きみはヒーロー
「こんなに暑いのに」
「ああ……うん」
セミの声がする。不思議とそこまで暑い気はしなかった。
「隣座っていい?」
「いいよ」
ぼくは少し右にずれて座る。
「おれ、牡丹」
「え?」
「名前」
牡丹はそう言いながらぼくの隣に座った。
「あ……ぼくはのぞむ。猫橋のぞむ」
「猫橋のぞむ……」
牡丹は何か考えてるような表情でぼくの顔を見た。
「ぼくの顔、何か付いてる?」
「あ、いや……知り合いに似てる気がして」
「ふーん」
「今日はおまいり?」
「おまいり……っていうか、たまたまこの神社があったから……なんとなく?」
「そっか」
ジーワジーワっていうセミの声がする。牡丹の横顔が綺麗に見えて、なんとなくあの子に似てる気がした。
「苗字は?」
「へ?」
「ぼくは猫橋。きみは?」
「あ……苗字……」
牡丹は一瞬空を見る。目が緑っぽい色に反射した。
「びょうとく……」
「びょうとく?」
「うん」
牡丹はちょっと困ったような笑顔でぼくを見る。
「変わった苗字だね。カッコいいなぁ」
「猫橋もあんまり聞かないけどな」
「あ、ぼくもけっこう羨ましがられるよ。どこかに猫が渡る橋があって、それが由来なんだってお母さんが言ってた」
「ふうん……」
「牡丹はどこの子?」
「えっ」
「どこに住んでるの?」
「あー……えっと、いまはここんちかな」
「神社の子なんだ」
「のぞむは?」
「ぼくもこの辺だよ。あっちの山のとこ」
ぼくは山の中の団地を指差して説明する。
「へえ、下りたり登ったりするのが大変そうだな……」
「そうなんだよ〜。でも夜に見下ろす駅とか富士山とかはすごく綺麗なんだ」
「へ〜、いいな」
「今度牡丹もうちにおいでよ」
「いいのか?」
「うん。お母さん仕事が忙しいみたいで、あんまり家にいないし。牡丹が来てくれたらぼくも嬉しいかも」
「そっか……」
牡丹は嬉しそうな照れたような顔をして下を見る。
「……牡丹ってあんまり友達んちとか遊びに行ったりしないの?」
「そうだな……ここに住む前も友達は一人しかいなかったしなぁ」
アゴに手を当てて牡丹は大げさにいう。
「親友みたいな感じ?」
「んん、まあ、というか弟みたいな?」
「えー、なにそれ。本人が聞いたら怒るやつじゃないの?」
ぼくはふはっと吹き出した。
カナカナカナカナ……ってセミの声がして、少し空が暗くなってきた。
「ぼく、そろそろ帰らなきゃ」
ぼくは立ってお尻を払う。全然ほこりっぽくなかった。
(きれいな神社……牡丹も掃除とかしてるのかな)
ぼくが牡丹をちらっと見ると、牡丹はにこっと笑った。
「また会える?」
「うん。おれここにいるし」
「そっか……明日も来ていい?」
「ああ。いつでもおいで」
「うん!じゃあまた明日」
ぼくは前の学校の昼休みみたいな気持ちになって、嬉しくなった。
帰りの山道は木の葉っぱが逆光で影絵みたいになっていて、間から見える桃色の空が綺麗だった。ぼくが家の近くまで登り終える頃には桃色から青に変わっていた。
団地から下を見下ろすと、きらきらした駅と薄い色の富士山が見えた。なんとなくほわっとした気持ちになる。
ぼくは新しい友達のことを思い出して、嬉しくなった。
「ああ……うん」
セミの声がする。不思議とそこまで暑い気はしなかった。
「隣座っていい?」
「いいよ」
ぼくは少し右にずれて座る。
「おれ、牡丹」
「え?」
「名前」
牡丹はそう言いながらぼくの隣に座った。
「あ……ぼくはのぞむ。猫橋のぞむ」
「猫橋のぞむ……」
牡丹は何か考えてるような表情でぼくの顔を見た。
「ぼくの顔、何か付いてる?」
「あ、いや……知り合いに似てる気がして」
「ふーん」
「今日はおまいり?」
「おまいり……っていうか、たまたまこの神社があったから……なんとなく?」
「そっか」
ジーワジーワっていうセミの声がする。牡丹の横顔が綺麗に見えて、なんとなくあの子に似てる気がした。
「苗字は?」
「へ?」
「ぼくは猫橋。きみは?」
「あ……苗字……」
牡丹は一瞬空を見る。目が緑っぽい色に反射した。
「びょうとく……」
「びょうとく?」
「うん」
牡丹はちょっと困ったような笑顔でぼくを見る。
「変わった苗字だね。カッコいいなぁ」
「猫橋もあんまり聞かないけどな」
「あ、ぼくもけっこう羨ましがられるよ。どこかに猫が渡る橋があって、それが由来なんだってお母さんが言ってた」
「ふうん……」
「牡丹はどこの子?」
「えっ」
「どこに住んでるの?」
「あー……えっと、いまはここんちかな」
「神社の子なんだ」
「のぞむは?」
「ぼくもこの辺だよ。あっちの山のとこ」
ぼくは山の中の団地を指差して説明する。
「へえ、下りたり登ったりするのが大変そうだな……」
「そうなんだよ〜。でも夜に見下ろす駅とか富士山とかはすごく綺麗なんだ」
「へ〜、いいな」
「今度牡丹もうちにおいでよ」
「いいのか?」
「うん。お母さん仕事が忙しいみたいで、あんまり家にいないし。牡丹が来てくれたらぼくも嬉しいかも」
「そっか……」
牡丹は嬉しそうな照れたような顔をして下を見る。
「……牡丹ってあんまり友達んちとか遊びに行ったりしないの?」
「そうだな……ここに住む前も友達は一人しかいなかったしなぁ」
アゴに手を当てて牡丹は大げさにいう。
「親友みたいな感じ?」
「んん、まあ、というか弟みたいな?」
「えー、なにそれ。本人が聞いたら怒るやつじゃないの?」
ぼくはふはっと吹き出した。
カナカナカナカナ……ってセミの声がして、少し空が暗くなってきた。
「ぼく、そろそろ帰らなきゃ」
ぼくは立ってお尻を払う。全然ほこりっぽくなかった。
(きれいな神社……牡丹も掃除とかしてるのかな)
ぼくが牡丹をちらっと見ると、牡丹はにこっと笑った。
「また会える?」
「うん。おれここにいるし」
「そっか……明日も来ていい?」
「ああ。いつでもおいで」
「うん!じゃあまた明日」
ぼくは前の学校の昼休みみたいな気持ちになって、嬉しくなった。
帰りの山道は木の葉っぱが逆光で影絵みたいになっていて、間から見える桃色の空が綺麗だった。ぼくが家の近くまで登り終える頃には桃色から青に変わっていた。
団地から下を見下ろすと、きらきらした駅と薄い色の富士山が見えた。なんとなくほわっとした気持ちになる。
ぼくは新しい友達のことを思い出して、嬉しくなった。
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