#17 世の中のジジババは孫に甘い
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◇◇
その頃、柳生家敷地内の竹林では銀時と柳生側の大将である敏木斎が戦いを続けていた。地の利を活かした敏木斎の攻撃に、銀時は防戦を強いられる。敏木斎に吹っ飛ばされ、尻もちをついた銀時が「ぐふっ!!」と呻いた。
「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ、ってな。なァ兄ちゃん、夫婦の誓いを立てた2人を邪魔するなんざ野暮ってもんだろ。それとも兄ちゃんアレかィ?お妙ちゃんに惚れとるのかね?」
「夫婦だァ?笑わすなジジイ。おたくの坊ちゃん……坊ちゃんじゃなくてお嬢さんだろ」
口元の血を拭いながら銀時が苦笑いで問いかけた。
「……こいつァ驚いた。気づいとったか」
「他の奴は騙せても俺の股間のセンサーは騙せねーさ」
「わしのセンサーは随分前に壊れてのう。こないだはスリッパに反応しおった。死にたくなった」
猿のように竹に掴まって銀時を見ていた敏木斎が、銀時の指摘に目を丸くしつつ悲しいことも暴露する。
銀時はゆらりと立ち上がると敏木斎と対峙した。
「さすがは天下の柳生流じゃねーか。女好きの娘のために一族総出で結婚相手を用意しようってわけか?」
「ふっ…ふざけるな!女の身でありながら姉上と結婚!?」
場所は変わり、銀時が敏木斎に問い詰めている頃鏡華たちの方でも新八が九兵衛に問い詰めていた。
「そんなことが通ると思っているのか!!姉上!!なんで今まで言わなかったんですか!?知ってたんでしょ!?それともそれを知った上で九兵衛さんと……!?」
新八の問いに無言のままのお妙。無言ほど肯定を表すものは無い。鏡華は土方の手当てをしながら、口を開き始めた九兵衛の話を静かに聴き始めた。
◇◇
「……アレがあんなふうに育っちまったのは全部わしらのせいでな」
一方、銀時と対峙する敏木斎は竹に掴まったまま話し始めた。
「柳生家の家督は代々男が継ぐようになっとる。だがワシの息子輿矩の妻は、九兵衛を産んですぐ死んでしもうてな。一族の間で新たに妻をもうけよなどという話もあったが、輿矩の奴も心底死んだ妻に惚れておったでな。頑として首を縦に振らんかった」
銀時は緊張を維持したまま、静かに敏木斎の話に耳を傾ける。
「そんなマネをすれば亡き妻の忘れ形見、九兵衛は柳生家で立場を失い居場所をなくす。ワシも息子も九兵衛が可愛くて仕方なかった……アレのためにできることを考えた」
――――ーーーーーー……
『九兵衛ェェェェェ!!お前はもォォォォ!!メソメソメソメソ、それでも男かァ!!それでも侍かァァ!!』
輿矩の怒号が道場に響く。竹刀が床を叩く音に驚いて、泣いている幼い九兵衛がビクッと肩を震わせた。
『だって、僕、女だもん』
『女じゃねーっつってんだろ!男だ男!!』
『だって父上!!』
『父上じゃない!パパ上と呼べと言ったであろう!』
ピシャリと輿矩が九兵衛を叱責する。グスッと泣く彼女を、幼い東城と北大路が部屋の外から見守っていた。
――――ーーーーーー……
「……わしらは柳生家の一部の者を除き、九兵衛が女であることを伏せ男として育てた。九兵衛が柳生家に根を張り生きていくにはそれしか道はない。そうする事が九兵衛にとっての幸せだと思っておった」
もちろん、と敏木斎が続ける。
「本当に男にしようなどとは思っておらん。ただ女である九兵衛に柳生家を継がせるためには、名実ともに本当の強さが必要だった」
――――ーーーーーー……
―――強くなれ九兵衛!!お前は男だ!!九兵衛、それでも侍か!!九兵衛もっと強くなれ!!男が泣くな!!お前が柳生家を背負っているんだ!!自分を女と思うな!!
