床に崩れ落ちた。すかさず来島が武市と岡田の間に入る。
「先輩ィィ!!……似蔵ォォ!貴様、乱心したっスかぁ!!」
来島の声にも全く反応しない岡田。変わらず口を開け、コアァァという呼吸音だけを発している。異常なその様子に、来島の顔に冷や汗が落ちる。
「意識が……。まさか紅桜に!……チッ!嫌な予感が的中したっス!!」
来島は岡田に対して銃を構え、「止まれェ、似蔵ォ!!」と叫びながら、ドン、ドン、ドン!と三発の弾丸を放つ。しかし岡田には全く効かず、それどころか岡田が突き出した腕で壁に叩きつけられ、来島もまた倒れたのだった。
「完全に紅桜に侵食されたようだな!自我さえない、似蔵殿の
穴が空いた天井から、村田が岡田達を見下ろし話す。話を聞く鉄子は、その目に映る、己が助けを求めた男を掴んだ、……兄が作りたかったモノを、困惑した眼差しで見つめる。
「最早白夜叉といえど、アレは止められまい!アレこそ紅桜の完全なる姿、アレこそ究極の剣!!
一つの理念の元、余分なものを捨て去ったものだけが手にできる力!つまらぬ事にとらわれるお前達に、止められるわけがない!」
岡田と一体化した紅桜を、声高に讃える村田。その先にいる岡田は、触手のように動くコードで、なおも銀時を掴んで離さない。さらに新八達が「銀さァん!!」と大声で呼びかけても、銀時は目を覚さない。
―――……エナイ
―――メザワリナ光ガ……消エナ…………
もはや
天井から剣を持った鉄子が飛び降り、剣を岡田の腕に突き刺したのである。村田の「鉄子ォォ!!」という驚愕した声が響き渡る。
「死なせない!!コイツは死なせない!これ以上その剣で、人は死なせない!」
「よく言った妹さん!!」
その声が聞こえたと同時に、鉄子が剣を突き刺した腕が一瞬岡田の胴体を離れた。同じく天井から飛び降りてきた、鏡華の仕業である。岡田の腕は斬り捨てられたと思われたが、瞬時に紅桜が血管のようにコードを這わせ、胴体と腕を繋ぎ合わせてしまった。
「チッ!ゴ○ブリ並みの生命力かっての!!大人しく斬られとけよ!」
鏡華が暴言を吐きながら、再度岡田に斬りかかる。岡田は叫びながら剣を振り上げ、鏡華ではなく腕に乗る鉄子を目がけて斬りかかった。
だが、その腕を神楽が蹴り飛ばし、剣は天井に突き刺さった。
「で〜か〜ぶ〜つ〜!!そのモジャモジャを!!」
岡田の剣となった右腕を蹴り上げた神楽は、間を置かずに岡田を足払いし体勢を崩した。少女の思わぬ力に、天井から戦闘を見る村田も驚きの声を出す。
「……離せェェェェェェェ!!」
そして体勢を崩した岡田の上に、続く新八が跳び乗って右腕に剣を突き刺した。人とは思えない叫び声を上げながら、新八達を振り払おうとする岡田。
岡田の腕にしがみついた神楽が、銀時を助けようと手を伸ばすが、触手のようなコードだらけの腕は振り解くことができなかった。
目標を変え、岡田の首を絞める神楽。だがそれでも岡田は暴れ続ける。
鏡華も斬撃を繰り出すが、あと一歩のところで致命傷を負わせることができない。
―――ここで、コイツを
目の前で気絶している銀時、必死に彼を助けようと頑張っている若者達、彼らを助けたいのにやりきれていない自分に苛立ちながら、鏡華は歯を食いしばって攻撃を続けていた。
―――何故……何故だ。鉄子、何故理解しようとしない。
一方、戦闘を天井から見つめる村田は困惑していた。
―――私はこれまで紅桜に全てを捧げてきた。他の一切、良心や節度さえ捨てて。
―――それは私の全てなんだ。それを失えば私には何も残らん。
戦闘を見つつ、村田は紅桜を作る前の頃を思い出していた……。
『……惜しい人を亡くしたな。あれ程の刀を打てる奴ァもう現れんだろうて。』
カン、カンと自分が鉄を打つ音に混じって、亡き父を惜しむ声が聞こえてくる。合わせて、自分の事も話してる声が聞こえた。
