蓮の花咲く水辺で
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彼は云夢江氏現宗主の子息で次期宗主。仙人になるための修行をしているところだと教えてくれた。今日もこうして見廻りに出掛け、たまたまこの湖の畔へ立ち寄ったところ私と出会ったということだった。
出会ってから歳月は過ぎ彼が幾度となくこの場所に足を運ぶうちに日々の些細な出来事や家族や仲間の事、ちょっとした悩みなども打ち明けるようになっていった。
特に兄弟同然に育った同じ年頃の少年のことはよく話題に上り、その人がどうやら危なっかしい性格だということやそれを心配している彼の様子もよく見て取れた。
修行中の身ではあっても次期宗主として未だ独り身なのは良しとされず、どうやら他の人間からはそろそろ所帯を持てと言われているらしい。私にはよく解らないが番を持てと言うことらしい。
魚人族も成熟すれば番を持つことは普通だけれど永い間一人でいた私にはすぐに思い至らなかった。
私はこれまで様々な人間を見てきたけれどこの若者はとても美しいと思う。私を真っ直ぐに見つめる、衣と同じ紫の瞳に艷やかに整えた黒髪。厳格そうであり意志が強そうな中にもどこか優しさも感じられる。
だからきっといずれ良き相手が現れればすぐにそうなるだろうと思った。
「しかしここから離れられないというのは辛いだろう。何か方法があればいいんだが。」
ある日、江公子は考え込むようにそう言った。
色々な話を聞かせているがまだ見た事のないものもあるだろう、その世界を私に見せたいと彼は思ってくれていたらしい。それが私にはとても嬉しかった。
しかし私にはずっと隠していた秘密がある。永く生きていると魚人族の中にも妖力を持つものが現れるとは伝え聞いていた。それがその時まで私だとは思ってもみなかったけれど。
「江公子、約束して欲しいことがあります。少しの間後ろを向いていてくれますか?私が今からどんな姿になっても決して斬りつけたりしないと。勿論あなたに危害を加えるつもりはありません。」
一応最初に断りを入れておかないときっと彼は卒倒してしまうか私を斬りつけそうだと思ったから。
「いきなり何だ。まあ構わないが…」
突然のお願いに少し戸惑い苦笑しながらも後ろを向いてくれる。
私をここまで信用してくれているのが凄く嬉しい。
私は妖力を集める為意識を集中した。
「江公子」
背中を向けている彼に呼びかける。
振り向いた彼は薄く口を開き両の目を見開いた。
「お前…脚が…」
私は延ばされた手を受け止める。それは当然だ。だって今の私には人間の脚が生えて立っているのだから。
「ふふ、驚きましたか?」
思わず小さく笑いが漏れて口元を抑えた。
普段は魚の尾が生えている私に突然脚が生えていたらこれが普通の反応だと思う。
「妖力を集めるとこうして少しの間だけですが人と同じような姿になれるのですよ。」
一言発した後暫し声も出ない彼に説明する。
「その姿になれるのならずっとここに縛り付けられていることもないだろう」
彼の問いに、確かに と答えた後で
「でも私のこの力はまだ不安定でいつまた元の姿に戻るか自分でもわからないのです。うっかり人のいるところで戻ってしまったら私はきっと捕らえられて殺されてしまうか、もっと酷い目に遭うかもしれませんし。」
「それにほら、私はこの通り着物も持ち合わせてはおりません。」
と不安を口にした。最初の遭遇以来いつも彼と話をするときは水の中にいるか岩陰に体を隠しているか、もしくはお気に入りの長い髪を体に纏っているからあまりその辺りを考えてはいなかったようだ。
「では人気のない夜の間に私と一緒に出掛けるなら問題ないか?もし戻ってしまってもすぐに対処できる。着物も上等なものを用意しよう。」
人間は普段服を着ているけど私のような異形が服を着ていなくても誰も気に留めない。なのに急に私が人間でいう裸であることを意識した江公主は少し視線を横に外しながらそう申し出てくれた。
「そんな私のような者に勿体ないです。」
厚意は嬉しいけれど一仙門の次期宗主にそんなことをさせるのは気が引ける。
