#16 恋バナと軍法会議は似ている
空欄の場合「鏡華」になります。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
◇◇
屋敷内を鏡華がポテポテと歩く。戦線離脱したためかなり気楽なものである。ただ、鏡華の胸の内にはお妙に聞いてみたいことがあった。その為に観光がてらお妙を探している。
「ん?お嬢ちゃん、こんなところで何をキョロキョロしているんだィ?」
突然爺のような声に話しかけられた。が、周りを見渡しても誰もいない。
「アレ?声がしたと思ったけど居ないな……」
「ここ、ここ。ここなんだけど?ねェ?」
「また声がした!姿は見えないのに声だけする……やば、もしかして私の守護霊……!?」
「ンなワケないんじゃが?そんな簡単に守護霊の声聞けたらやばいよォ?」
「だよねェ……ってことは誰?そしてどこにいるの?」
「だからココォォォ!!ココにいるっつーの!ンッンッ……ゴホン、見下ァ〜げてェ〜ごらん〜♪」
「ん……?うおッ!こんな所にお年寄りが!?」
「気づくの遅いんだよォォォ!!」
鏡華が見下げると絶叫してツッコむ小さな爺が居た。その爺は額に皿を着けている。
「その皿は……もしかしてあなたが九兵衛くんたちの大将?」
「ほ?九兵衛のことを知っとるということはお嬢ちゃんがお妙ちゃんを奪還しにきた道場破りかね?」
何を考えているか分からない眼差しで、小さな爺――柳生敏木斎が鏡華を見据える。鏡華が両手を上げて敏木斎を見つめ返す。
「まァ、そのメンバーではあるんだけれども。人数あぶれちゃったんで私は参戦しないで観光させてもらってるんだわ。……ダメかな?」
「そうかい。参戦しねーってんなら俺ァ何もしねーよ。好きなだけ観光していきな」
アッサリと彼女を見逃す敏木斎に鏡華が拍子抜けする。敏木斎この余裕たっぷりな様子、九兵衛たちが『7対6でも構わない』と言っていた理由が分かった気がした。鏡華が確信する。この爺は強いと。
「ありがとねー大将。あ、そしたらめ〇か師匠のネタ一緒にやったよしみで聞きたいんだけど、お妙ちゃんどこいるかな?」
鏡華に背を向け歩き始めていた敏木斎に彼女が呼びかける。敏木斎は背中越しにピッと指を差した。
「あっちの屋敷に居るよォ。今頃オババたちにいびられとるんじゃないかなァ」
「マジでか。女子会出来そうかな?恋バナしたいんだけど」
「女子会?それ俺も混ざってええかな?歳とったらジジイかババアかなんて分からんじゃろ」
敏木斎が足を止め振り返った。何故か目が少しキランと光っている。
「いいわけねーだろジジイ。女子の恋バナは軍法会議モンなんだよ。関係者以外立ち入り禁止だわ」
笑顔で断る鏡華に敏木斎はチェッと残念そうに舌打ちをすると、そのままどこかへと歩いていった。そして鏡華はその背中を見送り彼が指さした方へと向かったのだった。
◇◇
「大将に嘘つかれたかと思ったけど本当に居た。やっほーお妙ちゃん」
「あなた……泉さん!?なんでここに!?」
敏木斎が指さした方向に進むと本当に屋敷があった。植木の隙間から鏡華が顔を覗かせると、廊下に座っていたお妙が驚いた顔で彼女を見た。
「っとと……いやちょっとお妙ちゃんがココに嫁ぐって聞いたもんでね。観光がてらお妙ちゃんたちの馴れ初め聞こうと思って」
植木をガサガサと抜けてお妙の元に行く鏡華。お妙は突然現れた彼女に顔を顰めたが、直ぐに営業スマイルで微笑みかけた。
「まぁ……もう泉さんのとこまで話が広がっちゃったの。人の口に戸は立てられないって言うけど本当ね」