幼い九兵衛に根源的な部分を否定する言葉が浴びせられ続けられた。何故女であってはいけないのか。どうして男にならねばならぬのだ。親たちは自分のことを憎いのかとさえ思った。幼い彼女の苦悩は如何程なものだっただろう。
暗闇の中ただひたすらジッと耐える九兵衛。そんな彼女に一筋の光が差し込んだ。
―――……最初はただの憧れだったのかもしれない。
『やーいやーいオカマ!』
『こいつ女みてーだよな!いつも泣いてばっかりで!』
『ひょっとして女なんじゃねーの!?』
『袴ぬがしてやろうぜ!!』
いつものように男らしくないと近所の男の子たちにいじめられる。多人数で囲まれた上にからかわれ、終いには袴を脱がされそうになった。うずくまってひたすら耐える。だがその時、彼らの頭にゴッと鈍いゲンコツの音が聞こえた。
『うわァァァ!!』
今度は男の子が泣いて逃げていく足音が聞こえた。顔を上げると、そこには微笑みながら手を差し伸べる志村妙が居た。九兵衛の目に彼女の背中越しに眩しすぎる光が見えた気がした。
―――同じ女の身ながら、強く生きる女の子。
『ちっちゃくたっていいじゃない。みんなより背がちっちゃいなら、九ちゃんは誰よりも心の大きな侍になればいいんだよ』
お妙の言葉が九兵衛の身に優しく染みていく。自分を虐めないで味方になってくれる存在がどんだけ嬉しく有難いか。幼い九兵衛が恋心に似た感情を抱くのは至極当然のことであった。
『……じゃあ妙ちゃん…僕が心の大きな強い侍になったら、僕の《股の玉》になってくれる?』
《股の玉》とはお妙が言った《玉の輿》のことである。言い間違えではなく、彼女は分かった上で《股の玉》と言っている。
少し脱線したが、九兵衛が頬を赤らめながら伝えた言葉にお妙は少し驚く。だがすぐにニッコリと微笑んだ。
『無理。だって九ちゃん、男のくせに股の玉無いじゃない』
『そっ、そんなもん生えてくるもん!じーちゃんが言ってたもん!』
『生えないよ。別のモジャモジャしたものが生えてくるんだよ』
『モロッコで生やしてくるもん!』
幼い2人がそんなやりとりを交わす。お妙の存在は幼い九兵衛にとって心の支えとなっていたのだった。
―――……彼女はとても強い女の子。
時は進み、少し成長した九兵衛がお妙の後ろ姿を見つめていた。喪服に身を包んだお妙は九兵衛に気づかず、顔に白い布をかけて横たわっている人物を見ていた。
―――でも、
九兵衛に気づいたお妙が彼女にほほ笑みかける。その目には涙を流した跡があった。
―――その笑顔の裏に抱えるものを知った時、
『このクソガキャャャ!!』
『新ちゃん!!』
父親の死後、なんとか2人で暮らしていたお妙と新八は父の残した借金取りから乱暴に取り立てを受けていた。新八は殴られ気を失い、お妙も動けないように押さえられていた。
眼鏡をかけた鼻と耳が大きい天人とその取り巻きたちが、2人を交互に見ながら罵声を浴びせる。
『ホンマ借りた金もよう返さんくせにクソ生意気なガキやで!!どないしたろ!?どっかの星に売り捌いたろかホンマ!!』
『地球のガキは仕事覚えるの早いさかい、高う売れる聞きましたで』
取り巻きの言葉にお妙の顔から血の気が引いた。
『やめて!!弟には手を出さないで!』
『やかましい!お前らに選択肢なんて無いんじゃボケ!!』
借金取りの天人がお妙にそう叫んだ時、彼の背後から九兵衛が竹刀を持って飛びかかった。
―――この人を、護りたいと思った。
『……ちゃん』
暗闇の中、九兵衛がお妙の声を聞いた。彼女がなんとか薄く目を開けると、ぼんやりと人影が見えた。
『九ちゃん!!しっかりして九ちゃん!』
目を開くとお妙が泣きそうな顔で九兵衛に声を掛けていた。借金取りたちは居なくなっていた。どうやら己は奴らを追い払うことに成功したようだった。だが、引き換えに左目がズキズキと痛む。目を開くことも出来ない。頬を生温い液体が滴っている。これが血であり、左目が潰れたのだということに彼女はすぐ気づいた。
不安そうに己を見つめるお妙に九兵衛が微笑んで声をかける。
『……お妙ちゃん。僕はどうひっくり返ったって男にはなれない……でも』
