これが本当に夢だったならどれだけ良かったことか。もうとっくに昔の事だと言うのに、柄にもなくお前の事を未だに夢に見ちまう。

あいつは元いた時代に帰ってしまってもう戻っては来ない。
最初は鬱陶しい妙な奴だと揶揄って暇潰しに遊んでいたが、思っていたよりもお前に惚れていたらしい、そんな自分に今更気が付いた。
一緒に旅を始めて少し経った頃、お前が俺の過去について聞いてきたのを覚えてるか？
お前になら話してもいいとやっと俺の闇を曝け出したのに、その秘密を持って行っちまって知るのは俺とお前だけ。また俺というものを知ってるのはいなくなっちまった。

『私だけは裏切らない』と言ったのにまた俺を一人ぼっちにして。俺にとっちゃこんな酷いことは二度と起こり得ないと思う程の出来事だったんだぜ。

過ごした日々の中でお前という存在と共に、苦労したことも悲しんだことも全てかけがえのないものだったんだ。
まだ胸から離れない好きだったお前の匂い。今はこんなにも苦く切ないものだったか不思議に思う。

雨の中で二人野良猫みたいに震えてたあの時。あの時選択を間違えてなければまたお前が帰ってくるのか？

鹿の革の中で夜を過ごしたときお前と眠ったな。抱き締めていたお前の背中、その形、質感、温もり、全て鮮明に覚えているんだ。
既に言葉も尽きた。俺は知らなかった。現実を受けとめきれない時、人はただただ涙を流すしかないものなのか。

別行動中で俺のいなかった間、お前はどんな顔で何を見て何をしていた？


未来とやらに帰るとき涙を流し『貴方を愛してる。本当は離れたくない。だけど貴方が泣いていると思うのも私は辛いから。だからどうかもう私の事は忘れて貴方も幸せになって。自分の家族を作って。』と言ったな。

お前が闇の中から助け出してくれる唯一の女なのに。

あれから胸が潰れる程の苦しさと悲しさに苛まれてまともに息すらできない思いなんだ。

突然嘘みたいに消えちまったお前、こんな事どう忘れようとしたって忘れられるもんかよ。

お前の匂い好きだったのにな。
またあの雨が降ればお前は帰ってくるのか？