菊田
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カランカラン────
ベルが鳴ってドアが開く。
また客がきたのだろう。 私は特に気に留めることなく目の前のカクテルグラスに口をつけた。
隣の椅子にその人が腰掛けるまでは──
「菊田部長‼」
ふと隣を見ると時々社内で見かける顔があった。
お疲れ様です と挨拶をすると彼は、既に勤務時間外で社外だから とフランクに接するよう言った。
元々そこまで厳格な社風でもない。それでも私は気軽に話す事ができなくて、先程の酒でふやけた顔よりは多少引き締まった表情に気合で直しその人に向き直った。
「菊田部長はこちらはよく来られるんですか?」
当たり障りのない質問をすると、彼は『部長』はやめてくれ と言いながらも
「こういう気分の時はな。」
と答えてくれた。
ここは私が仕事帰りによく来ているスコッチやカクテルの美味しいお気に入りの店だ。
しかし彼の様な人間が来るには少々カジュアルな部類ではないか、と不思議に思っていると
「君が飲んでいるのは何だい?」
と興味深そうに手元のグラスに軽く目を落とした。
「これはアディオス・アミゴスです。でももう無くなるので次のを注文しようかと。」
そう言って僅かに残るカクテルを飲み干し、スコッチをロックでと新たに注文する。
「じゃあ私も彼女と同じ物を」
と彼はバーテンダーに言った。
「アディオス・アミゴス、『友達よさようなら』という意味か。」
カクテル名の意味を不意に言われて少々驚いた。実は今日は私の数少ない友達の一人の命日だったのだ。それで少しセンチな気分になってこのカクテルを頼んだ次第だ。2回目の注文でウイスキーを頼んだのも、その友達との間に甘さとほろ苦さの残る思い出があったからだった。
「菊田部長は…」
と言いかけると
「菊田でいい」
とすかさず返されたので少し物怖じしながらも
「菊田さんは…大切なご友人を亡くされたことはありますか?」
少々酒の席には、それに上司という立場の人間相手には相応しくない話題かと思いながらも返答を待つと、彼も昔戦友と言えるような仲間を亡くしたことを教えてくれた。
その後は話の流れで色々な方向の話題へ飛び、相手が上司だということも忘れて会話が弾んでしまい、私はもう3杯目のグラスに手が伸びている。
店内には心地よいジャズミュージック。
チラリと彼のオールド・ファッションド・グラスに目を遣ると、いつの間にか琥珀色の液体の上には分厚く溶けた氷の透明な層が出来あがっていた。
「飲まないんですか?」
薄まってしまっては味が落ちる。 余計なお世話かとは思いながらもそう促すと彼は私の目を見つめ微笑みながら
「あぁ…この一杯をすぐに飲み終えてしまったら、君と話していられる時間が短くなってしまうだろう?」
少しの間その意味を考え、答えが出た途端、火が出そうな程に頬が火照ってしまった。
酒の魔力、とでも言うのだろうか。彼に恋する3秒前。
ベルが鳴ってドアが開く。
また客がきたのだろう。 私は特に気に留めることなく目の前のカクテルグラスに口をつけた。
隣の椅子にその人が腰掛けるまでは──
「菊田部長‼」
ふと隣を見ると時々社内で見かける顔があった。
お疲れ様です と挨拶をすると彼は、既に勤務時間外で社外だから とフランクに接するよう言った。
元々そこまで厳格な社風でもない。それでも私は気軽に話す事ができなくて、先程の酒でふやけた顔よりは多少引き締まった表情に気合で直しその人に向き直った。
「菊田部長はこちらはよく来られるんですか?」
当たり障りのない質問をすると、彼は『部長』はやめてくれ と言いながらも
「こういう気分の時はな。」
と答えてくれた。
ここは私が仕事帰りによく来ているスコッチやカクテルの美味しいお気に入りの店だ。
しかし彼の様な人間が来るには少々カジュアルな部類ではないか、と不思議に思っていると
「君が飲んでいるのは何だい?」
と興味深そうに手元のグラスに軽く目を落とした。
「これはアディオス・アミゴスです。でももう無くなるので次のを注文しようかと。」
そう言って僅かに残るカクテルを飲み干し、スコッチをロックでと新たに注文する。
「じゃあ私も彼女と同じ物を」
と彼はバーテンダーに言った。
「アディオス・アミゴス、『友達よさようなら』という意味か。」
カクテル名の意味を不意に言われて少々驚いた。実は今日は私の数少ない友達の一人の命日だったのだ。それで少しセンチな気分になってこのカクテルを頼んだ次第だ。2回目の注文でウイスキーを頼んだのも、その友達との間に甘さとほろ苦さの残る思い出があったからだった。
「菊田部長は…」
と言いかけると
「菊田でいい」
とすかさず返されたので少し物怖じしながらも
「菊田さんは…大切なご友人を亡くされたことはありますか?」
少々酒の席には、それに上司という立場の人間相手には相応しくない話題かと思いながらも返答を待つと、彼も昔戦友と言えるような仲間を亡くしたことを教えてくれた。
その後は話の流れで色々な方向の話題へ飛び、相手が上司だということも忘れて会話が弾んでしまい、私はもう3杯目のグラスに手が伸びている。
店内には心地よいジャズミュージック。
チラリと彼のオールド・ファッションド・グラスに目を遣ると、いつの間にか琥珀色の液体の上には分厚く溶けた氷の透明な層が出来あがっていた。
「飲まないんですか?」
薄まってしまっては味が落ちる。 余計なお世話かとは思いながらもそう促すと彼は私の目を見つめ微笑みながら
「あぁ…この一杯をすぐに飲み終えてしまったら、君と話していられる時間が短くなってしまうだろう?」
少しの間その意味を考え、答えが出た途端、火が出そうな程に頬が火照ってしまった。
酒の魔力、とでも言うのだろうか。彼に恋する3秒前。