「そりゃみんなお妙ちゃんがいきなり嫁ぐってなったら騒いじゃうよ。しかも柳生家だよ玉の輿じゃん」
ここ座っていい?と鏡華がお妙の隣を指差す。お妙は「えぇ」と頷くと鏡華を自分の隣へ促した。隣に座ると遠くの方で開戦の狼煙が上がるのが見えた。
「なんでも次期当主サマと幼なじみの許嫁らしいじゃん。すごいね?」
新八たちからお妙が泣いていたという話は聞いていない体で話をしていく鏡華。また、今まさにお妙をかけた戦いが始まったことを悟らせないように気も張る。その甲斐あってか、お妙は変わらず営業スマイルで鏡華に返事をした。
「すごくなんかないわよ。子供の頃の約束を向こうが覚えてくれてて迎えに来てくれたの。九ちゃ……九兵衛さんが一途に思ってくれていたのよ。信じられないわよねェ」
「なにそれ漫画みたいな展開じゃん!いいねェ〜!一途な恋とか純愛だ〜。その一途さにお妙ちゃんも惚れちゃったワケだ?」
ニヤニヤしながら鏡華がお妙に尋ねる。一瞬お妙の顔がピシッと固まったように見えたが、直ぐにお妙は「そうなの」と手を頬に当てて目を伏せた。
「ウチの道場も……あ、実家の道場、経営が危ないんだけど、そこも支援してくださるって。本当に至れり尽くせりで私には勿体ないのよ」
「マジでか!本当にお妙ちゃんにベタ惚れじゃん。いい人に見初められたねェ〜」
このこの〜と肘でお妙を小突く鏡華。お妙はニコニコと笑みを浮かべたまま鏡華に小突かれている。
「そしたら見事幼なじみとご結婚することになった恋愛上級者のお妙ちゃんにぜひ相談させて貰いたいんだけど」
「あら?何かしら?」
「……最近人を好きだって気づいたんだけど、気持ちを伝えるか否かで悩んでるんだよ……どうしたらいいと思う?」
まぁ……とお妙が目を見開いて鏡華を見つめる。鏡華はというと耳を真っ赤にして頬をポリポリとかいている。
「泉さんも恋する乙女になることがあるのね。新ちゃんから聞いてた話だと頼りになるお医者様のイメージしかなかったから意外だわ」
お妙がクスクスと微笑む。
「いやほんと最近だからね?なんか恋する乙女期に突入しちゃってね……ってコレはいいんだよ。本題だよ、どうしたらいいと思う?」
そうねェ……とお妙が顎に指を置いて空を見上げた。雨上がりの少しジメッとした空気が恋する乙女の鏡華にまとわりつく。お陰で鏡華もウジウジソワソワとお妙の返答を待っていた。
「私だったら相手に自分を好きにならせて向こうから告白させるわね」
「えー!?なにそれ恋愛上級者過ぎるゥ!全然参考になんねーよそれェ!自分を好きにならさせるってなに!?すごくね!?」
「そんなの簡単よ。お酒飲ませてから相手の弱みを吐かせて、そこを優しくフォローしてやればコロッと堕ちるのよ。ね、簡単でしょ?」
「それキャバ嬢のテクニックだろーがァ!?相手の弱みを吐かせてから優しくするってなに!?だからストーカーが生まれんだよォ!」
想定外なお妙の固定客獲得テクニックに全力でツッコむ鏡華。お妙は「その手もあるけど」とにこやかに笑いながら話を続ける。
「まァ、泉さんが気持ち伝えるか否かで悩んでるぐらいなら、自分から伝えるのもアリじゃない?泉さんって人のこと待つタイプじゃ無さそうだし。自分からガンガンいきそうよね」
「それは……確かにそうかも……」
―――自分から気持ちを伝える、かァ……
そう思いながら空を見上げる鏡華。釣られてお妙も空を見上げた。曇天の中薄い雲が流れていく。ウジウジしていた鏡華の気持ちも、お妙の言葉が背中を押す風となって雲のように流れ始めた。
「……お妙ちゃんありがとう。私は何事もガンガン行くタイプだってこと忘れてたわ。よし、スパッと告って玉砕してくるわ。あ、ホントにダメだった時は慰めてね?」