『息子がいるって聞いたが、ありゃどうなんでい?』
『ありゃダメだ。』
他人がバッサリと自分を切り捨てる言葉に、息ができなくなる。ただ鉄を打つことで、なんとか己を保つことができた。カン、カンと鉄を打ち続ける。それでも聞こえてくる他人の評価が、自分の奥深くに沈んでいく。
『親父があの稀代の刀工、仁鉄じゃなけりゃ比べられる事もなかったんだろうが……。まァ普通に食ってくには困らねーんじゃねーの。』
心の中に鉄ではなく、鉛のような重い感情が落ちていく。それでもカン、カンと鉄を打ち続けてきた。
それよりもっと前、父が生きていた頃のカン、カンと、自分とは違う鉄を打つ音を思い出す。
『鉄子……』
何回も教えを乞うた、稀代の刀工である父が妹の名を呼ぶ。妹のとても綺麗とは言えない、鉄を打つ音を、あの時の自分は背中越しに聞いていた。
『お前は鍛治の腕はメチャクチャだが、鉄矢にはねェもんを持ってる。野郎も、いつか分かってくれるといいんだが。』
ドスンと何かが自分の中に落ちる。この父の言葉を何度も何度も
岡田に必死に喰らいつく鉄子を見つめる村田は、困惑し動揺する己の感情を、必死にまとめようとしていた。
―――親父を越えるため、剣だけを見て生きてきた。全てを投げうち、剣だけを打ってきた。
―――いらないんだ。私は剣以外、何もいらない。それしかないんだ。私にはもう剣しか……
村田がそう思っている間に、岡田が鏡華達を振り払い、鉄子は床に叩きつけられた。
動けない鉄子に、岡田が剣を振り上げ――そして凄まじい音と共に振り下ろした。
剣圧で土煙が上がる中、鉄子は何故か無事だった。起き上がった鉄子が周りを見渡すと、そこには、血を流して倒れる村田の姿があった。彼が鉄子を岡田の凶刃から庇ったのである。まさかの人物に、鉄子の顔が驚きと哀しみに変わっていく。
「あっ……兄者ァァァ!!うっ……うあああああああああああ!!」
村田を抱き上げ号泣する鉄子の背後から、再び岡田が剣を振り上げる。岡田に意識はもう無い。……だが、彼の横から輝く、鈍い光が確かに見えた。
岡田が光を感じたその刹那、銀時が鉄子が刺していた剣を引き抜き、岡田の顔面を一文字に斬り捨てた。岡田の顔面から血が噴き出る。斬られた衝撃で岡田は吹っ飛び、ようやく銀時を離した。
「銀さん!!」
「銀時!!」
満身創痍で片膝をつき、剣を杖にしてようやく体勢を保っている銀時に、新八たちと鏡華が駆け寄る。その間に岡田は起き上がろうとしていた。
「兄者ッ!!兄者、しっかり!」
鉄子の叫び声を聞いて、鏡華が急いで鉄子の元に駆け寄る。鉄子の腕に抱かれた村田を一目見て、鏡華は眉を
「……っクソ、妹さん!お兄さんの服脱がして!今あるものしかないけど、手当する!」
伝説の攘夷志士である銀時でさえもボロボロにする岡田の剣を、武士ではない村田が受けて耐えれるはずがなかった。服の上からでもわかる致命傷だが、命を救ってきた者として、鏡華はなんとか救けようと村田に手を伸ばした。
「いや、もういい……」
鉄子の腕に抱かれた村田が、力なく言った。消化管をやられたのか、口から吐血している。「兄者!」と鉄子が大きな声で呼びかけた。
「クク、そういうことか。」
死の間際、村田は悟ったように鉄子に話し始めた。鏡華は複雑な表情で二人を見守る。
「剣以外の、余計なものは捨ててきたつもりだった……。人としてよりも、刀工として、剣をつくることだけに、生きるつもりだった……。」
「だが、」と言って村田は震える手で、涙を浮かべ鼻水を垂らして己の話を聞く鉄子の頬に、手を伸ばした。
「最後の最後で、お前だけは……捨てられなんだが。」
目を閉じ、自身のやってきたことを
「……こんな生半可な覚悟で、究極の剣など打てるわけもなかった……」
「余計なモンなんかじゃねーよ。」
