蓮の花咲く水辺で
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彼はこれから暫く会いに来られないと告げた。他の世家より妖魔狩りに行けと命じられて、それに従わなくてはならないのだと。
期間はわからないけど、そう遅くないうちにはちゃんと会いに来ると約束してくれたので私はその言葉を信じて待つ。
また彼と外の世界へ出掛ける日を心待ちにしてお気に入りの長い髪の手入れを欠かさない。
そんなある時、湖底から空を見上げると幾筋もの妖しい光が尾を引いて飛んでいき、空中には大輪の花のようなチラチラと光るものが爆音と共に現れた。そして何やら彼の住む蓮花塢の屋敷の方がにわかに騒がしくなり一抹の不安を覚えた私は蓮の葉の下に隠れながら屋敷の方へ泳いで近付いた。
湖面がとても強い紅や橙色に覆われて人々の怒声や何かがぶつかるような音が水の中にまで響いてくる。
私は恐る恐る水面に顔を出して様子を伺った。
燃えている───蓮花塢が紅い火の海と化して建物を飲み込んでいる。人間同士が剣を振り回し力の限り暴れている。それに積み重なった亡骸の髪が焦げる臭いと肉の焼ける臭い、それに血の臭いが辺りに充満していてまさに地獄のような光景が広がっていた。
私は慌てて彼の姿を探したが見つからなかった。人の姿になって探そうともしたけれど今出ていけば間違いなく私も生きては帰れないだろう。 悔しい気持ちを胸に抱えながら一旦湖底へと身を翻す他ない。
どうか無事でいて欲しいとそう願いながら。
あれからどのくらい経ったのだろう。不安な気持ちのまま過ごしていたある日、彼が水辺まで近付いてくる足音が聞こえて喜び勇んで水面から飛び出した。
「江公子!!」
無事だったことと私との約束を果たしてくれたことの嬉しさできっとこれまでにない笑顔になっていたと自分でも思う。しかしその笑顔はすぐに消えることとなった。
「一体何があったのですか…?」
勿論あの場所がどういう状態になったかは見て知っているけれど、それ以上にそう問いたくなるほど今の彼は窶れ果て、以前の彼とは見紛うばかりの全くの別人の様に変わり果てていたからだ。
それに一体何がどうして彼の家がああなってしまったのか、彼自身が今までどこでどうしていたのか問い詰めたい事は沢山あった。でも先ずは彼の事が一番の優先事項。
「父上と母上が…亡くなった… 屋敷も…門弟たちも…殆ど全て焼け落ちた…」
項垂れたまま重い口を開き放たれた彼の言葉に私は愕然とした。
兄弟同然に育った例のあの人がと或るとても力のある世家に逆らったせいで怒りを買い、その結果云夢江氏はほぼ全滅状態にされたのだと。彼の父上も母上も名門でとても強い人達だと聞かされていたのにそれを上回る仙力を持つそのと或る世家一つに蹂躙されたと。
「全て失った… 私は…これからどうしたらいい…」
膝の上で強く握られた拳にポツポツと水滴が滴る。それを見て私も胸が締め付けられる思いがして自然と涙が溢れた。その涙は白く輝く玉となり地面に降り注ぐ。
「江宗主。全てでは、ないと思います…」
彼を頭から覆い被さるように胸に抱えて背中を擦る。
少し身体を起こそうとした彼を正面から抱き締め
「まだ…姉君様と私が残っています」
そっと、それでもしっかりと耳に刻みつけるように囁いた。
期間はわからないけど、そう遅くないうちにはちゃんと会いに来ると約束してくれたので私はその言葉を信じて待つ。
また彼と外の世界へ出掛ける日を心待ちにしてお気に入りの長い髪の手入れを欠かさない。
そんなある時、湖底から空を見上げると幾筋もの妖しい光が尾を引いて飛んでいき、空中には大輪の花のようなチラチラと光るものが爆音と共に現れた。そして何やら彼の住む蓮花塢の屋敷の方がにわかに騒がしくなり一抹の不安を覚えた私は蓮の葉の下に隠れながら屋敷の方へ泳いで近付いた。
湖面がとても強い紅や橙色に覆われて人々の怒声や何かがぶつかるような音が水の中にまで響いてくる。
私は恐る恐る水面に顔を出して様子を伺った。
燃えている───蓮花塢が紅い火の海と化して建物を飲み込んでいる。人間同士が剣を振り回し力の限り暴れている。それに積み重なった亡骸の髪が焦げる臭いと肉の焼ける臭い、それに血の臭いが辺りに充満していてまさに地獄のような光景が広がっていた。
私は慌てて彼の姿を探したが見つからなかった。人の姿になって探そうともしたけれど今出ていけば間違いなく私も生きては帰れないだろう。 悔しい気持ちを胸に抱えながら一旦湖底へと身を翻す他ない。
どうか無事でいて欲しいとそう願いながら。
あれからどのくらい経ったのだろう。不安な気持ちのまま過ごしていたある日、彼が水辺まで近付いてくる足音が聞こえて喜び勇んで水面から飛び出した。
「江公子!!」
無事だったことと私との約束を果たしてくれたことの嬉しさできっとこれまでにない笑顔になっていたと自分でも思う。しかしその笑顔はすぐに消えることとなった。
「一体何があったのですか…?」
勿論あの場所がどういう状態になったかは見て知っているけれど、それ以上にそう問いたくなるほど今の彼は窶れ果て、以前の彼とは見紛うばかりの全くの別人の様に変わり果てていたからだ。
それに一体何がどうして彼の家がああなってしまったのか、彼自身が今までどこでどうしていたのか問い詰めたい事は沢山あった。でも先ずは彼の事が一番の優先事項。
「父上と母上が…亡くなった… 屋敷も…門弟たちも…殆ど全て焼け落ちた…」
項垂れたまま重い口を開き放たれた彼の言葉に私は愕然とした。
兄弟同然に育った例のあの人がと或るとても力のある世家に逆らったせいで怒りを買い、その結果云夢江氏はほぼ全滅状態にされたのだと。彼の父上も母上も名門でとても強い人達だと聞かされていたのにそれを上回る仙力を持つそのと或る世家一つに蹂躙されたと。
「全て失った… 私は…これからどうしたらいい…」
膝の上で強く握られた拳にポツポツと水滴が滴る。それを見て私も胸が締め付けられる思いがして自然と涙が溢れた。その涙は白く輝く玉となり地面に降り注ぐ。
「江宗主。全てでは、ないと思います…」
彼を頭から覆い被さるように胸に抱えて背中を擦る。
少し身体を起こそうとした彼を正面から抱き締め
「まだ…姉君様と私が残っています」
そっと、それでもしっかりと耳に刻みつけるように囁いた。