「ふふ、頑張ってちょうだい。ダメだったその時は慰めてあげるわよ。自分の気持ちを伝えることってかなり勇気が要る事だもの。動くだけで偉いと思うわ」
「……お妙ちゃんは九兵衛さんに自分の気持ち言えてる?」
突然の鏡華の問いに「え?」とお妙が固まる。
「ど、どういうこと?」
「……お妙ちゃん、さっき『一途な九兵衛さんに惚れたの?』って聞いた時ちょっと固まったよね?」
「そ、そんなことないわよ。気にしすぎじゃない?」
「……本当に九兵衛さんのことが好きで求婚受け入れたの?九兵衛さんに言えてないことがあるんじゃない?」
「そ、れは……」
明らかに動揺するお妙に鏡華が言葉を続ける。
「九兵衛さんだけじゃない、新八くんたちにも言えていないことがあるんじゃないの?」
「そんなこと……」
しどろもどろで鏡華から目線を外すお妙。そんなお妙を困ったような、複雑な表情で鏡華が見つめる。
「……お妙ちゃんが隠してること、私ちょっと分かってるかもしれない」
えっ、とお妙が困惑した声を出した時だった。いきなり鏡華たちが座る廊下にバタバタと人が走る音が聞こえた。
「輿矩様いけませんぞ!!ここは男子禁制、たとえ御当主といえど立ち入ることを禁じられた女の聖域ですぞ!!」
「オババ、そんな事を言っている場合では無いのだ!そこをどけ!!お妙ちゃん!お妙ちゃんを呼んでくれ!!」
鏡華とお妙が廊下の曲がり角から顔を覗かせると、お妙の指導係であるオババと使用人たち、そして柳生家現当主の柳生輿矩が対峙していた。
「なんですか、またあの娘ですか!追い出せと言ったり呼べと言ったり、オババはもう疲れました!!あの娘が出ていかないなら私が出ていきます!あの娘をとるかオババをとるかハッキリしてヨ」
「語尾をカタカナにするんじゃない!!気持ちが悪いんだよクソババア!!」
オババと輿矩がどちらもイライラを孕ませて大声で言い争っている。その様子を鏡華とお妙がバレないようにそっと見つめる。
「失礼ですが若様ではあの娘の手網は操れませぬ!とんでもないじゃじゃ馬!アレは柳生家に災いをもたらしますぞ!どうせ財産狙いかなんかでしょう!」
「災いならもう起きてるよ!道場破りだかなんだかしらんがまいってんだよ!」
輿矩の言葉に思わず鏡華から「やべっ」と声が出た。バッとお妙が鏡華の方を振り向く。
「九兵衛とあの暴れん坊四天王が館中で暴れ回っててさ、もうあちこちボロボロだよ!!しかも乗り込んできた連中の一人がお妙ちゃんの弟を名乗ってるらしい!どういうことだかもうさっぱりだ!!問い質さんと!」
「……泉さん、どういうことですか」
ゆらりとお妙が前へと動き出す。雰囲気が変わったお妙に思わず鏡華がたじろぐ。
「や、待ってお妙ちゃん、黙ってたつもりは無いんだけど……」
アワアワする鏡華の言葉を聞かずにお妙が走り出した。
「ちょっと!お妙ちゃん!!」
鏡華が制止するもお妙は止まらない。そのままオババたちの方へと走っていく。
「弟が!!まァ恐い!やっぱり一族全員野蛮な血が流れてるんだわ!」
「ん?」
「どけェェェ!コルァァァ!!」
走った勢いでお妙がオババたちと輿矩を蹴り飛ばした。「ぐぶェ!」と輿矩が変な悲鳴をあげる。そしてそのままお妙は走っていく。その後を急いで鏡華が追いかける。
「あっあれはお妙ちゃん!と、誰だ!?曲者か!?」
「コルァァァ待たんかィ、アバズレ!!」
背後から輿矩とオババたちの声が聞こえるが、お妙の耳には入っていない。
―――……新ちゃん、みんな