何とか開いた右目で真っ直ぐにお妙を見つめる。
『男よりも女よりもお妙ちゃんよりも強くなって、きっと君を護るよ』
九兵衛の言葉にお妙がグッと口を噤む。
『…………ごめんなさい。ごめんなさい、九ちゃん』
彼女の言葉から出てくるのは謝罪の言葉。そしてポタポタと涙が彼女の両手にこぼれ落ちる。
『……私、あなたの左目になる』
そのお妙の言葉と表情を、九兵衛は閉じゆく右瞼の向こうで見たのだった。
――――ーーーーーー……
その頃、柳生家敷地内の竹林では銀時と柳生側の大将である敏木斎が戦いを続けていた。地の利を活かした敏木斎の攻撃に、銀時は防戦を強いられる。敏木斎に吹っ飛ばされ、尻もちをついた銀時が「ぐふっ!!」と呻いた。
「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ、ってな。なァ兄ちゃん、夫婦の誓いを立てた2人を邪魔するなんざ野暮ってもんだろ。それとも兄ちゃんアレかィ?お妙ちゃんに惚れとるのかね?」
「夫婦だァ?笑わすなジジイ。おたくの坊ちゃん……坊ちゃんじゃなくてお嬢さんだろ」
口元の血を拭いながら銀時が苦笑いで問いかけた。
「……こいつァ驚いた。気づいとったか」
「他の奴は騙せても俺の股間のセンサーは騙せねーさ」
「わしのセンサーは随分前に壊れてのう。こないだはスリッパに反応しおった。死にたくなった」
猿のように竹に掴まって銀時を見ていた敏木斎が、銀時の指摘に目を丸くしつつ悲しいことも暴露する。
銀時はゆらりと立ち上がると敏木斎と対峙した。
「さすがは天下の柳生流じゃねーか。女好きの娘のために一族総出で結婚相手を用意しようってわけか?」
「ふっ…ふざけるな!女の身でありながら姉上と結婚!?」
場所は変わり、銀時が敏木斎に問い詰めている頃鏡華たちの方でも新八が九兵衛に問い詰めていた。
「そんなことが通ると思っているのか!!姉上!!なんで今まで言わなかったんですか!?知ってたんでしょ!?それともそれを知った上で九兵衛さんと……!?」
新八の問いに無言のままのお妙。無言ほど肯定を表すものは無い。鏡華は土方の手当てをしながら、口を開き始めた九兵衛の話を静かに聴き始めた。
◇◇
「……アレがあんなふうに育っちまったのは全部わしらのせいでな」
一方、銀時と対峙する敏木斎は竹に掴まったまま話し始めた。
「柳生家の家督は代々男が継ぐようになっとる。だがワシの息子輿矩の妻は、九兵衛を産んですぐ死んでしもうてな。一族の間で新たに妻をもうけよなどという話もあったが、輿矩の奴も心底死んだ妻に惚れておったでな。頑として首を縦に振らんかった」
銀時は緊張を維持したまま、静かに敏木斎の話に耳を傾ける。
「そんなマネをすれば亡き妻の忘れ形見、九兵衛は柳生家で立場を失い居場所をなくす。ワシも息子も九兵衛が可愛くて仕方なかった……アレのためにできることを考えた」
――――ーーーーーー……
『九兵衛ェェェェェ!!お前はもォォォォ!!メソメソメソメソ、それでも男かァ!!それでも侍かァァ!!』
輿矩の怒号が道場に響く。竹刀が床を叩く音に驚いて、泣いている幼い九兵衛がビクッと肩を震わせた。
『だって、僕、女だもん』
『女じゃねーっつってんだろ!男だ男!!』
『だって父上!!』
『父上じゃない!パパ上と呼べと言ったであろう!』
ピシャリと輿矩が九兵衛を叱責する。グスッと泣く彼女を、幼い東城と北大路が部屋の外から見守っていた。
――――ーーーーーー……
「……わしらは柳生家の一部の者を除き、九兵衛が女であることを伏せ男として育てた。九兵衛が柳生家に根を張り生きていくにはそれしか道はない。そうする事が九兵衛にとっての幸せだと思っておった」
もちろん、と敏木斎が続ける。
「本当に男にしようなどとは思っておらん。ただ女である九兵衛に柳生家を継がせるためには、名実ともに本当の強さが必要だった」
――――ーーーーーー……
―――強くなれ九兵衛!!お前は男だ!!九兵衛、それでも侍か!!九兵衛もっと強くなれ!!男が泣くな!!お前が柳生家を背負っているんだ!!自分を女と思うな!!