「気にするな。私がそうしたいからするのだから。」
そうしてそれからは時々、彼が用意してくれた上等な着物を着て夜間街に二人で出掛けるようになった。
出会ってから歳月は過ぎ彼が幾度となくこの場所に足を運ぶうちに日々の些細な出来事や家族や仲間の事、ちょっとした悩みなども打ち明けるようになっていった。
特に兄弟同然に育った同じ年頃の少年のことはよく話題に上り、その人がどうやら危なっかしい性格だということやそれを心配している彼の様子もよく見て取れた。
修行中の身ではあっても次期宗主として未だ独り身なのは良しとされず、どうやら他の人間からはそろそろ所帯を持てと言われているらしい。私にはよく解らないが番を持てと言うことらしい。
魚人族も成熟すれば番を持つことは普通だけれど永い間一人でいた私にはすぐに思い至らなかった。
私はこれまで様々な人間を見てきたけれどこの若者はとても美しいと思う。私を真っ直ぐに見つめる、衣と同じ紫の瞳に艷やかに整えた黒髪。厳格そうであり意志が強そうな中にもどこか優しさも感じられる。
だからきっといずれ良き相手が現れればすぐにそうなるだろうと思った。
「しかしここから離れられないというのは辛いだろう。何か方法があればいいんだが。」
ある日、江公子は考え込むようにそう言った。
色々な話を聞かせているがまだ見た事のないものもあるだろう、その世界を私に見せたいと彼は思ってくれていたらしい。それが私にはとても嬉しかった。
しかし私にはずっと隠していた秘密がある。永く生きていると魚人族の中にも妖力を持つものが現れるとは伝え聞いていた。それがその時まで私だとは思ってもみなかったけれど。
「江公子、約束して欲しいことがあります。少しの間後ろを向いていてくれますか?私が今からどんな姿になっても決して斬りつけたりしないと。勿論あなたに危害を加えるつもりはありません。」
一応最初に断りを入れておかないときっと彼は卒倒してしまうか私を斬りつけそうだと思ったから。
「いきなり何だ。まあ構わないが…」
突然のお願いに少し戸惑い苦笑しながらも後ろを向いてくれる。
私をここまで信用してくれているのが凄く嬉しい。
私は妖力を集める為意識を集中した。
「江公子」
背中を向けている彼に呼びかける。
振り向いた彼は薄く口を開き両の目を見開いた。
「お前…脚が…」
私は延ばされた手を受け止める。それは当然だ。だって今の私には人間の脚が生えて立っているのだから。
「ふふ、驚きましたか?」
思わず小さく笑いが漏れて口元を抑えた。
普段は魚の尾が生えている私に突然脚が生えていたらこれが普通の反応だと思う。
「妖力を集めるとこうして少しの間だけですが人と同じような姿になれるのですよ。」
一言発した後暫し声も出ない彼に説明する。
「その姿になれるのならずっとここに縛り付けられていることもないだろう」
彼の問いに、確かに と答えた後で
「でも私のこの力はまだ不安定でいつまた元の姿に戻るか自分でもわからないのです。うっかり人のいるところで戻ってしまったら私はきっと捕らえられて殺されてしまうか、もっと酷い目に遭うかもしれませんし。」
「それにほら、私はこの通り着物も持ち合わせてはおりません。」
と不安を口にした。最初の遭遇以来いつも彼と話をするときは水の中にいるか岩陰に体を隠しているか、もしくはお気に入りの長い髪を体に纏っているからあまりその辺りを考えてはいなかったようだ。
「では人気のない夜の間に私と一緒に出掛けるなら問題ないか?もし戻ってしまってもすぐに対処できる。着物も上等なものを用意しよう。」
人間は普段服を着ているけど私のような異形が服を着ていなくても誰も気に留めない。なのに急に私が人間でいう裸であることを意識した江公主は少し視線を横に外しながらそう申し出てくれた。
「そんな私のような者に勿体ないです。」
厚意は嬉しいけれど一仙門の次期宗主にそんなことをさせるのは気が引ける。
「気にするな。私がそうしたいからするのだから。」
そうしてそれからは時々、彼が用意してくれた上等な着物を着て夜間街に二人で出掛けるようになった。