ただただ、新八たちのことを思ってお妙は屋敷の中を走っていく。そしてその後を鏡華も追いかけていくのだった。
17話へ続く
屋敷内を鏡華がポテポテと歩く。戦線離脱したためかなり気楽なものである。ただ、鏡華の胸の内にはお妙に聞いてみたいことがあった。その為に観光がてらお妙を探している。
「ん?お嬢ちゃん、こんなところで何をキョロキョロしているんだィ?」
突然爺のような声に話しかけられた。が、周りを見渡しても誰もいない。
「アレ?声がしたと思ったけど居ないな……」
「ここ、ここ。ここなんだけど?ねェ?」
「また声がした!姿は見えないのに声だけする……やば、もしかして私の守護霊……!?」
「ンなワケないんじゃが?そんな簡単に守護霊の声聞けたらやばいよォ?」
「だよねェ……ってことは誰?そしてどこにいるの?」
「だからココォォォ!!ココにいるっつーの!ンッンッ……ゴホン、見下ァ〜げてェ〜ごらん〜♪」
「ん……?うおッ!こんな所にお年寄りが!?」
「気づくの遅いんだよォォォ!!」
鏡華が見下げると絶叫してツッコむ小さな爺が居た。その爺は額に皿を着けている。
「その皿は……もしかしてあなたが九兵衛くんたちの大将?」
「ほ?九兵衛のことを知っとるということはお嬢ちゃんがお妙ちゃんを奪還しにきた道場破りかね?」
何を考えているか分からない眼差しで、小さな爺――柳生敏木斎が鏡華を見据える。鏡華が両手を上げて敏木斎を見つめ返す。
「まァ、そのメンバーではあるんだけれども。人数あぶれちゃったんで私は参戦しないで観光させてもらってるんだわ。……ダメかな?」
「そうかい。参戦しねーってんなら俺ァ何もしねーよ。好きなだけ観光していきな」
アッサリと彼女を見逃す敏木斎に鏡華が拍子抜けする。敏木斎この余裕たっぷりな様子、九兵衛たちが『7対6でも構わない』と言っていた理由が分かった気がした。鏡華が確信する。この爺は強いと。
「ありがとねー大将。あ、そしたらめ〇か師匠のネタ一緒にやったよしみで聞きたいんだけど、お妙ちゃんどこいるかな?」
鏡華に背を向け歩き始めていた敏木斎に彼女が呼びかける。敏木斎は背中越しにピッと指を差した。
「あっちの屋敷に居るよォ。今頃オババたちにいびられとるんじゃないかなァ」
「マジでか。女子会出来そうかな?恋バナしたいんだけど」
「女子会?それ俺も混ざってええかな?歳とったらジジイかババアかなんて分からんじゃろ」
敏木斎が足を止め振り返った。何故か目が少しキランと光っている。
「いいわけねーだろジジイ。女子の恋バナは軍法会議モンなんだよ。関係者以外立ち入り禁止だわ」
笑顔で断る鏡華に敏木斎はチェッと残念そうに舌打ちをすると、そのままどこかへと歩いていった。そして鏡華はその背中を見送り彼が指さした方へと向かったのだった。
◇◇
「大将に嘘つかれたかと思ったけど本当に居た。やっほーお妙ちゃん」
「あなた……泉さん!?なんでここに!?」
敏木斎が指さした方向に進むと本当に屋敷があった。植木の隙間から鏡華が顔を覗かせると、廊下に座っていたお妙が驚いた顔で彼女を見た。
「っとと……いやちょっとお妙ちゃんがココに嫁ぐって聞いたもんでね。観光がてらお妙ちゃんたちの馴れ初め聞こうと思って」
植木をガサガサと抜けてお妙の元に行く鏡華。お妙は突然現れた彼女に顔を顰めたが、直ぐに営業スマイルで微笑みかけた。
「まぁ……もう泉さんのとこまで話が広がっちゃったの。人の口に戸は立てられないって言うけど本当ね」
「そりゃみんなお妙ちゃんがいきなり嫁ぐってなったら騒いじゃうよ。しかも柳生家だよ玉の輿じゃん」
