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「ロープと懐中電灯と…っと」
ニビシティ南部、とある一軒家。
1階の玄関先で1人の女がリュックサックの口を開け、中身を確認していた。
赤味の強い茶髪を肩まで伸ばし、まだ幼さが残る顔には期待と喜びを孕んでいる。
下ろし立てなのか直線状にシワのついたポロシャツを着て、真っ黒なスカートに灰色の膝丈スパッツを履いて、彼女の荷物を確認する動作に合わせひらひらとスカートが揺れた。
ポロシャツの右胸には、プレミアボールの刺繍が施されている。
「これで大丈夫かな。ボールもたくさん買い込んでおいたし」
そういって、リュックの口を閉め背負う。
買い込んだモンスターボールの開閉を確認して、スカートのポケットへ2つほど忍ばせた。
まだ新しい履き心地の良さそうなスニーカーに足を通すと、彼女は玄関を出る。
「しばらくは我が家にも帰って来れなくなるね。…私がトレーナーとして1人前になったら、また帰ってくるよ」
いってきます、と閉まる扉に声をかけ、彼女は踵を返した。
そよそよと心地よい風が彼女の髪を揺らし、頬をくすぐる。
鼻から取り込んだ空気は、夏のピークを過ぎ少し秋を感じさせる暖かなものだった。
「とりあえず、ポケモンセンターで登録してこなきゃ…」
自宅からそれほど遠くないポケモンセンターまで、誰かが手入れしている花壇を横目に歩く。
いつもは何とも思わない花壇に植わっている花達も、しばらく見ることはないと思うと感慨深いものがある。
「おっ、グレーちゃん。そんな格好で登山でもするのか?」
「おじさんこんにちはー。これは旅に出るための格好ですよ〜」
「……ははは!いやいや、冗談だろう?あの怖がりなグレーちゃんが旅だって?」
「おじさん、実は私昔からトレーナーになるのが夢だったんですよ。夢のためなら旅だってへっちゃらです!」
「だが…博物館の受付の仕事はどうするんだ?」
「館長には許可をもらってます。昨日付けで退職しました〜」
グレーと呼ばれた彼女は、全国でも有名なニビ科学博物館の受付嬢をしていた。
彼女の黒とも灰色ともつかぬ瞳に現れた決意に、近所に住み彼女を昔から知る男性もたじろぐ。
男性の中でのグレーという女性はまだまだ幼く、虫ポケモンが大の苦手で、数年前バタフリーがニビシティの近くで大量発生した時に、泣いて退治を依頼してきたことを今でも鮮明に覚えている。
博物館の受付嬢として、幾人かの男性から密かに想いを寄せられていたとも聞いており、彼女がトレーナーとしてこの地を出ていくことを知ったら何人が悲しむかと苦笑いを浮かべた。
「私はもう決めたんです。立派なトレーナーになるって。いままでお世話になりました」
「…でもなあ。いや…、そうか、ちと突然すぎて俺も頭がついていかないが。まあ、これで最期というわけでもないしな。…気を付けて行くんだぞ」
「はい、ありがとうございます!」
グレーは丁寧にお辞儀をすると、再びポケモンセンターに向かって歩き出した。
男性は心配を隠せぬ表情で、彼女の背中を見送った。
「…心配しすぎか。ポケモンが一緒なら大丈夫だろうしな。そういえば初めの1匹はどいつにしたんだろうなあ…」
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