蓮の花咲く水辺で
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私は蓮の咲き乱れる湖底をお屋敷の近くまで泳いで行くとそっと顔だけ水面から出して様子を伺う。
「蓮花塢の新しい宗主は金麟台の一件の後もだが妻も娶らずうだつも上がらず、魏先生に敵わないと見るやとうとう今は屋敷から出こないらしい」
「そりゃあ実子なのに魏先生の方が優遇されてたとなりゃ先代もどちらが上なのか見極めていたんだろうよ」
物を売る人の呼び声や通りを行き交う人々の足音や話し声の中から噂話が聞こえてきた。
彼の事だ。
『魏先生』というのも恐らくかつて一緒に暮らしていた兄弟同然だったあの人の事だろう。時折話してくれた父親である前宗主からの扱いの差も聞いていた。
でも私はあの人との実力差の事だって彼にしかできないこともあると前向きに思っていたし何より一番に信頼していた。
そして彼が番を作れないのではなく作らない事を私は知っていたし、私のいる所に通う事に意味がありそうしている以上その必要がなかったからだ。
他にも何か彼に対して酷い話をしていたけれどもう何も理解する気力が無くなっていた。
私は人々の噂話を聞いて心臓を抉られるような思いでいっぱいになりやっとの思いで湖の外れまで泳ぎ着くと岩陰に身を隠して涙が枯れるまで泣いた。どのくらい泣いたのだろう、私の周りにはまた沢山の白く輝く玉が落ちていた。
次の日私は繋がった水路をお屋敷の彼の部屋の廊下の下まで泳いで行き、周りに誰もいない事を確かめると人の姿になって部屋の入口の外に立つ。
「閉閂しようと思う」
弱々しい声で、しかしやっと意を決したように口を開いた。
これまでに彼から聞いてきた事や見てきた事を慮れば当然かもしれない。
自信も無くし親を亡くし、果ては姉君まで。更に信じていた兄弟同然のあの人に裏切られ邪道を憎み、よりによってまたその根源と再会。仙門百家が信じ崇めていた仙督の不詳なる事の発覚。それに知らなくてよかった過去のある真実を知ってしまったのだから無理もないだろう。
「…解りました。宗主がそう仰るなら。これまでのようにすぐに会えないのはとても寂しいですが…」
愛しい彼が決めた事だ。
一月に一度、取り決めた約束はその日だけはまた彼と過ごせる時間を持てる。私はこれからずっとその日だけを心待ちにして生きる。
そしていつか日に日に膨らんでいく私のお腹を二人で楽しみにする、そんな時も来るのだろう。
─完─
「蓮花塢の新しい宗主は金麟台の一件の後もだが妻も娶らずうだつも上がらず、魏先生に敵わないと見るやとうとう今は屋敷から出こないらしい」
「そりゃあ実子なのに魏先生の方が優遇されてたとなりゃ先代もどちらが上なのか見極めていたんだろうよ」
物を売る人の呼び声や通りを行き交う人々の足音や話し声の中から噂話が聞こえてきた。
彼の事だ。
『魏先生』というのも恐らくかつて一緒に暮らしていた兄弟同然だったあの人の事だろう。時折話してくれた父親である前宗主からの扱いの差も聞いていた。
でも私はあの人との実力差の事だって彼にしかできないこともあると前向きに思っていたし何より一番に信頼していた。
そして彼が番を作れないのではなく作らない事を私は知っていたし、私のいる所に通う事に意味がありそうしている以上その必要がなかったからだ。
他にも何か彼に対して酷い話をしていたけれどもう何も理解する気力が無くなっていた。
私は人々の噂話を聞いて心臓を抉られるような思いでいっぱいになりやっとの思いで湖の外れまで泳ぎ着くと岩陰に身を隠して涙が枯れるまで泣いた。どのくらい泣いたのだろう、私の周りにはまた沢山の白く輝く玉が落ちていた。
次の日私は繋がった水路をお屋敷の彼の部屋の廊下の下まで泳いで行き、周りに誰もいない事を確かめると人の姿になって部屋の入口の外に立つ。
「閉閂しようと思う」
弱々しい声で、しかしやっと意を決したように口を開いた。
これまでに彼から聞いてきた事や見てきた事を慮れば当然かもしれない。
自信も無くし親を亡くし、果ては姉君まで。更に信じていた兄弟同然のあの人に裏切られ邪道を憎み、よりによってまたその根源と再会。仙門百家が信じ崇めていた仙督の不詳なる事の発覚。それに知らなくてよかった過去のある真実を知ってしまったのだから無理もないだろう。
「…解りました。宗主がそう仰るなら。これまでのようにすぐに会えないのはとても寂しいですが…」
愛しい彼が決めた事だ。
一月に一度、取り決めた約束はその日だけはまた彼と過ごせる時間を持てる。私はこれからずっとその日だけを心待ちにして生きる。
そしていつか日に日に膨らんでいく私のお腹を二人で楽しみにする、そんな時も来るのだろう。
─完─
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