ここ座っていい?と鏡華がお妙の隣を指差す。お妙は「えぇ」と頷くと鏡華を自分の隣へ促した。隣に座ると遠くの方で開戦の狼煙が上がるのが見えた。
「なんでも次期当主サマと幼なじみの許嫁らしいじゃん。すごいね?」
新八たちからお妙が泣いていたという話は聞いていない体で話をしていく鏡華。また、今まさにお妙をかけた戦いが始まったことを悟らせないように気も張る。その甲斐あってか、お妙は変わらず営業スマイルで鏡華に返事をした。
「すごくなんかないわよ。子供の頃の約束を向こうが覚えてくれてて迎えに来てくれたの。九ちゃ……九兵衛さんが一途に思ってくれていたのよ。信じられないわよねェ」
「なにそれ漫画みたいな展開じゃん!いいねェ〜!一途な恋とか純愛だ〜。その一途さにお妙ちゃんも惚れちゃったワケだ?」
ニヤニヤしながら鏡華がお妙に尋ねる。一瞬お妙の顔がピシッと固まったように見えたが、直ぐにお妙は「そうなの」と手を頬に当てて目を伏せた。
「ウチの道場も……あ、実家の道場、経営が危ないんだけど、そこも支援してくださるって。本当に至れり尽くせりで私には勿体ないのよ」
「マジでか!本当にお妙ちゃんにベタ惚れじゃん。いい人に見初められたねェ〜」
このこの〜と肘でお妙を小突く鏡華。お妙はニコニコと笑みを浮かべたまま鏡華に小突かれている。
「そしたら見事幼なじみとご結婚することになった恋愛上級者のお妙ちゃんにぜひ相談させて貰いたいんだけど」
「あら?何かしら?」
「……最近人を好きだって気づいたんだけど、気持ちを伝えるか否かで悩んでるんだよ……どうしたらいいと思う?」
まぁ……とお妙が目を見開いて鏡華を見つめる。鏡華はというと耳を真っ赤にして頬をポリポリとかいている。
「泉さんも恋する乙女になることがあるのね。新ちゃんから聞いてた話だと頼りになるお医者様のイメージしかなかったから意外だわ」
お妙がクスクスと微笑む。
「いやほんと最近だからね?なんか恋する乙女期に突入しちゃってね……ってコレはいいんだよ。本題だよ、どうしたらいいと思う?」
そうねェ……とお妙が顎に指を置いて空を見上げた。雨上がりの少しジメッとした空気が恋する乙女の鏡華にまとわりつく。お陰で鏡華もウジウジソワソワとお妙の返答を待っていた。
「私だったら相手に自分を好きにならせて向こうから告白させるわね」
「えー!?なにそれ恋愛上級者過ぎるゥ!全然参考になんねーよそれェ!自分を好きにならさせるってなに!?すごくね!?」
「そんなの簡単よ。お酒飲ませてから相手の弱みを吐かせて、そこを優しくフォローしてやればコロッと堕ちるのよ。ね、簡単でしょ?」
「それキャバ嬢のテクニックだろーがァ!?相手の弱みを吐かせてから優しくするってなに!?だからストーカーが生まれんだよォ!」
想定外なお妙の固定客獲得テクニックに全力でツッコむ鏡華。お妙は「その手もあるけど」とにこやかに笑いながら話を続ける。
「まァ、泉さんが気持ち伝えるか否かで悩んでるぐらいなら、自分から伝えるのもアリじゃない?泉さんって人のこと待つタイプじゃ無さそうだし。自分からガンガンいきそうよね」
「それは……確かにそうかも……」
―――自分から気持ちを伝える、かァ……
そう思いながら空を見上げる鏡華。釣られてお妙も空を見上げた。曇天の中薄い雲が流れていく。ウジウジしていた鏡華の気持ちも、お妙の言葉が背中を押す風となって雲のように流れ始めた。
「……お妙ちゃんありがとう。私は何事もガンガン行くタイプだってこと忘れてたわ。よし、スパッと告って玉砕してくるわ。あ、ホントにダメだった時は慰めてね?」