幼い九兵衛に根源的な部分を否定する言葉が浴びせられ続けられた。何故女であってはいけないのか。どうして男にならねばならぬのだ。親たちは自分のことを憎いのかとさえ思った。幼い彼女の苦悩は如何程なものだっただろう。
暗闇の中ただひたすらジッと耐える九兵衛。そんな彼女に一筋の光が差し込んだ。
―――……最初はただの憧れだったのかもしれない。
『やーいやーいオカマ!』
『こいつ女みてーだよな!いつも泣いてばっかりで!』
『ひょっとして女なんじゃねーの!?』
『袴ぬがしてやろうぜ!!』
いつものように男らしくないと近所の男の子たちにいじめられる。多人数で囲まれた上にからかわれ、終いには袴を脱がされそうになった。うずくまってひたすら耐える。だがその時、彼らの頭にゴッと鈍いゲンコツの音が聞こえた。
『うわァァァ!!』
今度は男の子が泣いて逃げていく足音が聞こえた。顔を上げると、そこには微笑みながら手を差し伸べる志村妙が居た。九兵衛の目に彼女の背中越しに眩しすぎる光が見えた気がした。
―――同じ女の身ながら、強く生きる女の子。
『ちっちゃくたっていいじゃない。みんなより背がちっちゃいなら、九ちゃんは誰よりも心の大きな侍になればいいんだよ』
お妙の言葉が九兵衛の身に優しく染みていく。自分を虐めないで味方になってくれる存在がどんだけ嬉しく有難いか。幼い九兵衛が恋心に似た感情を抱くのは至極当然のことであった。
『……じゃあ妙ちゃん…僕が心の大きな強い侍になったら、僕の《股の玉》になってくれる?』
《股の玉》とはお妙が言った《玉の輿》のことである。言い間違えではなく、彼女は分かった上で《股の玉》と言っている。
少し脱線したが、九兵衛が頬を赤らめながら伝えた言葉にお妙は少し驚く。だがすぐにニッコリと微笑んだ。
『無理。だって九ちゃん、男のくせに股の玉無いじゃない』
『そっ、そんなもん生えてくるもん!じーちゃんが言ってたもん!』
『生えないよ。別のモジャモジャしたものが生えてくるんだよ』
『モロッコで生やしてくるもん!』
幼い2人がそんなやりとりを交わす。お妙の存在は幼い九兵衛にとって心の支えとなっていたのだった。
―――……彼女はとても強い女の子。
時は進み、少し成長した九兵衛がお妙の後ろ姿を見つめていた。喪服に身を包んだお妙は九兵衛に気づかず、顔に白い布をかけて横たわっている人物を見ていた。
―――でも、
九兵衛に気づいたお妙が彼女にほほ笑みかける。その目には涙を流した跡があった。
―――その笑顔の裏に抱えるものを知った時、
『このクソガキャャャ!!』
『新ちゃん!!』
父親の死後、なんとか2人で暮らしていたお妙と新八は父の残した借金取りから乱暴に取り立てを受けていた。新八は殴られ気を失い、お妙も動けないように押さえられていた。
眼鏡をかけた鼻と耳が大きい天人とその取り巻きたちが、2人を交互に見ながら罵声を浴びせる。
『ホンマ借りた金もよう返さんくせにクソ生意気なガキやで!!どないしたろ!?どっかの星に売り捌いたろかホンマ!!』
『地球のガキは仕事覚えるの早いさかい、高う売れる聞きましたで』
取り巻きの言葉にお妙の顔から血の気が引いた。
『やめて!!弟には手を出さないで!』
『やかましい!お前らに選択肢なんて無いんじゃボケ!!』
借金取りの天人がお妙にそう叫んだ時、彼の背後から九兵衛が竹刀を持って飛びかかった。
―――この人を、護りたいと思った。
『……ちゃん』
暗闇の中、九兵衛がお妙の声を聞いた。彼女がなんとか薄く目を開けると、ぼんやりと人影が見えた。
『九ちゃん!!しっかりして九ちゃん!』
目を開くとお妙が泣きそうな顔で九兵衛に声を掛けていた。借金取りたちは居なくなっていた。どうやら己は奴らを追い払うことに成功したようだった。だが、引き換えに左目がズキズキと痛む。目を開くことも出来ない。頬を生温い液体が滴っている。これが血であり、左目が潰れたのだということに彼女はすぐ気づいた。
不安そうに己を見つめるお妙に九兵衛が微笑んで声をかける。
『……お妙ちゃん。僕はどうひっくり返ったって男にはなれない……でも』
何とか開いた右目で真っ直ぐにお妙を見つめる。
『男よりも女よりもお妙ちゃんよりも強くなって、きっと君を護るよ』
九兵衛の言葉にお妙がグッと口を噤む。
『…………ごめんなさい。ごめんなさい、九ちゃん』
彼女の言葉から出てくるのは謝罪の言葉。そしてポタポタと涙が彼女の両手にこぼれ落ちる。
『……私、あなたの左目になる』
そのお妙の言葉と表情を、九兵衛は閉じゆく右瞼の向こうで見たのだった。
――――ーーーーーー……