村田の消え入りそうな声に被せてきたのは、よろりと立ち上がった銀時だった。フラフラとしつつも、銀時はしっかりと村田に言葉を
「余計なモンなんてあるかよ。全てを捧げて、剣をつくるためだけに生きる?それが職人だァ?大層なこと
銀時の向こう側にいる岡田が立ち上がり、銀時に向かってくる。
「!?オイ、銀時、何を……!?」
銀時のまさかの行動に動揺する鏡華。銀時はゼェハァと肩で呼吸をしながら、だが、前から来る岡田を見据えたまま、柔らかい声音で鏡華に声をかけた。
「オメーは、手ェ出すんじゃねーって言ったろ。……見とけ、てめーのいう余計なモンがどれだけの力を持ってるか。……てめーの妹が魂こめて打ち込んだ
そう言うと銀時は剣を構え、突進してくる岡田に、ピンと背を伸ばして相対した。岡田の重機のような振動が場に響く。
「銀さん!!無理だ!正面からやり合って紅桜に……」
「銀ちゃーん!!」
鉄子と神楽の叫ぶ声が、岡田の突進音で消される。
騒がしいはずなのに、銀時たちの周りは時がゆっくりと流れるかのように、静寂が包む。
上から真っ直ぐに巨大な
その銀時の背後から、辛そうでもあり泣きそうでもある、複雑な表情をして鏡華が見守る。
―――あぁ、あんたはそういう奴だったよな……。
鏡華は幼い頃から戦争の頃までの、己が知っている限りの銀時を思い出していた。
―――いつも……自分を犠牲に、他人を護る奴なんだよなァ……。
一方、鉄子に抱き抱えられ、岡田と銀時の勝負の行方を見つめる村田。その目は、銀時に言われたように、しっかりと見開いていた。
―――『刀なんぞ、しょせん人斬り包丁。』
ふと、亡き父の言葉が、心の中に響く。幼い頃からずっと言われてきた言葉だ。
その言葉と一緒に、キィンと、金属がぶつかり合う音がして、目の前にいる銀髪と岡田の場所が入れ替わった。銀髪が持っていた刀の刀身は宙を舞い、床に突き刺さった。
―――『どんだけ魂込めて打とうが、コイツは変わらねェ。だが、だからといって俺達ゃ
―――『いやいやそれだけじゃねェ。俺たちのつくるもんは武器だ。だからこそ打って打って打ちまくらなきゃならねェ。』
次に続く言葉を思い出し、村田がそっと目を閉じる。そうだ、どうしてこの言葉を忘れていたのか……。
―――『鉄じゃねーよ。てめーの魂だ。』
―――『鉄を叩きながら、てめーの魂を叩きあげろ。優しく
―――『なァ、オイ。オメーはどんな剣が打ちたい?』
そういえば父が妹の頭に手を乗せながら、そんな質問をしていた。あの時……妹はなんて答えたか……。
―――「……護る剣。」
―――『あ?声が小せーよ。』
そうだ、あの時妹ははっきり言っていた。
―――「人を、護る剣。」
村田がその言葉を思い出したのと同時に、紅桜がまるで春の終わりに散る桜の花びらのように、細かく砕け散り、岡田はその場に倒れた。
……そして、人斬り似蔵は、二度と立ち上がることは、なかった。
「護るための……剣か……。お前……らしいな、鉄子。」
鉄子の腕にもたれながら、弱々しい声で村田が話し続ける。村田を抱く鉄子の顔は、涙と鼻水でグチャグチャになっている。
「……どうやら私は……まだ、打ち方が……足りなかった……らしい。」
消え入りそうな声で、しかと鉄子を見つめて話す村田。妹は兄の手をギュッと握り、最期の言葉に耳を傾ける。
「鉄子。いい鍛冶屋に……な…………」
村田が言葉を言い切らないうちに訪れる静寂。まだ温かさの残る兄の手を、離せない鉄子。
「…………聞こえないよ、……兄者。」
すでに瞼を閉じた兄を寝かせ、その上に顔を埋めながら妹は兄に呼びかける。
「いつもみたいに……大きな声で言ってくれないと……聞こえないよ…………」
鉄子の息を詰まらせながら泣く声が、鏡華たちの背中越しに聞こえる。銀時と鏡華の二人はただ、この戦いの終わりを静かに感じていた。