「ふふ、頑張ってちょうだい。ダメだったその時は慰めてあげるわよ。自分の気持ちを伝えることってかなり勇気が要る事だもの。動くだけで偉いと思うわ」
「……お妙ちゃんは九兵衛さんに自分の気持ち言えてる?」
突然の鏡華の問いに「え?」とお妙が固まる。
「ど、どういうこと?」
「……お妙ちゃん、さっき『一途な九兵衛さんに惚れたの?』って聞いた時ちょっと固まったよね?」
「そ、そんなことないわよ。気にしすぎじゃない?」
「……本当に九兵衛さんのことが好きで求婚受け入れたの?九兵衛さんに言えてないことがあるんじゃない?」
「そ、れは……」
明らかに動揺するお妙に鏡華が言葉を続ける。
「九兵衛さんだけじゃない、新八くんたちにも言えていないことがあるんじゃないの?」
「そんなこと……」
しどろもどろで鏡華から目線を外すお妙。そんなお妙を困ったような、複雑な表情で鏡華が見つめる。
「……お妙ちゃんが隠してること、私ちょっと分かってるかもしれない」
えっ、とお妙が困惑した声を出した時だった。いきなり鏡華たちが座る廊下にバタバタと人が走る音が聞こえた。
「輿矩様いけませんぞ!!ここは男子禁制、たとえ御当主といえど立ち入ることを禁じられた女の聖域ですぞ!!」
「オババ、そんな事を言っている場合では無いのだ!そこをどけ!!お妙ちゃん!お妙ちゃんを呼んでくれ!!」
鏡華とお妙が廊下の曲がり角から顔を覗かせると、お妙の指導係であるオババと使用人たち、そして柳生家現当主の柳生輿矩が対峙していた。
「なんですか、またあの娘ですか!追い出せと言ったり呼べと言ったり、オババはもう疲れました!!あの娘が出ていかないなら私が出ていきます!あの娘をとるかオババをとるかハッキリしてヨ」
「語尾をカタカナにするんじゃない!!気持ちが悪いんだよクソババア!!」
オババと輿矩がどちらもイライラを孕ませて大声で言い争っている。その様子を鏡華とお妙がバレないようにそっと見つめる。
「失礼ですが若様ではあの娘の手網は操れませぬ!とんでもないじゃじゃ馬!アレは柳生家に災いをもたらしますぞ!どうせ財産狙いかなんかでしょう!」
「災いならもう起きてるよ!道場破りだかなんだかしらんがまいってんだよ!」
輿矩の言葉に思わず鏡華から「やべっ」と声が出た。バッとお妙が鏡華の方を振り向く。
「九兵衛とあの暴れん坊四天王が館中で暴れ回っててさ、もうあちこちボロボロだよ!!しかも乗り込んできた連中の一人がお妙ちゃんの弟を名乗ってるらしい!どういうことだかもうさっぱりだ!!問い質さんと!」
「……泉さん、どういうことですか」
ゆらりとお妙が前へと動き出す。雰囲気が変わったお妙に思わず鏡華がたじろぐ。
「や、待ってお妙ちゃん、黙ってたつもりは無いんだけど……」
アワアワする鏡華の言葉を聞かずにお妙が走り出した。
「ちょっと!お妙ちゃん!!」
鏡華が制止するもお妙は止まらない。そのままオババたちの方へと走っていく。
「弟が!!まァ恐い!やっぱり一族全員野蛮な血が流れてるんだわ!」
「ん?」
「どけェェェ!コルァァァ!!」
走った勢いでお妙がオババたちと輿矩を蹴り飛ばした。「ぐぶェ!」と輿矩が変な悲鳴をあげる。そしてそのままお妙は走っていく。その後を急いで鏡華が追いかける。
「あっあれはお妙ちゃん!と、誰だ!?曲者か!?」
「コルァァァ待たんかィ、アバズレ!!」
背後から輿矩とオババたちの声が聞こえるが、お妙の耳には入っていない。
―――……新ちゃん、みんな
ただただ、新八たちのことを思ってお妙は屋敷の中を走っていく。そしてその後を鏡華も追いかけていくのだった。
17話へ続く
